Want to be near you 作:しぎたみ くぐい

この作品は、2003年春に開催された「Special love white day〜Miyu day〜」の参加作品です。

「う〜ん、‥‥暖かい日だね♪」
そう言って大きく伸びをする未夢。手を思いっきり伸ばして。
「未夢、ベビーカーから手を離すなよ。ルゥが危ないだろ!?」
彷徨はトレーナーのポケットに手を入れながら、少しきつめの口調で未夢に注意する。
「う゛ぅ‥‥。はぁい。今度から気をつけまーす。」
3月にしては暖かい。『ポカポカ陽気』というやつだ。そんなやわらかな日差しの中を未夢、彷徨、ルゥの3人は公園へと向かっている。未夢の『こんないいお天気の日には、ピクニックだよぉっ♪』と言う提案で‥‥。西遠寺に昨日夜遅くまで家事をしていたため、未だ熟睡中のワンニャーを残して‥‥。
‥‥‥‥‥‥‥‥。
「‥‥そーいや、今日は珍しく未夢が自分で起きたよなぁ。」
独り言と話し声との中間ぐらいの大きさの声で彷徨は言った。それに反応して未夢は言う。
舌を少しだして。
「べーっ。余計なお世話よ。私でって少し本気を出せばこんなものなんだからっ♪」
「‥‥朝起きるのに『本気』を出さなくちゃいけないのか‥‥。」
『はぁ』とため息をついて呆れた声で言う彷徨。‥‥今日の口喧嘩もまた未夢のK.O.負け‥‥。
‥‥‥‥‥‥‥‥。
第2ラウンドの鐘を鳴らすかのように、未夢は彷徨に反論を試みる。彷徨の顔の前に自分の人差し指をピンと立てて。
「『本気』を出したのは、今日は私が食事当番だったからなの!‥‥いつもより早く起きないといけないでしょ!?」
「‥‥あー。どうりで今日は腹の調子が良くないのか。」
〜う゛ぅっ‥‥。‥‥確かに私は料理上手じゃないけど‥‥。‥‥でも私だって一生懸命やってるんだから、そんな事言わなくてもいいじゃない!〜
「わ、私だってもっと練習すれば、おいしい物作れるように‥‥」
最後まで言い終わらないうちに彷徨が言う。未夢の瞳を覗き込みながら。
「あの料理って、練習でどうにかなるレベルなのか?」
――プチンッ――
‥‥何かの切れる音‥‥。
「――!!何?そんな事言うなら、彷徨は食べなければいいじゃないっ!」
怒りながらもどこか悲しそうな声で言う未夢‥‥。彷徨はその声を聴いて
〜‥‥少し言い過ぎたかな‥‥。〜
と痛切に思う。‥‥しかし人はなかなか素直にはなれない‥‥。"売り言葉に買い言葉"さらに言葉を続けてしまう‥‥。心にもないことなのに‥‥。
「ふ〜ん、食べなくていいのか♪」
〜――!!ふにゅー‥‥。何?‥‥そこまで言うの?私だって‥‥私だって不味く作ろうとしてるわけじゃないのに‥‥。‥‥それなのに‥‥。〜
「‥‥彷徨‥‥。私、先に行ってるから‥‥。」
未夢は俯いたまま涙声でそう言うと、彷徨とルゥのもとを走り去っていった‥‥。
‥‥どんどん小さくなっていく未夢の後姿‥‥。
‥‥‥‥‥‥‥‥。
残された彷徨はベビーカーの中にいるルゥをのぞきこむ‥‥。そして訊く。
「‥‥おれが、悪かったんだよな‥‥?」
‥‥ルゥは何も言わなかった‥‥。



