作:LEO
My Fair Bodyguard in High School
Special Edition for Petit - Mikan Festival in 2004
え〜懐かしのMFB高校生シリーズ・番外編です。
一応、ギャグ物です。
夏の暑さなんざ、一気に笑い飛ばしてしまえ!と言うコンセプトですので。
はい。
未夢 :「いや〜、彷徨さんやぁ〜。一気に若返りましたなぁ〜。」
彷徨 :「お前はオバサンか?」
クリス:「まあまあ。二人とも。折角、高校時代に戻ったのですから。ね。」
光ヶ丘:「そうそう。クリスの言うとおり、夏の海を楽しもうじゃないか。」
綾 :「あら?今回はそう言うお話なの?」
田丸 :「みたいですね。いいですね。南の島でのバカンス。」
茜 :「素敵ね。青い海に抜けるような青空。そして白いビーチ。」
三太 :「くぅ〜!やっぱ夏はこうじゃないとな!そうだろ?冬弥?」
神楽 :「うむ。だが気を抜くな!夏の海は戦場だ!各自気合を入れて・・・・」
ななみ:「アホかぁ!!」(ドガァ!!)
一同 :「やっぱこう言うオチかい・・・・・」il||li_| ̄|○il||li
My Fair Bodyguard in High School
-夏の番外編-
それは例の一行がクリスの提案で、
南の島にバカンスに来た事から始まった。
これは彼らが遭遇した、儚くも、片腹をくすぐる物語である。
「さーて、行くわよ!納涼大花火大会!!」
夜のビーチに集まったいつものメンバーを前に、
綾が大ハシャギで場を仕切る。
「やっぱ契機付けに打ち上げ花火からよ!」
ななみが花火を取り出して火を点ける。
パン・・・・・ひゅるるる・・・・パパァアン!!
夜空に色とりどりの花が咲く。
「わあ・・・・きれい・・・・」
誰もが花火を見て感嘆の声を上げる。
「ええと・・・・これは水平発射式の花火ね。」
綾が袋を開けながら花火を探す。
「結構、大きいですね。へえ・・・・『トマホーク』ですか。」
綾の取り出した花火を見て田丸が呟く。
「ねえねえ。これなんか面白そうだよ。水上滑走式だって。
水の上を走って行くみたいだよ。」
未夢が袋から花火を幾つか取り出して見せる。
「へえ、いっぱいあるな。
この大きいには『エグゾゼ』で、
こっちの長い奴が『ハープーン』か・・・・」
彷徨は未夢が見せた花火を見ながら呟いている。
「こっちにもあるよ。これは地上滑走式だって。」
茜が袋から花火を取り出して見せる。
「変わった形の花火だな。これ。
え〜と・・・・『TOW』に『ヘル・ファイア』か。」
三太が茜の取り出した花火を見て呟く。
「あら。ここにも面白い花火がありますわ。
手持ち式の打ち上げ花火ですわよ。」
クリスが袋から花火を取り出して見せる。
「面白そうだね。『スティンガー』に『ペトリオット』だね。」
クリスの取り出した花火を見て光ヶ丘が呟く。
「ねえ。冬弥、これなんか面白そうだよ。水中発射式だって。」
ななみが袋から花火を取り出しながら見せる。
「ふむ・・・・『トライデント』に『ポラリス』か・・・・面白そうだ。」
神楽はななみの取り出した花火を見ながら呟いている。
「こっちにもありますよ。ももかさんが見つけました。
火を点けて、空に放り投げる花火みたいです。
名前は『AIM-120・AMRAAM』に『AIM-132・ASRAAM』と書いてあります。」
ワンニャーがももかの見つけた花火を見せる。
「ワンニャー!」
今度はルゥが、花火を見つけたようだ。
「おや。ルゥちゃま。大きな花火ですね。
ええと・・・・『デイジー・カッター』ですか。
ルゥちゃま、すごいですね。」
「は〜い。」
ワンニャーに褒められて、ルゥはご満悦のようである。
ドドドォオン!!・・・・ひゅるるる・・・ドドォオン!!
