ビター・チョコレート

作:ちょび




今日は、2月14日。男なら、嫌でも気にしてしまう日だ。

でも、去年までの俺なら、別になんとも思わなかったんだけど。



「彷徨〜!!いやー、とうとうこの日がやってきましたなあ。今年は、いくつもらうんだろうな。
おまえんことだから、秘書課の花小町さんはもちろん、会社中の女子社員にもらえるんじゃないの?」

「うるせーな、三太。そんなことはどうでもいいんだよ。俺は ・ ・ ・ ・ ・ 。」



俺、西遠寺彷徨と、こいつ黒須三太は、学生時代からの腐れ縁で、なぜか就職先まで同じだった。
まあ、おかげで就職してからも色々助かっているけど、幼馴染というのは、あまりにも色々知られすぎていて、困ることもある。



「そうだよなー、今年はおまえもどきどきな日だよな。
なんていっても、初めて好きな子ができ ・ ・ ・むぐっっ!?」

俺は、あわてて三太の奴の口を押さえた。






「あのー、西遠寺さん。黒須さんが苦しそうなんですけど ・ ・ 。」






サラサラの金髪をなびかせ、全ての男性社員を魅了する微笑を浮かべて話しかけてきた、彼女。




彼女・光月未夢こそが、たった今、三太が言っていた、俺が初めて好きになった女性だ。




「あ、ああ。なあ、光月 ・ ・ ・ 。」


「未夢ー!!課長が企画書のコピーしてきてくれってさ。」
「はーい、今行くから。それじゃ、失礼しますね。」


そう言って、こっちを振り返りもせずに足早に課長のデスクに向かってしまった。




そして、やっと俺から逃れた三太がまた話し始めた。

「なあ、いい加減告白しちゃったら?
おまえだって、知ってるだろう?あれで、光月さんって、もてるんだぜぇ。」


「わかってるよ ・ ・ ・ 。」


光月は仕事は早いし、気も利く。
なんでも、年の離れた弟がいて、その子の世話をしていたせいもあるらしいが ・ ・ 。

しかし、時々やらかすドジなところもあって、そんなところがたまらなくかわいいと評判だ。
もちろん、容姿だって社内で5本の指に入るくらい整っている。


サラサラのストレート・ヘア。
くるくると変わる表情。


その全てが魅力にあふれている。





やがて、なんだかんだとやっているうちに、今日の業務もおわる時刻になった。

「あれぇ〜?今日は、残業なのか。」
「ああ。そうしないと、月曜の仕事ができそうにないしな。おまえは、茜ちゃんとデートか?」
「///まあな。それより、おまえはいいのかよ。光月さんに告白しなくてさ。」


「 ・ ・ ・ ・ ああ。」


そんな俺に、ため息をつきながらも三太は黙って出て行った。

早く、仕事を終わらせようとパソコンに目がいっていたために気づかなかった。

出て行くときの三太の口元がニヤリとゆがんでいたことを ・ ・ ・ 。





二時間後。

「あー、終わった。さて、帰るとしましょうかね。」


いすから立ち上がり、背伸びをしていた俺の前に光月が現れた。


「どうしたんだ?忘れものか?」


なぜか、真っ赤な顔をした光月が俺の前にあるモノを差し出した。




「西遠寺さん。好きなんです。チョコレート、受け取ってもらえますか?」


「え、おまえ、すきって ・ ・ ・。え、ええっ!?」




「だめですか?やっぱり、西遠寺さんには彼女がいるんですよね。ごめんなさい。わたし ・ ・ ・ ・ ・。」


あわてて、光月の手からチョコレートを奪いとった。


「ば、ばか違う!!俺には彼女なんかいない。
 ・ ・ ・俺のほうこそ、去年の春におまえが入社してきたときから、おまえに片思いしてたから ・ ・ ・ ・。
その、夢か聞き間違いじゃないかと思って。」

そこまで言うと、光月の新緑色の目から大粒の涙がぽろぽろとあふれてきた。

「うれしい ・ ・ ・。
西遠寺さんはもてるし、秘書課の花小町さんと付き合っているらしいってきいたから、本当は諦めるつもりだったんです。
それでも、諦め切れなくて、同期のななみちゃんや茜ちゃんに相談したら、告白するように言ってくれて。
今日も、チョコレートを渡せなくて、帰るところだったんですけど。
黒須さんが、西遠寺さんは、まだ残業しているから、告白してこいって言ってくれたんです。」


「(///三太の奴 ・ ・ ・。)そ、そうか。なあ、俺のこと名前で呼んでくれないか?その、恋人同士になったんだし。」


「////はい。えっと、彷徨さん。」

「さんはなし。プライベートのときくらいは、彷徨って呼んでくれよ。もちろん、敬語もなし。」

「えっと、か ・ ・なた。わたしのことも未夢って呼んで?」



ど、どうしよう。でも、光月にだけ言わせるなんてズルイよな、きっと。

え〜い!俺も男だ!


「未夢 ・ ・。これ、食べてみてもいいか?」

「うん。初めて作ったから、自信ないんだけど ・ ・ ・。」

緑色の包装紙を開けると、中には小さなビター・チョコレートが入っていた。

ひとつを口に入れて、そのまま未夢の顎をすくいとって、唇を重ねた。

「んっっ ・ ・ ・ 。」

はじめは、目を見開いて硬直していた未夢も、俺のスーツを握りしめて、目をつぶった。

俺たちは、何度も口づけを交わし、そっと外をみた。

いつの間にか、真っ白な雪が空から舞い降りていて。

まるで、天の祝福を受けているようだった ・ ・ ・ 。



今年初めて食べたチョコレート。それは、今まで食べた中で、一番甘いものだった ・ ・ ・ 。




終わり


ちょびです。
先日、セブンイレブンにチョコレートが並んでいるのを見たら、なんか書きたくなって、書いてしまいました。
いいですねえ、バレンタイン。愛しいの彼に告白する乙女!
もう、たまりませんなあ〜〜〜〜〜!!


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