作:友坂りさ
季節は残暑厳しい八月の終わり――。
西遠寺の周りの木々では、朝から夕方まで残り少ない夏を惜しむかのように、セミがそれぞれの歌を奏でている。
夏休みもあと、残り一週間といった時期になっている、というのにまだまだ連日のこの暑さ。
未夢は夏休みを利用して西遠寺に泊りがけで遊びに来ていた。
初めは、長期のつもりはなかったのだが、気がつくと、
休み中8月いっぱいまではここでまた暮らすことになっていた。
相変わらず大忙しの未夢の両親は、また一ヶ月程仕事のため、突如アメリカに行くことになってしまったのだ。
彷徨の父・宝晶も、ここ2.3日所用ででかけて行ったきりだった。
そして、今西遠寺の居間には、未夢と彷徨のふたりだけ。
(夕方なのに・・暑い・・・)
扇風機もクーラーもなし、あるのは、昔ながらのうちわのみ。
縁側から流れ込む風もそれなりに涼しいのだが。
ふうーーっ
あまりの暑さに。未夢は、ため息、ひとつ。
「ねぇねぇ彷徨、アイス買いにいかない?」
もう何度も読み返した雑誌を膝の上でぱらぱらとめくりながら、未夢はすぐ近くにいる
彷徨に話しかけた。
しかし、その応えは。
「・・・やだ」
即答。
「むーっ、何でよっ!」
ぷうっと頬を膨らませて未夢は口を尖らせた。
「だって余計アツイじゃん、外でると。」
彷徨は本を片手にちらりと未夢を見る。
「そうだけど・・・でも食べたいんだもんっ。」
「・・・アイスなら一本だけあるぞ。」
「ほんとっっ??」
その言葉に途端に未夢は目を輝かせた。
「ああ。冷蔵庫にあるからとってくれば?」
「いいの?」
「ご自由に〜。」
未夢は喜んで急いでアイスを取りにキッチンへ向かった。
その後ろ姿を彷徨は黙って見つめていた。
(ほんと、あいつコドモ・・・)
だけど。
やっぱり未夢がいると、違うな。
春に別れてから、その後、ようやっと想いが通じ合った。
夏休みに限らず、休みの日には決まって未夢が遊びに来る。毎週来るのは大変だから、来なくていいのに、といってもけなげにも
あいつは、来る。
まぁ、それが俺は嬉しくて仕方ないんだけど。
ていうか、本当は俺のほうが、毎日でも一秒の間もあいつと一緒にいたいのかもしれない。
未夢が、今の学校で、家で、どんなふうに過ごしているのか・・・気になって仕方ない。
今までだったら、いつも俺の目の届くところにおいておけたのに。
・・・って。
いつから俺はこんなに独占欲強いやつになったんだ?
だけど。
俺は好きだと確信する随分前から未夢だけ、をずっと見てたような気がする。
重症だな・・・。無意識ってやつか?
「あったあった〜♪」
未夢は軽くスキップしながら、にこにこと微笑みながらアイスを片手に居間に戻ってきた。
「えへへ〜。イチゴ味♪イチゴ味♪」
未夢の嬉しそうな笑顔を見てるだけで、ただ、それだけで。
何だか俺まで嬉しくなるなんて。
ほんと、自分でもこいつに参ってるな、なんて思ってしまう。
そうこうしているうちに、未夢はアイスの袋をあけて早速食べ始めた。
彷徨はその様子をじっと見る。
未夢の格好はこの連日の暑さのため、白のノースリーブブラウス一枚に、下はデニムのミニのスカート、といった涼しげな服を着ていた。
鎖骨が綺麗に見える、胸元のあいたブラウスに、未夢の白いほっそりとした
足があらわになる、ミニスカート。
・・・はっきりいって、目のやり場に困る。
正直、これを見るのが俺だけでよかったと、思う。
ほんと、こいつ鈍感で気づいていないけど、かわいすぎる・・・。
かわいいとか、綺麗だとか。
容姿でひかれたわけじゃないけど。
だけど、ほんともう少し自覚してもらわないとな。
毎回苦労してるんだけど?
「おいし〜vvこのイチゴのつぶつぶがたまりませんなぁ〜。」
未夢はアイスをなめながらも、さっきからずっと目をそらさない彷徨の゛熱視線”に気づいた。
・・・さっきから彷徨、ずっと見てるけど、何でだろ?