何時果てる事無く、夜空に大輪の花を咲かせながら、
仲間との楽しい時間が過ぎていく。
「はあ・・・・ルゥ〜。楽しかったわね。」
「うん。」
ももかとルゥが夜空を見上げながら、にこやかに会話をしている。
「二人とも楽しかった?」
未夢がルゥたちの所にやって来て声を掛ける。
「うん!ねえ、ルゥ。」
「は〜い!」
未夢の問いかけに二人は笑顔で答える。
「さあ、後片付けも終わりましたし、ホテルに帰りましょうか?」
「ももかちゃん。おいで。」
クリスと共にやって来た光ヶ丘が、ももかを抱き上げる。
「????」
この時、ももかが海岸から離れた小島に不思議な光を見つける。
「ももかちゃん。どうしたの?」
クリスが不思議に思い、ももかに声を掛ける。
「ねえ。あれ、何かしら?」
「?」
ももかが指差した方向には、明らかに
一定のパターンで点滅する光があった。
「な、何・・・・」
「さっきまで、あんなの無かったわよ・・・・・」
メンバーの胸中を不吉な予感が駆け巡る。
「あたし・・・・雑誌で読んだことがある・・・・」
綾が表情を引きつらせながら口を開く。
「な、何・・・・・綾ちゃん・・・・?」
未夢も同じように表情を引きつらせながら、綾に聞き返す。
「あのね、昔、ここは日本軍の基地があって、
アメリカ軍の攻撃に備えて、私たちと同じくらいの兵隊さん達が居たのよ。
けど、戦闘に負けてアメリカ軍に追い詰められて逃げ場を失って、
海岸近くの小島で集団自決したって・・・・」
「いやあああ!!止めてぇ!!!ヘヴィ過ぎるぅう!!」
綾が言い終わるか終わらないうちに、未夢は耳を押さえて泣き叫んでいる。
「と言うことは、あれは!!?ヤベエよ!!」
三太も引きつった表情で叫ぶ。
「三太・・・・お前も、無駄に盛り上げるな・・・」
三太の肩に手を置きながら、彷徨が呆れた表情で声を掛ける。
「望さん・・・・怖いですわ。」
「大丈夫だよ。クリス。僕がついているから。」
怯えるクリスに光ヶ丘が優しく声を掛ける。
「三太君・・・・・」
「大丈夫だって、心配するな。」
茜を元気付けようと、三太が明るく返事をする。
「やっぱりヤバイよ・・・・・」
「大丈夫ですよ。何でもないですって。」
不安を隠せない綾に、田丸が優しく声を掛ける。
「う・・・・ぐす・・・・」
「未夢。泣くな。俺が守るから。」
「彷徨ぁ・・・・」
泣きじゃくる未夢に彷徨は優しく声を掛ける。
「ううう・・・・怖いよ・・・・」
ももかはワンニャーにしがみ付きながら怯えている。
「ももか。だいじょうぶ。」
ルゥがももかの背中に手を置いて声を掛ける。
「ルゥ・・・・」
「は〜い。」
ルゥはももかに笑顔で返事をする。
「ルゥちゃまは、男の子ですね。私なんか、ちょっと震えています。」
ワンニャーも不安そうな表情で、二人を抱っこしている。
この時、神楽は無言で光の点滅を見ていた。
「ちょっと!何固まっているのよ!?え?
冬弥もひょっとしてああ言うの苦手なの?大丈夫よ!
冬弥が幽霊みたいな物じゃない!!アハハハハ!!」
ななみは恐怖心を紛らわすかのように、
神楽の背中をバンバン叩きながら声を掛ける。
「あれは・・・・・」
ふと、神楽が何かを思い出したかのように口を開く。
「な、何!!?」
神楽の言葉に、ななみは一瞬、戦慄を覚える。
「間違いない。国際救難信号だ。」
「へ???」
神楽の言葉に、一同が呆気に取られた表情になる。
「国際救難信号・・・・・って、本当なの?」
未夢が救いを求めるような眼差しで神楽に尋ねる。
「間違いない。誰かが救助を求めているかも知れん!
