作:しーば
先に未夢sideを読んでね(*゚∀゚*)
結構暑いな・・・。
俺は西遠寺の石段の一番上の段に座り、石段を見下ろしていた。
今居る西遠寺には俺以外誰も居ない。
だいぶ前にワンニャーやルゥが、2人の故郷の星であるオット星に帰ってしまった。
親父も何処かに修行に行ってしまい、ずーっと家に居ない。
俺は今ここでの同居人、未夢を待っている。
普段の家事は当番製で決めているけど、今日の未夢は担当する買い物品が多い。
素直に手伝ってやっても良かったんだが、タイミングを逃した・・・。
「おっ、やっと帰って来たな・・・」
西遠寺の石段の登り口に、大きな買い物袋を両手に持った未夢が現われた。
だけど、上を一度も見上げる事無く、少し俯きながら石段を登ってきた。
途中まで登ってきた時、やっとその表情を読み取る事が出来たのだが。
いつもはあまり見せない、哀しいような淋しいような暗い表情だったので
俺は一度石段から離れ、門の横に隠れることにした。
同じ表情のままの未夢が俺の前を通り過ぎて行く。
「遅いぞ」
未夢が俺の方に振り返った。
やっぱり表情がいつもより暗いな・・・何かあったのか?
「・・・しょうがないでしょ、今日の結構重たいんだから。ちょっとぐらいは手伝ってくれても良いんじゃない?」
暗い表情を隠したままの未夢が、買い物袋を持った右手を突き出して来た。
買い物行って何かあったのかな?
そのままの状態で未夢を放って置くと、目をぎゅうと閉た未夢の腕がプルプル震え出した。
俺はすかさずその手にぶら下がった買い物袋を受け取り、玄関に向かう。
未夢が後ろから小走りで追いかけて来る。
「なんでもうちょっとはやく持ってくれなかったのよ」
腕を振って疲れたという顔で俺を見上げてくる。
さっきまでの暗い顔がまったく無くなっていた。
「未夢って七面鳥みたいだな」
「えっ?」
未夢がきょとんとした顔になる。
「ころころと表情が変わって面白いからさ」
「なんですと〜?」
未夢の頬がぷく〜っと膨れたのを確認して、玄関を上がり台所に向かった。
冷蔵庫の中に未夢が買って来た物をしまう。
あれ?確か買い物リストの中にはアイスがあったはず・・・、未夢が持っている方の袋か?
後ろから袋を持った未夢が来たので、冷蔵庫のから少し離れて未夢の袋を見た。
未夢が冷蔵庫を開けて、品物を入れ始めた時に目的の物を見つけることが出来た。
「未夢・・・あのな、帰ってくるのがいつもより遅かったから・・・心配したんだぞ」
未夢が見上げてきたけど、なんか不思議そうな顔してんな・・・。
まあ、早く食べないと融けるからな、アイスアイスっと。
袋の中に手を突っ込んで、融けかけているアイスを取る。
なぜか未夢が目を瞑ったような気がしたけど・・・
早速イスに座って食べ始める。
って、何で未夢の奴動かねーんだ?
「早く残りのやつも冷凍庫にしまっておけよ、融けるぞ」
あれ?夕焼けのせいか?未夢の顔が少し赤いような?
「ん?どうかしたのか?顔が赤いぞ?」
「あ・・・あいすね、うん。そうだよね、早く冷凍庫に入れないと融けるよね・・・あはは」
なんか慌ててねーか?俺が何かしたのか?
