作:雨宮さや
冬の朝ほど寒いものはない。しかし、今日はクリスマスイヴという、聖なる日。
そんな寒さなど、どこ吹く風。わくわくする嬉しい気持ちがいっぱいで早朝でも街が既に賑わっているようである。
しかし、ここにはそのようなものとは無縁のように見える学生が2人、学校への道をのろのろと歩いていた。
「今日も講習だよ〜。辛いですな〜、彷徨さんや」
「本当だよ、どうしてこんな日にまで講習があるんだよ。俺はゆっくりみ・・・」
そう言いかけて彷徨は慌てて口元を押さえた。
想いが伝わっていないため、口が裂けても「ゆっくり未夢と一緒に過ごしていたい」なんて言えなかった。
いや、いっそのこと口が裂けてしまったほうが良いのかとさえ思ってしまうくらいだった。
未夢は突然言葉が途切れてしまった彷徨を見て、ただ?マークを浮かべているだけだった。
どんなにゆっくり歩いても、いつかは学校に着いてしまうわけで、いくら講習を受けたくなくても受けざるを得なくなる。
2人は仕方なく校舎へと向かっていった。しかし、彷徨は突然止まり何やら考え出した。
それに気づかない未夢は変わらず歩き続けていた。そんな未夢に唐突に彷徨は言った。
「なぁ、未夢。今日サボってどこかに行かないか?」
「・・・え? でも、講習・・・。それに私たち一応受験生だよ?」
「だって今日はイヴだぜ? こんな日くらいサボったって良いだろ?」
「・・・そうだね! 今日くらい良いよね♪ サボっちゃおう!」
「そうと決まれば、誰かに見られないうちに早く学校から出ないとな」
そう言うや否や、彷徨は無意識に未夢の手を取って走り始めた。
状況に着いていけなかった未夢は「あわわ!」と言っているが、次第に追いつき、一緒に走り始めた。
ある程度学校から離れたところで“手をつないでいる”という状況に気づき、2人はとっさに手を離した。
もちろん、2人の顔は赤く染まっていた。
「わ、悪かったな、突然手とって走り出して・・・///」
「う、ううん、大丈夫///」
「で、どこに行くか? 制服だけど//」
「あ、うん。どこでもいいかな?//(彷徨と一緒なら)」
口には出せない言葉と一緒に未夢は告げた。
その言葉を聞いて彷徨は少し悩み、短く告げた。
「少し遠いけど良いか?」
その問いに未夢は小さくうなづき、笑った。
そのあとに、「寒いところだから一度家に帰って着替えるか?」と彷徨は聞いてきたが、
少しでも彷徨と一緒にいる時間を無駄にしたくないと思った未夢は小さく首を振った。
家に帰るとワンニャーがうるさいから、という言葉と一緒に。
「それじゃ、行くか」
「うん」
いつもと違った空気を身に纏った二人は無言で歩き出した。
普段はおしゃべりな未夢も気恥ずかしいからか、何もしゃべらなかった。
しかし、その無言は苦ではなく、むしろ心地良かった。
はたから見ればそれはまるで初々しい恋人同士のようであった。
彷徨が指示したとおりに行くと、駅が見えてきた。
「ねえ、彷徨。電車に乗るの?」
「嫌か?」
「ううん、嫌じゃない」
切符売り場付近に着いた。
「未夢はここで待ってろ。切符買ってくるから」
「え、あ、じゃぁ、お金・・・」
「いいって。俺がサボろうって誘ったんだから、切符代くらい俺が出すって」
そう言って彷徨は足早に買いに行ってしまった。
未夢はなんだか悪いな〜と思い、辺りを見回した。
目当てのものを見つけるとそこに駆け寄り、あったかいココアを2つ買った。
ちょっとした距離を歩いてきた2人の体は冷えきっていた。
元にいた場所に戻ると彷徨もちょうど戻ってきた。
彷徨が切符を差し出すより先に未夢が
「はい、彷徨、ホットココア。体冷えちゃっていると思うから。あったまるよ」
「//ありがとう。・・・これ、切符な」
満面の笑みでココアを渡された彷徨は、飲む前にもう体があったまってしまったようだった。
電車は暫く来る気配もなく、ココア片手に2人並んでホームのベンチで待つことにした。
暫しの沈黙があり、その沈黙を破ったのが未夢だった。
「ねえ、彷徨。どこに行くの?」
「それは言えないだろ? 着いてからのお楽しみだって」
「うー・・・」
ココアを飲み干してしまうと、彷徨が未夢の分の空き缶も捨ててきてくれた。
それを見計らったかのように電車が来た。
車内は普段の利用者が少ないからか、イヴだというのに空いていた。
・・・みんな地元で聖なる夜を過ごすのだろう。
2人は適当に座り、何も話すこともなく何駅かが過ぎた。
突然の「次ぎ降りるからな」という彷徨の声で我に返ったくらい未夢は今までぼーっとしていた。
その反応を見て、きっと、終業式の次の日からある講習に疲れが溜まっていたのだろうと彷徨は思った。
電車を降り、改札を抜けると、目の前には海が広がっていた。
その海を前に未夢は感嘆の声を漏らした。
「うわ〜!」
「お前、電車に乗っている間も全然海に反応しないんだもんな。どれだけぼーっとしてたんだよ?」
そう言って挑発的な目を隣にいる人に向けた。
未夢は恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「波打ち際のほうまで行くか?」
その問いかけに未夢は大きくうなずき、誰もいない砂浜に向かって走り出した。
未夢に一歩遅れて走り出したが、彷徨はすぐに未夢に追いついた。
冬の海は荒れている。というイメージがあるが、その海はとっても落ち着いていた。
まるで春を思わせるような穏やかさがあった。
1つ違うのが、春は海上が霞んで見えるが、冬は空気が澄んでいるためか遠くのほうまですっきりと見渡せた。
未夢はそこで大きく深呼吸をした。
冷たい空気が肺一杯に入ってくる。
いつもならそんなことをしたら身震いしていたが、今日は違う。
隣に“トクベツ”な人がいるから。
隣にいるだけで暖かくなれる人がいるから。
未夢は目を瞑って“その人”を想った。
そして、決心した。
「彷徨、あのね・・・。私・・・」
「・・・未夢、聞きたくない」
「・・・! え?」
思いがけない拒絶に未夢は目を見開いた。
「俺に言わせて欲しい」
「・・・・」
「・・・好きだ///」
彷徨の告白に未夢は涙が溢れてきた。
そして、その雫を拭い、とびっきりの笑顔で返した。
「あたしも、好き・・・!」
―その後2人がどうなったのかは2人にしか分からない。
ただ、帰りの電車ではしっかりと手が繋がれていたそうだ。
その日の講習では、綾、ななみ、三太が顔を見合わせ、
クリスが「愛の逃避行へと行ってしまったんだわぁ〜!!」とキレたのは言うまでもない・・・。
fin
初めての投降&企画参加にかなりドキドキですが、恥も知らずに投稿してしまいます。
(そして、恥を知らずに書棚に持っていってしまいます。
投稿するにあたって直そうかと思いましたが、全く違うものになりそうなので辞めておきます;)
たくさん言い訳をしたいところがあるのですが、辞めておきます。
本文より長くなってしまうと困るので・・・苦笑
1つ言うとしたら、これ、ちゃんと甘いものですよね?? ということです(汗
それだけが心配で・・・。もう、逃げます。
最後まで読んでくださって本当にありがとうございました!
雨宮さや