逆チョコ

作:しーば


[岩蔭|] '')しーばです。こんばんわ。
5月12日加筆修正しました。












「なぁ、彷徨そろそろだよな?あの日」

教室の机に座ってる所に、三太が机に肘を着けながら言ってきた。
「あの日ってなんだよ・・・」

「何言ってんだよ、2月の中旬と言えばバレンタインしかないだろ。まあ彷徨は毎年たくさん貰えるから良いけどよ、一般男子は結構気にしてるんだぞ。」
少し泣きそうな表情だった三太が自信満々の表情に変わる。

「でも今回はとっておきの秘策があるんだよ。」

俺には興味の無い事なので三太から視線を窓の外に移した。
だけど、三太が視線の先に回りこんで目をキラキラ光らせながら熱弁を始める。

「今までは女子が気になる男子にチョコを渡すのがバレンタインだけど、男子から女子にチョコを渡す逆チョコって言うのがあるんだよ。プレゼントだから何もチョコ限定って訳じゃ無くて何でも良いんだよ。そこでだ、最近隣町のCDショップでレコードの処分セールをやっててさ、行って見たらトリのレアなレコードが凄く安くてたくさんあって。ついつい同じ物を何十枚って買ちゃってさ、それをクラスの女子にプレゼントするって作戦なんだよ。そして一ヶ月後のホワイトデーにはお返しが貰えるんだぞ・・・。」

俺は窓に向けた視線を逆方向の教室に戻し、少し離れた所をボーっと眺めてた。
その先では未夢達が席に固まって話をしていた。

「ねぇねぇ、未夢ちゃん。バレンタインのチョコってどうするの?」
小西がバレンタイン特集と書かれた雑誌を机の上に置きながら未夢に聞いていた。
「うーんとね、昨年はクリスちゃんの所でチョコ作りを一通り教わって作ったからね、今回は私一人で全部作ってみるよ」
「今年のクリスちゃんは大きなケーキを作るって忙しいみたいだからね。ねね、このチョコのラッピング袋可愛いねー」
「ほらこっちの箱も捨てがたいよー。う〜ん」


へ〜今年の未夢は手作りチョコなのか・・・、あれ?去年ワンニャー達が居た時って市販のチョコを貰ったはず・・・。もしかして・・・いやいやそんな事俺が気にすること無いよな。

「お〜い、聞いてるのか彷徨ぁ〜」
三太に肩を揺すられる。
「何だっけ?」
三太の方に振り返る。

「だから〜逆チョコだよ逆チョコ」






風呂からあがって、俺は今に居た未夢に「あがったぞ」と伝える。
未夢はテーブルの上にチョコレート作りの本を並べながら、チョコレート作成のテレビに夢中だった。
「うん、もうちょっとしたら入るから」
時々、「ほー」「あぁ美味しそう」と言う未夢の独り言が聞こえた。



夜中に目が覚める。普段はすぐに寝れるんだけど何だか眠れない。
まあ、いいやホットミルクでも作るか。

冷蔵庫から牛乳を取り出して鍋で暖める、キッチンから居間に移ると未夢が見ていたチョコレート作りの本が置いてあった。

座布団に座って置いてある雑誌をパラパラとめくって見る。
ふ〜ん、手作りチョコって結構手間がかかるんだな・・・。

雑誌のチョコ特集ページ以外は流行りの服やアクセサリーの事が載っていた。
だけど、マグカップのミルクが切れたので、チョコのページだけ読んで部屋に戻った。






今日は13日の金曜日・・・。
クラスの女子達は皆チョコの話題で盛り上がり、男子の方もソワソワしていてちょっと変な感じ。

放課後、三太に誘われてトリのレコードのラッピング袋の買出しに行く事になった。
「おい彷徨こんなのあるぞ、これもレトロな感じで良いな〜」

周りが板チョコの形をした四角いラッピング箱。
大きなハートが一つあり、キューピッドが矢を撃とうとしているラッピング袋。
リボンが上手くハート型に結べる物や、ハートが連なってるラッピング帯。

