秋。
美しい紅葉が人の心を和ませる季節。
美味しい食べ物がたくさん採れる季節。
変わっていく景色が切なさを誘う季節。
人それぞれ感じ方はあるけれど。
どれもみんな、地球の秋。
秋も深まり、人々の服装もほぼ冬服になろうかという今日この頃。
家の住人4人のうち、二人はお出かけ、一人はお昼寝して、静かな雰囲気の日曜の西遠寺。
一日の仕事を終えたワンニャーは、今に入って座布団に腰を下ろした。
「ふ~~、やっと終わりました~。夕飯まではまだ時間がありますし、お茶でも飲んで一服しましょう。そう言えば、昨日買ったみたらし団子もありましたねえ・・・ぐふふふ・・・。」
怪しげに笑いつつも、台所からお茶と団子を用意して今の方に持っていく。
日頃から家事に勤しむシッターペットにとって、一人でくつろげる時間は貴重なのだ。
お茶を一口すすり、お団子を口に運ぶ。
「ん~たまりませんな~、このモチモチっとした食感。そしてこの甘さ。やっぱりお茶にはみたらしです~~。」
しばらく至福の瞬間を味わった後、ワンニャーはテレビをつけた。
どこかの地方を報道しているらしく、林のような風景が映っている。
『えー、皆さん、見えますでしょうか?私は今、栗林に来ています。林の中には栗が所狭しと落ちていて、正に秋を感じさせてくれます。見てください、この見事な形!栗御飯にしたら、おいしいでしょうねー。』
女性レポーターの報道に合わせて、カメラが林の中を映し出した。
彼女の言葉どおり、栗がこれでもかというくらいに落ちている。
もちろん、イガはついたままだが。
「ほほう・・・地球の栗にはイガがついているんですね。何だか痛そうですけど・・・けど確かに、栗の季節ですね~~。」
今にも涎を垂らしそうなワンニャーの前で、再びカメラはレポーターに向き直る。
「今が旬の、おいしい栗。ご家庭でも、栗のメニューが増えてきたのではないでしょうか?まさに食欲の秋、と言ったところですよね。では、今日はこの辺りで。○県の△山からお伝えしました。」
ペコリと頭を下げるレポーターの言葉に、ワンニャーは首を傾げた。
「食欲の秋?地球の格言でしょうか?」
ピッとリモコンを押して、チャンネルを変えていく。
なるほど、食べ物の特集なんかをやっているチャンネルがかなり多い。
寒い季節には嬉しい、石焼き芋。
キノコの王様、松茸。
そしてご存知、この家の主人の大好物、カボチャ。
「ふ~む、地球の人達はおいしい物好きというのは知ってましたが・・・秋は食べ物の季節だったのですね~。」
次々とチャンネルを変えては、フムフムと頷いたり、料理法をメモったりしていたワンニャーだが、何番目かのチャンネルに出ていた見出しに、ふと手を止めた。
『芸術の秋。世界的芸術家・松原武雄氏絵画展、本日より開催』と書かれている。
「芸術の・・・秋?」
不思議そうに画面を凝視するワンニャー。
それによると、日本が世界に誇る有名画家が、今日から帰国して画展を開くらしい。
「どういうことでしょう・・・確か先程は『食欲』だと・・・。」
考えながら、またチャンネルを変えてみる。
次に出ていたのは「恋愛の秋・恋の人生相談特別編」という番組。
どういう番組かは見なくてもわかる。
残念ながら今の自分には色恋沙汰は縁がないもので。
ワンニャーはリモコンの電源ボタンを押してテレビを消した。
「・・・どういうことでしょう?」
う~んと腕を組んで考え込む。
最初に出ていたのは「食欲」、次は「芸術」、そして「恋愛」。
同じ地球の秋なのに、なんでこう幾つもあるのだろうか?