未夢は冷蔵庫に品物を入れ終わった後、麦茶を入れたコップをもって来て、俺の向かいのイスに座った。
その後、俺の方を見続けてきた。
「どうかしたか?さっきから俺の事じーっと見て」
「ううん、何でもない。あっ!聞いてよ、さっき買い物終わった時に、幼稚園に行っている子達が作った七夕の短冊付けた笹飾り見つけてね。
サッカー選手になりたい。とか、ゆみこちゃんをお嫁さんにしたい。とか男の子の願いは普通だけど。
3人の男の子をお婿さんにする。とか、外交官婦人になる。とか、女の子の考えが凄くてビックリしちゃったのよ」
未夢が話している間、テーブルの上に両手で背伸びをする振りをして。未夢が持って来た麦茶を盗み取る。
「・・・なあ未夢、そこの幼稚園ってもしかしたらももかちゃんの行っている所じゃなかったか?」
言い終わって、手にしたコップに口を付けてゆっくりと飲む。
「そうか・・・桃の木ってどこかで聞いた覚えがあると思っていたけど、ももかちゃんが行ってた幼稚園だったね。」
半分まで減った麦茶を置く。
「男の子は普通そうだけど、女の子の方はももかちゃんみたいなのが多そうだな」
まあ、ももかちゃんは幼稚園終わってから、少しづつ落ち着いてきてるみたいだけど。
「ねえ?彷徨って小さい頃に七夕の短冊に願い事書いた?」
興味深そうな顔で俺を見てくる未夢。
七夕か・・・
そうだな、小さい頃まだ親父が母さんの事を話してくれなかった時、「どうしておかあさんはいないの?」って書こうとした事もあったけど。
まっ、その後は「サボテンマン」って書いてたな・・・。
「うーん、書いた事はあったかもしれないけど、何書いたかまでは覚えてねーな」
「サボテンマンみたいに悪者をやっつけるって短冊もあったけど、彷徨はそんな事かかないよね?」
未夢がイスから立ち上がりテーブルに両手を着くような前のめりの状態になり、見下ろしてきた。
えっ?
残りの麦茶を飲み干した所で「サボテンマン」の言葉を聞いて少し固まってしまった。
氷がカランッ、っと音を立てて唇にぶつかる。
くっ、未夢の奴段々ニヤケて来てるし・・・。
「そうゆう未夢は何だったんだ?未夢の事だからお姫様になるとかか?」
「えーと、その、うーん。」
ん?今度のニヤケは何か違うぞ? ああ、未夢だから何か美味いお菓子か何かだろう。
「未夢には難しいんじゃね?」
「ちょっと、なんで難しいのよ?」
「だって、綺麗な花に囲まれても未夢には似合わないし、未夢がお菓子作っても美味しいとは思えないし、仮に作らなくても売ってるもの全てつまみ食いするだろうし、太るぞ?」
「ほーぅ、言いたい事はそれだけですかなぁ〜?」
未夢が頬を赤く膨らませた、未夢と俺と鼻がぶつかるぐらいの距離までずいっと詰め寄って来た。
この隙に、空になったコップを未夢の方へと押し戻す。
ふぅ、それじゃそろそろ取りに行くとするかな。
未夢の前から顔を離し、キッチンを後にする。
未夢の事だから絶対に言いそうだからな、早めに準備してても問題ないだろう。
「ばぁかぁあああああああああ」
境内から出ようとした時、未夢の声が聞こえた。
ほー、やっと麦茶が無くなった事に気づいたか。
境内を出て向かった先は寺の一番端にある竹林。
俺の身長と同じぐらいの竹笹を見つけ、それを切り出す。
西遠寺に戻った時は夕日が完全に沈み、家の中が真っ暗になっていた。
「あれ?全部真っ暗じゃん。未夢の奴、電気も点けないで何かしてるのか?」
俺は一番初めに居間に行き、その次に未夢の部屋に行ったが、未夢の姿はどこにも無かった。
「まっ、そのうち出てくるだろう」
未夢を探すのを止め、冷蔵庫のあるキッチンに向かう。
ふう、久しぶりに登ったから疲れた、麦茶麦茶っと。
キッチンに入って電気を点けようとした時、目的の人物が居た。
未夢はイスに座りながらテーブルの上で自分の腕を枕にするように寝ていた。
なんだ・・・ずっとここに居たのか。
俺は寝ている未夢の顔を覗き込んだ。
寝顔とかは可愛いいんだけどな・・・
寝ている未夢の頬を人差し指で突付いてみる。
何回か突付くと、未夢の顔がニヤニヤした顔付になった。
「えへへへ・・・どうだぁ〜 まいったか〜かなたぁ〜」
さらにニヤニヤ顔が強くなった。
・・・・・・俺は未夢の夢の中でどんな惨事に遭っているのだろう・・・。
目的の麦茶を飲み、ついでにテーブルの上にあった2つのコップを片付けて、キッチンを出る。
さて、準備に入るか。
まずは折り紙で輪を作って・・・
さっき未夢が言っていた事を思い出しながら、笹飾りを作り始めた。
よし、完成。
後は短冊に願いを書くだけか・・・やっぱ、今の最大の願いはこれかな?
