作:しーば
彷徨SIDE
教室で盗み聞きしてたら、夕立に降られてしばらく学校から出られなかった。
雨が止んだ頃には辺りは完全に暗くなってた。
雨が降ったお陰で、始まったばかりの夏の星座がハッキリと見えた。
自分の情けなさにため息をつきながら、、誰も居ない西遠寺に入る。
部屋について、鞄を机の上に置こうとしたら、机の上に白い封筒が置いてあった。
彷徨へ。
未夢より。
最初に、彷徨ごめんなさい。
私が西遠寺から私の家に引っ越す数日前、彷徨から大切な事を伝えて貰ったけど。
その時の私は考えがまとまってなくて、私の気持ちと逆の気持ちを彷徨に答えてしまいました。
本当にごめんなさい。
実は私、そのちょっと前に時空の歪で私達の未来を見て来たの。
えへへ、こうやって文字に書くだけでも恥ずかしいけど、私は未来の世界では苗字が光月から西遠寺に変わって、又昔と同じ様に彷徨と一緒に暮らしてました。
ううっ、恥ずかしいけど、幸せそうにしてたよっ!
私も、彷徨も。
でも、ある事を境に私達は不幸になってしまい。
今の彷徨が、彷徨じゃなくなってしまう。
未来の私も、そんな彷徨を見ていると段々、自分自身を責めてしまい。
2人はバラバラになってしまうの。
信じられないよ。
あんなに幸せそうにしてたんだよ。未来の彷徨も、私も・・・。
そして、私はそれを防ぐ為に何度も何度も挑戦してたの。原因を無くす為に。
でも、全て失敗して。
考えが変になちゃった時もあった。
「彷徨と私が一緒に居ては駄目、彷徨と私が別々に離れて、幸せになれば良いって」
ふう。でもそれも浅はかな考えでね〜。
今この手紙を読んでいる彷徨さんは、未夢さんのこと相当想っているらしく。
ことごとく、彷徨に邪魔されて来た。
凄く、嬉しかった。 どうして、彷徨は私の事想って居てくれてるんだ・・・。
愛してくれてるんだ・・・って。
えへへ、これ惚気じゃないからね・・・。
だけど、それがより私を苦しくしてしまって。
私は強行手段に出たの。
彷徨から私との思い出を全て変えてしまおう、消してしまおうって。
今の彷徨なら自覚あるはずだよ。
私と彷徨が最初に会ったの覚えてる?
ワンニャーとルゥ君が来た日より前にも会ってるんだよ?
彷徨の記憶の中で、私の事想ってくれる気持ちが何処から出て来たのか、不鮮明で分らないでしょ?
記憶の中では、私は彷徨を避けているはず。
でも、彷徨の想いだけは変わらなかった。
それは、今でも何故だか分らない。
記憶の改変は出来たんだけど、想いは消せない。
失敗しちゃった。
だから、直接私が彷徨を「好き・・・じゃない」って言う決断をしたの・・・。
凄く辛かった。
ずっと予想していた事だったのに、いざ本番って言う時凄く恐かった。
答える時、「好きです」と凄く言いたかった。
だって、大好きな人からの言葉だもん、将来結婚する人からの言葉だもん。
本当の想いを答えたかったよ。
でも、未来は決まっていて、不幸になる結末しかなかった。
だから、「好き・・・じゃない」と言う返事になったの。
でもね、嬉しい事に今回未来の不幸になる結末を無くせる方法が見付ったの。
私と彷徨が結婚して幸せになってずっと暮らせるの!
えっへん、ようやく見つけたのよ、ようやく・・・。
でも、今私の家に居る私は、不幸な未来ばかりを見て落ち込んでいる私だから・・・今すぐ行って捕まえてください。
家の鍵はこの手紙に同封します。
パパとママは学会で夏休み中ほとんど家に帰って来れないって言ってたから、しばらく私しか居ません。
彼女の彷徨に対する想いは、今の私じゃ負けちゃうぐらい凄く多いよ、それを押し殺して我慢してるから。
もう我慢させるのやめさせてよ、我慢をやめたらとんでもない事になるけど、そこは未来の旦那様にお任せします。
どうせなら、夏休みから又西遠寺で暮らすのも良いかも・・・、パパとママはまたアメリカに長く居るようになるって言ってたし。
じゃあ、最後に彷徨にお願いがあります。
未来の西遠寺未夢をずっと幸せにしてください。
俺は鍵と手紙を持って急いで西遠寺を出た。
未夢の居る町には行く為には、19時の電車がその日の最終になる。
それを逃すと、明日にならないと未夢の家に着かない。
息を切らせながらその電車に飛び乗る。
そして、何度も何度もこの手紙を読み返した。
久しぶりに来た未夢の家、俺は貰った鍵で家のドアを開ける。
彷徨ごめん、私我慢できない、これ以上側に居れない。
ううっ。
私はこらえる事ができなくなり、彷徨の身体から離れた。
外は暗くなり、夕立が降り出しはじめた。
私は、教室に一人立つ彷徨を残し、そのまま教室の天井をすり抜け。
校舎の屋上をすり抜け、雨が強くなり始める中、その雨を落とす黒い雲目指してぐんぐん空に登っていく。
私の中を沢山の雨が通り抜けていく、暗闇の雲の中、雨の量が段々と減っていき。
出口の明かりが見えた。
私はその雲の出口をスピードを落とさず突き抜ける。
真下には、彷徨の居た場所に雨を降らせている雲が広く広がっている。
真上は青と黒が混ざった空、いくつか星も見え始めている。
私は真黒な夜の方向を背にして、地平線が赤く広がっている西側に向かって叫んだ。
「わたし、かなたが好きいいいいいっ!」
「ずっと、ずっと好きだったのぉぉぉぉ!」
「ううん、愛してる!彷徨の事愛してます!」
「どんな世界に居ても、彷徨1人だけしか愛せませんっ!」
「だからっ!だから!お願い!幸せになってよっっっ!!!」
未夢SAIDE
うんうん、やっぱりこの白いちごタルトは美味しい〜っ。
そういえば・・・私がこの姿になって初めて西遠寺に帰った時、彷徨が用意してくれたのも・・・。
だめ、もうそのことは考えない事にしてるでしょ。
これから考える事は、彷徨が幸せになる事だけ。
この世界の未夢ちゃんには申し訳ないけど・・・。
う〜ん。それにしても遅いな。
今日は、未夢ちゃんのパパ・ママともに学会で数日間帰って来ない。
1人の時期が長く続いてる。
はあ、それにしても、昔の私を「未夢ちゃん」って呼ぶのに慣れて違和感無くなってきちゃった。
最初の頃はなんて呼んで良いのか分らなかったけど、幽霊です。って自己紹介しても、恐がる事も無く、受け入れてくれて、ちょっとしたお姉さんみたいな感じで一緒に居てくれて。
身体を最初に共有した時はだいぶ驚いてたけど、その内、簡単に貸してくれるようになって。
何処かに行きたいって未夢ちゃんの方から言って来て、私が身体を預かる事も多くなったし。
昔の私ってそんなだったっかな?
