作:友坂りさ
「彷徨・・・遅いな・・・。」
ライトブルーの空がセピア色に染まる頃、未夢はひとり教室に残り、窓際から暮れゆく空を眺めていた。
今日は、彷徨の委員会の日。買い物当番はワンニャーなので、先に帰ってマーケットに行かなくてもいい。
前は、それでも委員会の日は先に帰ってたけど、近頃は彷徨が「待ってろよ」って言うようになった。
そう、私たちがこ・・・恋人同士になってから。
だから、今はこうして、大好きなひと、・・・彷徨を待ってる。
だけど、彷徨は今までとあまり変わらない・・・。
手、だって最近やっと普通につなげるようになったんだよ。
私だけが、彷徨のことを毎日毎日、好きになっていく。
ほんとに彷徨は私のこと・・・スキ??
不安だよ・・・。
かたん・・・
ふと、教室の入り口付近で物音がした。
「あれ〜、光月?」
未夢は瞬間的に空から視線をはずすと、声のするほうに振り向いた。
声の持ち主は、クラスメイトの・・・三浦翔。
彷徨もかなりの美少年だが、彼はどちらかというと、すらっとしてかわいらしい感じの顔立ちで、隠れファンも少なくなかったりする。
そんな彼は、誰も居ないはずの教室に部活帰りで荷物を取りに来たところなのだった。
「あれ、?翔くん、まだ残ってたんだ?」
にっこりと微笑んで、未夢は問いかける。
「あっ・・・うん、光月こそ・・・。」
その笑顔に思わず、顔が熱くなるのを感じながら、翔、と呼ばれた少年も微笑み返す。しかし、次の瞬間、突然柔らかな笑みから真剣な表情になる。
「・・・西遠寺、待ってるのか??」
「あ、うん。彷徨委員会だから・・・。」
「・・・・・・ん。光月と、西遠寺って、従兄弟だよね?」
「あっ、う、うん。(そうよね、一応そういうことになってるんだよね・・・)」
「・・・けど。なんか、二人って、従兄弟同士には見えないなぁ〜。」
「えっ・・・?」
突然の翔の言葉に未夢はどきり、とする。
翔は、机の上に放り出された教科書を鞄に詰め込みながら、手にしているパックジュースをぐいっと喉をならして飲む。
「・・・たとえば、これ。」
きょとん、としている未夢の方へつかつかと歩いてくると、未夢の目の前に自分が今しがた飲んだパックジュースを差し出す。
「飲む?」
「へっ?・・・い、いらない!」
「・・・ほら。ね。西遠寺のだったら飲んでるでしょ?」
「そ、それは・・・。」
「・・・従兄弟だから?」
いつもとは少し様子の違う翔に、未夢は首を傾げながら、詰め寄ってきた彼から、一歩後退する。
そんな未夢の様子に構うことなく、翔はさらに未夢の方に近づいてくる。
そして、未夢をまっすぐに見つめて、いきなり肩を掴んだ。
「!」
いきなりの彼の行動に未夢は驚いて、未夢はとんっと、窓硝子に軽くぶつかった。
「ただの従兄弟同士なら、なんとも想っていないよね?」
翔は、未夢と彷徨のことを本当の従兄弟だと思っている。それは、未夢が転校してきたときに初めにそういう設定にしていたため、2年1組の誰もが、二人は゛従兄弟”だと思うのは当然のことだ。
もちろん、未夢と彷徨が恋人同士になっているとは、知る由もない。
しかも、二人の想いが通じてから、まだ日も浅い。
だが、翔は二人の近頃の様子をみて、二人はただの“従兄弟”ではない、と気づき始めていた。
たとえ、本当の従兄弟だったとしても、お互いがそれ以上の感情を持っているのだと、思わずにはいられないのだった。
「スキ、とか恋愛感情持ってるわけじゃ、ないよね。」
翔はさらに未夢の肩を掴む腕を強くする。
「い、痛い、や、やだっ、離して・・・。」
未夢は自分を見つめる熱い視線と、力強い彼の力に、怖くなってきた。
(な、なんか、いつもと、ちがうよ〜、翔くん!?)