彷徨も、アイス、欲しいのかな?
そう勘違いした未夢は、彷徨のほうに少しずつ近寄っていった。
「わっ、な、なんだよっ。」
急に未夢が接近してきたので彷徨は驚いて僅かに後ずさる。
「アイス食べる?」
ひょいっと、目の前に差し出される溶けかかったアイス。
それを手にしているのは、アイスをなめていつもより余計潤いのある唇をしている、未夢。
なんか・・・。
「いいよ。お前一人で食べろよ。」
はぁ・・・。
付き合い始めて三ヶ月。
お互い、気恥ずかしくて、素直になれず、今だピュアな関係。
特に未夢は恥ずかしがって、彷徨が抱きしめるだけでも、じたばたと、慌てる。
もちろん、抵抗はしないのであるが。
しかし、彷徨の方は違った。
未夢と会うたびに、もっと触れていたいと近頃は特に思うようになっていた。
でもなぁ。
無邪気なこいつの笑顔を戸惑いの色にさせたくはない。
・・・本当は、もう、限界に近いけど・・・。
未夢の食べている、残り少なくなったイチゴアイス。
もう、かなり溶けそうになっていて、棒の辺りにはとろとろになった
アイスのかたまりが僅かに残っていた。
「未夢、やっぱちょうだい。」
そういうと彷徨は、未夢のほうに近寄り、あと一口程度の
アイスをぺろっとなめて食べた。
「うん、やっぱうまい。未夢が食べてたからかな?・・・ってか、何気に間接キス?」
少しいたずらっぽい笑顔で。
「・・・っ。」
・・・。
や、やだ、さっきは何も考えず「食べる?」なんて言ったけど、こ、これって間接キスだよねっっっ
きゃーーーー。
こんなささいなことでも恥ずかしがってしまう未夢を見て、彷徨は苦笑する。
・・・ほんと、純粋なやつ。
まぁ、そこがいいところでもあるんだけど。
「・・・そ、そういえば、彷徨、今更だけど、何で去年は気に留めなかったんだろう?・・・さっきね、西遠寺のあたりをぐるぐる散歩してたら、裏に
ひまわりがたくさん咲いてたのを初めて見つけたんだっ。・・・去年の夏はここに居たのにね。」
未夢はごまかすように、話題を変えた。
「・・・ああ。あれか。あれはうちの母さんが生きてたときから、もうずっと、毎年咲かすようにしてるんだ・・・。」
未夢の言葉に、ふっと、彷徨は目を細めて何かを懐かしく思い出しているように、呟いた。
「そうなの?」
「母さんは花が大好きだったからな。」
「でも、なんでひまわりなの?」
彷徨はすくっと、急に立ち上がると、未夢のほうを振り返って手を差し出した。
「ついて来いよ。」
「・・・う、うん。」
未夢は自分よりも一関節ほど長い指をした、彷徨の手をきゅっと握った。
庭。
季節はもう8月の下旬なので、6.7月の頃に比べると少し、日は短くなっている。
そして今、まさに日が傾きかけていた。
夕焼け。眩しいくらいにきれいなオレンジ色の光が、高台にある西遠寺には平地よりもよく届いているような気がする。
二人は庭まででてくると本堂の廊下に並んで座った。
庭には、同じ背丈ほどのひまわりが一面に咲いていた。
「・・・このひまわりは昔、俺が小さな頃、近所のおばさんからもらった種がはじまりだったんだ。」
彷徨はひまわりを見つめながら、優しい微笑みを浮かべていた。
「それで、どうしても俺が自分で植える!っていって植えたんだけど、なかなか芽がでなくてさ。」
「どうして?」
未夢は彷徨のいつもよりも増してやわらかな微笑を何だか嬉しく感じていた。
彷徨の方をじっと見ながら、黙って話を聞く。
