もういくつ寝るとお正月
…より先にクリスマス。
どいつもこいつも普段は神様なんか信じちゃいないくせこういうときだけちゃっかりキリスト教かよ。
…そして…オレの誕生日は…クリスマスだったりする。
休み時間、三太が俺にさらっと言った。
「彷徨〜、なぁ、クリスマスパーティーやんのに西遠寺借りていいか?」
「あ゛ぁ?」
ちょっと…ガラが悪くなってしまうのも無理はないだろう。
寺でクリスマスやろうなんて不謹慎極まりないとは思わないのか?
「…いや…彷徨の誕生会を西遠寺でやるってのは?」
「自分の誕生日に何をするかぐらいオレが決める。」
オレが機嫌が悪いのはクリスマスで周りが浮かれてるせいなんかじゃない。
そんなことはもうずいぶん前にあきらめた。
今回は…ちゃんと理由があるのだ理由が。
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カレンダーを指で追っていく。
クリスマスまであと少し。
彷徨の誕生日まであと少し。
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コートを着ながらななみちゃんが言った。
「ねぇ、未夢。今日さ帰りにちょっと駅前の方言ってみない?」
「そうそう。なんかねすごいおっきいクリスマスツリーがあるんだって。」
行ってみたい…けど…………今日はだめ。
「ごめん。わたしやらなきゃいけないことあるから…」
「そっか…最近未夢ちゃん忙しそうだよね…大丈夫?」
全然無理してないってわけではない。
やっぱりはじめてのことは慣れなくて。
「大丈夫だよ。」
「ほんと?なにやってんの?」
自分で決めたことだから、最後まできちんとやりたい。
「ひみつ」
「野暮なことは聞きっこなしってことよ。」
「なーるほどね。」
「未夢、帰るぞ。」
「じゃぁね、ばいば〜い」
彷徨に声をかけられてわたしは教室から出た。
「今日は…昨日買い物行ったから、スーパー寄らなくても大丈夫だよな?」
「うん。あっ!ごめん彷徨、先帰ってて。用事思い出しちゃった。」
危ない危ない。忘れるところだった。
ちゃんと準備したはずなのになぜか足りなくなっちゃったから、買いたそうと思ってたんだ。
わたしは急いで商店街の方へ走り出した。
最近の未夢はおかしい。
家にいるときはほとんど部屋に閉じこもりっぱなしだし、学校では眠そうにしている。
何を聞いてもちょっとね、としかかえさない。
気になって気になって仕方がない。
「ねぇ、今年のクリスマス、クリスちゃんちでパーティーだって。」
彷徨の作ったおかずを食べる。
やっぱり私が作るよりもおいしい。
「オレ、行かないから。」
なぜか彷徨の機嫌が悪い。
わたし何かしたかな…食事の準備手伝わなかったから…とか?
「彷徨の誕生会も兼ねてるんだけど…」
「この歳にもなって誕生会もねーだろ。」
「彷徨!」
なんだか彷徨の言い方にカチンときてしまった。
思わず声を荒げてしまう。
「わかった…行くよ。」
なんだかしょうがなく行く、みたいな感じ。
「ごちそうさま。」
食器を片付ける。
彷徨といっしょにクリスマス過ごせるの…わたしはちょっとうれしかったんだけどな…
クリスマスまであと2日。
…間に合うかどうか微妙なところ…
…そんな弱気でどーするんだ!
がんばらなきゃ。
いらいらする。
いらいらする。
いらいらする。
本当にここ2、3日未夢とまともな会話をしていない気がする。
「おはよー」
未夢が起きてきた。
「なぁ、お前夜中まで何やってんだよ。」
「…眠…」
まだ完全に目が覚めていないらしい。
それはそれでとろとろしていてかわいい…それはともかく
オレは未夢の目の前に冷たい牛乳の入ったグラスをおいた。
「ありがとー。」
牛乳を飲み干す。
「目さめたか?」
「うん。」
「夜中、何やってんだ?」
電話が鳴った。
「はい西遠寺ですけど。」
『もしもし、オレオレ。三太で〜す。今から花小町さんちで明日の飾り付けするんだけどこない?』
「いや…あのうち行くと帰ってこれなさそうな気がするんだよ…」
『まさかぁ〜あっ、でも明日は彷徨の誕生会でもあるしな…彷徨はいいや。んで光月さんは?』
「未夢、今から花小町んとこで飾り付けするって。行くか?」
「ごめーん、今日無理。」
「無理だってさ。」
『そっか、じゃぁ明日なぁ〜。プレゼント交換するから、プレゼント忘れんなよ!』
未夢が…迷うことなく行かないと言った。
いつもなら一番真っ先にやると言い出すはずなのに。
気になる。
あーっなにいらいらしてんだろ。
彷徨が…わたしのこと気にしてくれてるみたい。
ばれるのは困るけど…ちょっとうれしい。
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時間も、残りも、あと少し。
残り1日。
がんばらなくっちゃ。
「Merry Christmas!彷徨誕生日おめでとー!」
カチャンカチャンとグラスが音を立てる。
