作:友坂りさ
12月24日。クリスマスイヴ。
窓から見る景色は、今年はホワイトクリスマス。
キレイな粉雪が舞い降りて、また降り積もっていく。
うれしいはず、なのに。
だけど。
大好きなひとには、・・・会えないから。
寂しい気持ちはどうやっても、隠せない。
持っていたココアを部屋のテーブルにおいて。
玄関先の庭が見える窓際へ。
あたためていない、その部屋は。
家の中でも吐く息が白くて。
未夢は思わず、はぁっ、と窓に向かって息を吐いた。
白く曇る窓に。
たった2文字の言葉を書く。
いえなかった言葉。
あのとき、言えなかった言葉。
近すぎて、気づけなかったこと。
だけど、今はこんなにも確かな気持ち。
いつだったか、みずきさんが言っていた様な気がする。
「近すぎて、気づかないってことあるよね」。
・・・・・・・・・・・・・・
(ほんとにそうだよね・・・)
白く舞う粉雪を見ながら。
未夢はそんなことを懐かしく思い出していた。
それももう、気づけば1年以上も前のこと。
今年の春、みんなと別れて。
ずっと願っていた、「パパとママと暮らすこと」も叶ったから。
みんなと離れても、だいじょうぶ、と思った。
彷徨とも離れても、きっとだいじょうぶ、って。
だけど
だけど・・・・
胸が苦しくなるのは。
この気持ちに気づいてしまったから。
ただ、会いたくて。
あいたくて。
逢いたくて・・・
声が聞きたくなる。
それが叶わなくて。
切なさで胸がいっぱいになる。
ときどき、泣きたくもなる。
ひとを、好きになるのがこんなにもつらいなんて。
・・・でも、それだけじゃない。
思い出すだけで、あったかくなれるときだってある。
だって、こんなにも。
鮮明にあのころのことが思い出せる。
記憶は、色あせることなく。
ますます、鮮明になっていく。
会えない分、もっともっと好きになって。
「好き」があふれて。
心が、いっぱいになって。
気づけば、いつも彼のことでいっぱいだ。
こんな気持ちにさせてくれることだって、嬉しい。
ありがとう、と思う気持ちもたくさん、ある。
――彷徨、明日はお誕生日だね・・・・。元気でいますか?
◆◆
12月24日。クリスマスイヴ。
縁側から見る景色は雪が舞っていた。
去年のクリスマスは。
未夢、ルゥ、ワンニャーがいて。にぎやかだった。
西遠寺は、今では彷徨以外誰もいない。
宝晶も相変わらずの留守がちなのだ。
雪を見ながら、彷徨は離れている彼女へ想いを馳せる。
一年前、未夢と出会えて。
知らず、心が溶けていく自分に驚いて。
そのあとはもうずっと、心がいつもあたたかかった。
そして、気づいた。
好きという気持ち以上に、もっと大切な想いが生きていることに。
いつの間にか心の中にいて。
もっともっと気持ちが強くなって。
気づいたときには自分の胸の奥にある感情に驚いたこともあった。
だけど。
近すぎて、触れられなかった。
何も気づいていない彼女に。
このままのほうがいいなんて。
思っていたから。
だけど、今は。
離れてから、もっと加速していく想い。
心に秘めた熱い感情。
きっと彼女は知らないだろう。
一緒にいたころから、何気なく接近したときでさえ、鼓動は高鳴っていたことに。
流れる季節の中で、忘れられるはずもなく。
加速して、気持ちは募っていった。
だけど。
逢いたくても、理由が見つからなくて、結局今まで一度も会えなかった。
本当はずっと、そばにいて欲しい。
現実には叶わない願いでも。
その笑顔でいつでも笑っていて欲しい。
――未夢。
今頃なにしている・・・・・?今年はまた・・・一人ぼっちじゃないよな?
◆
12月25日。クリスマス
昨日から降り始めた雪が、町並みを生まれ変わらせていた。
昨日もすでに降り積もっていたが、今日はもっと
白く、白く、染まって。
銀世界、とまではいかないけど。
雪景色を銀、とよぶのが今日始めてわかった気がした。
光に照らされて、銀色に輝いている。
はぁっ、と自分の息で、手をあたためる。
手袋をしてくればよかったな、と思いながら、未夢は足を速めた。
手には、昨日悪戦苦闘して、作ったお菓子の箱と、お店で買った真っ赤なポインセチア。
スポンジケーキは膨らむのが難しい、と聞いていたから。
本当はクリスマスケーキを作りたかったが、結局作ったのは、クッキー。
それでも、料理の苦手な未夢が作ったものだから、形はいびつだったが。
味は、それなりに上手くできたつもりだった。
少し、砂糖を入れすぎた気もしたけれど。
◆◆
(ん、朝か・・・・)
雪は今はもうやんでいるらしい。
戸の隙間から差し込む光で、昨日よりは天気がいいらしいことがわかる。
きっとあのまま降り続いていれば、もっと降り積もっているだろう。
宝晶もつい1か月前、またインドへと修行に行ってしまった。
西遠寺は相変わらず閑散としている。
(ったく。これからは西遠寺が修行場所だ、とかなんとかいってたくせに)
やけに明るいが。
そういえば、今は何時だ、と時計を確認すると、いつの間にか11時にもなっていた。
どうやら、思っていた以上に寝てしまったらしい。
気づけば、今日は25日。
クリスマスと同時に誕生日だった。
だが、誕生日であっても、クリスマスであっても、そんなの、どうでもよくて。
・・・そばに未夢さえいてくれれば。
どんなときでも、笑えていたのに。
自分の中の、想いの深さに。
また溜息をつきながら。
部屋をでて、何気なく、縁側から外の景色へ視線をなげる。
・・・・あれ・・・・?