店の中にいる客の内男は俺と三太の2人のみ・・・。

店の端っこの方で未夢の声がした。
「ね〜ななみちゃ〜ん、こっちの箱とこの袋どっちが可愛いかな?」
「おーい未夢、こんな良い物見つけちゃったよ。絶対これが良いよ」

未夢も買いに来てるんだな。


三太の買い物が済み、店の外で三太と別れ、そのままスーパーたらふくで買い物をしてから家に帰った。
夕食を作ってる時に未夢が帰って来た。

「彷徨ぁ〜、今日の夕食が終わったらキッチン使っても大丈夫?」
居間から未夢が聞いてきた。
「んなもんいちいち聞かなくて大丈夫だろ?」
「じゃあ、チョコ作りで使わせて貰うからね、ああ、それと作ってる時にはキッチンに来ないでね。」



俺は居間でテレビを10時頃まで見ていた。
隣のキッチンからはボールの落ちる音や、「あらら、失敗しちゃった」と、未夢の独り言が聞こえた。

風呂からあがって居間に来る。
時計の針は11時を示していた。
「おーい、風呂あがったぞ」
向こう側に居るはずの未夢に声をかけても返事が来ない。
「なぁ聞いてるのか?」

「やった〜!出来た〜!」
帰って来た言葉は未夢が完成を喜んだ声だった。
未夢はそのまま部屋に向かって行った。

プルルルルル、プルルルルル。
その時電話が鳴る。
側にあった受話器を取ると向こうから「あっ彷徨君?未夢ちゃん居る?」との声が聞こえた。

「未夢〜小西から電話〜」
すると廊下からから頬にチョコをつけたままの未夢が来た。

「もう終わったんだよな?キッチン使っても大丈夫か?」
「うん、ちょっと失敗しちゃた物や、残った材料があるけど、電話終わったら片付けるから」

受話器を受け取って未夢が出ると、ずっと小西が話し続けている状態だった。
「なあ、もしかして・・・」
未夢にアイコンタクトで聞いてみると、ウンウンとうなづき。
「なんだか、逆チョコってネタが段々と膨らんで、止まらなくなってるみたい・・・。」


未夢が小西の餌食になってる間、キッチンの片付けをする事にした。
未夢の奴、こんなに失敗したんだな、あちこちにチョコの作りかけがあるし、まだ材料もたくさんある・・・。
すると頭の中に「逆チョコ」の文字が浮かんで来る。

・・・・・・逆チョコか・・・いや、これは違う。材料が勿体無いからだぞ。


電話を終えてキッチンに顔を出してきた未夢に
「ここの片付けは俺がするから早く風呂に入って来い」と促した。
「いいって、明日休みだし今から片付けるから彷徨は先に寝てよ」
と返される。でもそれを押し返す。
「早く風呂入らねーと冷めるから、いいから入って来い」
「ありがとう彷徨」と、申し訳なさそうな顔をして未夢が居間を出て行った。

さてと、作り方はと・・・。





よし、完成・・・。
作ってみたのは良いけど、どうするかな・・・。
あっ、もしかしてこれは使えるかもしれない。


出来上がった物を慎重に箱に入れる。
今日の三太との買い物で
「今日はありがと、会計した時にサービスでチョコの箱貰ってさ、これ彷徨にあげるよ。何かに使ってくれ」
と渡された物がこんなところで役に立つとは。


その箱を一度部屋に置いて、もう一度キッチンに戻り。もう一つの物を作り始めた。

「ねぇ?彷徨もう終わちゃった?」
風呂から上がりたてで、髪を濡らしままの未夢がキッチンにやってきた。
「あれ?なんだか良い臭いがするけど・・・」
未夢は俺の作ってる物に気づいた。
「それ、何?」
「まあ良いから飲んでみろよ」
とその液体状の物をマグカップに流し込んで未夢に渡す。

未夢の残したチョコを使用したホットチョコドリンク。
「わぁ〜凄く美味しい・・・。これって彷徨が作ったの?」
不思議そうな目で俺の事を見てくる未夢。

「まあ、そんな所だ。但し残ったチョコを全部貰ったけどな」
「あれ?材料って結構残ってたような・・・?」
首をかしげながら聞いてくる未夢。
「失敗した物が多かっただろ?それのせいだろ?」