春の太陽の光がさんさんと公園に降り注ぐ。そんな公園で無邪気に遊ぶ子供達‥‥。‥‥
これ以上ないくらいに長閑な光景‥‥。
‥‥‥‥‥‥‥‥。
公園に着いた未夢は砂場の近くにあったベンチに腰をかける。
「きゃ〜っ♪」
すべり台、ブランコ、そして鬼ごっこ‥‥。それぞれの場所で子供達の歓声‥‥。
「はぁ‥‥。」
ため息‥‥ため息‥‥そしてため息‥‥。楽しそうな声を聴けば聴くほどに沈んでいくこころ‥‥。
‥‥‥‥‥‥‥‥。
遅れること数分。彷徨とルゥが公園に到着する。彷徨はベンチに座っている未夢の方を"ちらっ"と見る。‥‥一瞬ふたりの目が合う。‥‥が、その刹那未夢は"ぷいっ"と目をそらす。
‥‥‥‥‥‥‥‥。
彷徨はルゥを砂場におろすと、一緒に山を作る。手で砂をすっくっては、積み上げていく単調な作業‥‥。‥‥ルゥは彷徨が手伝ってくれるのが嬉しいらしく、笑顔だった。
「‥‥トンネル‥‥掘らないの?」
‥‥突然の聴いたことのない声。彷徨とルゥは手を止めて声の主の方を見る。‥‥そこにはルゥよりも少し大きい男の子‥‥。
「トンネル作った方が、カッコイイよ!?」
男の子はそう言うと、二人が作っていた山にトンネルを掘り始める。その様子を見てルゥもトンネルを掘り始める。
‥‥‥‥‥‥‥‥。
‥‥‥‥‥‥‥‥。
「きゃーっ!」
「やったーっ!」
重なるふたつの幼い声。その声の主は、お互いに土の中で手を握っている。
「次は水を通そうよ♪」
男の子ははしゃぎながらそう言うと、近くに投げ捨ててあった、自分の身長の半分もあろうかという大きなバケツに水を汲みに行く。その後姿をじっと見つめるルゥ。
――ちゃっぷちゃぷ――
水がいっぱいに入ったバケツを手に、男の子が戻ってくる。1歩歩くたびに水をこぼしながら‥‥。そんな様子を見て彷徨が助け舟を出す。
「おれが運ぼうか?」
「ううーん。‥‥いいっ!自分でできるから!」
なんでも自分でやりたい年頃なのだろう。彷徨もその気持ちを汲み取り、それ以上は言わなかった。
――ちゃっぷちゃぷ――
‥‥目指す砂場まであと2,3メートルといったところ‥‥。
「っあっ!!」
――ばっしゃーんっ!――
大量の水がバケツの中から、前方の空間へと飛び散る。彷徨は急いでルゥを抱き上げると素早くその場から離れた。幸い、水は前に飛んだため男の子も濡れずにすんだ。‥‥が、
「ごめんなさいっ!お姉ちゃん、ほんとにごめんなさいっ!」
砂場の近くのベンチに座っていた未夢を直撃した。‥‥男の子はびしょびしょになった未夢に必死で謝る。
「いいよ。わざとじゃないんだしね。それに今日みたいなお天気だったら、すぐに乾いちゃうよ。」
未夢はそう言って男の子に向かって笑う。男の子は明るさを取り戻した声で「ありがとう!」と言って、ルゥの方へ戻っていった‥‥。
‥‥‥‥‥‥‥‥。
――ぽむ――
彷徨の左手が未夢の頭を軽く叩く。未夢は彷徨を"キッ"とにらむ。
「‥‥ルゥのタオルケットだ。ベビーカーの上にあったからきれいだぞ‥‥。」
彷徨はそう言うと、ルゥたちのもとに戻った。
〜‥‥こういう時だけ優しいなんて‥‥、ずるいよ‥‥。〜
未夢はそう想いながら無意識のうちに彷徨を見送っていた。
‥‥‥‥‥‥‥‥。
「よおっし。もう1つ作るぞ〜!お兄ちゃんも手伝ってっ。」
「え、おれも‥‥?‥‥いいぜ。」
少し戸惑いながらも承諾する彷徨。そしてルゥを含めた3人での共同作業が始まる。
そんな3人の様子を見て微笑む未夢‥‥。
〜‥‥彷徨って、小さい子に‥‥、優しいんだぁ‥‥。〜
‥‥‥‥‥‥‥‥。
「よおっしっ!かんせ〜っ♪」
「‥‥やっとできたなぁ!」
「だぁ〜っ!」
作品を完成させ喜ぶ彼らの姿を見て、未夢は思いを馳せる‥‥。
〜‥‥こんな家族だったらいいなぁ‥‥。ルゥくんやあの子みたいに、元気でかわいい子供がいて‥‥、//‥‥彷徨みたいな‥‥〜
「も〜ぅ‥‥、こんな所にいたの。」
‥‥その新しい声で未夢の思考は中断された。未夢と彷徨は若い女の人のほうを見る。‥
‥その視線に気付いたのか女の人はお辞儀をして言った。
「うちの子を遊んでいただいたみたいで‥‥、どうもありがとうございます。」
「あ、いえいえ‥‥。」
と、あいまいな笑みを浮かべながらそう答える彷徨。‥‥男の子の母親はルゥをじっと見つめたあと
「‥‥この赤ちゃんは‥‥?」
と言って今度は未夢と彷徨を交互に見る。‥‥少しだけ頬を赤く染める未夢‥‥。
‥‥‥‥‥‥‥‥。
男の子がルゥとうなずきあう。そして男の子は母親に向かって言った。未夢と彷徨を指差
して‥‥。
「ママ、このお兄ちゃんとお姉ちゃんが、この子の『パパ』と『ママ』なんだって!」
彷徨はあまり反応しないが、未夢は顔が真っ赤になる。そして慌てて否定しようとする。
‥‥が、母親の方が先に口を開いた。
「ほら、もう帰りますよ‥‥。おふたりともこの子の面倒を見て下さって、本当にありがとうございました。うちの子はほんと落ち着きがなくて‥‥。半年後には『お兄ちゃん』になるというのに‥‥。」
「ぼく、お兄ちゃんになるんだよね!」
男の子は少し誇らしげに母親に訊き返す。それににっこり笑って答える母親。
「ええ、そうよ。」
‥‥そしてもう1度未夢と彷徨を交互に見て言った。
「おふたりには『2人目』の予定はあるんですか?」
これには未夢はもちろん、さすがの彷徨も耳まで真っ赤に染まる‥‥。
「「//‥‥ちっ,違い‥‥//」
声が重なってしまった未夢と彷徨は、思わずお互いを見てしまう‥‥。
‥‥‥‥‥‥‥‥。
そんな光景を見て母親は微笑みながら言った。
「ふふっ。あなたたちの子供じゃないことはわかってますよ。‥‥でもおふたりがあまり
にもお似合いだったから、言いたくなっちゃったんです。‥‥。‥‥末永くお幸せ♪」
「「//‥‥なっ‥‥//」」
またしても声が重なる。‥‥未夢も彷徨も顔を真っ赤にして俯いている‥‥。
〜‥‥あのお母さん‥‥、彷徨よりこわいよぉ‥‥〜