『未夢の料理がもっとマシになりますように』
未だに・・・塩と砂糖を間違えるからな。
まあ、昔から比べたら少しづつ上達してるから、大丈夫だろうとは思うけど。
うーん、これ以外に願い事なんてあるか?
未夢のドジが無くなりますように・・・。
未夢の考えがもう少し大人になりますように・・・。
未夢がもうちょっと利口になりますように・・・。
未夢が・・・・・・
俺って、未夢に関する願い事しか出てこねーのかよ。
ワンニャー達がオット星に帰ってからも、未夢と暮らしてるからな、その性だ。
ワンニャー達がいつ帰ってきても良い様にしておかないとな。
そうか、それがあったか。
俺はもう一つの短冊に願い事を書き込んだ。
飾りを付けの途中に落ちた笹を持って、未夢が寝ているキッチンに向かう。
未夢はテーブルの上で同さっきと同じ体勢で寝ていた。
未夢の顔を覗き込むような体勢になって、手に持っている笹で未夢の鼻の頭を軽く撫でた。
カサカサ・・・・・・カサカサ・・・。
未夢の右手が動いて、鼻の頭をゴシゴシ擦った。
おっ、反応した。
だけど、未夢は何にも無かったかのように眠り続ける。
俺は鼻への攻撃を続ける。
カサカサ・・・カサカサカサカサ、カサカサ・・・。
未夢が目を開けて笹を不思議そうに見始める。しばらく何か考えていたみたいだけど、笹から視線を上げて俺の方を見た。
「彷徨ぁ? 何してるの?」
あくびをするような声と、うっとりとした顔で見上げてくる未夢。
・・・・・・。
「その笹、どこから持って来たの?」
未夢のこの言葉で、我に返った。
「なんでって言われてもな・・・今日は七夕だろ?未夢の事だから、七夕、七夕って騒ぐと思ったから・・・」
くっ・・・なんで俺はこんなので照れるんだよ!
俺に向かい合うよに立ち上がり、未夢は首を傾げながら俺を見てきた。
ん?俺の顔に何か付いてるのか?笹取りに行った時に何か付いたのかな?
俺が自分の頬を触って確かめようと思ったら、先に未夢の手が頬に来た。
ギュ!
え?
未夢に頬をつねられた。
「俺、何かしたのか?」
頬から手を離さない未夢に聞いてみるが、不思議そうな顔をしながら俺の顔を見続ける。
少しすると、未夢が両方の手を使って頬をつねったり引っ張り始めた。
一体未夢は何を考えてこんな事をし始めたんだ?
俺は未夢の両方の手首を掴んで、頬から未夢の手を引き離した。
「ねえ?本当に彷徨なの?」
目を細めて、怪しむような目で未夢が聞いてきた。
「俺以外に誰だって言うんだよ」
強く引っ張られて、少し痛む頬を両手で擦りながら答えた。
「だって、いつもの彷徨だったらこんな事しないでしょ?いつもはもっと意地悪だから、星矢君が変装してからかってるのかなって思って」
はぁ〜ん、だから未夢が変な目で俺を見るわけだ・・・。
それなら、同じことをやり返してやるよ。
「ほーぉ、いつもの俺はそんなにも意地悪なのか?」
未夢の頬を両手でつねり返してやった。
未夢がどうやら俺の事を本物だと理解した様なので、頬から手を離す。
「それに矢星だったら、七夕の意味をまともに理解してると思うのか?」
矢星だったら、七夕の行事を必ず誤って認識してるはずだからな、あのデタラメの地球観光ガイドの性で・・・。
「その・・・ごめんね・・・。痛かった?」
未夢が先ほどまでつねっていた頬を手のひら全体でやさしく擦ってくれた。
両手で両頬に触れられて、少し困ったような上目使いで未夢に見られる。
うっ・・・さっきよりヤバイぞ・・・、待て。まずは落ち着いてこの状況をどうにかしないと、そうか、頬と手を離せば良いんだ。
俺は、心の中にある何かの誘惑に勝ち、未夢から一歩後ず去った。
「あっ・・・」
手が離れた時、かすかに俺聞こえるぐらいの声でそうに言って、未夢は悲しそうな顔をした。
「まあ、とにかく準備は終わってるから・・・、早くしろよ」
未夢ってわざと、やってるんじゃないよな?からかって誘惑してるとかは無いよな?