「大事に、大事にしたくてさ。土の奥深く種を埋めちゃってたんだ。・・・だから、いつまでたっても芽がでることなくて。
あんまりでないもんだから、母さんに泣きついてさ〜。」
「へぇ〜。彷徨もそんなかわいいとこあったんだ〜。」
未夢はからかうように隣に座っている位置から少し体をずらして、下から彷徨の目を覗き込んだ。
思いのほか顔の距離が近くて彷徨はどきり、とする。
「そしたらさ、母さんが言ったんだ。大事にしすぎてるから、でないんだよ、ってな。」
「えっ?」
彷徨の言葉に、未夢はわけがわからず首を傾げた。
「・・・本当はさ、科学的にいったら、種の埋める位置ってのは土から二センチくらいが適当で、深く埋めたらでてこないってだけのことなんだけどさ。」
「・・・彷徨のお母さんは、彷徨の気持ちを゛大事”にしたんだね・・・。」
そういった、未夢の笑顔が眩しくて。
彷徨はしばらくその綺麗な横顔に見とれていた。
「・・・それでさ、ちゃんと埋めなおしてみたんだ。そしたら、二、三日もたたないうちにすぐ、芽がでてきたんだ。そのときはすっげえ嬉しかったのを覚えてる。母さんもすごく喜んでくれて。
なにしろ、初めて自分で植えた花だったからさ。」
「じゃあ、それからずっと・・・?」
今では、ここに、数え切れないほどいくつものひまわりが咲き誇っている。夏の太陽をいっぱいにあびて。
いつだったか、きいたことがある。
ひまわりは太陽に届きたくて、届きたくて、あんなに背が高いのだって。
だから、花も太陽の方をむいて伸びて、咲いてるんだって。
まるで、彷徨に届いてほしいっていつも思っている、私の゛想い”みたいだよ、ね。
「ああ。ひまわりって毎年たくさん種がでるだろ?それを大切にとっておいて、また春になると種をまいてたんだ。で、毎年まく量を増やしていって、気がついたら、こうなってた。」
ひと夏で枯れてしまうけれど、また、次の年にまけば、夏にはいつだってこのひまわりが見れる。
「・・・そっか。・・・彷徨のお母さん、こんなにたくさん綺麗に咲いてるのみたら、きっとすごく喜ぶだろうね。」
未夢は彷徨のほうを向いて、満面の笑顔を向けて、言った。
それは、心からの、未夢の気持ち。
・・・ふいうち・・・・
彷徨は赤い顔をごまかすように口元に手をあて、ふいっと横を向いた。
「彷徨。」
「ん?」
急に未夢に呼ばれて振り向いた刹那、
えっ・・・?
一瞬何が起きたかわからなかった。
・・・右頬に、
やわらかな熱い感触・・・。
「ありがと。こんな素敵な花、見せてくれて。それから、毎年、育ててくれて。」
恥ずかしげに顔を真っ赤にしながら、未夢が言う。
・・・ま、まてっ!!
これって・・・未夢からの、初めての、キスだよな?
以前もアクシデントで一度だけ、頬にキス、なんてのはあったけど。
今回のは、違う。
ほんとの、気持ちのこめられた、キス。
彷徨は呆然として、自分も頬が熱くなるのを感じながら、未夢が触れた頬に手をあてたまま、今はひまわりを見つめている未夢の横顔をそっと見やる。
・・・一体、何考えてるんだよ・・・。
普段、いくら俺が抱きしめて、その唇にふれようとしても、その大きな緑の瞳をゆらして・・・
訴えるくせに。
悔しいから、視線を未夢からはずさない。
秘めたこの熱い想いを、視線だけでぶつける。
こいつには、敵わないな・・・。
未夢はひまわりを見ながらも、彷徨の視線を感じて、何だか耐えられなくなった。
(どうして、そんなに見つめるの?)
