作:五月芽衣




 雨って、なかなか気分屋さん。相手をするのに、苦労します。
 テレビでは、今日は降りません、なあんてかっこうの良いことを言っているのに、実際は、いきなりざあざあ降り出して、お布団を干したお母さんや、グラウンドを走る子供達を悩ませているのです。いやあ、全く困ったものです。


 お母さんや子供も困りますが、本当に困るのは、駅から帰るお父さんや、自転車がよいの学生さんなんですね。だって、おうちに帰れないんですもの。困った、困った。突然の雨には、右往左往で大弱りです。
 雨って奴は、時々、そんな私達を見て、くすくす笑っているんじゃないかと思います。だって、時々あっちの空から青空がこっそりのぞいているんですもの。きっと青空も、からかわれている私達を見て、愉快に思っているのでしょう。


 でも、そんな雨でも、反省するときがあるのでしょうね。お詫び代わりに、素敵な虹をプレゼントしてくれます。いやその虹の素敵なことといったら。思わずほうとため息をついてしまうくらいなんです。遠くに青空が見えて、雲と雲の切れ目から、すうっと地上をつなぐような虹は、何度見ても飽きることがありません。


 あんまり素敵なものですから、ついつい教室に居ても、頬杖をついて見てしまうので、私なんかはちょくちょく名前を呼ばれてしまうのです。そのときの恥ずかしいことといったらありません。
 でも、あんなに綺麗なものが隣に見えるのに、見るなという方が無理なんです。あれを一瞬でも視界に捕らえてしまったら、もう黒板なんかは、悲しいくらいにつまらないものに思えてくるのですね。


 あんまり何度も何度も眺めるもので、ついには級友に「雨女」とあだ名されてしまいました。なんでも、私が空を見ているときは、雨を呼んでいるんだそうですよ。全く、お暇なものです。
 雨でも平気な雨女、ということで、「かえる」というお名前まで頂いてしまいました。ありがた迷惑とは、こういうものなんですね。こういくつも名前があっては、呼ばれたときに困ります。名前は、ひとつで結構ですもの。とはいっても、かえるも嫌いではないので、そうまんざらでもありませんが。でも、あんまり気分のいいものじゃありませんよ。


 雨ってやつは、なかなか自信家さんでしてね。いつもいつも、誰かに見て欲しくて仕方が無いのです。だから、大雨をざあざあ一日中降らせたり、晴れているのに、ちょっかいをだして小雨を降らせて見たり。バケツをひっくり返したような雨を一瞬降らせることもありますし、じょうろのお水のように、いつまでもびちゃびちゃと降らせることもあります。
 

 あんまり頑張るものですから、とうとう昔の人は、それぞれの雨に名前をつけたんですね。それは、季節によるものだったり、時間によるものだったり、実に色々な種類があるのです。そんなやさしい人々のおかげで、今、雨にはたくさんの仲間がいます。もとを正せば皆同じ雨なのに、俺だ俺だと激しく自己主張しているのですね。静かに降り続ける雨ってやつを見習えと言いたくなります。だって、激しく降る雨に限って、川の場所を横取りしたり、勢いあまって家の中までぬらしたりと、ろくなことを致しませんから。






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