確認する必要がある。花小町、ボートを借りるぞ!」
神楽はそう言うと、ボートを借りて島に向おうとする。
「ちょ、ちょっと待て!冬弥!!」
「どうした?彷徨。」
彷徨に慌てて呼び止められ、神楽が聞き返す。
「何かの罠かも知れないんだぞ!危険すぎる!」
「そうよ!生きて帰って来られないかも知れないのよ!!」
彷徨と綾が神楽に思い留まるよう説得する。
「俺は問題ない。」
神楽はそう言うとバッグの中から武器を取り出す。
その中にはM4カービン、ベレッタM92F拳銃、手榴弾、
グレネードランチャー、TNT爆薬、各種弾薬が入っていた。
「おい!お前、これどうしたんだ!!?」
三太が慌てて神楽に問いかける。
「街中に有った米軍放出品を扱っている店があったからな。
そこでレンタルして来た。返す時に弾薬代だけ払えば済む。」
神楽はそう言うと、呆れるメンバーを尻目に着々と戦闘服、
武器・装具を身に付ける。
「問題も解決した所で行って来る。」
「してねーよ!!!」
神楽の言葉に全員から一斉にツッコミが入る。
「だがな・・・・・」
何かを言いたげな神楽を遮り、彷徨が口を開く。
「お前は一端決めたら、どうしようもないから止めねえけどよ、
俺も一緒に行くぞ。」
「彷徨!止めてよ!」
未夢が彷徨を止めようと必死で声を掛ける。
「未夢。考えてみろ。」
「え?」
彷徨は未夢の両肩に手を置きながら諭すように話し掛ける。
「アイツ一人で行かせて見ろ、あの島の環境が破壊されるぞ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彷徨の言葉に誰もが無言で頷いている。
「彷徨。あまり褒めるな。」
「褒めてねえっつぅーの!!!」
神楽の言葉に一斉にツッコミが入る。
「だったら私も行く!」
「未夢!?」
普段怖がりの未夢が付いて行くというのだ。
彷徨の驚きは尋常ではなかった。
「俺も行くぜ!面白そうだからな。」
「三太!?」
「じゃ俺も!」
「私も!」
「僕も!」
全員が島への渡航を申し出る。
「あー!分かった!こうなったらヤケだ!全員で行くぞ!」
「おおー!!」
こうして彷徨達は、ルゥとももか、ワンニャーを除いた全員で
島に渡る事になった。
島に着いた彷徨達は、鬱蒼と繁るジャングルを見ていた。
「うわ・・・・不気味。」
未夢は彷徨にしがみ付きながら、転ばないよう慎重に進んで行く。
「あ!?」
彼らが驚いたのも無理はなかった。
そこにはホテルと思しき廃墟が建っていたのだ。
窓は割られ、壁の一部も崩壊している。
「ひどい有様だ。爆撃でもあったのか?」
ガク・・・・
神楽の言葉に全員が一斉にこける。
「お、お前・・・・そう言う発想しか出来ないのか?」
三太が疲れたような表情で神楽に問いかける。
「普通はそうじゃないか?」
神楽は何事も無く答える。
気を取り直した一行は懐中電灯で廃墟を照らしながら外から観察する。
この時あった。
「え?え?・・・・きゃあ!!!」
突然、綾が懐中電灯を放り出してしゃがんでしまう。
「綾さん!」
「綾ちゃん!?」
「小西!?」
誰もが心配して綾の所に駆けつける。
「どうしたんだよ。小西。」
彷徨は綾を気遣いながら声を掛ける。
「今・・・・そこ・・・・」
綾は震えながら4階中央付近の窓を指差す。
「どうしたんだよ?」
「お、おばあさんが・・・・」
綾は泣きそうな表情で彷徨に答える。
「お前な・・・・みんなを怖がらせようとしてもな・・・」
「違うって!本当に居たんだよ!!」
