作:日秋千夜
今日は学校で,映画鑑賞会があった。
体育館に生徒全員集められて,2時間弱の映画を見せられるアレだ。
授業受けるよりは退屈しないから,みんな面倒くさそうにしながらも
結構楽しんでた感じだった。
学校が用意したにしては珍しく,そんな説教臭い内容でもなかったし。
でも中学生にもなって,普通かぐや姫のリメイク版なんか見せるかな・・・。
まあ,校長の秘蔵サルビデオ見るより断然マシだし,なかなかおもしろかったよな。
―――――――って,帰る時まではそう思ってた。
歩きながら,そっと,隣を歩く未夢に目をやる。
相変わらず元気ないな・・・・・・・・・。
校門を出てから,ここまで一言も発してないのもおかしい。
いつもならもう,「まだ話あるのかよ?」ってなくらい色々しゃべってんのに。
普段なら必ず立ち止まるはずの,花屋にも気が付かずに素通りしてたよな。
そういや,映画見た後あたりからこんな感じだよな・・・。
あれ見て,またルゥやワンニャ―のこと思い出した,とか・・・?
いや,でもそれにしちゃこのヘコみ方はなんかおかしいよな。
少し伏目がちに歩く未夢は,オレの視線にも気付いてないようだった。
春の柔らかい風が未夢の髪を揺らし,ちょっと別人のようにも見えるその姿に
オレは突然ドキドキしてしまう。
―――――何やってんだオレ。こんな時に。
そのうちなんか話し出すだろう,と思ってしばらくそのまま歩いてみたけど,
未夢の様子は一向に変わらない。
心ここにあらずという感じで,ずっと何かを考えてるようだけど・・・。
・・・なんかあったのか?」
気付いたら,口が勝手に動いてた。
あ〜,黙ってようと思ったのに。こいつが絡むと,どうもオレは調子狂いっぱなしだな。
「・・・・・・・・・・・・・え??あ,な,何??」
オレが問いかけたせいで,未夢ははっと我に返った様子だった。
何か返事をしようとあわてている。
それは,いつもの未夢と変わんないように見えるけど・・・
・・・でもやっぱり,普段より元気ないな・・・。
「・・・・なんか,元気ないじゃん。何かあったんなら,聞くけど」
オレもなんでいつもこんな聞き方しかできないんだろうな。
もっと優しくとか,話しやすい感じで聞ければいいんだろうに。
・・・・・・光ヶ丘なら,もっと上手くやれんのかな。
「う〜ん。・・・何かあったってわけじゃないんだけど・・・・。って言うか,自分でも何でそんなに気になるのかよくわからなくて」
未夢は困った様子で,ゆっくりと返事をした。
???
気になる?何が????
「・・・人に話すことで,解消することもあるだろ。まあ,言いたくないっていうなら別に無理には聞かないけどな。あんまり一人で抱えんなよ」
ふぅ。
まあ,これでやるだけのことはやったよな。
あとは未夢がどうするかだけど・・・。
再び視線を前に戻して,さっきみたいに歩き出す。
未夢は言おうか言うまいか迷ってるみたいだ。さっきより歩調が緩やかになっている。
オレもそれに合わせてゆっくり歩いたけど,気付いたら少し未夢と距離があいてしまっていた。
慌ててオレがふり返ったのと,未夢が口を開いたのはほぼ同時だった。
夕日が未夢とオレの影を長くのばしている。逆光のせいで未夢の表情はわからない。
「・・・さっきの,さっきの映画でね。
ほら,かぐや姫が月に帰るところがあるでしょう?その時に,お爺さんとお婆さんが泣いてかぐや姫を引き止めるじゃない」
「・・・うん」
未夢は気持ちを抑えたような,淡々とした声で話しつづける。
「で,かぐや姫がどうしても帰るって言って,それはもう絶対変えられないって分かった時。・・・お爺さんとお婆さんがなんて言ったか,覚えてる?」
「・・・?え、えっと・・・。何だっけ?」
必死で記憶をたどるけど,肝心のシーンは全然頭に浮かんでこない。
〜〜!!
なんでオレ覚えてねーんだよ?
一瞬寝た,あの時やってたのか?!