その理由は ・・・
鈍感な未夢には、わからない。
・・・どんなに、自分のことを彷徨が想っているのかを。
_気持ちが通じ合ったときだって彷徨がはっきり゛好きだよ”と何度も
言って、ようやっとだ。
そんな未夢に彷徨の悩みはつきないのだった。
「じゃ、じゃあ私夕飯の準備してくるねっ!」
未夢はその視線から逃れるように、本堂を通って、母屋へと走っていった。
◇◇◇
夜。
「「ごちそうさま。」」
夕食を食べ終えた二人は、並んで食器を片付け始めた。
「・・・おまえさぁ〜いいかげん料理上達しろよな。結局ほとんど俺ばっかり作ったじゃん。」
そう言いながら、彷徨は、すっかり空になったかぼちゃ料理の鍋をごしごしと洗っている。
「むーっ、今日はでも、ちゃんと玉子焼きは、作ったんだから〜!!」
未夢はぷうっと膨らませて言い返す。
「はいはい、まぁ、かなり形崩れてたけどな。」
しかし、簡単に彷徨の言葉に交わされてしまう。
こういうところは、二人が付き合う前と何もかわらない。
・・・_変わっているのは、二人の微妙な関係の距離。
付き合い始めても、相変わらず彷徨は、わざと憎まれ口をたたきながら、未夢の反応を楽しんでいた。
未夢が。
自分に対して拗ねたり、怒ったり、笑ったり・・・。
それが、彷徨にとっては嬉しいのだ。
「なあ、未夢。」
「んー?なにー?」
泡のたくさんついた手をひらひらとひるがえしながら、未夢は彷徨の方を向く。
「これ終わったら花火しないか?去年のやつがまだ残ってるんだ。あけてないからまだしけってないと思うけど。」
「えっほんとっっ〜じゃーやりたいやりたいっ!!」
彷徨に先ほどからかわれて、すこしむくれていた未夢だったが、思わぬ彷徨の提案に未夢は目をぱっと瞳を輝かせた。
・・・げんきんなやつ。
「じゃあ、裏の倉庫にあるから、とってきてくれないか?」
「うん!!」
未夢は食器をきれいにふいて戸棚にしまうと、エプロンをはずして、いそいそと花火をとりにいった。
「きれー。ねっ、彷徨、きれいだよっ!!よかったね、去年のでも全然大丈夫だよ〜。」
早速庭先の縁側で花火をしながら、未夢は彷徨の隣に座って、ゆらゆらとゆれる花火の炎を見つめながら
はしゃいでいた。
そんな未夢を彷徨は目を細めて見つめる。
「彷徨もしないの?」
さっきから自分ばかりが花火をしている未夢は、見ているだけで花火に手をつけない彷徨を不思議に思って尋ねてみる。
「いや・・・俺はいいよ。・・・花火、よりお前・・・のこと、見てるだけでじゅうぶんだから。」
そう呟くように言って。
突然、真剣なダークブラウンの綺麗な瞳でじっと見つめられ、未夢はなぜか戸惑ってしまう。
・・・や、やだ、なんなの、これっ!
ちょっちょっと、いきなり何言い出すかな〜、この人は〜っ
彷徨は深い意味ないでいってるんだろうけど、急にどきどきするようなこと言わないでよ〜。
最後の一本は線香花火だった。
未夢は最後の一本に火をつける。
最初は比較的おだやかで、だけど、途中にぎやかに花を咲かせて。
・・・そして、最後はひとしずくの炎がぽとり、と静かに落ちる。
未夢の持っている線香花火も終わりにさしかかって、最後を惜しむかのようにぱちぱちと盛んに燃え始めた。
はっとした一瞬の間に・・・
ぱちっ、最後一度だけ鮮やかに輝いて・・・
全部の花火が終わった。
光を失い、ふいに、急にあたりの視野が暗くなる。
そのとき。
えっ・・・?
:
:
:
突然感じた、あたたかい、感触。
初めてじゃない。
・・・もう、何度もーーー。
だけど、まだ、慣れないーー。
わ、わたしっ!?