綾は必死の形相で訴える。
「あ、綾・・・・じょ、冗談は止めよう・・・・」
ななみも表情を引きつらせながら声を掛ける。
「バカバカしい。目の錯覚だろ。」
彷徨が答えた時であった。
「小西。あの老婆はただ立っていただけだぞ。何故、そんなに怯える?」
神楽が呆れたように綾に声を掛ける。
「そうそう。ただ・・・・・へ・・・・?」
神楽の言葉に全員の動きが固まる。
そして振り向いた表情は一様に青ざめ、冷や汗をダラダラ流していた。
「どうした?」
神楽は不思議に思い声を掛ける。
「か、神楽君・・・・今・・・何て言ったんだい?」
光ヶ丘が引きつった表情で尋ねる。
「『あの老婆はただ立っていただけだ。』と言ったんだが・・・・」
神楽は平然とした表情で答える。
「か、神楽君・・・・見たの?」
茜もガタガタ震えながら尋ねる。
「小西が気付いて、俺が気付かん訳が無かろう。」
「お、お前・・・・・何とも思わねえのか!!?」
平然としている神楽に三太が驚いた様子で問いかける。
「何がだ?」
「こんな所に婆さんが一人居て、お前は何とも感じないのか!!?」
今度は彷徨が身を乗り出すように尋ねる。
「近所に住む老婆が迷い込んだかも知れん。
軽い痴呆症を患っている可能性もある。
それに銃やロケットランチャーで武装しているならともかく丸腰の老婆だ。
何をそこまで恐れる?」
『こ、こいつは・・・・・』
神楽の答えに、彷徨達は何も言い返せずに居た。
「とりあえず、中に入ろう。」
神楽の一言で全員が廃墟の中に入って行く。
「うわ・・・・中は一層・・・・」
未夢は彷徨にしがみ付きながら歩いている。
「止まれ!」
神楽の一言で全員が歩みを止める。
「中央階段は行き止まりのようだ。左の階段から上がろう。」
神楽はそう言うと、全員を引き連れて2階に上がる。
彼らが2階に上がった時、白い影が目の前を横切る。
「きゃああああ!!!」
女子は一斉に悲鳴を上げてパートナーにしがみ付く。
「み、見た!!?」
「見た!!」
「何ですの!!?」
女子は一同に驚き、そのまま固まっている。
「おかしい・・・・・」
神楽がポツリと呟く。
「お、おかしいって・・・・・何が?」
ななみが見上げるように尋ねる。
「人の動きではない。何者だ?」
「幽霊よ!幽霊!!絶対にそうよ!!!冬弥は怖くないの!!!?」
ななみは神楽にしがみ付きながら涙目になって尋ねる。
「問題ない。」
「も、問題ないって・・・・と、冬弥は平気なの!!?」
神楽の言葉にななみは驚いたような表情で見ている。
「あらゆる武器に習熟し、数々の実戦を潜り抜けて来た俺を
素人が倒す事など不可能だ。問題ない。」
神楽は事無げに答える。
「変!!お前、絶対に変だ!!!」
彷徨が呆れたように神楽にツッコミを入れる。
「先を急ごう。」
神楽たちは2階に昇り、内部を探索し始める。
「なあ、冬弥。」
「何だ?」
廊下を歩きながら彷徨が声を掛ける。
「お前、何かあるとか、そう言うものを感じないのか?」
「施設の構造、家具の配置状況でトラップなどの位置は概ね推測可能だ。
問題ない。」
神楽は何気なく、淡々と質問に答える。
『だから、そうじゃねえって・・・・・・』
一同の胸中に虚無感が広がる。
廊下をしばらく歩いた後であった。
「何だろう?ここ・・・・・結構広いわね。」
茜が内部を見てポツリと呟く。
「どうやら、ロビーっぽいな。」
三太が懐中電灯で内部を照らしながら答える。
この時であった。
RRRRRR・・・・
!!!!!!
