それから、 作:ちーこ


Happy birthday to you
Happy birthday to you
Happy birthday dear ……






世間ではクリスマスだと騒いでる。
街はイルミネーションに彩られ、スピーカーはクリスマスソングを奏でている。
あたりを見渡せば、クリスマスセールとかプレゼントにおすすめとかそんなコメントばかりが目に止まる。
暗くなり始めた街の中、未夢はショーウィンドウの中をのぞきこんで、ふぅとため息をついた。
どれも自分が探しているものではない。
未夢が探しているのはクリスマスプレゼントではないのだ。
足が痛い。
未夢はベンチに腰を下ろした。
まだ履き慣れていない少しヒールのあるブーツは思った以上に足を疲れさせているようだ。


誕生日プレゼントをあげる。
それはもうずっと前から決めていた。
そしてもうずっと長い間考えていた。
当たり前のものではなんだか物足りないような気がする。
思いつくものがないわけではなかったが、これというぱっとしたものが思いつくわけでもなかった。


気がついたら12月も半ばを過ぎていた。
街の中で探してみたら何か見つかるかも知れない、と思い立って家を出てから早3時間。
ずっと悩んでいたくらいなのだから、簡単に見つかるわけもなく今にいたる。


……18かぁ……
それは特別な事だった。
だからすぐに、どうこうというわけでも、先のことを約束しているわけでもない。
それでも未夢にはなんだか特別に感じられたのだ。


はぁ、とまたため息をついたとき、あたりが急に明るくなった。
驚いて未夢が顔を上げると、広場の大きなクリスマスツリーのイルミネーションが点灯していた。
そういえば、今日から年末まで毎晩明かりがともるのだと今朝のニュースで聞いたような気がする。
ぶるぶるとバッグの中で音がして、未夢はケータイを取り出した。
ディスプレイには見慣れた名前。

「もしもし?」
「…おまえなぁ…。あー…もう…いいや。今どこにいんの?」
「今?街。」
「…だから街のどこ?」
「広場のクリスマスツリーの前。」
「どっち側?」
「信号があるほう。」
「…信号はどっちにもあるんだよ。東西南北。」
「…う〜ん…ちょっと駅より?」
「…南口か?」
「…う〜ん…そうかも。」
「そこから動くなよ。」

それだけ告げるとぶつりと切れてしまった。
メールが何通か届いていた。
差出人は全部同じで、内容は「今どこ?」とか「連絡しろ」とか簡潔な言葉だけだった。
そして着信履歴にも同じ名前が数件残っている。
先刻の電話の「おまえなぁ」の意味を理解すると同時に、自分のことを探してくれたのかと思うと少し嬉しくなる。


だんだん寒くなってきた。
吐き出す息が白い。
プレゼントに手袋やマフラーをあげようかと考えてもみたが、なんだかありきたりのような気がして結局やめてしまった。
でも、これだけ寒ければそれも悪くないのかもしれない。
白い息で冷えてきた指先を暖める。
後ろで気配がして未夢は振り返った。

「…未夢…こんな所にいたのかよ…。」
「ずっとここにいたよ?」
「…おまえ、南口って言ったよな?」
「…言った…かな?」
「ここ西口。」
「…違うよ…わたしが駅よりって言ったら南口っていうからそうなのかなって頷いただけで。」
「おまえ、何年ここで暮らしてんの?」
「…5年?」
「そのぐらい覚えろよ!南口の方が広場に近いんだよ。」
「…へぇ。」
「…もういい。」

ため息をついて歩き出す背中を未夢は追いかけた。
明るくなった広場には昼間よりも人が増えてきている。
やっとのことで隣に並んで、未夢は少し上の横顔に視線を合わせた。

「…探してくれてありがと。メールも着信もいっぱい。気づかなくてごめんだけど。」
「……」
「…珍しい…よね。こういうの。どうしたの?」
「………」
「ねぇ…なんで?」
「…街に行くって言うから…、オレも元々行く予定だったし…声かけようかと思ったらさっさと一人で行くし。…晩飯までには帰るだろうから、そろそろ帰る頃だと思って、メールしても返事来ねーし、電話しても出ねーし。」

「…最近、あんま話してなかったじゃん。オレ、自分のことでいっぱいだったし。」
「受験生だもんね。」
「だから…久しぶりに話したかったって言うか…なんて言うか…まぁ…それだけ。」

そこまで言うとフイと顔をそむけてしまう。
その腕に未夢は自分の腕を絡めた。

「わたしも彷徨といっぱい話したい。」

目の前をふわりと白いものが降りていった。

「雪だ……寒いね。」

未夢はからめた腕に少し力をこめた。

プレゼントはこれにしよう。
未夢は歩きながら考えていた。
誕生日には時間をあげよう。
落ち着いて、のんびりと楽しく過ごせるような時間を。
それから、ごはんも作ろう。
それならパパに料理を習わなくてはいけない。
間に合うだろうか。
それから彷徨といっぱい話そう。
それから、それから、それから……。





Happy birthday to you
Happy birthday to you
Happy birthday dear ……







お久しぶりなちーこです。
えと…4ヶ月ぶりぐらいの小説…かな?

久しぶりな上に、急いで書いたので…ぐっちゃぐっちゃで…お恥ずかしい限りですが…(いつものこと…あは?)
相変わらずの内容のなさ…。

今回はちょっぴりだけ大人になった二人。
わたしがちょうど今18の冬だったりして、
みんな勉強してたりして、
18になったんだなとか時々思ったりして。

未夢ちゃんは…私大とかにもう決まってる感じで。
彷徨くんは国公立狙いでこれから。

うん。まぁそんな感じで。
よくわかんないけど。

えと、今年も企画を立ててくださったってありがとうございました。
参加できてとても嬉しいです。



えと2003年冬企画に出したものです。






[戻る]