う〜んと悩む未夢に。
「さぁこれ飲んでさっさと寝ろ、もう1時過ぎてるんだぞ」
と時計を指差す、
「え〜もうこんな時間だったの?」
時計を見て驚く未夢。
「まあ、小西のあの電話があったしな」
未夢はキッチンを出て行く際に振り返って、濡れた髪をふわっと揺らしながら
「えっと、彷徨。片付けしてくれて本当にありがと、今度なにかお礼するからね」
と笑顔で言ってきた。
「ああ、分かった期待しないで待ってる」

「じゃあ、お休みなさい」
「ああ、お休み。」


彷徨は赤くなった自分の顔を隠すように一度うつむき、時計を見ながら
「じゃあ俺もそろそろ寝るとするかな」
とキッチンを後にした。

翌日。


ピンポーン・・・ピンポーン・・・ピンポーン。
あれ・・・?
玄関のチャイムの鳴る音がする、だけどなかなか起きれない・・・。

ピンポーン・・・・・・。

あっ、やっと止まった。彷徨出てくれたのかな?

重いまぶたをゆっくり開け、視線だけを目覚まし時計に移して時間を見る。
えっ・・・もう10時・・・、まっいっか、今日休みだしご飯当番も彷徨だから。

う〜んだけど、何か忘れてるような?
夜なかなか寝付けなかったから、凄く眠いよ・・・。

背伸びをしながらあくびをして、上半身を起こす。
まだ眠たい目を擦りながら、机の上に置いてある物に気づく。

そっか、昨日はあのチョコ作りで遅くまでかかって、綾ちゃんからなかなか終わらない電話が来て、その間彷徨が片付けしてくれて、最後にはチョコレートで作った暖かい飲み物を貰ったんだよね。
はぁ〜、あれは美味しかったよ〜、彷徨って色々な物作れるんだね、凄いな。
でも、おかしいんだよね、私って失敗しちゃったり、残ったチョコ作りの材料はもうちょっとあったはず・・・。

あっ、それと、昨日は嬉しさのあまり彷徨に何かお礼するって言っちゃった。
彷徨に渡すバレンタインチョコを「はい。これ昨日のお礼」って言って渡そうかな・・・?
だけど、こういったプレゼントとか渡すのって、結構恥ずかしい・・・。
ルゥ君達がオット星に帰ってから、もうちょっとで一年。
私は未だに彷徨と一緒に暮らして居るけど、前と何も変わらないし。
ちょっと変わった事といえば、一年前より今の彷徨の方がちょっとは優しくなった感じかな?
昨日だって、遅くなるからって片付けしてくれたし、お風呂上りにホットチョコドリンク作ってくれたよね。

ちょっと前までは、私って彷徨の事好きなのかな?って思ったりもしたけど。
最近はなんだか違うんだよね、彷徨に告白してどうこうするって訳じゃなくて、もうこのままの状態で出来る限り彷徨と一緒に居たいっていうか、まあ、好きだって気持ちはずっとあるけど、それを言ってしまったら今の関係が崩れてしまうかも。
って不安な気持ちもあるの、だから今のままが一番良いって思うようになったの・・・。

あー、もう。
そんなあやふやな思いがあるから、バレンタインチョコを一緒に暮らしてる人にあげるだけで、なんでこんなに緊張するの〜。


着替えをすませ居間に向かう。
彷徨はテーブルの上に詰まれたバレンタインチョコと思われる物と睨めっこしていた。
「おお、凄い量だね〜」
彷徨が私に気づいた。
「早いのは7時前に来たんだぞ」
はぁ〜とため息をついてうなだれる彷徨。

