作:ちーこ
人間の7割は水分だというのに。
人間は水の中では生きてゆけない。
人間は水を必要としているのに。
水は人間を必要とはしていない。
皮肉だなって思う。
ルゥが帰ってきたと未夢さんから電話で聞いた。
その声はとっても嬉しそうで。
あたしも嬉しくなった。
あたしの初恋だった。
「だった」なんて過去形にしちゃいけない。
…多分今も好き。
そりゃ、あたしだって今まで何人かの人とはお付き合いしたけど。
でも、続かなかった。
あたしを可愛がってくれるのは嬉しかったけど…でもあたしが望んでたのはそんなんじゃなかった。
あたしは…ルゥが欲しかった。
だから、未夢さんから電話をもらった後、すぐに西遠寺に向かったの。
最近は遠ざかり気味だった長い石段は相変わらず長くて。
息が切れるのも気にならないくらい一気に駆け上った。
チャイムを鳴らすと、彷徨さんがいらっしゃいと戸を開けてくれた。
ねぇルゥは?
そう目で問うと、分かってくれたらしい彷徨さんはちょっと困ったような顔をして居間の方を見た。
お邪魔しますと呟いて、あたしは居間へと歩き出した。
瞬間。
女の子の笑い声が聞こえた。
あたしの足が止まる。
まるで石になってしまったかのように。
重くて。
重くて。
動けない。
未宇ちゃんの声だ。
分かるのだ。
分かってしまうのだ。
あたしだって…あたしだって女だから。
ただ楽しんでいる声と、好意を…恋愛感情を持った相手に無意識に甘える声は違う。
今の笑い声は…後者だった。
見たくない気持ちと見たい気持ちが葛藤して。
ぐちゃぐちゃなって。
ようやく足が動いた。
居間は襖が開いたままだった。
あと一歩。
一歩踏み出してしまえば…多分…。
踏み出して見えたのは仲良く並んだ背中。
未宇ちゃんの隣にいるのは…きっと。
ふたりはあたしに気づくこともなく、畳に広げた何かを指差しながら楽しそうに見ている。
アルバム?
「ねぇ、未宇。これは何してるとこ?」
びっくりした。
ルゥの声。
そりゃ…昔の…あかちゃんの頃のままじゃないってこと…頭では分かってたはずなのに。
その声はひどくやさしくて。
気づいちゃったじゃないか。
あたしの入る隙間はないって。
「あっ、ももかおねーちゃん。」
あたしに気づいた未宇ちゃんが振り向いた。
それにつられてルゥも…
「久しぶり。」
どちらに向けた言葉だったのか。
未宇ちゃんはルゥにあたしを紹介してくれた。
ルゥはあたしを見てにこっと笑って、はじめましてと言った。
覚えてるわけ…ないもんね。
その後も未宇ちゃんは色々あたしにも話しかけてくれたみたいだけど。
あたしはなんとなくそれに頷いて。
気がついたらさっき一生懸命に駆け上った石段に座っていた。
目の前が歪んで見えるのは…涙の所為かな。
結局あたしはそのまま体の水分が6割になっちゃうんじゃないかなってくらい泣いて泣いて泣いた。
あたしの水分は6割になったというのに。
あたしの体は元気なまんま。
あたしはルゥを必要としていたはずなのに。
ルゥはあたしを…。
皮肉だなって思う。
暗くなり始めた空。
その色は同じ色をとどめることなくどんどん変わっていく。
夕やけの赤ももう残ってない。
潔いモンね。
あたしは勢いよく立ち上がった。
いつまでも見込みのない恋引きずってたって仕方ないじゃない。
よーし、明日からがんばろっと。
そういえば…この間、サトウくんに映画誘われてたんだっけ…。
あーでも…ヤマダくんと遊園地ってのもあったしなぁ。
バイトのタカハシ先輩もドライブどう?なんて言われたし。
ん〜よりどりみどり。
だから今日だけ…今夜だけ。
赤の名残を見させてよ。
そしたら…水で流しちゃうから。
ふと、テレビで見た昔の歌謡曲のタイトルが頭をよぎった。
恋はみずいろ…か。
曲は知らないけど…なんかちょっと分かる気がした。
はい。こんにちは。ちーこです。
今回も滑り込み!
今回は珍しく新だぁ!世代、ももかちゃん視点で書いてみました。
ももかちゃんは…ちゃっかりしてるけど芯の強い女の子だと思います。
えぇ…また今回も直前になって書きかけの原稿を「どうしよー」と泣きながら山稜しゃんに押し付けて、アドバイスを頂いてなんとか滑り込むことが出来ました。
ありがとうございます。
山稜しゃん、愛してるvv
夏の企画もそろそろ終わりが近づいてきました。
今年は全然企画をお手伝いすることが出来ませんで…
山稜しゃん、あくあしゃんをはじめ、企画を盛り上げてくださった方々、お疲れ様でした。
そしてとってもとってもありがとうございます。