「国ごとの違い、という訳でもなさそうですし・・・。オット星にはなかった言い回しです~。」
ワンニャーの考察がさらに深みにはまろうとした時、
『ただいまー!!』
玄関から聞こえてきた声に、彼の思考は中断された。
未夢達が帰って来たのだ。
「おっと、未夢さんと彷徨さんですね!おかえりなさいませ~!!」
叫んでワンニャーは駆け出した。
もうそろそろ、ルゥも昼寝から起きる時間だろう。
とりあえず考えていたことは横において、ワンニャーは二人を出迎えに行く。
結局その日の夕飯まで、ワンニャーの疑問は棚上げされたままだった。
西遠寺では、夏と冬とで食事の場所が違う。
春夏、つまり比較的暖かい季節には、台所に直結したリビングのテーブルで食べるのが普通だ。
けれど、寒くなってくる秋・冬には畳の部屋でちゃぶ台を囲んで食べる。
寒さがきつい時等はこたつを用意するのだ。
リビングでの食事もいいが、こうやって皆で小さなテーブルを囲むというのも、4人は気に入っていた。
「おいし~い。」
未夢が幸せそうに顔を綻ばせる。
今日のメニューはカボチャのコロッケ。
もちろんワンニャー作である。
サクッとした衣の感触に、カボチャの甘い味。
料理自体もそうだが、やはりワンニャーの腕も大きい。
「うん。旨いな。」
彷徨も大きく頷く。
彼の横では、ワンニャーがルゥに食べさせてやっている。
赤ちゃんでも食べられるように、ちゃんと柔らかくして。
口に運ぶと、思い切ったようにパクッと行く。
「おいしいですか?ルゥちゃま。」
「あーい!」
ご満悦の表情のルゥ。
彷徨が空になった茶碗を差し出した。
「ワンニャー、お代わり。」
「はいはい!」
茶碗を受け取ってよそうワンニャーと、待っている彷徨を交互に見ながら、未夢は半分感心、半分呆れの口調で言った。
「よく食べるね~、彷徨。」
「そうか?」
「そうだよ。もう三杯目でしょ?やっぱり、カボチャだから?」
彷徨のカボチャ好きは未夢ももちろん知っている。
何を隠そう、誰も知らなかったこの彼の好みを、一番最初に知ったのは未夢なのだ。
「それもあるけど・・・。」
ご飯が山盛りになった茶碗を受け取りながら彷徨は答えた。
「やっぱ、秋だからさ。カボチャが一番うまい季節だろ?」
「そっか、そうだよね~。そう言えば、私も秋になると食欲出るかも・・・おいしい物、いっぱいあるもんね。はあ~、いい季節だよ・・・。」
「食いすぎて、後で太らなきゃ、な。」
「な、何よ!私太ってなんかいませんよ~だ!」
ぷうっと膨れる未夢に、彷徨はニヤリとして言う。
「そうか?本当に?」
「ホ・ン・ト・で・す!」
「・・・それにしちゃ、こないだルウが持ってた日記には『10月15日、体重が“ピー”キロから“ピー”キロに増加』と・・・。」
「あ~、ルウ君、もっと食べない?食べるよね?はい、あ~ん。」
動揺しまくりの未夢と、してやったりの彷徨。
そして、二人の間でニコニコ顔のルゥ。
そんな風景を微笑ましく見ていたワンニャーはふと、さっきの二人の会話で、昼間のテレビを思い出した。
「未夢さんと彷徨さんは、『食欲の秋』なんですね。」
唐突なワンニャーの言葉に、未夢と彷徨は言い合い、と言うかじゃれ合いを中断して振向いた。
「?どうしたの、ワンニャー。急に・・・。」
「はい。実は今日、かくかくしかじかで・・・。」
ワンニャーは昼に見たテレビの事を、二人に話して聞かせた。
聞き終わると、未夢はなるほどと言う顔で頷く。
「食欲の秋、かあ~。そうだよね~。」
「けど、そうじゃない場合もあるぞ?」
お茶をすすりながら言った彷徨に、ワンニャーは目をパチクリさせて問い返す。
「そうなのですか?」
「ああ。芸術っていう奴もいれば、恋愛の秋とも言うし、他にも色々・・・。」
「同じ地球の秋、なのにですか?」
興味深げに聞いてくるワンニャーに、彷徨は箸を振って言う。
「よーするに、個人の感じ方次第って事。もちろん日本での話で、外国じゃあまた違うだろうけどな。」