そうか、朝のチャイムは彷徨にチョコを渡す為だったのね。
私なんか寝坊しちゃって・・・だめだね。


プルルル、プルルル。と電話が鳴り出す。
「あっ、私出るから」
と、座ってる彷徨の背中を乗り越して電話に出た。
「はい、西遠寺です・・・」
私が出ると、あっ光月さんおはよう、オレだよ、三太だけど彷徨いる?
「おはよう、三太君、うん彷徨ならここにいるよ〜」
はい、と受話器をすぐ後ろに居る彷徨に渡す。
「ん?なんだ?急用が出来たからすぐ来いって?なんで俺が・・・分かった、分かったから」
彷徨は受話器を置く。

「ちょっと三太の所に出掛けてくる、朝食はもう作ってあるからな、じゃあ行ってくる」
居間を出て行く彷徨を見送る。
「ありがと、いってらっしゃい」

彷徨が居なくなって数分後、玄関のチャイムが鳴る。
出ると、見慣れない女の子達が立っていた。
「あの、西遠寺先輩居ますか?」
「えっと、ごめんなさい。今さっき出掛けちゃって」
「あっ、なら帰って来たらこれを渡して貰えませんか。御願いします」
皆それぞれからチョコを受け取って、今のテーブルのチョコ山に加える。

みんな、メッセージカード付きか・・・。
カードがあれば誰からか、分かるよね。
そうだ、私のチョコも今のうちにこっそりと混ぜておけば・・・。
よし部屋から持って来よう。
私は机の上に置いてあった、かぼちゃの形をした箱を取って、居間に急いだ。

ピンポーン。

廊下を歩いている時に、玄関のチャイムが鳴った。

また来たのかな?彷徨って本当に人気あるんだね。
そう、気楽に考えて、かぼちゃの箱を持ったまま出てみたら・・・
「ねー、彷徨君居る?」
「すみません、今出掛けていて・・・」
「へ〜、貴女が光月さんか〜」
今度の人達は、私より年上・・・高校生かな?
私の格好を下から上までしばらく見てる、あっ寝癖でもあったのかな?

「親の都合で彷徨君と一緒に暮らしてるんだよね?」
「は、はい」
「ねねっ?彷徨君にはもう告白したの?」
私に耳打ちするように小さな声で話してきた。
「え、ええぇ?何で私が彷徨に告白・・・」

相手は、笑いながら
「う〜ん、なんて言うかな。周りから見ると貴女が彷徨君を好きなのはバレバレなんだけど、気づかないとでも思ってるの?」
「そんな、彷徨は一緒に暮らしてるってだけで、別にそんな気持ちには」
「ふーん、じゃあ今日のバレンタインも、彷徨君には何もプレゼントしないんだよね」
なんだか、言い方が段々高圧的になってきた。
「もちろん、彷徨になんかする訳無いじゃないですか」
精一杯の笑顔で返す。だけど、もう遅かった。


「なら、光月さんが持っているかぼちゃの箱はな〜んだ?」
「えっ、これはその・・・」
「私達ね、昨日貴女と同じお店に居て、そこでそれを買っていたのを見てるんだよ」
なんで、この人達・・・。
隙を付かれてカボチャの箱を奪われた。

どうしよう、彷徨へのカボチャチョコが・・・
その時、とっさに浮かんだ男の子の名前が三太君だった。
「三太君!その、三太君にあげるチョコなんです。返してください」
ごめん、三太君。
「ああ、そうだったんだ。ごめんね、てっきり彷徨君に渡すチョコだと思ってたよ、彷徨君かぼちゃ好きだって言うからさ、私も同じ箱買ったんだよ、ほら」
彼女は袋から私と同じカボチャの箱を取り出した。

「本当にごめんなさい。なんか私達が光月さんを責めてるみたいで」
「いえいえ、大丈夫です」
ほっ、これでチョコは無事に返して貰えそう。

「だから、お詫びにこのチョコを三太君に渡してきてあげるね」
えっ?なんでそうなるの?
「えっ?大丈夫ですよ、私から渡しますから」

「本当はね、さっき彷徨君と三太君が一緒に歩いているのを見かけてね、直接このチョコを渡そうとしたんだけど、昨日の貴女の事を思い出して、それで彷徨君に渡さずに家の方に来たのよ。正解だったみたい。じゃあこのチョコは三太君に渡しておくからね」
「そんな!待ってください」
「貴女ってズルイ女だって自分で分からないの?好きな人と一緒に暮らしているのに。余裕って事?私達も他の子も彷徨君の事が好きなんだからね。貴女が居なければ彷徨君も誰かと付き合う事が出来て、そうすれば他の子も諦めがつくんだよ?なんでそれが理解できないの?バカじゃないの」