あせるオレに気付いた様子もなく,未夢はしばらく黙って何か考えてるようだった。
やがてぽつりとつぶやく。
「『こんなに別れが辛いなら,いっそ出会わなければよかった』なんて言うから・・・。
それって,・・・それって・・・・・・・・・・・・」
そこで言葉を切って,うつむく未夢。
――そんなことが・・・。
それでこんなヘコんでんだな,こいつは。
しょーがねえなあ。
なんて言ったらいいんだろうな,これは・・・
ん〜・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・。
あせればあせるほど考えがうまくまとまらない。
これでいいのかどうかわからない。
それでも,今のオレに言えること。
自分の言葉を確認しながら,オレはゆっくりと口を開いた。
「・・・・・・・・・・それは違うんじゃないの?
オレはそんな風には思わない。
別れが辛くない出会いなんて,ひまつぶしにもなんないじゃん。
ルゥやワンニャ―が帰ることになって,あんなに辛かったのは,
それだけオレ達にとって大切だったからだろ。
そんな出会いができて,オレ達はラッキーだったんだよ。
――そう思わないか?」
「うん。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
未夢の表情はまだわからないけど,それでも微かに首が縦に振れてることはわかった。
オレはそのまま言葉を続ける。
「どんな辛くたって,その出会いが間違いだったなんてことはありえない。
ルゥやワンニャ―と一緒に過ごしたあの日々,あの時間は確かにそこにあっ た。
もう終わってしまったけど
・・・あの日々は二度と戻ってくることはないけれど
それでも。
オレたちの中では,きっと永遠だから。
その輝きを否定することは,オレにはできない。
オレは,ルゥに会えて嬉しかった。
ワンニャ―に会えて,本当に嬉しかったよ。
・・・・・・・・それに」
―――――――お前に会えたこと。
最後の一言は,言葉にならなかった。
気が付くとオレは,未夢を抱きしめていた。
何度抱きしめても,未夢の身体の柔らかさ,華奢さに少しとまどう。
少しでも強く抱きしめると,壊れて消えそうなその存在。
守ってやんなくちゃなと今更ながら思った。
「か,彷徨?!//////」
腕の中では未夢が驚いて硬直してる。
・・・こいつも相変わらずだよな。慣れないっていうか・・・。
ま,オレも人のことは言えないけど。
だんだん早まる鼓動が未夢に伝わってないことを願った。
―――そろそろだな。
「・・・・よし,涙止まったな」
名残惜しかったけど,未夢を抱きしめてた腕をほどいた。
上向いた未夢の目はまだ少し赤かったけど,光るものは消えていた。
その瞳をのぞきこむ。
「なに?なんか期待した??」
ニヤリと笑ってからかってみる。
「なっ!!!!そ,そんなことないもんっ!!/////」
真っ赤になって,ムキになって否定してる・・・。
くくく。
やっぱり,未夢はこうでなくっちゃ。
これでいいよな。
今はこれで。
まだ何か言おうとする未夢をおさえて声をかける。
「さっ,帰ろうぜ!!今日の買い物当番つきあってやるから。
なんか大物買うって言ってたろ。タイムサービス商品とかはいいのか?」
「あっ,そうだ。卵買わなくちゃ。わ〜,いそがなきゃ!!」
突然駆け出す未夢。長くてつややかな髪が風にたなびく。
慌ててその後を追いながら,ふとルゥとワンニャーの顔が脳裏に浮かぶ。
――これでよかったか??
返事はもちろん聞こえないけど,たぶん間違ってない。
オレたちの悲しみは今度また会えた時,きっと喜びに変化する。
そうだよな?
見上げた空に輝く一番星。
その,肯定してくれるかのような煌きを確認したあと,
オレは未夢に追いつくために歩調を速めた。
end
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なんだかすごくすらすらと書けた割に,読み返すと何がなんだか・・・(遠い目)
何度も言いますが,やっぱり創作は難しいですね。
言いたいことが伝わってるのかな。伝わってます??
これは某小説を読んでいる時に例のセリフ(未夢が気にしてたやつ)が出てきて「いやいや,そんなことはないだろう」と思って考えた話です。
特に中学生以下の時って,別れてもまたすぐ会える,って感覚がどこかにあって別れが現実味を帯びるまでに時間がかかるような気がします。(私はいまだにそうですが)
でもかなみゆの場合,それはリアルな現実でしたよね。あまりにも遠くだから。
それを乗り越えるのって,大変だっただろうなと。平気そうでも,どこかで
しんどかっただろうなあと思います。
そういう時は,気持ちを共有できる人と一緒にいられるといいですね。
そんなお話を書きたいと思いました。
…これは宮原まふゆしゃんのサイトにプレゼントしていた作品なのですが、このたびサイトを閉鎖されるとのことでしたので(涙)こちらに移させていただきました。だいぶ古い作品ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
新作も、本当にそろそろ手をつけなくちゃな〜。