部屋の中にはでっかいクリスマスツリー。
テーブルの上にはたくさんの料理。
暖炉の中ではぱちぱちと薪が燃えている。
タイムスリップしてきたみたいだ。
…あのあとも未夢とはほとんど話せていない。
「西遠寺くん、どんどん召し上がってくださいね。」
「あぁ…ども。」
そう言いながらもオレの目は未夢を見ていた。
なんとか間に合った。
かばんの中にプレゼント交換用のとは別に、きちんとラッピングされて入っている。
でも…いつ渡せばいいんだろう…
なんとなくみんなの前では渡しづらい。
だからといって…家で渡すのもなんだか…
「未夢〜最近ちゃんと寝てる?クマできてるよ。」
ななみちゃんに目元を指差された。
「そうそう、睡眠不足は肌荒れの原因だよ〜気をつけなきゃぁ」
「大丈夫、今日からちゃんと寝るから。それにずっと徹夜してたってわけじゃないんだし。」
ななみちゃんがため息をついた。
「どーせ未夢のことだから、クリスマス…じゃなくて西遠寺くんの誕生日プレゼントでも準備してたんだろうけどさ、それで体こわしたら意味ないんだからね。」
ななみちゃんには全部おみとおしだったみたい。
「うん。わかってるよ。」
それでも、がんばりたかったんだもん。
「お待ちかね〜プレゼント交換〜!!」
三太が立ち上がって言った。
「まずルールを説明しまーす。自分の持ってきたプレゼントを手にもって円になって座りまーす。それで音楽に合わせてプレゼントを右隣の人に渡していきまーす。音楽がとまったとき、持ってたのが自分がもらえるプレゼントでーす。」
音楽が流れ始めると手から手へ流れていく。
音楽がとまった。
オレの手にあるのは小さめの四角い包み。
「さぁ〜あけてみましょう〜!」
中から出てきたのは…カード…?
『サボテンマンスペシャルメモリアルカードセット』
…こんなのを人に送る奴はあいつしかいない…
「あ〜っ、それ彷徨に行ったんだ。それいいだろ?
すっげー探すの大変だったんだぜ。」
「さんきゅ。」
「ホント彷徨に行ってよかったよ。女の子とかに行ったら困るだろうしさ。」
それはそうだ…。
そういう可能性も含めてこんなことをする三太の度胸というか…すごいと思う。
「気に入った?」
「まぁな。」
ちらりと未夢を見ると女子達と笑っていた。
最近あんなに未夢がオレの前で笑ったことがあっただろうか。
「未夢、未夢っ!起きて〜」
「こんなところで寝てると風邪引いちゃうよ。」
んぁ…
さっきまでななみちゃん達と話していたはずなのに…
…いつのまにか寝てしまったらしい。
「ごめん、なんかうとうとしちゃって。」
「大丈夫?やっぱり疲れてるんじゃない?」
「だいじょう…ふぁぁ」
言いかけてあくびが出る。
ちょっと眠いかもしれない。
彷徨が近寄ってくる。
「未夢、そろそろ帰るか?」
「でも…まだ途中じゃ…」
「うとうとしてんなら家でちゃんと寝ろ。周りだって気が気じゃねーだろ。」
彷徨はわたしを腕をとって立ち上がらせると、コートを肩に掛けてくれた。
「オレら、帰るな。今日はありがと…。」
「〜っ寒いなぁ」
クリスの家から一歩踏み出した彷徨がつぶやいた。
「あのねっ…これ…わたしから…誕生日…おめでとう。」
未夢は包みを彷徨に差し出した。
「一生懸命作ったんだけど…初めてだし…
…わたし不器用だし…あんまり上手にできなくて…」
立ち止まって開けてみると、中から出てきたのは黒いマフラー。
複雑な模様が編みこまれている。
「ありがと…」
彷徨は気がついた。
未夢が部屋にこもって何をしていたのかに。
自分のためにこれを一生懸命編んでくれたことに。
彷徨は首にマフラーを巻いた。
マフラーの暖かさとそれとは別物の暖かさが広がっていくのを感じた。
「「あのさ……あっ…先…どうぞ…」」
二人の声が重なる。
ふたりの間をほろりと白い物が落ちた。
「雪だ…」
空からちらりちらりと降ってくる。
「あのさ…最近…ごめんね。
わたし…マフラー作ることに一生懸命になりすぎちゃって…
…他のこと全然できてなかったと思うの。
…逆に彷徨に迷惑掛けちゃった…。」
「オレも謝んなくちゃいけない…最近さ…なんかイライラしてて…
…八つ当たりしたりしてさ。ホントごめん。」
お互いの目を見る。
未夢が笑った。
彷徨も笑った。
また、ふたりは歩き出した。
雪が降ってくる。
まるでふたりをやさしくなでるかのように。
「っくしゅっ…寒…」
未夢をふわりと暖かいものが包んだ。
「…彷徨?」
「風邪…引くぞ。」
未夢の首には黒いマフラー。
反対側は彷徨の首にかかっている。
「ちょっ、彷徨!」
「いーから、巻いてろ。」
彷徨は未夢の手をつかみ引き寄せた。
「こーすれば、寒くないだろ?」
いたずらっぽく笑う彷徨に未夢も微笑んだ。
一瞬だけ、彷徨の影が未夢にかかった。
誰もいない夜の道。
雪だけが幸せそうなふたりを見ていた。
END
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