そういって、私のチョコを奪ったまま彼女達は居なくなった。


彼女から渡されたチョコを持って、ゆっくりと居間のテーブルの前まで歩いて来た。
私はそれを山積みになったチョコの一部に加える。
そのまま、座布団に座りながらテーブルの上で両手を組み、その上に右頬をつける。
テーブル、廊下、窓の外には暗くなっている空から雫が落ちて来たのが見える。

私の頬が私の意識とは無関係に痙攣し始める。
止めようと思っても頬が引きつってしまう。

ふぁ〜。なんだか眠くなってきちゃったのかな・・・。
私はごまかすように無理なあくびをする。

見ている空がゆっくりと歪み始め、視界がぼやけてしまった時、顔を腕のある下に伏せて視界を真っ暗にした。


私はそんなに気にしては居なかったはず・・・彷徨と一緒に居る事を。
隠して居たはずの気持ちを、誰かから言われると・・・何かに押し潰されそうになった。
チョコが無くなって悲しいの?本当の事言われたから?
どうしてだろう・・・。


私はそのまま寝ていたみたい。
周りで物音がするのに気づいて目を覚ました。


ここまま彷徨の前で顔を上げてしまったら、きっと泣いていた事に気づかれる。
よし、このまま狸寝入りだ。


物音は頭の向こう側、テーブルを挟んで向こう側で止まった。
恐らく、彷徨は私とチョコを挟んだ反対側に居る。


ふぁ・・・は・・・

「くしゅん・・・」

ど、どうしようくしゃみしちゃった。
寝たふりをしているの気づかれたかな?

少しして、向こう側で彷徨が動く音が聞こえた。
あれ、どこかに行ったみたい・・・。
それにしても、寒い・・・。
さっき雨がたくさん降ってきてたから、あれから気温下がってきたのかな?

廊下の方から彷徨が歩いて来る音がした。
ふすまが閉められる音がして、ふゎっとした感触が私の背中に落ちてきた。


彷徨の手が私の肩に触れる感覚、シーツに隙間が出来ないようにしてくれてる・・・。
何故だろう、それだけなのに目の奥にさっきまでと同じ様な感覚が迫ってくる。
嬉しいはずなのに、なんで?
心では彷徨の事は好き。だけどそれを言葉には出さない。彷徨にも伝えない。
だけど、その事を他の人から聞かれると、上手く答えられない。
ごまかしキレナイ。


って・・・

あれ・・・?




・・・・・・・・・////////


彷徨の手が肩から私の首を回り込むように進み、私の肩から上が彷徨の腕の中に納まり
私の身体は彷徨であったかくなった。




私の身体を後ろから抱きしめている彷徨。
その力が少し強くなった。


「未夢からのチョコ、ちゃんと受け取ったからな」

この言葉で私の身体が大きく揺れた。
未夢からのチョコって?
私は彷徨にチョコなんて渡してない、私のチョコは取られてしまったから・・・。


「かぼちゃ型のチョコなんて初めてだったぞ、食べる直前に気づいたか良かったけど、こんな風に描いてるとはな」


私が作ったのはかぼちゃの形をしたチョコレート。
削るのが大変で何度も作り直しをした。
作る前までは、『彷徨にも一応チョコあげるからね』ぐらいの気持ちだったのに
何度も失敗してたら『どうしても、彷徨にこのチョコをあげたい』って気持ちに変わってた。


そして、作ってるうちになんだかその気持ちが強くなりすぎちゃって。
私が彷徨を『スキ』って想いを、気づかれない様にチョコに描いた。
それで、『私はもう彷徨に告白をした事にしよう。そして、その気持ちに彷徨が気づかないまま終わる』そうすれば、私は『あ〜あ、告白したけどやっぱり振られちゃった』って決心がつくはずだったのに・・・。