「それとも、まさか西遠寺とつきあってんの?」
至近距離で見つめられ、視線をはずさない。
未夢の新緑色の綺麗な瞳に秘められた心を探るように・・・。
「なっ!!何言ってんの???そんなこと・・・っ、ち、違うんだから!!」
思わず、否定せざるを得ない状況になり、未夢は力いっぱい腕を振り解いた。
しかし、翔の力のほうが強く、一旦逃れたものの、今度は先ほど未夢がいた窓硝子を背にする側に翔が位置し、未夢が翔と向かい合わせになったところで、翔は、力強い腕により、未夢を拘束した。
そして、肩から背中に手を廻し、ぎゅっと未夢を抱きしめた。
「・・?・・・っ!!嫌っ!!ちょっ!!は、離して!!!!」
未夢は大声をあげようとするが、翔によってきつく抱きしめられているため、あまり声が出せない。
「・・・・・俺は光月が好きなんだ」
「えっ・・・・」
◇◇◇
委員会を終えた彷徨は急いで、教室へ向かっていた。
「やっべ。遅くなっちまったな・・・。未夢、だいぶ待ってるだろうな・・・」
ほとんどの生徒は下校してしまっていて、長い四中の廊下も昼間とはうってかわって静かな空間を作り出していた。いくら9月だとはいえ、もう夏も終盤を迎えようとしていて、夏休みの頃に比べるとかなり日が短くなっており、高い空の向こう側に、ナイフのような三日月が顔を出していた。
教室のドアのところでふと立ち止まる。
あれっ?何か話し声が聞こえる。
未夢ひとりじゃないのか?
聞き耳をたてるのはあまり気は進まないが、未夢一人じゃないというのも何故か気になる。
そっと、ドアの窓から中の様子をのぞいてみた。
「「・・・まさか、西遠寺とつきあってんの?」」
「「なっ!!何言ってんの???ち、違うんだから!!」」
「「・・・・」」
「「・・・俺、光月が好きなんだ」」
!!!!!
短い会話の後、目にしたものは――・・・
未夢が"他の男”にぎゅっと抱きしめられる姿・・・・
未夢の表情は、ちょうど後ろ向きになっていて、確認することができない。
変わりに、一番見たくもない男の顔ははっきりと見える。
一瞬、男と目があった。
あいつは、クラスメイトの・・・!!
翔はニヤリ、意味ありげに微笑むと、ぱっと未夢を離した。
そして、「じゃ、そういうことだから!」
と言って、彷徨ののぞいていない側の前の扉から足早に立ち去っていく。
未夢は、気が抜けて、ぺたん・・・とその場に座り込んだ。
(な、なんなの?こ、こわかった・・・)
しかし、未夢がほっとしたのも束の間、突然がらりっ、と勢いよく扉が開かれた。
また、翔が戻ってきたのではないか、と未夢はどきり、とする。
ところが、目に飛び込んできたのは、大好きな、・・・あのひと。
――彷徨だった。
「未夢っ!!!」
彷徨は未夢が立ち尽くしているところまで駆け足で駆け寄ると、
少し、強引に腕を掴んだ。
「痛いっ!彷徨っ!!」
そのまま未夢の細い手首をぎゅっと掴み、そのまま教室を後にした。
「お前・・・何やってたんだよ・・・あいつ、と。」
廊下まででたところで、彷徨は廊下の壁に未夢を押し付けた。
いつも未夢を見つめるような優しい瞳ではなく、力強く、少しぞわりとするような、瞳。
未夢は耐え切れなくなり、綺麗な新緑色の瞳から自然と涙がこぼれた。
しかし、彷徨は自分を掴む腕を緩めない。
「俺はお前の何なんだよ・・・。」
切なげに、彷徨は未夢の目を至近距離で見つめて耳元で囁く。
(「ち、違うんだから!!」)
さっきの未夢の言葉が彷徨の心を暗く覆ってゆく――・・・。
俺って、その、程度だったのか??