「ほ~なるほど・・面白いものですね~。」
納得した様子でフムフムと頷くワンニャー。
ルゥは久しぶりに見る「物知りパパ」の光景にきゃっきゃっと喜んでいて。
そして、答え終わってひたすらカボチャをぱくついている彷徨。
そんな風景を見ながら、未夢は考え込んだ。
(秋、かあ・・・。みんなはどうなんだろ・・・。)
クラスの面々、一人一人の顔を思い浮かべた。
そう言えば、彼らとこんな話をしたことは無い。
(明日、聞いてみようかな。)
そんな事を考えていた矢先。
未夢の眼前にあったコロッケの最後の一つが、突如横から伸びてきた箸によってかっさらわれる。
その主はもちろん・・・
「あ~~、彷徨!私のコロッケまで取らないでよ!!」
「ん?ああ・・・あんまり残ってるから、食べないのかと思ったんだけど。」
「な訳ないでしょ!最後に食べようと取っておいたのよ!私のコロッケ~~!!」
「ま、まあまあ、未夢さん。お代わりまだありますから・・・・。」
「あ~~い!!」
4人まとめて、またいつもの騒ぎが始まる。
これもまた秋ならではの、西遠寺の名物風景である。
次の日、未夢は学校に着くと、昨日のワンニャーと同じ質問をするべく、おなじみのメンバーの姿を探した。
最初に対象となったのは、やはりと言うかなんと言うか、一番早く来て朝のおやつ(昼ではない!)を食べていたななみだった。
「あたしは当然、食欲の秋かな。」
「やっぱり?」
机の上に置いてあった袋を持ち上げて言うななみ。
質問の前からある程度わかっていたから、別に驚かないが。
「こないだ、おばあちゃんが『栗拾うの手伝いな!』とか言って、あたしを山奥まで引っ張ってってさ~~。」
「ひえ~、大変だあねえ・・・。」
「全く参るよ、おばあちゃんの人使いの荒さ・・・。でも、ま、報酬としてふかした栗をこんなに貰えた訳なんだけどね。」
そう言ってまた一つ、栗を口の中に放り込む。
袋の中の栗は、もう3分の2近く無くなっている。
「ななみちゃん、それ、みんな今朝食べたの?」
「ん?そうだけど?」
ケロリとした顔のななみに、未夢は恐る恐る聞く。
「じゃあさ、もしかしてそれがお昼ご飯とか・・・。」
「まっさかあ~。これはお昼までのつなぎ。お昼はこれ!」
そう言って、未夢の倍はありそうな弁当箱を示す。
「・・・相変わらず、食欲女王だね・・・。」
「そう?あたしはこれで普通だけど。」
驚くのは食欲だけではない。
これだけ食べているにも関わらず、彼女はなぜかクラス一スリムな体型を保っているのだ。
まあ多分、スポーツ好きのななみのこと。
食べた分、後で運動しているからなのだろうが。
(運動、大事かなあ。やっぱり・・・。)
そんな事を考えていると、ガラリと戸が開く音。
そっちに目をやった二人の目に、三つ網を揺らしながら入ってくる綾の姿が映った。
「あ、綾ちゃん!」
「おっはよー!」
いつもの様に声をかける二人。
だが、綾の手にしている大荷物を目にして、目を丸くした。
「お・・・おはよう・・・二人とも・・・・。」
ズルズルと荷物を引きずってくると、二人の傍まで来てようやく紙袋のようなものを下ろす。
「ふう~、重かった~。」
「どうしたの、これ?」
未夢は紙袋の中を覗き込む。
分厚い本のようなものが、何冊も入っている。
「山村みかん全集・秋季スペシャル。その他、お芝居に使えそうな本選んでたんだけど・・・どれも欲しくなっちゃって。」
「で、結局全部買っちゃったと。」
「そゆこと。あ~~疲れた!」
机に突っ伏す綾。
ななみは袋の中から本を一冊手に取る。
「へ~、すっごいねこりゃ・・・・。」
「まだまだ足りないくらいよ。やっぱりいい作品ってのは参考になるしね。世界を広げるためにはいろんな物を読まないと。それでこそ、いい芝居ができるってものよ!」
「綾ちゃん、また新しいお芝居考え中なの?」
未夢がそう聞いた瞬間、綾の頭に「プチみかん」が発生する。
いつもより形や色艶がいいのは、やはり秋だから・・・・か?
