Snow Fairy 作:K☆K☆K

雪の降る夜には雪女が出てきて、みーんな凍らしちゃうんだって。

でもね、それは何かを探しているの。

凍ってしまった自分の心を溶かしてくれる人間(ひと)を・・・。








「あら?・・・彷徨!雪が降ってるわよ。」

「ゆきぃ!?」



彷徨、3歳。


楽しみにしていた3歳の誕生日が過ぎ、明日はお正月という大晦日の夜。
彷徨は母、瞳の言葉を聞くと一目散に庭へ駆け寄り両手をいっぱいに
広げた。

頭や手、靴の上に落ちてくる雪をボーと見つめている彷徨を見て、瞳はクスクスと笑う。


「彷徨は雪、好き?」

彷徨は後ろに立っている瞳の方にハッと顔を向け、少し経った後
また雪へと視線を戻す。

「ん〜わかんない。」

「あら、どうして?」


瞳が彷徨の背中に向かって聞き直すと彷徨はくるっと180度回って瞳の方に目を向ける。

「だって、ゆきがたぁ〜っくさんふったらね、ゆきおんながでてきて
みぃ〜んなこぉーらしちゃうんだよ!?」

「雪、女・・・?」




勢いよく話す彷徨に瞳は目を丸くした。


(そういえばこの前、そんな本を読んだかしら。)

「もぉ1回」「もぉ1回」と何度も読まされたことを思い出して
少し苦笑い。
もちろん本の題名は『雪女』。


「そっかぁ、彷徨は雪が降ったら雪女が出てくると思ったのね。」

「うん。」

地面の雪をジッと見下げている彷徨。






本当にこの子につき合っていたら色々な表情が浮かんでくる。

笑ったり、驚いたり、嫌な汗をかいたり、また笑ったり。。。

普段は良い子で親孝行者なのに、変なところで親不孝者。


そう思って(結局親ばかなのよね。)と自嘲の笑み。




「おかぁさんはゆきおんなこわくないの?」


「・・・ねぇ、彷徨。」

瞳は質問に答えないままかがみ込んで彷徨の顔を覗くと
まだ小さな手をギュッと握る。


「確かに雪女は雪山で迷った人を凍らしてしまう悪い妖怪さんよ。
だけど、そんなことをしたのは・・・寂しかったんじゃないかしら?」

「ゆきおんなも、さびしぃの?」

「そぉよ?だからきっと、家族みたいなお友達がほしかったのね。
それに、雪女はすっごく綺麗だったんですって。まるで雪の妖精みたいに。
雪はそんな妖精の涙かしらね。」

「よぉせぇー?ゆきがないてる?」

「ふふ、彷徨にはちょっと早かったかしら。
 でも・・・いつか彷徨だけの雪女に会えたらいいわね。」

「・・・うん!」





早く見つけて?

あなたが見つけるまで私はずっとあなたを待っているから。

寒い雪の降る夜でも平気。

だから・・・早く見つけてね。












「黒須君と西遠寺君、ぐっすりだねぇ〜」

「ほ〜んと、幸せそうだよねぇ。」


そう言った綾と未夢は顔を見合わせて静かに笑う。


今未夢たちがいるのは花小町邸の一室。
壁には色々な飾り、そして
【A Happy New year!!の前日なのね〜】と書かれた紙が貼ってある。

クリスマスは先約済みの人が多く、パーティを開くことができなかったため
「大晦日はみんなでわいわいしよう!」ということになり
集まったのだった。

結局いつもと同じメンバーがそろって甘酒で乾杯したり
彷徨はクリスに「お年玉はワタクシですわ〜」と追いかけられたり
その様子を見て皆で笑ったり、騒ぎ三昧の大晦日となった。