彷徨はぱっと、未夢の腕から手を離すと、未夢から視線をはずして、力なく、
ひとり、歩き出した。
「彷徨・・・?」
未夢を残したまま、彷徨は昇降口へと歩き出した。
次第に遠くなっていく背中。
しばらく呆然としていた未夢だったが。
だけど、いつもと違う彷徨に、とたんに不安になって。・・・怖くなって。
「まっ、待って!!!」
未夢は弾かれたように、彷徨の後を追った。
彷徨の足は思っているよりずっと早く、もう校舎の外へでているようだった。
未夢は上履きのまま、彷徨の姿に向かって走り出す。
「「どうして、追いつかないの??
彷徨ってこんなに足、速かった??
もしかして・・・いつも私に
あわせてくれていたの・・・? 」」
「彷徨の・・・ばかっーーーーっ!!!」
ようやっと、彷徨との距離が1メートルほどに縮まったところで、未夢は力の限り声を振り絞って、彷徨に向かって、叫んだ。
「??」
流石の彷徨もあまりの大声に振り向き、立ち止まる。
しかし、未夢のほうを一度振り返っただけで、また歩き出す。
未夢はたまらなくなって彷徨へと駆け出す。
そして――・・・
ふわっ
未夢は後ろから彷徨をぎゅっと抱きしめた。
「・・・?なっ!?」
突然の出来事に彷徨は思わず心臓が飛び出しそうだった。
なぜなら、未夢から、
抱きしめられたのは――・・・初めてだったから・・・
「彷徨っ??・・・私のこと、嫌いになったの?・・・っ、・・・嫌いになんてな
らないでっ!私だけを見つめててっ・・・・。」
ぎゅっと腰に手を廻して、彷徨の制服のシャツに顔をうずめて泣き出す未夢。
未夢の切なげな言葉に、彷徨は目を見開いた。
甘い・・・香り・・・
誰にも渡したくない・・・
未夢は・・・俺だけの・・・・
未夢の告白に、彷徨の中で湧き上がる衝動。
そのまま腕を優しくほどくと、手首を掴んで。
ぐいっと自分の胸に引っ張り込んだ。
「お前が、悪い・・・。」
そう、未夢が悪いんだ。
あんなやつに簡単に抱きしめられるなんてっ
無防備すぎるんだよ!!!
ぎゅっと、未夢の腰に手を廻し、未夢の肩口に顔を埋め、しばらく抱き合う二人・・・。
しかし、彷徨はあることに気づく。
「・・・お前、シャンプー変えた?」
「え・・・」
「だってこの前まで薔薇っぽい花の香りだったじゃん。今は、そうだな、フルーツ系の香りってとこかな?」
「なんで、わかるのよっ!」
「お前に関してなら何でもわかるんだよ。」
「うそ・・・。彷徨、もてるし、女の子のことなら何でもわかるんじゃないの??」
「・・・本気で言ってんの?・・・俺はお前以外興味ねーんだよ。」
「・・・!」
:
:
どれくらい抱き合っていただろうか、互いの体温が秋の気配を感じる夕暮れにはとても心地よく感じられた。
「あーーーっ!!私上履きのままだった!!!