男の子とその母親が帰ったあと砂場に残ったのは、トンネルが完成して満足そうなルゥと、‥‥顔を真っ赤に染めた未夢と彷徨‥‥。‥‥そしてチョコみたいに甘くて少し切ない春の空気だった‥‥。




ちょっぴり恥ずかしくて‥‥

ちょっぴり甘くて、くすぐったくて‥‥

だけど心地いい‥‥。

そういえば明日は‥‥

‥‥『ホワイトデー』‥‥





Fin

読んでくださった方、ほんとにありがとうございました!そして企画に参加させてくださった李帆様、ほんとにありがとうございました!
‥‥少し変わった『ホワイトデー』novelにしあげてみました。(‥‥っていうか邪道ですね‥‥(爆))それと『だぁ!だぁ!だぁ!』では初めて昼間の"しゅちゅえーしょん"です。‥‥ほんとは、もっとシリアスにいきたかったのですが‥‥。昼間はシリアスの大敵です(爆)
そして『甘い』のが好きな方、申し訳ないです!『ホワイトデー&誕生日』企画なのに"kiss"さえありませんねぇ‥‥。むぅ〜‥‥。
あ、彷徨くんには呆れられますが、自分は『本気』だしても朝早く起きれません(爆)
最後にも1度っ。読んでくださった方、企画に参加させてくださった李帆様、ありがとうございましたっ!

2003 3  6 (作成)
2003 3  8 (修正)  ばい  しぎたみ くぐい

[戻る]