かくれんぼ

作:日秋千夜



ジー,ジー,ジー………………










夏休みのある日。
しんとしずまりかえった台所。
そこにひとつの人影がすうっと入りこんでゆく。
しばらくゆっくりと室内を見回していたその人物は,やがて食器棚に
目をとめた。
白いワンピースのすそをゆらせつつ,猫のようなひそやかな足取りで
近付いていく。
そのままそっと引き戸に手をかけ,カラリと開けて中をのぞきこんだ。

………………。

「あ,ルゥくん,みーっけ!!」
「きゃーーいっ!!」
「こーんなとこにいたんだー。探したよぉーーー?」
「あーいっ!」

西遠寺に,明るい笑い声が響く。

「あー,ルゥちゃまも見つかったんですねー??」

ワンニャーがひょっこり入り口から顔を覗かせた。

「うん。やっぱりかくれんぼは,体が小さい方が有利だよね〜。
どんなところだって隠れられるもん。ルゥくん見つけるのすごく大変だよ〜。」
「そうですねぇ。ルゥちゃまだったら,隠れ場所多そうですもんねぇ」
「きゃーいっ!!」




「……おい」

談笑を続けていた3人の声をさえぎるように,低い声が響いた。
未夢が振り返ると,まだ半分寝ぼけまなこの彷徨と目が合う。

「あ,彷徨。おはよー」
「……おはよーじゃないだろ。朝っぱらから何やってんだよ」
「朝っぱらって…もう1時だよ?全然早くないよ。」

未夢が指し示す先の時計は,確かに1時をすぎている。
ぼんやりと時計を見上げる彷徨に,未夢がからかうような視線を向けた。

「夏休みだからって,ちょっとたるんでるんじゃないの?
学級委員たるもの,きちんとした生活を送らないとねぇ〜」
「…そういうお前はどうなわけ?えーと,なになに…?
この『夏休みの計画表』によると,午後は1時〜3時まで宿題をする,
とかなってるけど??」
「!!!」


思わぬ反撃に,未夢は一瞬言葉につまる。
そんな未夢の顔を楽しげに見ながら,彷徨はなおも言葉を続ける。

「宿題に『かくれんぼ』なんてあったか〜?あ,そうか。
未夢だけのスペシャルプログラムってやつか?
…幼稚園児並のレベルだよな」
「なんですって〜〜!!??」

瞬間沸騰したかのように,未夢の顔がみるみるうちに赤くなる。
一触即発。まさにケンカが勃発しようとした,その時。


「マンマ?…パンパ???」


泣きそうなルゥの呼びかけに,はっと2人は我に返った。

「ルゥ!!」
「ルゥくん!!わ,わたしたち全然ケンカなんかしてないから!!」
「そうそう,大丈夫だぞ〜??」

あわててその場をとりつくろって,二人してルゥをなだめる。
ルゥくんをだっこして,あやしながら未夢がおもむろに口を開く。

「昨日ももかちゃんが来て,ルゥくんとかくれんぼしてたんだけど,それが
すごく楽しかったみたいなのね。朝起きてからずーっとせがまれてて,
それならちょっとだけ…って3人でやってたのっ」

つとめて穏やかな口調で,未夢が事の次第を説明する。
そこでその場は収まった…はずだった。
彷徨が,ふと思いついた疑問を口にするまでは。


「へぇ〜……でも3人って。未夢と,ルゥと,ワンニャ―でか??」
「…なによ。なにか,文句ある??」
「いや,別に?…ただ,やってもすぐ終わっちゃって,
つまんないんじゃないかなーと思って」
「は〜?何言ってるかなぁ,この人は〜???」


未夢がキッと彷徨を睨む。

「こう見えても私は小さい頃かくれんぼクイーンって呼ばれてたんだから〜!
本気の私を見つけようと思ったら,絶対30分はかかるんだよっ」
「ホントかよ…うそくせぇ〜」
「なによ〜,その言い方!!」

彷徨の全然信じてなさそうな様子を見て,未夢はむうっと頬をふくらませる。
その時,脳裏にぱっとひらめくものがあった。
(よ〜し,そっちがそういう態度なら…)
未夢は勢いよく顔を上げて,右手の人差し指をつきつけながら彷徨に
こう告げた。