「も~~っちろん!美しい季節が感性を刺激する秋!芸術の秋!ビジュアル的にも話の舞台にピッタリだし、お芝居作るのにこれ以上ふさわしい季節は無いわ!」
「綾ちゃんは、芸術の秋なんだね。」
「そう!と、言う訳で・・・・未夢ちゃん、ななみちゃん、協力して!次の演劇コンクール・優勝を目指して!」
空に向かってビシッと指差す綾。
「え、ええ~~~?」
「結局そこに行き着くんだ・・・。」
いつもの如く、綾の勢いに圧倒される二人。
綾の目の輝きが、二人に向けられようとした時。
「皆さん、何のお話ですの?」
聞き慣れた声に三人同時に振り向く。
桃色の髪を靡かせて、きょとんとした顔をしている少女。
「おはよう、クリスちゃん。」
未夢の言葉に「おはようございます」と返しながら、青い瞳で三人を覗き込む。
「ね、クリスちゃんは、何の秋?」
「?」
突然の問いに、よく分からない様子のクリスだったが、ななみが今までのやり取りを説明すると、納得した顔になる。
「わたくしは・・・何でしょう。本が落ち着いて読める、芸術の秋でしょうか・・・でも、おいしいお菓子、たくさん作れそうですから、食欲の秋も捨てがたいですし・・・。」
「クリスちゃん家のお菓子館なら、いつでもいろんなお菓子の材料、準備してありそうだけど・・・。」
「そうですけど、やっぱり季節のものが一番ですから。そうですわね、栗は今、ななみちゃんの食べているふかし栗の他にも、マロングラッセとか作れますし、取れたてのサツマイモでスイートポテトを作れば、もう・・・。」
クリスのお菓子談に、三人は思わずググッと顔を近づける。
「へえ~~、おいしそ~~。」
「食べたいよね~。」
「あら、簡単にできますわよ?宜しかったら、未夢ちゃん達も今度、一緒に作りませんこと?」
「え?あたし達にもできるの?」
「もちろんですわ。マロングラッセの方は少々、手間がかかりますけれど、わたくしがちゃ~んと、お教えいたします!」
『やったあ~!』
沸き立つ三人。
クリスは手を口元に当てて、ジーッと考え込んでいる。
「どうしたの?クリスちゃん。」
「あの・・・彷徨君は、お菓子、召し上がる方でしょうか?」
「彷徨?ん~~、どうかな・・・甘いものあんまり好きじゃないから・・・。」
「そう、ですの・・・。」
ガッカリした様子でふうっと息をつくクリスに、未夢は付け足した。
「うん・・・。前にも話したかもしれないけど、彷徨が食べる甘いものって言ったらカボチャくらいだからね・・・。」
「カボチャ?」
クリスは顔を上げた。
「そう。でも・・・カボチャじゃ無理だよね・・・・。」
「・・・・できますわ!」
「えっ・・・。」
驚く未夢の前で、クリスはグッと拳を握り締めた。
「カボチャのパイ・・・すなわちパンプキンパイ!これならばっちりですわ!」
「ああ、あれ?よくお店なんかで売ってるけど・・・作れるの?クリスちゃん。」
「もちろんですわ!お菓子でわたくしに不可能はありません!さあ、そうと決まれば早速今日の放課後から作らなければ・・・・。」
燃え始めたクリスを見ながら、未夢は呟いた。
「いいなあ・・・私なんか、なかなか出来なくて、彷徨に笑われちゃってさ・・・。」
実を言うと、未夢も以前作ろうとしたことがあるのだ、カボチャのパイ。
けれど、何回やっても出来上がるのは、黒焦げになった失敗作。
最後の方など、なんだが得体の知れないトゥルッとした物が出てきて。
恥ずかしくて、もう彷徨には見せられなかった。
「で・す・か・ら!一緒に作りましょう!」
「クリスちゃん・・・。」
顔を上げる未夢の肩を、クリスはポンと叩く。
「誰でも最初は下手なものですわ!大丈夫、わたくしが一から指導いたします!その代わり・・・。」
そこまで言うと、クリスは恥ずかしそうに付け足す。
