作:ちょび


これは、彷徨の母、瞳さんが主人公です。

よろしければ、読んでやってください。


わたしは、最近不思議な夢をみる。

いつも必ず、金色の髪の少女が現れる夢。
でも、決して彼女に追いつけない。

でも、今日こそ、今日こそは・・・・・。




そこには、真っ白な何もない空間が広がっていた。

目を凝らすと、そこにはいつもの少女の姿。


『こんにちは。彷徨のお母さん。』


「!? あなた、彷徨のことも、わたしのことも知ってるの?」

少女は、にこりとあたたかい微笑みを浮かべて、うなずいた。


「なぜ、いつもわたしの夢に現れるの?それに、いつもはすぐに消えてしま

うのに、どうして今日は・・・。」


『それは、もうあなたの夢にあらわれることができるのが最後だか

ら・・。』


ひらひらと、空からピンクの花びらが降ってくる。

瞳が、それにみとれていると、少女は姿を変えた。


今まで、どこかの制服を着て、中学生くらいに見えていた彼女は、真っ白な

ウエディング・ドレスを身に着けた大人の女性になっていた。


『一言だけ、言いたかったんです。ありがとう、あの人・彷徨と出会わせて

くれて・・。』


だんだんと、消えていく彼女。


「待って!どうして現実では会えないの?もう二度と会うことはないの?」


『いいえ、でも、お礼をすることができなかったので、どうしても言いたか

ったんです。』


最後、彼女が消える瞬間、彼女の隣りに男性が見えた気がした。

彼は、どことなく自分に似ていたような気がした。



意識がだんだん浮上してくる。

それと共に、赤ちゃんの鳴き声も聞こえてきた。


「ん・・・、か・・なた?」


あ〜〜ん、うわ〜〜ん。


「あららあ、どうしたのかなあ?ほらほら、いい子ね。泣かないで。」


そこへ、夫の宝生から声がかけられた。


「お〜〜い、瞳ィ〜〜。光月さんから電話じゃぞ。未来さんが、無事出産さ

れたそうじゃ。」


「まあ!よかったわ!早速お見舞いにいかなくちゃ!未来ちゃんの赤ちゃん

かあ、きっとかわいい子よねえ。」





瞳の親友・光月未来は、結婚後、瞳のいる平尾町から遠く離れていたが、出産のため、実家のあるこの町に戻ってきていた。

「未来ちゃん、出産おめでと。女の子?」

「ええ、名前はね、未夢。夢をかなえるためにまっすぐ、未来に向かってい

けるようにって、優さんがつけてくれたの。」



未来の腕の中で、すやすやと眠る赤ちゃん。

金色の髪、今は閉じているけれども、瞳の色は緑色らしい。

あの、夢の中の少女と同じく・・・。




もしかして、あなたがあの子なの?

もう会えないのは、現実の世界に生まれたからなのかしら?

それに、もしかして、最後にみた、彼は・・・・。

いつか、全てがわかる日がくるわよね。

でも、どうして『お礼を言えない』のかしら?

それも、聞かせてもらいたいな。彼女の口から、直接。




−数年後、西遠寺。−


「瞳、しっかりするんじゃ!」

「かあさん!かあさん!」

目に涙を浮べて、瞳に駆け寄る二人。

そして、少し離れたところでそれを見守る光月一家がいた。

瞳は、薄れ行く意識の中、あの少女の言葉を思い出していた。

『お礼をすることができなかったから・・。』

(やっと、わかった。それで、夢に・・・・。)

「ごめんなさい、宝生さん。わたし・・・。」

「しゃっべたら、体に悪い、静かにしてるんじゃ。」

「いいえ、わたしはもういかなくてはならないようです。どうか、彷徨のこ

と、お願い。」

溢れる涙を必死に隠し、宝生はうつむいた。

「未夢ちゃん、彷徨とずっと仲良くしてあげてね。あの子は、寂しがりやだ

から。でも、未夢ちゃんがいてくれれば、大丈夫だと思うの。」

「はい、おばちゃん。」

未夢は、意味はわからなかったが、瞳の真剣な眼差しに返事を返した。

「未来ちゃんも、宝生さんたちのこと、頼むね。どうか、助けになってあげ

てね。」

そういい終わると、瞳の体から、力が抜けていった。

「瞳!」

「瞳ちゃん!」

「や・だ・・かあさ〜〜〜ん!!」


泣かないで・・・大丈夫、あなたには彷徨がいる。

それに、彷徨には未夢ちゃんがいるんだから・・・・。






「はい、光月で・・。あ、宝生さん。え?彷徨くんが?」

『そうなんじゃ。夜も眠らんし、昼はぼうっと空を見上げておる。

すまんが、一度来てみてもらえんかのう。』

「はい、では今すぐ行きます。」

そこへ、未夢が保育所から帰ってきた。

「あれ、どうしたの?ママ」

「未夢、これからかなたくんのおうちに行くわよ。」

「はーい。」


「よくきてくれたのお。彷徨はあそこおる。」

西遠寺の縁側に、彷徨が座っていた。

未夢は、彷徨に駆け寄ってった。


「・・・かなた?」

その瞬間、彷徨の肩がゆれて、未夢の方を振り向いた。

「かなた、だいじょうぶ?びょうきなの?」

「うん、でもみゆがきてくれたらげんきがでてきた。」

未夢は、小さな腕で、彷徨を抱きしめた。

「だいすき。はやくげんきになってね、かなた。」

未夢の温もりに包まれて、彷徨は激しく泣き始めた。

「あの後、泣きも笑いもしなかった彷徨が・・・・。瞳の言っていた通り、

彷徨には未夢ちゃんが必要なのかもしれんなあ・・。」




どうか、彷徨のことをよろしくね。

遠くから見守っているわ、ずっと・・・・。




END



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