「…じゃ,賭けようじゃないの。
もしも彷徨がわたしを一番に見つけることができたら,
一つだけなんでも言うこと聞いてあげる。
でも,もし見つけられなかったら,逆に私の言うことをひとつ,
なんでも聞く,ってのはどう??」


未夢の瞳の光は強く,大マジであることを示している。
しかし。
未夢の挑戦的なそのセリフにも,彷徨が動じる様子はなかった。
ふふんと鼻をならして,逆に言い放つ。

「よっし,いいぜ。…あとで『やっぱりさっきのナシ!』とか言っても
聞かねーからなっ」
「それはこっちのセリフです〜〜!!」

不穏な空気を漂わせながら,向かいあう二人。
その横で,おろおろしながらなりゆきを見守るワンニャーと,
きょとんとした様子で二人を見つめるルゥ。

…とにかく,ここに壮絶なかくれんぼの火蓋が切って落とされたのだった。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







「じゃ,行くわよ」
「おお」
「は,はい〜」
「だぁ〜☆」

4人が輪になり,頭をよせあう。
同時にすうっと息を吸い込む音がして,瞬間,場に緊張が走る。

「最初はグー。…じゃんけん,ぽんっ!!!!」

繰り出された4つの手。
3人がグー。1人がチョキ。
その1人は――――――


「わーいっ,それじゃ彷徨が鬼ねっ!!」

ルゥくんと共に,飛び跳ねて(ルゥくんは現実に飛んで)喜ぶ未夢。
しばらく自分のチョキを出した手をうらめしげに見つめたあと,
気を取り直したように彷徨がみんなを見回す。

「よし,じゃあこれから50数えるうちにみんな隠れろよ。
ほらっ,そこ!
…浮かれまわってるようだから言っとくけどなっ,未夢!
速攻で見つけるから覚悟してろよなっ」
「ほほほ,見つけられるものなら見つけてごらんなさい?
かくれんぼクイーンの名にかけて,ぜぇ〜ったい彷徨なんかに
見つけられたりしないんだから」

不敵な笑みを浮かべる両者。
その場をとりなすように,ワンニャ―がやや大きめの声でルゥに
話しかけた。

「さ,さぁルゥちゃま。わたくしたちもどこかに隠れなければ」


ルゥの手を引いてその場を立ち去りかけたワンニャ―に気づいた彷徨が,
その後姿に声をかける。


「あ,ルゥとワンニャ―。言っとくけど隠れるのは家の中な。
外まで出て,隠れるのはナシ。あとワンニャーは変身も禁止な」
「えぇーっ!?結構キビしいですねぇ。どうしましょう,ルゥちゃま。
作戦をたてねばなりませんよ〜」
「きゃーいっ!!」



「じゃ,いくぞー。…………いーち,にーい,さーん,……」



くるりと後ろを向いて,柱に頭をつけて数えだした彷徨を確認して,
未夢たち3人は居間を飛び出した。

廊下に出るなり,光の速さでどこかに消えて行く未夢。
ワンニャ―はその後姿をあっけにとられた様子で眺める。

「未夢さんはよっぽど良い隠れ場所をご存知なんでしょうね〜。
さて,この勝負どうなることやら…。
あ,いけません!わたしたちも早く隠れなければ。行きましょうルゥちゃま」
「あーい!!」

ルゥを抱いて,こちらも負けじと走り出す。
「じゅーう,じゅういーち,じゅうにーい…」

廊下には,彷徨の数をかぞえる声だけが響いていた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




本堂に続く渡り廊下。
走りつづけていた未夢の足が,ここに来て止まった。

「……ここだ……」

はずんだ息を整えて,カラリとふすまを開ける。


大掃除の時に見つけた秘密の場所。
かくれんぼで,彷徨と勝負するとなって,迷わずここを隠れ場所として
選んだ。
クイーンとしての勘が示したその「隠れるべき場所」とは―――

「ここよ,ここ。客用座布団の押し入れ。
 こんな穴場は滅多にないですぞぉ〜」


かくれんぼクイーンとしての常勝作戦はたった2つ。
ひとつは誰も思いつかない場所であること。そしてもうひとつ,
もし隠れ場所が見つかったとしても,「そこに人がいるわけはない」と
思わせること。
一見簡単なこの法則。でも二つ揃った隠れ場所というのは,見つけようと
思ってもなかなか見つからないものなのだ。
その点この押入れは見事に条件を満たしていた。