庭の隅にたたずんで。
遠くから微笑む人影。
まさか、と鼓動が高鳴る。
どくどく騒がしい心臓。
・・・・ほんとに。
そんなはずはないのだけど。
だけど、見間違えるはずもなくて。
・・・・・み・・・ゆ・・・・?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・・・・―――ぴぴぴ、と携帯のアラームとともに、目が覚めた。
(夢か・・・)
やけにリアルな夢だったな、と思いながら。
彷徨は起き上がって、キッチンへ向かった。
途中、居間で時間を確かめる。
時刻は、偶然にも夢と同じ11時。
こんな時間にアラーム設定してたっけ?
と不思議に思いながらも。
ホットミルクでも飲もうとミルクを鍋にかける。
(あ、やべっ。)
思ったより砂糖をいれすぎて。
ひょっとしたら、甘いミルクになったかもしれなかった。
――思ったとおり、・・・あまいな。
だけど、いつも。
ミルクを飲むと、なぜかあったかくなれる。
未夢にもこうやってミルクをいれてやったことがあった。
何か悩んでいる未夢に、支えになりたかった。
あのとき。これからも、ずっとこんなふうにそばにいたい、と強く思った。
だけど、別れるとき、あと一歩進めなかった自分が情けなかった。
実際。
気持ちはもうとっくにあふれてしまっているというのに。
―――今日の夢。
確かに、未夢は笑っていた。
その笑顔が、勇気をくれた。
“今日”という日に。
夢でも会えたから。
これも、きっと、ただの偶然じゃないと信じたいから。
実際。
あきらめるなんて、できるはずもない。
――― だから。
今夜。
・・・会いに行く。
いま、自分でも驚いている決心。
たった今の今まで悩んでいたというのに。
けど。
突然会いに行って驚くだろうか、なんて。
関係ない。
逢いたいのだから。ただ・・・・それだけだから。
そう心に決めて。
もう、迷いはなかった。
◆◆
(・・・どうしよう)
心の思うまま、思わずここまできてしまったけど。
結局なかなか足がここから進んでくれない。
前はいつでも、当たり前のように、登っていたのに。
木々が取り囲む、長い長い石段。
だけど、久しぶりの懐かしい“西遠寺”。
ぶわっと、自然と涙がにじんできてて。
未夢は慌てて涙をぬぐった。
ルゥも、ワンニャーもいた、大切で大事な大好きな場所・・・・。
本当はもっと早い時間にでてきていたのに。
なかなかここまで来る勇気がなくて。
彷徨に。
突然会って、何て言おう?どんな顔するかな?とかいろいろ考えて。
結局薄暗くなる夕方になってしまった。
でも、今日は特別な日。
彷徨の誕生日。
だから、今日しかない、と思った。
彷徨が生まれた、大事な日だから。
一日寒かったから。
雪も溶けることもなく。
まだそのままで。
もう星のパーツが空を彩り始めていた。
石段を登りきると、庭一面には雪が広がっていて。
縁側から、灯りがもれていた。
(あそこに、彷徨がいる・・・)
そう思ったら、やっぱり気持ちがこみ上げてきて、また涙がでそうになった。
*
(・・・あれ・・・?)
そろそろ家をでようと。
彷徨がふと、縁側から何気なく外をみたときだった。
庭の隅にたたずむ。
遠くから微笑む人影。
まさか、と鼓動が高鳴る。
どくどく騒がしい心臓。
・・・・ほんとに。
そんなはずはないのだけど。
だけど、見間違えるはずもなくて。
・・・・・み・・・ゆ?