近くにあった電話が突如鳴り響く。
全員の顔が青ざめ――――――――ただ1名を除いてだが一斉に震えだす。
「全員、そこの物陰に隠れろ。」
神楽は周囲を見て、柱の陰に隠れるように指示を出す。
全員が物陰に隠れたのを確認すると、
神楽は転がっていた石を電話機にぶつけた。
ガシャン・・・・
石が当たると同時に受話器が外れる。
神楽はしばらくその様子を見ていたが、
異変が無いのを確認して近づいていく。
「か、神楽君?」
未夢が怯えたような表情で神楽に声を掛ける。
「トラップだと思ったが、どうやら違うようだ。」
「トラップ?」
神楽の答えに未夢が聞き返す。
「受話器を取ると爆発する仕掛けの罠かと思ったのだが。
実際にベイルートで、米海兵隊が同じ手口で殺られている。」
神楽はそう言うと、受話器を取って話を始める。
「もしもし。残念だがこのホテルは使用されていない。
他を当たってくれ。」
だが―――――――――――「聞いていないのか?」
神楽は受話器を外して彷徨に手渡す。
????
彷徨達は訝りながらも、受話器を耳に当てる。
すると・・・・・・・
うわああああ・・・・・ぎゃあああ・・・・・!!!!
耳にこびりつくような悲鳴を聞いて、彷徨達は一斉に受話器を放り投げる。
「どうした?」
彷徨たちの様子を見て、神楽が尋ねる。
「お、お前!!変だとか、何とも思わんのか!!?」
彷徨が驚いたような表情で神楽に聞き返す。
「恐らく、このホテルが使用されていないことを知って
ショックを受けているのだろう。気の毒に。」
「違ぁーう!!!お前、絶対に何かを激しく間違っている!!!」
彷徨は神楽を指差しながらツッコミを入れる。
「誤った判断ではないと思うが。」
『こ、コイツは・・・・・』
神楽の返事を聞き、彷徨たちの胸中に
沸々と怒りの感情が湧き起こってくる。
怖がっている俺(私)達がバカみてえじゃんか・・・・・
そして―――――――――――絶対にこいつを怖がらせてやる!!!
彷徨達はそう決意すると、先を急ごうとする。
「冬弥!とにかく先に行くぞ!」
彷徨は神楽に声を掛けて先に進もうとする。
「お前ら、何か怒っていないか?」
「怒ってない!!」
神楽の問いかけに全員が一斉に答える。
彷徨達が廊下を歩いていると、窓の外を、
体が透けた上半身だけの人間が浮かんでいた。
「冬弥!あれならどうだ!!?」
彷徨が窓の外を指差しながら尋ねる。
「武装へリでなくて安心した。」
神楽は事無げに答える。
「じゃあ次に行くぞ!!」
3階に昇り、中央階段の付近に来る。
この時、上階から人の呻き声が聞こえてくる。
「神楽君!!これならどうですか!!?」
クリスが階段を指差しながら尋ねる。
「声だけではな・・・・・」
神楽は淡々とした様子で答える。
「では、次に参りますわよ!!」
一行は先に進み、次なるポイントを探し出す。
この時、ななみが一室で血塗れになった人物を見つけ出す。
その人物は首がなく、両手に血のついた
「バールのような物」を持っていた。
「と、冬弥・・・・こ、これならどう?」
ななみは顔を青ざめさせながら、震える指で指し示す。
「『バールのような物』だけではな・・・・」
相も変らぬ淡々とした神楽の様子に、ななみがついにぶち切れる。
「武器の話をしているんじゃないわよ!!アンタ!!
アレを見ても何とも思わないの!!!?」
「どうと言われてもだな・・・・」
神楽は困ったような表情でななみを見ている。
この時であった。
窓の外を見ていた綾が声を上げる。
「あ!」
「どうしたの?綾ちゃん?」
綾の様子を見て茜が声を掛ける。
「さっきのおばあさん!!」
綾が指し示した方向には、先ほどの老婆が居たのだ。
「く!何時の間に!!?追うぞ!!」
神楽は全員に声を掛けると、そのまま老婆の後を追う。
「ちょ、ちょっとおい!!待てよ!!」
神楽の後を負って全員が一斉に老婆を追い駆ける。
「冬弥!!」
彷徨が神楽に声を掛ける。
「くそ!何者だ、あの老婆は!!?素人とは思えん足の速さだ!!」
『つーか、足ねえじゃん!!』
神楽の言葉にツッコミを入れながら、彷徨達は老婆を追い駆けていた。
やがて一行は反対側の海岸に出る。
「くそ!見失った!」
神楽は暗視装置を取り出し周囲の確認作業に入る。
この時であった。
・・・・す・・・け・・・・
!!!!