まず,普段使わない場所なのでその存在を思いつかないだろうということ。
よほど多くの客が来た時以外は,まず開くことの無い押し入れなのだ。
現に未夢がここに住みだして,使ったことはまだ一回もない。

そして,中にはいっぱいに座布団が入っているということ。
およそ人が入れそうにはないのだが,座布団と押入れの奥との間に,
人ひとりぶんのスペースがあることを,未夢は大掃除の時に確認していた。
一旦入ってしまうと,すっぽりと座布団が姿を隠してくれる。
つまり,押入れを開けても,そのスペースの存在を知らない限り,
隠れていることがバレることはまずないと言っていい。

「ここなら完璧よね〜。わたしのかくれんぼ人生の中でも,
1,2を争うベストプレイスですぞ〜。ふふふふふ〜,
もうこれで勝ったも同然!!さーて,彷徨に何してもらうか,
じっくり考えるとしますかなぁ〜〜っ」


押入れの奥に身をすべらせ,ぴったりと押入れの扉を閉める。
真昼でも,外の光を遮断した押入れの中は真っ暗。
ちょっとした異空間にまぎれこんだような気分になってくる。
その中で,物音ひとつしないようにじっと身をすくめて,息をひそませる。


「…なんか懐かしいな。かくれんぼなんて,いつぶりだろう。
そういえば随分やってないんだよね。何でしなくなっちゃったんだっけ…??
……………。
…………………。
………………………。」


暗い中,ふわふわの座布団に体をゆだねているうちに,未夢はいつしか
眠りにおちていった。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「そしたら,はじめはママがオニね!!」

なつやすみの,ひときわ暑い日。
ひさしぶりにママもパパもお休みで,なんでも未夢のすきなことしよう
って言ったから,かくれんぼをいっしょにしてもらおうって思った。
いちばん楽しくて,いちばんドキドキするから。

ママが数えてるあいだに,階段のわきのものおきに隠れた。
いつもほとんど使ってないし,ママたちは存在すら忘れてるだろうって
思ったから。

思ったとおり,ママがパパをすぐに見つけたのは中からでもわかった。
…いま,二人でわたしを探してる…。
二人の足音が近くなるたびに,すごくどきどきして,だまってても
しんぞうの音が外に聞こえちゃうんじゃないかって思った。
笑いだしそうになるのをいっしょうけんめい抑えて,わくわくしながら
待っていた。
でもぜんぜん二人は気づいてないみたいで,「みゆ,みゆ」って声だけが
遠くなったり,近くなったりしながらずっと聞こえてた。

◇◇◇◇

少しねむってしまっていたのかもしれない。
気がつくと,二人の声は聞こえなくなってた。外に探しに行ったのかな?
そう思ってしばらく待ってみたけど,戻って来るような気配もない。

あまりにも静かなので,不思議に思って外に出てみた。
がらんと広い部屋の中に人の気配はなくて,かわりにあったのは
一枚のかみきれ。

『みゆ,ごめんね。急なしごとが入ったので,これからでかけます。
ごはんはいつものように冷蔵庫に入れてるから,あっためて食べてね。
                     パパ,ママより   』



外には雨がふってきて,だしっぱなしのじてんしゃとかボールとか
かたづけなきゃなって頭ではわかってたけど。
それでも,ずっとそのメモから,目がはなせなかった。
ざあざあという,雨の音だけがずっと響いていた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








ジー,ジー,ジー………






ひときわ大きくなったセミの声で,未夢は目を覚ました。
目を開けたあとも,まだ周りが真っ暗だったので,少し混乱する。
ゆっくりと状況を思い出したあとも,今の夢の感覚が強く残ってるのが
わかった。

「〜〜っ,こういう時に見る夢って,なんでこう鮮明でリアルなのかな〜…
ま,状況が似てるもんね。そういやあの時もこんな感じだったもん。
すーっかり忘れてたけど…あんなことあったよね。」