私がチョコに描いた文字は「彷徨君好きです」
それを、彷徨が貰うたくさんのバレンタインチョコの中に混ぜて、私のチョコだと名乗る前に私の「好き」を終わらせて欲しかった。
だって、今日は西遠寺で過ごす最後のバレンタイン。
中学3年生最後のバレンタイン。

私は、パパとママの都合でもう一年西遠寺に居る事になって中学校が終わったら、また昔の家に戻る事になった。
だから、私はここで最後の決着を付けたかった。
『彷徨に告白して、駄目だった』という結果が欲しかった。


駄目だと言う結果が無ければ、今の私はずーっとこの想いを引きずってしまう。
だから、私の告白のチョコが無くなって悲しんでいたはずなのに・・・。


なんで!どうして私の目の前にあるのよーーーーっ!


私は彷徨に後ろから抱き起こされた。
すると、目の前のチョコの山のてっぺんに私が彷徨に作ったチョコが置いてある。

どうしよう、もう逃げられない。
私はテーブルの座布団に座っているだけなのに、前はテーブル後ろは彷徨で逃げられない。



このチョコを私が作ったなんて証拠は何処にも無いって言うのを言えばいいのかな?
彷徨はカボチャだから私が作った物だって思い込んでいるだけで・・・。

「・・・えっ?なんなのこのチョコ・・・凄いね・・・かぼちゃの形してるね・・・」



「悪ぃ、未夢・・・もう我慢できない」
















俺は三太の「逆チョコ」渡しに付き合いとして呼ばれただけだった。
三太との待ち合わせ場所に着くと、紙袋一杯に詰まったチョコを持った三太が居た。

何で三太の逆チョコ配りに俺が一緒じゃなきゃ駄目なんだ?と問い詰めたが。
理由をはぐらかされて、公園に連れて行かれた。
その場所に着くと三太が大きな声で言った

「やぁ〜皆お待たせ、約束の彷徨連れて来たよ〜」
公園の中に居たのは同じ学年の女子が何人も待って居たようだ。

三太は早速、紙袋に入って居たチョコを一人一人に渡す。
そして、同じ様に俺の所に三太が渡した数と同じ個数のチョコが集まった。
「彷徨君、これチョコです」「あの、これ貰ってください」など・・・、いろんな言葉と一緒に貰ったけど、全ての台詞は覚え切れなかった。

三太が「逆チョコ」を渡し終え、俺がチョコを受け取り終わり、三太と俺だけが公園に残った。
「いや〜、ホワイトデーのお返しが楽しみだな〜、な?彷徨」
と、喜びながら話してくる。
「今日学校休みだろ?この前、皆に逆チョコ渡しに行くよって言ったらさ、この公園に彷徨を連れて来てくれってなってさ・・・。あはは・・・悪ぃ・・・」
俺の怒っている表情を読み取って三太が続けた。
「あとさ、今彷徨にチョコ渡した皆はもう知ってたみたいだぞ」
「何が知ってるんだよ?」
三太の行動に飽きれ返り、ため息混じりに聞いてみた。

「もう彷徨には本命が居るって事。だけどチョコだけは渡したいって言ってたよ」

・・・俺の本命か・・・
少し考えて三太に質問した。
「なあ?今の俺ってそんなに分かりやすい態度取ってたか?」
「まあな、あの花小町さんが最近大人しくなって来ただろ?あの頃には皆気づいてるよ。彷徨が誰を好きなのかって」

そうか・・・だから花小町の暴走を見なくなったのか。
「だから、彷徨。皆も気持ちの整理をさせてチョコをプレゼントしたんだから、彷徨もいいかげんハッキリとしろよ」

いいかんげんに・・・ハッキリか・・・。


「あ〜!!彷徨君〜!」
公園の外から声が聞こえ、その方向を見るとさっきまでの女子とは違った雰囲気の女性数人が居た。

確か、もう卒業した先輩だよな?委員会で何回か話した事あったな。

「久しぶりだね〜、四中の委員会の時一緒だったよね?覚えてる」
「はい、覚えてます。お久しぶりです」
「私達、彷徨君にチョコを作って彷徨君の家まで行ったんだけどね、光月さんに彷徨君は出掛けたって聞いてさ、探してたんだよ」
そして、4人分のチョコを受け取る。
これもさっきまでのチョコに混ぜて置いても、ハッキリと分かるぐらい派手な物だった。