それに、鞄も忘れちゃったよ〜!!」
心地よい時間が流れる中。
ふいに、静寂を破るように未夢が叫んだ。
そして、とんっと彷徨の胸を押して、彷徨から離れた。
少し名残惜しそうに、行き場のなくなった手をさまよわせながら彷徨は
ふっと、自嘲気味に笑った。
(なんで、こんなにも、こいつが好きなんだろうな・・・)
「私、とってくるねっ!!」
そういうと、未夢はくるっと背を向けて、校舎のほうへまた駆け出した。
しかし、目の前をすり抜けていく未夢の腕を寸前のところで、彷徨は捕まえ、手をぎゅっと握った。
「待て。俺も行く。」
また、未夢につく虫がいちゃたまんねーよな、と彷徨は思いながら、
未夢の指を絡めるように手をつなぐ。
さきほどから、ほんの数十分しかたっていないのに、もう空は星が見え始めていた。
さっきは鋭そうに見えた三日月も、今は雲が薄くかかり、どこか優しく見える。
未夢は教室に戻るとすぐに自分の席に行って、赤い鞄を手にする。
「さっ、帰ろっ・・・・?」
「か、・・・なた?」
未夢が彷徨のほうを振り向こうとした瞬間、ふいに未夢は後ろから抱きしめられた。
右手は首元に置かれ、左手は腰に腕をまわして・・・。
後ろから、未夢の髪に顔をうずめたあと、肩口から顔を出し、左手を顎にのばす。
そして、くいっと未夢の顎を掬った。
耳元に彷徨の吐息がかかる。
未夢はくすぐったくなり、軽く身じろぎする。
そんな仕草も、彷徨にとっては、愛しくて・・・―
「なぁ・・・みゆ・・・キス、していいか・・・?」
くるっと自分の方に未夢を向けさせると、顎を掬ったまま、未夢の愛らしい唇をうっとりと見つめる。
見つめるその瞳は、相手を愛しい、と思うほかの何者でもなくて。
未夢もその想いが伝わったのか、こくん、と恥ずかしげに小さく頷く。
彷徨は嬉しそうに微笑むと、もう一度、未夢の唇を見つめ、そっと自分の顔を近づけた。
「んっ・・・・」
――それは、二人にとって、甘い、甘い、ファーストキス・・・だった――
唇を離すと、互いに照れくさそうにふたりは見つめあい、やがて微笑んだ。
未夢はそっと彷徨から離れようとする。
が、しかし、その行為は彷徨の腕が未夢の腕をがっちりと掴んで実現しなかった。
「待て・・・帰る前に・・・もう一度・・・」
「えっ???何言ってんの?かなっ・・・・」
二度目のキスは、初めのキスより、深く、甘く。何だかとっても熱かった。
「これで少しはいっかな・・・さっきの消毒」
ぼそり、と彷徨はつぶやくと、ようやっと未夢を離した。
「・・・な、何よ、それ〜??」
真っ赤になった未夢に。
「いいんだよ、お前は知らなくて。」
彷徨は少しいたずらっぽく舌をだして、片目をつぶってみせる。
―― そう、未夢は自分では自覚してないが、男子生徒の人気の的なのだ。
彷徨が女子の人気NO・1なように・・・。
今回みたいなことが、また、ないとは限らない・・・。
いや、むしろ起こりうる可能性のほうが、高くないだろうか?
彷徨ははぁ、とひとつため息をつくと。
「行くぞ!」と未夢に優しく声をかけ、そっと手をつなぐ。
To Heart・・・
それぞれの想い・・・
お互いを想って、想いあって・・・そして俺たちはきっとオトナになっていく。
やっと触れることができた・・・だけど、壊れやすいものだから・・・
大切に、大切にしていきたい――
これからも、ずっと傍で守っていけることを堅く信じて・・・
なぁ、未夢――。
To Heart・・・
私だけじゃ、なかったんだね。
あなたもこんな切ない気持ち、抱えてるんだよね。
きっと・・・そうなんだよね。
お互いを想って、想いあって・・・そして私たちはやがてオトナになっていく。
これからも私のことだけ、見ててね?
ね、彷徨――。
こんにちは。
またまた恐れ多くも書棚に投稿させていただきました。
文おかしくてすみません(><)
もっとラブラブにしたかったのですが(^^;
文才がなく・・・
(↑注:2004年12月現在、読み返しましたが、ものすごく甘いですね(苦笑))
彷徨くんにはもっと頑張ってもらわなくてはっ!!(笑)
みゆちー守り隊のためにももっと対策を強化しないと、ですね(Kanaしゃんv、宮しゃんv)
みゆちーは無防備ですから(^^;
>ではでは、今回また駄作を読んでくださった方がいらっしゃったのならば、こんなに嬉しいことはありません!!ありがとうございました!!