未夢はふっと小さく息をついて,少し汗ばんだ額をぬぐう。


「…そっか,かくれんぼ,あれ以来やってないんだ……。」


ふ〜っと大きく息をはいて,しばらく思いをはせる。
外は相変わらず静かで,人のとおりそうな気配はない。
時々遠く,セミの鳴き声が聞こえる。










――― ふと,7年前の自分が,すぐそばの暗がりで,
同じようにしゃがんでるような気がした。









未夢はふるふるっと頭を振って,その考えを打ち消す。
気を取り直して,これからどうしようか考える。

「今何時なのかなぁ。真っ暗だから,全然わかんないしなぁ〜。
ちょっとねむってたみたいだし,結構時間経っちゃってるのかも。
彷徨もあきらめて,今頃部屋で本でも読んでるのかな。
……………。



…しょうがないから,出るとしますか」



未夢は少し伏目がちにほほえんで,かすかな希望を振り払った。
ずっとしゃがんでたせいでこわばった体をゆっくりと伸ばして,
押入れの戸に手をかける。
がらっ…と開けようとした,その時。
予期せぬ力が押入れの外側からかかるのがわかった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「…いたーーーーーっ!!!
 おっ…まえ〜!!なんてとこにいるんだよ!探しただろっ!!」




しばらくぶりの外の光に目がくらんで,姿はよく見えなかった。
でも,未夢の腕を掴むその力と,その声は,まぎれもなく彷徨,
その人のものだった。


「あ…」


あまりの驚きに,声が出ない未夢。
彷徨はやれやれという感じで膝に手をつき,未夢の顔を見つめた。
真剣だった瞳が,少しやわらぐ。


「こんなとこにいたのかよ〜。はぁ〜っ,どうりでみつかんないわけだ。
あることすら忘れてたぜ,こんな押入れ」


彷徨は未夢に手を貸して,座布団の山を崩さないように注意しながら
未夢の体を外に出す。

「…………?」

外に出たあとも,どこかぼんやりとした風な未夢を不思議そうに眺める彷徨。
何か言いかけた彷徨の声に,急に登場してきたワンニャーの声がかぶさった。

「あ〜,未夢さん見つかったんですね。良かったですぅ〜。
も〜,彷徨さんなんか血相変えて探してたんですよ〜?」

なおも言葉を続けようとするワンニャーを,彷徨があわててさえぎった。

「なっ…!!///そ,それはワンニャーが『これだけ探していないって
ことは,もしや時空のひずみに捕まってしまったんでは?!』なんて言った
からだろっ!!」

「それはそうですけどぉ〜…」

「…ほら,ルゥにも未夢が見つかったって教えてこいよ」

「あ,そうですね。ルゥちゃまも半泣きでしたから。きっと喜びます〜」

二人に背を向けて,今度はルゥを探しに行くワンニャ―。
その後姿を見送りながら,彷徨はちらりと未夢に視線をなげかける。
いまだぼんやりとした様子の未夢はその視線に気をとめることもなく,
もちろん赤くなった彷徨の顔には気づいていなかった。




ふっと沈黙がおとずれる。
セミの声もぴたりとやんで,少し涼しさを取り戻した風が,
二人の間を吹き抜ける。




「…さすがだな」


しばらくたって,ぼそっとつぶやかれた彷徨の言葉に,
未夢がゆっくりと顔をあげた。

「……え?」

きょとんとした表情の未夢にちらりと一瞥をくれたあと,
彷徨はくるりと背を向けた。
そのまましゃべりだす。

「いや,ほんと参ったよ。おまえ,かくれんぼ本当に強いよ。
全然わかんなかったもんな。正直,マジでちょっと焦った。
ワンニャーもあんなこと言うしさ。

最初すぐ見つかると思ってたのに,全然見つかんないし。
こりゃマジで時空のひずみに…なーんてな。



とりあえず賭けには負けちゃったけど,…お前が見つかったとき,
なんかすげー嬉しかった」


後ろを向いたままだったから,彷徨の表情まではわからない。
けれど未夢の頬はだんだんと紅潮して,聞き終わった頃にはほんのりと
ピンク色に染まっていた。

未夢はあわてて下を向いて,表情を隠そうとする。

(や,やだ。こんな赤くなってるの,見られたらはずかしいよ〜〜///)

後ろを向いたままの彷徨の顔も,負けず劣らず赤くなってるが,
未夢はそれに気づかない。
もちろん彷徨が,未夢のほうに顔を向けられるわけもなかった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







どれくらいそうしていただろうか。
ふっと外に目をやった彷徨が,驚いて声をあげる。
いつの間にか傾いた夕日の光が,西遠寺のすべてを夕焼け色に染めていた。


「うわっ,もう夕方じゃん。
気づいてなかったけど,時間,結構たってるんだな。
未夢,あの中でどんくらい待った?」

やっと彷徨が顔を向きなおして未夢に問いかける。
急に聞かれてびっくりして,未夢は少し考え込む。

「え。…うーん,わたしも真っ暗だったからよくわかんないんだよね。
ん〜〜,感覚的には…1時間…いや…」





―――――7年くらいかな?