未夢の先を歩いて、縁側まで誘導した。
「わぁ・・・綺麗・・・」
縁側に入ると、未夢はすぐに笹の木を見つけた。
そして、笹の木の隣まで駆け寄って、飾りなどを手にとって見始めた。
「ねぇ?この飾りって全部彷徨が作ったの?」
目をキラキラ輝かせながら、未夢が振り返りながら聞いてきた。
「未夢が言ってたのを創造して適当に作っただけなんだけどな」
「ありがと、彷徨」
満面の笑みで未夢に言われるこの言葉・・・正直言って照れる・・・。
未夢が笹の木の方に向き直って見てるから大丈夫だけど、今の俺の顔はさっきよりヤバイはず。
「ねぇ、早速短冊に願い事を書こうよ」
未夢は短冊と睨めっこを始めた。
最初は頬を少し赤らめていたが、その後がっかりしたようにため息をついていた。
その後、暗くなった空をボーっと眺め続けた。
未夢はどんな願い事考えてるんだろう?
しばらくして未夢の表情が明るくなり、短冊に願い事を書き始めた。
書き終わると、すぐ俺の方を向いて俺の願い事について聞いてきた。
「ねね、彷徨は何て書くの?」
「俺か?とっくに書いて飾ってあるぞ」
「彷徨だから、死ぬほどかぼちゃを食べたいとか?」
「それはワンニャ―だろ」
「ワンニャーだったら、世界中のみたらし団子を食べたいって書いてるよね」
未夢は願い事を書き終えて、短冊を飾る場所を探し始めた。
「ちょっと〜彷徨の短冊何処にもないよ?」
首をかしげながら探し続ける未夢。
「ん?探し方が悪いだけだろ」
まあ、未夢の背丈じゃ見えない位置に付けたからな。
未夢の顔が、不思議な顔から、困った顔に変わってきた。
「大丈夫だ、未夢が探したって見つかる訳がないから、諦めろ」
そろそろ、教えってやっても良いかな?
「じゃあ、なんて書いたの?」
体を起こして立ち上がると、未夢がすがるように聞いてきた。
「分かった、見せるから」
手を上に伸ばして笹の葉を掴み、未夢の見える場所まで引っ張た。
『未夢の料理がもっとマシになりますように』
あれ、未夢の反応がいつもと違う。
もしかして、落ち込んだのか・・・?
「なになに、ルゥ君とワンニャー達とまた会えますように・・・か」
未夢の願い事を声に出して読む。
「また会おうねってルゥ君達と約束したのに、それを願い事にするなんておかしいかな?」
不安そうな表情で未夢が聞いてくる。
「大丈夫だろ、願い事にした方が早く会えるかもしれねーし」
星空を見上げる。
見えないけど、俺達は同じ宇宙に居るからきっと会えるさ・・・。
何も考えずに上だけを見続けた。
「じゃあ、俺はそろそろ風呂に入るからな」
自分の部屋に行く為、縁側をあとにする。
「うん」
背中からは未夢の返事が聞こえた。
風呂からあがった事を未夢に知らせ、未夢が風呂に向かう。
俺は、もう一度縁側に来ていた。
俺の本当の願い事を飾る為・・・。
空から一番見えやすい位置にその短冊を飾る。
「これでよしっと」
さて、そろそろ寝るかな・・・。
部屋に戻って布団に入る。
『ずーっと未夢と一緒に、ルゥ達の帰りを待ってるからな、だから早く帰って来いよ』
[岩陰]_・。)最後の台詞が短冊に書いた彷徨の願いです。
最初は、彷徨の短冊を見た未夢が彷徨の部屋に乗り込んで来たのも書こうとしましたが、その辺は皆しゃんの想像にお任せする形で逃げました。