チョコを受け取り終わると先輩が三太の方を見て少し考え始めた。
「ねぇ?君が三太君だよね?」
「えっ?そうですけど」
三太が不思議そうに返事をした。

「さっき、彷徨君の家に行った時、光月さんが三太君の所に行くような事言ってて。でも、私達彷徨君にチョコを渡したくて探していたから、彷徨君が帰って来たらすぐ連絡欲しいって光月さんに御願いしたの、そうすると何処にも出掛けられないでしょ?その代わりに私達が三太君にこれを渡してあげるって約束したんだよ」
先輩は三太にカボチャの形をしたチョコの箱を渡した。

未夢が三太にかぼちゃのチョコ?

三太はしばらく黙っていたけど
「うゎ〜嬉しいです。ありがとうございます。俺からも光月さんにお礼言っておきます。先輩方もありがとうございます」
と、喜び出した。

「光月さん、渡すのがとっても恥ずかしいって言ってから、もしかしたら本命チョコかもよ?」
と三太にけしかける。


ポッ・・・ポッ・・・ 、ポッ・・・ポッ・・・。と公園の土の上に黒い模様が少しつづ落ちて来た。
「えー。とうとう雨降って来ちゃった、ねね?彷徨君これから私たちとカラオケでも行かない?」
そう誘われたが、俺が断ろうとする前に三太が割り込んだ。
「いや〜。ごめんなさい。彷徨は今まで俺の用事に付き合って貰ったので、今からは彷徨の用事を済ます約束なんですよ。ほら早く行こうぜ彷徨」
三太は俺の背中を押しながら、先輩達から離れさせ
「悪い、彷徨・・・走るぞ」と言って、そのまま公園を抜けて商店街を抜けて、俺の家の石段の登り口まで走り続けた。

三太は手に持って居た、未夢から貰ったチかぼちゃの箱を俺に渡してきた。
「本当にごめん。俺が彷徨を外に誘い出したから、彷徨に迷惑かけた・・・いや、光月さんに一番酷い事したかもしれない。なあ、彷徨。そろそろ本当の気持ちに正直になってみないか?前から2人の関係は気づいてたけどさ、なんか最近見てると変なんだよ。前よりギクシャクしてるって言うか、無理に距離を置いて接してるように見えるだよ。ほら、これ見てみろどんな想いでこの文章を書いたと思う。光月さんなら彷徨の事こんな呼び方しないだろ・・・」

三太は、かぼちゃの箱を開けて中を見せて来た。
中には同じ様なかぼちゃの形をしたチョコの裏側に・・・『彷徨君好きです』と書かれていた。


「じゃあ、またな。ケジメつけろよ」
そう言って三太は居なくなり、俺はゆっくりと石段を登り始めた。



俺はずーっと恐かった。
未夢に持っている想いを伝えると、壊れてしまう物が出来る。
それは、今までの俺達の関係だ。


もし、俺の気持ちに未夢が答えてくれた場合は、今までの関係を続けていく事はできるだろう。
だけど、それとは反対の結果になった時。

同じ家同じ学校で、未夢が振った男に会うことになる。
未夢は女、俺は男。必ずといって不安になるはずだ。
きっと未夢は恐がってしまって、ぎこちない会話、ぎこちない生活、未夢のぎこちない表情。
それが待っているはずだ。
未夢の顔からあの明るい笑顔を見ることは出来なくなるかもしれない。

俺にとってそれが一番恐かった。
怯える様な視線で未夢に見られるなら、俺の方がその場から居なくなりたい。

そんな、未来が待っているなら最初から何もしなければ良い。
何もしなければ、今のままでそのうち終わる。

そう、それで良いじゃないかと思っていた。
それに、もう少しで中学が終わる。
終わったら未夢は元居た場所に戻って、向こうの学校で暮らす事になっている。
もう少しだから、何も起きなければ良かったと思ってた。