「は?なんか言ったか??」

彷徨が振り返って,怪訝な顔をする。

「ううん,なんでもないよ。」

未夢は手をひらひらと振って,笑顔を返す。


「ま,負けは負けだし。ほらっ,何してほしいんだ??
地球を征服したいとか,一億円欲しいとか,そんなんは無理だけど。
聞けることはなんでもするぞ」

彷徨は覚悟を決めた表情で,未夢の言葉を待っている。
その顔をちらりと見て,未夢は視線を下におとした。

「本当に,なんでも?」
「聞けることならな」
「そっか,じゃあ…」

しばらく逡巡したあと,未夢は真っ直ぐに彷徨の瞳を見た。
未夢の一番の「ねがいごと」とは―――






「…じゃあね…

今度,これから何回かくれんぼをしたとしても。
絶対,見つかるまで探してくれること。

………ってのはどうかな?」







祈るような,願うような気持ちで言った,その言葉。
そんな未夢の気持ちを知ってか知らずか,彷徨はあっさりと答えを返す。



「はぁ?そんなん当然だろ。
見つけるまで探さないと,かくれんぼ終わらないじゃん。
心配しなくたって,見つけてやるよ。絶対な」


彷徨のその言葉に,未夢の瞳が輝いた。
自分でも知らないうちに,顔がほころぶ。



「……ありがと。じゃ,代わりに私も彷徨のこと,
絶対見つけるまで探してあげるからね」


思いがけない未夢の笑顔に,彷徨は一瞬顔を赤らめる。
が,さすが優等生。気になるセリフを聞き逃してはいなかった。


「…って,お前。見つからなかったら途中で止める気だったのかよ?」

「えへへ〜,さぁ,どうでしょう???」

「…ったく。ま,当分はかくれんぼ禁止にするけどな。マジで時空のひずみ
が出てきたらシャレんなんないし。このへん出やすいとか言うしなぁ」


話しながら母屋へ向かう彷徨。
未夢はその背中を追いかけようとして,ふと立ち止まる。
さっきまで入っていた押入れを振り返って,そして確認する。




―――押入れの中に,小さな『あの子』はもういない。





「未夢,何してんだー??先戻るぞー」
「あ,うん。待ってよーーう」



廊下の端で,振り返って待ってくれてる人。
いつもその時一番,言ってほしい言葉をくれる人。








かみさま。
どうかずっと,この人と一緒にいられますように。











未夢は心の中で,強く,切なくそう願う。
それから顔を上げて,まっすぐに母屋へ向かって駆けていく。
ルゥとワンニャ―と,そして彷徨。







みんなの待つ,家に向かって――――











おりしもこの日は旧暦の七夕。
未夢の密かな願いは,きっと届く。
何万光年を旅して。
想いの強さが加速して。









end



















はじめまして,もしくはお久しぶりです。
こんにちは。さららです。
ここまで読んでくださって,どうもありがとうございます。

まずはじめに。
…長いですね…短編じゃないな〜。

でもずっと書きたかった話なんで,自分では満足してます。
実際わたしが昔,かくれんぼ得意だったんで(クイーンとは
呼ばれてませんでしたが(^-^;),そのへん思い出しながら書きました。
途中で探すのやめられちゃったのも実話です。
勝ってうれしい気持ちもあり,忘れられたような淋しさもあり…って
感じでしたか。やっぱり淋しさの方が強かったかな?

文章書くのって,やっぱり楽しいです。
まだまだ思い通りにならないことも多いですけど,それすらも。

最近だぁ!×3から離れてて,原作のイメージからかけ離れて
しまってるかもしれませんが。
書いてて,なんだか無性にまた見たくなってきてしまったので
買ってずっと封すら開けてなかったDVDを一から見てみようと
思います。






















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