「ごめんね、クリスちゃん。せっかくの大晦日なのに騒ぎ立てて。」

「いいえ、私も楽しかったですし・・・
なにより彷徨君と年を越せるなんて!これほどの幸せありませんわぁ〜」

そんないつもと変わらないクリスに「あはは」と苦笑いする。


来年はどんな彷徨君ビデオが出来るのだろう。。。
そう思ったのはまた別のお話。



「だけど、もうそろそろお帰りになられた方がよろしくありませんか?」

そんなクリスの声で壁に掛かっている時計を見るとすでに針は11時ごろ。

「ほんと、もうこんな時間だったんだ。」
「お喋りしてたら時間経つのわすれるもんねー。」
「さてと、あの2人を起こしますか。」

ななみが指差す方向には彷徨と三太。
大の字になって眠っている2人の寝顔からは幼さが残っている。
知らない過去もこの寝顔を見れば少しだけわかるような気がした。

「よし!じゃあ起こしに行きましょ〜!」







△―▽





「うっわぁ〜寒いね〜」



「そうか?寒いというより俺は眠い・・・。」


花小町邸を出て約5分、人通りの少ない道を横に並んで歩いている
彷徨と未夢。
道には街灯の光や家の窓から漏れている明かりが映し出されている。



「ほんとに、あんな起こし方されたら誰だってビックリするよなぁ。」
「えっ、あれは〜」

彷徨は苦笑いで説明しようとする未夢をジッっと横目で睨む。
その瞬間で言葉を無くしてしまう未夢はまるで蛇に見込まれたかえる状態。

「フライパンでカンカン鳴らされたうえ『学校遅刻するよ〜!!』
だもんな。」
「・・・だって何回起こしても起きないんだもん、彷徨たち。」


さきほどと同じく挑戦的な目を向ける彷徨に、未夢は少しすねるように
言う。
そんな未夢を見て彷徨は「ふぅ〜ん」と視線を前に戻す。


「まっ、確かに。いい夢見てたしな。」
「いい夢?」
「あぁ。小さい頃のちょっとした思い出かな。」



彷徨がどんな夢を見たのか知らない。
だが、少し照れくさそうにする彷徨を見ていると何故なのか自分まで幸せな気分になる未夢だった。






「・・・あれ、雪?ねぇ彷徨!雪だよ雪!綺麗〜!」
「降ってきたか。」

彷徨より1歩前に出ると空の方に手を伸ばして雪をすくう。
そんな無邪気な横顔に中学生の趣きは全くと言っていいほど
見られなかった。



そう、あれはまるで・・・




「本当に綺麗。ルゥ君達がいたら今頃大はしゃぎだね。
オット星にも降ったりするのかなぁ?」

「さぁ、どうだろうな。」



「見せて、あげたいなぁ・・・」



「あぁ。」



「・・・・・」


「・・・未夢?」



ふと、背中を向けたままの未夢の笑顔が消えたような気がした。
さっきまで寒くないと思っていた道も今はやけに寒く感じる。
もう1度呼びかけようとすると、その影は似合わない作り笑いで
振り向いた。


「な、なんかちょっと思い出したっていうか、やっぱり人って言うものは
寒いと弱気になっちゃうもんなんですなぁ〜」


「・・・・・」




俺は探してた。




「さっ!早いとこ帰っ・・・えっ?ちょっ!彷徨!?///////」

「・・・・・」




ずっとずっと。

雪っていう涙に埋もれてたから、わかんなかった。




「彷徨?」

「・・・泣けよ。」

「えっ?」

「お前の気の済むまでこの腕ほどかないように結んどくからさ。」






雪の降る夜には雪女が出てきて、みーんな凍らしちゃうんだって。
でもね、それは何かを探しているの。
凍ってしまった自分の心を溶かしてくれる人間(ひと)を。

そして、とうとうその人を見つけられなかった雪女は
最後の最後まで願うの。

『美しさはいらない、だけど温かい心がほしかった』って。




未夢、お前にはあるだろ?

俺が見つけなくても温かい心ってやつがさ。





未夢を包み込む彷徨の腕に次から次へと舞い落ちてくる雪。
それはまるで夏の間を取り戻すかのように地上へ降りる。




ありがとう。




呟くように小さな声で吐かれたその言葉はやけに響いていた。





Snow Fairy ―――雪女

小さい頃から「守りたい」と思っていた伝説の美少女は
案外近くにいた泣き虫でおせっかいのコイツ・・・



ゴーンゴーン


「明けましておめでとう、彷徨。」


「あぁ。」






そして、知らず知らずのうちに俺は願っているのかもしれない


“来年もこうして年をむかえられますように”と。
















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明けましておめでとうございます☆

冬企画に間に合わなかったのでこちらに出させてもらいました(^^;)
何が何だか解らなくなってしまいましたが・・・
彷徨君の探していた雪女は未夢ちゃんだったということを解っていただけたら嬉しいです(-▽-)

それでは・・・
                             K☆K☆K

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