「彷徨君に渡しに行く時は・・・・その・・・。」
クリスの言いたいことを察して、未夢はクスッと笑った。
全く、こういう事には恥ずかしがりなんだから。
「はいはい、一緒に行きましょう。」
「ありがとう・・・未夢ちゃん。」
嬉しそうな顔のクリス。
つられて笑顔の未夢の後ろから、ななみの声がした。
「クリスちゃんは、恋愛の秋なんだね~。」
「これで秋の三大テーマがそろったわけね!」
綾の言葉に頷く未夢。
ななみも首を縦に振ろうとして・・・・ふと考える。
ななみが、食欲。
綾が、芸術。
クリスが、恋愛。
これって・・・・。
「ねえ、これってさ・・・普段のあたし達と、何か違うのかな?」
ななみの言葉に、3人は一瞬にして固まる。
かなり寒い沈黙。
「え、え~と、さ!もうすぐ授業だよね!」
「そ、そうね!確か、体育だっけ!」
「え、ええ!早く着替えないと、遅れてしまいますわ!」
「そ、そうだね!行こう行こう!」
漂い始めた寒い空気を払拭するべく、4人は声を張り上げた。
「それじゃ、普段と変わらねーじゃん。」
帰り道で未夢から話を聞いた彷徨は案の定、そう言った。
二人が歩いているのは商店街へ続く並木道。
両脇には、紅く染まった葉を付けた街路樹がある。
「そうなんだよね~。」
「ま、あいつららしいけどな。」
「ね!」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
普段からめいいっぱい「自分」というものを出している3人だから。
季節が変わってもスケールが大きくなるだけで、基本は変わらないのだ。
「そういうお前はどうなんだよ?何の秋なんだ?」
「私?私は・・・。」
「ん?」
少しの間俯いた後、未夢はきっぱりと言った。
「食べ物、かな。やっぱり。」
「食い意地張ってるなー。」
「いーじゃない!彷徨だって、かぼちゃいっぱい食べてたでしょ!」
「まあな。」
彷徨は否定しなかった。
なんだかんだ言って彼も、秋の長所を浮かべようとすると、カボチャがおいしいというのが一番に出てくるのだ。
そんな事は知らない未夢は、さっきのお返しとばかりに聞いてくる。
「そういう彷徨は何なのよ?何の『秋』なの?」
「俺か?俺は・・・。」
俺は、何だろう?
やっぱり、食欲?
本がゆっくり読める、芸術?
そんな風に彷徨があれこれ考えていた時。
ビュオッ
軽い突風が、二人を巻き込んで起こる。
「わっ・・すごい風・・・。」
「ああ。もう11月だし・・・・。」
言いながら隣に目をやって。
彷徨は一瞬、見惚れた。
風に揺られて、金色の髪がサラサラと靡いて。
落ち葉が舞い散る中で、髪を押さえるように手を顔の横にやりながら、こちらを見ている未夢。
「ん?どうしたの?」
掛けられた言葉にはっと気がつく。
風ももう既に止んでいた。
「何でも無い・・・・。」
手を口元に当てて、彷徨はそっぽを向く。
季節の割には、なぜか顔が熱い。
照れを隠すように、先に立って歩き出した。
「ほら、買い物行くんだろ?早く帰んないと、ワンニャーがうるさいぞ。」
「あ、うん。」
未夢も慌てて後を追った。
横に並ぶと、覗き込むように問いかけてくる。
「ね、結局、何の秋なの?」
「・・・秘密だ。」
「え~、何で!?」
「何でも。」
未夢はむうっと頬を膨らませた。
「何よ、彷徨だけ言わないなんて、反則~~!」
「反則で結構。」
「もう、いいじゃない!教えてよ~~!」
「ダーメ。」
また始まる、いつものようなじゃれ合い。
ポカポカと叩いてくる未夢を軽くかわしながら。
彷徨は彼女に見えないように、ふっと微笑んだ。
美しい秋。
美味しい秋。
そして、恋する秋。
貴方にとっては、何の秋?
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