気がつくと玄関の中に立っていた。
いつの間にか外の雨が強くなっていて、雨音が聞こえ。俺の髪からは雫が落ちていた。
そのまま、足音が立たないくらいゆっくりと居間まで移動して行く。

その途中でかすかな嗚咽が聞こえ足を止める。
その声の主は居間に居る未夢だとすぐ分かった。

俺は居間の手前にある壁に寄りかかって外を見た。
そのまま、屋根から落ちてくる水滴を見ながらボーっとしていた。

嗚咽が止む、すぐ側には俺の好きな女性が泣いて居た。
その原因が俺である事も分かった。
だから、その責任を取る為に彼女に伝えなければいけないことが有る。

あれも、持ってくるか。
俺は一度自分の部屋に行く。
テーブルの引き出しを開けて中から取り出す小さな箱。
未夢がチョコ作りで余らせた材料で作ったチョコレート。
未夢に渡す「逆チョコ」を持って居間に向かう。

テーブルに顔を伏せている未夢。
とりあえず、「逆チョコ」をテーブルの上に置き、その隣にかぼちゃチョコを置く。

なんか、寒いな・・・
ストーブとコタツの電源を入れて、未夢の正面の場所に座って未夢を見る。
「くしゅん・・・」と未夢がくしゃみをした。
ずっと前から居たんだから未夢の身体は冷えてるんだろうな、シーツも持ってくるか。


シーツを持ってきて、未夢にかけてやる・・・。

はぁ・・・俺って情けねーな。好きな未夢が泣いていたって言うのに何も出来なかったのか・・・ごめんな・・・未夢。
俺は未夢の後ろに座り、シーツごと未夢の身体を抱きしめた。

「未夢からのチョコ、ちゃんと受け取ったからな」

未夢の身体が動いたが、起きる気配が無い。
何で寝たふりしてるんだろう・・・、もしかして恐がってるとか・・・。

でも、ここまで来たかから・・・決着をつけないと。

「かぼちゃ型のチョコなんて初めてだったぞ、食べる直前に気づいたか良かったけど、こんな風に描いてるとはな」


テーブルに伏せている未夢を抱き起こし、テーブルの上に置いてある未夢のチョコを見せる。
少し時間を置いてから観念した未夢がやっと喋り出した。

「・・・えっ?なんなのこのチョコ・・・凄いね・・・かぼちゃの形してるね・・・」

未夢・・・どうしてそこまでしてごまかそうとするんだよ・・・。
もう駄目だ、悪いのは未夢なんだからな・・・。


「悪ぃ、未夢・・・もう我慢できない」





えっ・・・?我慢できない?
この状態で・・・我慢って・・・なに?




「ひゃ・・・かなっ・・・んんっ・・・・・・」



私の背中を包んでいた彷徨、その温もりが背中から離れ、私の右肩の方に移った。
とっさにその方を振り向いた時、私の身体をを左腕で抱きしめ、顎を右手で持ち上げられ、突き出した唇が彷徨によって塞がれた。

しばらくして唇が開放され
「未夢、好きだ・・・」
と、唇が触れる距離で彷徨に言われた・・・。
ああ・・・どんなにこの言葉を待って居たんだろう・・・、本当は叶う筈の無い恋だと無理やり決めつけていたのに・・・。
こうやって彷徨に直接言われるなんて、嬉しくて嬉しくて・・・。
あれ、嬉しいのに何でこんなに涙が溢れるんだろう、さっきもたくさん泣いたはずなのに。

私はそのまま泣いてしまい、彷徨は私の事を胸で抱きしめて、私の頭をやさしく撫でてくれた。

そして、私もようやくその言葉を言う決心が着き、彷徨の胸から顔を離し、きちんと伝えることができた。
「あのね・・・私も・・・彷徨が好き・・・」




( ;゚д゚ )加筆したら、内容ぐちゃぐちゃに・・・。
(/-\*) ハジュカチ・・・
一応ここで終わらせます。
オチは・・・そのうち書きます。




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