もしかしたら、今日は帰って来ないのかな?
そういえば、タルトを食べさせて貰う代わりに、夏休みの宿題って言われてたっけ?
う〜ん、本当は私自身がやらないと駄目なんだけどな〜タルトたべっちゃたし。
もう、駄目駄目さんですなぁ〜。
食べた食器類を洗って、私は2階にある未夢ちゃんの部屋に向かって宿題をする事にした。
じゃあ、そろそろ寝ようかな。
あくびをしながらベットに入り、枕に頭を乗せた。
あれ?なんだか違和感が・・・、枕の下に何かあるの?
枕を上げると四角い封筒が置いてあった。
未来の西遠寺未夢様へ。
光月未夢より。
ごめんなさい。
私、本当は前から貴女の正体に気付いてました。
貴女が私に乗り移った時、実は貴女が考えていた事全てが私に伝わっていたの。
驚いた?
私は凄く驚いたよ。
私に乗り移ってる幽霊が、未来から来た私で、彷徨と結婚していて、死んじゃってるなんて。
信じられなかった。
だけど、身体を共有してる時、貴女の考えている事が沢山分って。
今まで何をしてきたかも・・・。
そして、今から何をしようとしているのかも。
それを、知って私は私の目で未来を見たくなって、貴女に身体を預けて未来を見る事に成功した。
だけど、何度見ても貴女が見てきた未来と同じ結末。
私も悩んだよ?
私も彷徨好きだからね。
そして、貴女と私で唯一違う事に気付いて、ある事を試してみた。
そしたらなんと、防げたのよ!あの出来事を!
私は大喜び!貴女ができなかった事を成し遂げたんだから。
ふふっ、凄いでしょ?
でも、貴女にはどうやったか教えてあげません。
だって、彷徨から告白されたのに彷徨の事「好きじゃない」って振ったでしょ!
私凄く怒ってるんだからね。
私が身体から出てる時にそんな事があったら、まず私に教えてくれたって良かったでしょ?
ううん。本当はすぐ近くで見てたんだけどね。
ごめんなさい。
貴女が返事をして、彷徨が居なくなってから、貴女は泣いていた。
彷徨に謝りながら泣いていた。
それを見て私安心しちゃった。
貴女には未来を託せる。
もう・・・、あなたの考えてる事は私には隠せないの、分ってますか?
未来はもう私が替えちゃったから、貴女と彷徨が不幸になる事なんて無いよ。
彷徨を幸せにしたいって、ずっと願っていた貴女の想いが叶えられから・・・。
ああ、言い忘れた。
私を騙していた罰として、貴女はもう2度とその身体から出しません。
おばあちゃんになっても彷徨とずっと居る事。
私は、ちょっとすることが出来ちゃって、その身体にはもう帰れません。
あと覚悟しておくように、もうちょっとで愛に飢えた彷徨が、部屋のドアをノックするから・・・。
もう、我慢しなくて良いんだよ?
全部ぶつけちゃえ!彷徨の事好きなんだよね?
大丈夫、この前のことじゃ彷徨なんて、貴女の事嫌いになんてなれないから。
パパとママ、またアメリカに行く事になりそうだから、もしかしたらまた西遠寺で暮らすことになるかもしれないけど・・・。
頑張ってね。未来の彷徨のお嫁さん。
じゃあ、私からの最後のお願いです。彷徨にはこの事説明してるから、今度こそ逃げられないから、観念して・・・・・・
絶対彷徨と一緒に幸せになってね。
光月 未夢より。
手紙を読み終えた瞬間「コンコン」と部屋のドアをノックする音が聞こえて「未夢、居るか?」と大好きな人の声が聞こえた。
私は、急いでドアの前に走り、扉を開ける。
目の前には、長年想い続けてきた彷徨。
「私の我侭でこの世界の私を・・・」と言いかけた時、私は彷徨の腕で彷徨の胸に引き寄せられた。
「バカ未夢」
この言葉を聞いて私はずっと彷徨の胸の中で泣き続けた。
私は我慢していた想いを全て打ち明けた。