何処からとも泣く聞こえる声に、1名を除いた全員が恐怖に震える。
「人の声だ!」
神楽は反射的に声のする方向に走って行く。
すると―――――――――――「お〜い。助けてくれ。」
見ると、穴の中に男性が一人居たのだ。
「あの・・・・大丈夫ですか?」
彷徨が心配そうに声を掛ける。
神楽たちが男性を引っ張ると、彼は真相を話し始めた。
「いや〜まいったよ。
ゴムボートで釣りに出ていたら、いきなり大波に飲まれて
島に打ち上げられて。気が付いたら夜だったんだよ。
その時、花火が撃ち上がっているから、
誰か居ると思って反対側の海岸に行こうと思ったら、
いきなり穴に嵌って動けなくなったんだ。
いや〜、本当に助かった。ありがとう。」
男性は彷徨たちに深々と頭を下げながら礼を言う。
「いえ。別にいいんですけど、それより、
おばあさんが来ませんでしたか?」
「ばあさん?そんな人なんか見ていないけど。」
彷徨の問いかけに、男性は何事も無く答える。
「そうですか。とりあえず帰りましょう。肩に掴まって下さい。」
神楽が男性を肩に担いだ時であった。
ポロ・・・・・
何かが男性のポケットからこぼれ落ちる。
「?」
彷徨がそれを拾い上げた時、彼の顔がみるみる青ざめて行く。
「あの・・・・落としましたよ。」
彷徨は拾ったパスケースを男性に渡す。
「お?ありがとう。」
男性はそう言うと彷徨に礼を言う。
「この人、おばあさんですか?」
彷徨はパスケースを渡すと男性に尋ねる。
「ああ。2年前に亡くなったけどね。どうかしたの?」
「い、いえ・・・・何でもありません。」
彷徨はそう返事をすると、それ以上何も喋らなかった。
こうして一行はホテルに辿り着き、一連の騒動は幕を閉じたのである。
そして数日後―――――――――――
帰ってきた一行は、出来上がった写真を見ながら
思いで話しに花を咲かせている。
「いや〜。でも、あの時は本当に怖かったよね。」
「ホント。まあ、誰かさんは別としてだけど。」
女子はワイワイと賑やかに話をしている。
この時、綾が何かを思い出したかのように口を開く。
「ねえ。一つ疑問があるんだけど。」
「何?綾ちゃん?」
綾の言葉に未夢が反応する。
「あの発光信号・・・・誰が出していたの?」
「へ?そんなの、あの助けを求めていた人じゃないの?」
綾の疑問に、ななみがサラッと答える。
「もしそうだとしたら、あの人の居た所からじゃ、
絶対に見えないよ。」
!!!!
綾の言葉を聞き、背中に冷たい感触が走る。
この時、彷徨がおもむろに口を開く。
「あのな、あの時は言わなかったけど、あのばあさんが居たろ?」
「うん。」
彷徨の言葉に全員が頷く。
「あの人が持っていた、亡くなったおばあさんの写真に
そっくりだった・・・・」
「ひえええええ!!!」
若干1名を除き、全員が驚きの声を上げる。
この時、写真を眺めていたクリスの表情が見る見る青ざめていく。
「クリスちゃん。どうしたの?」
未夢はクリスが気にかかり、声を掛ける。
「未夢ちゃん・・・・・これ・・・・・」
クリスが差し出した写真を見た時、誰もが表情を曇らせる。
何とそこには「Vサイン」を出している、
日本軍兵士の姿が写っていたのだ。
「随分、楽しそうだ。」
神楽は麦茶を飲みながら、写真を眺めて呟く。
「もーいや!!こんなバカンス!!!」
西遠寺の境内に、虚しき叫び声が響き渡る。
こうして、未夢達にとっては忘れられない思い出となったのである。