・・・・・・・・・今朝見た夢とまったく同じ状況。
うるさいほど高なる鼓動を必死で抑えながら、彷徨は人影へと歩み寄る。
信じられないけど。
どうやら、奇跡的に本当みたいだ。
「・・・・・お誕生日、おめでとう、彷徨。そして、メリークリスマス」
「み・・・ゆ」
「あは、久しぶり、・・・・急でおどろいちゃった・・・?って・・・え・・?」
満面の彼女の微笑み。
瞬間。
心がぱぁんっと音を立てて、一気にはじけてしまったような気がした。
気づいたときには。
彷徨は未夢を抱きしめていた。
―――― ほとんど、衝動的に。
「えっ?ちょっ、か、かなたっ??」
真っ赤になって、驚いて、身じろぎする未夢。
だけど、離したくなかった。
ああ、これだ。
ずっと逢いたかった。
ずっとずっと、焦がれていた。
だから、心のままに。
「好きだ」
腕のぬくもりを確かめながら、言葉にする。
本当はもうずっと、告げたかった言葉。
「・・・っ、私も好きだよ」
信じられない、というように顔を上気させて、少し体を離して未夢は彷徨を見上げる。
そんな未夢をみて、彷徨はニヤリと笑ってみせる。
頬に手をそえて。
未夢の顔を上に向かせる。
「・・・あっ」
白く息が上がる中。
唇を重ねる。
想いを告げるように、角度を変えながら。
お互い、離れたくなくて、そのまま何度も唇を重ねた。
想いは、心は、止まらなくて。
ようやく離れたときには、いつの間にか冷たかった手も、体も、熱を帯びていた。
すると。
ふっと、突然未夢が笑いだした。
「何だよ?いきなり」
その様子に彷徨は首をかしげる。
「だって、彷徨。髪の毛、ネグセなんだもん。あははっ」
「おまっ、仕方ねーだろ、家にずっといて気づいてなかったんだから!!」
顔を紅くして、口を押さえて慌てて髪を整える仕草をする彷徨。
「だって、・・・でもかわいーよv彷徨v」
「おまえなぁっ・・・」
「ほめてるんだよ〜!誰だって寝起きは寝グセあるもんねv」
嬉しそうに彷徨を見上げてまだ笑う未夢に。
ふっ、と何か思いついたのか彷徨は不敵な笑みを浮かべた。
「・・・ま、そうだな。寝起きか・・・」
「どうしたの?」
「ばぁ〜か。近いうちにこれからオレの寝起きなんていつでもみれるぜ?」
「・・・えっ・・・っって。か〜な〜た〜!!!しんじらんなぁい!!!」
そのセリフの意味に気づいて。
ぼんっ、と頬を上気させる未夢。
だけど、幸せ一杯で。
それを目を細めて楽しそうに笑う彷徨も、心の中で満たされた気持ちでいっぱいになった。
Christmasの偶然。
Christmasの奇跡。
互いのプレゼントは未夢はかぼちゃのクッキー、彷徨は未夢が作れなかった、クリスマスの生クリームのイチゴのスポンジケーキ。
「けどほんとお前のクッキー、あまいよな〜」
「ひど〜い!!うまくできてるでしょ〜!!」
「ま、未夢にしては、な」
「もうっ!」
「うそうそ、甘いけどうまいよ」
「ほんと?よかった〜vでも、彷徨のケーキ、ホントにおいしいよね。彷徨ってほんとに何でも上手だよね〜」
「お前、絶対ケーキ食べたいだろうな〜って思ってさ。作るの難しいし、な☆」
「それって、私だったら絶対作れないってこと?」
「ま、そーゆーこと☆」
ぷうっ、と頬を膨らませた未夢の肩を引き寄せて。
彷徨がおもしろそうに笑ってささやく。
「だけど、"未夢”が一番甘いかもな☆」
「・・・っ」
その言葉に。
テーブルに飾った真っ赤なポインセチアに負けないくらい、未夢の顔も真っ赤になる。
そのとき。
空からまた雪が舞い降りてきた。
それは昨日よりももっと、真っ白な粉雪――パウダースノー。
そう。
今朝の11時のアラームは、目覚ましではなく。
未夢からの“クリスマスメール”だった。
夢と現実の不思議なデ・ジャ・ヴ―――
甘いクリスマスの夜はまた更けていく―――。
Happy Merry Christmas !!!
お久しぶりです、友坂りさです。
夏企画も結局参加しないまま、今回もあきらめていましたが。やっぱりどうしても参加したくて。
短時間で書き上げてしまいましたが、思いつきのままなので、まったくまとまりがありません。(いつものことですが(>_<))
それに、ふつー、メールとアラームの違いも気づくし、メールも気づきますよね。っていう細かい指摘は無視してください(泣)。
とりあえず、「甘い」はたくさん出してみましたけど(笑)
だけど、参加させていただいて、とても楽しかったですvv間に合ってよかった・・・
☆こちらは、2005年冬企画のまま投稿させていただいてます。
友坂りさ(cccenturyv6@ybb.ne.jp)