気がつくと、未夢は彷徨の腕の中にいた。
未夢は突然抱きしめてきた彷徨に戸惑いを隠せなかった。
いや、とかじゃない。
嫌いなんかじゃない、ううん、そんなものじゃないよ。
すごく・・・、好きだよ。
でも・・・わたし、まだ・・・。
「未夢・・・。」
抱きしめている彷徨の腕にさらに力がこもり、余計離れられなくなる。
彷徨は未夢の背中に腕を回し、その肩口に深く顔をうずめた。
そして、未夢の長くて色素の薄い綺麗な髪を耳にかけ、吐息をもらしながら
切なげに囁く。
「もうすぐ、夏も終わるな・・・。」
夏が終わる、ということは同時に未夢も帰っていってしまうということで。
彷徨はそれをすごく辛く感じていた。
夏休みのように長くいてくれるのは嬉しいけれど、それがまた、余計に離れる
ときがつらいのだ。
そう、線香花火のように、俺の前で輝いて、すーーっと消えていってしまう。
だから、せめてその前に・・・・
彷徨は未夢の腰に腕を回し、さらに引き寄せると、もう片方の手で未夢の頬に手をそえる。その瞬間、びくっと未夢は体を震わせる。
未夢を安心させるように、やさしく頬をなでながら、未夢の新緑色の瞳を
じっと見つめる。
それが、あまりにも綺麗すぎて。
頬に手をそえたまま、少し体を離して、彷徨はそっと、未夢の肩にもう片方の手を置き、少し強引に自分の腕に力を入れる。
自然と、未夢の体が傾いて。
とんっっ、 と、未夢は縁側の床に倒れた。
未夢は驚きのあまり、大きな瞳をさらに見開く。はらり、と未夢の長い髪が床に広がる。
その瞬間、漂ってくる、甘い、香り。
・・・もう、だめだ。
未夢の上に覆いかぶさるような体勢になって、彷徨は片手を未夢の首元あたりの床にぺったりとつけ、もう片方の、頬に添えられた手を
ゆっくり滑らせて、指先でその愛らしい唇をなぞる。
今宵は新月。
明かりもほとんどなく、暗闇に包まれていた。
何かを訴えるように、切なげに揺れる彷徨の瞳。
未夢はそれから目線をはずすことができなかった。
彷徨の唇が何か言おうとして、微かに開かれる。
それから、徐々に顔を近づけていく。
同時に、くすぐったい吐息が未夢の頬にかかってくる。
「か、・・・なた?」
潤んだ、未夢の瞳。
桜色のふっくらとした唇。
もう、俺は俺をとめられない・・・。
「未夢・・・。」
睫毛と睫毛がふれあい
彷徨は瞳を閉じた。
・・・未夢はもう、抵抗することはなかった。
彷徨の想いがあふれるほど、伝わってきたから・・・。
「ぁ・・・っ・・・。」
唇が、触れた。
未夢は初めての感覚に驚き、目を閉じることができなかった。
目の前には、長い睫毛の瞳を閉じた、整った顔立ち。
キス。
彷徨はようやく触れることのできた未夢の唇の感覚に陶酔していた。
やわらかく、あたたかい感触。
やがて、未夢も瞳を閉じる。
苦しくなって、彷徨はいったん唇をはなしたが、また、角度をかえて、口付ける。
甘く、熱く。
「か、かなたっ」
唇を重ねているため、うまく言葉を紡げなかったが、
未夢の言葉で彷徨はやっと唇をはなした。
はっ、と我に返り、急に彷徨は自分の行動に恥ずかしくなった。
ぱっと、未夢から離れると、未夢の手をとって、そっと、起きあがらせた。
「悪い、突然・・・。」
「・・・っ。」
二人の間に沈黙が流れる。
しかし、見詰め合ったまま視線はなぜかはずせない。
どのくらい時間がたっただろう。
ようやく。
・・・ 先に沈黙を破ったのは未夢だった。
「・・・今日はたくさん、思い出できたね。」
未夢は頬を赤く染めたまま、言った。
その言葉に、彷徨は内心、ほっと一安心して、やさしく、未夢の肩を抱いた。
「ああ・・・。」
未夢は、彷徨の肩に頭をのせる。
しあわせすぎる、二人だった。
―――夏休み終わっても、またいつでも来いよな・・・
―――あたりまえだよっ、休みになったら、必ずいくからねvv
―――あ、そういえば、お前夏休みの宿題終わってんのか?
―――えっ・・・きゃーー後回しにしてた数学のテキストやってな〜い!!
―――バカ☆
―――むーっ、バカとはなによぉ!!!
―――・・・しょーがねーなー。手伝ってやるよ。
―――ほんと??ありがとうっ!!
―――へぇ〜、めずらしく素直じゃん。
未夢・・・
ん?
来年の夏も今年みたいにずっと・・・居ていいからな。
!・・・ありがと。
今までと変わらない夏、だけど、今日からは・・・、きっと。
また新しい季節が待っている。
これからも、ずっとずっと先も二人一緒にいられますように。
少しだけ、大人に近づいた夏・・・。
初めまして!こちらでは初めての投稿になります。
みなさんの小説に憧れて、今回は恐れ多くも初投稿させていただきました!!
だぁ!だぁ!だぁ!という作品を通じて、たくさんの素敵な方と知り合えて、とても幸せです。
そして、このような素敵な企画を立ち上げてくださった、李帆しゃん、山稜しゃん、本当にありがとうございました!!
2003.8 (プチみかん祭2003年当初の文そのままです)