June bride
「―――しよう」
‥‥それは最高に嬉しかった言葉。
‥‥ずっと待ってた言葉。
そして、あなただけに言ってもらいたかった言葉‥‥。
あの時プロポーズのことを思い出しながら控え室の窓の外を眺める未夢。
視線の先には森の中の少しこじんまりとした教会。その教会の上の十字架は、初夏の太陽の光を反射して眩いばかりに光り輝いている。‥‥それは聖なる光―――。
〜神様も私たちのこと、祝福してくれてるのかな?〜
そんな子供じみた思いを彼女は、胸のうちにそっと漏らす。
〜『子供みたいなこと言ってんじゃねーよ』〜
自分の中の彼がそう言ったようで‥‥、少しくすぐったかった。
新雪のような純白のウェディングドレスをその身にまとい、同じ色のグローブをし、少しピンクがかったベールを身に付けて‥‥。
――とんとん‥‥――
「未夢、入るぞ」
その声とともに、紺のタキシードでびしっと決めた一人の青年が姿をあらわす。
少し照れくさそうに俯いている彼に、未夢はそっと微笑む。
「‥‥どうかな?」
「まあまあ‥‥なんじゃねーか‥‥」
素っ気ない様なその言葉でさえも、彼女にとっては最高の言葉で‥‥。
心のうちをくすぐられるみたいで、少し恥ずかしくて、あたたかい。
「ありがと。‥‥彷徨」
「‥‥ばーか」
いつもどおりの会話のあとに、どちらからともなく相手を抱きしめるふたり。
優しく、包み込むように――。
ふたりだけのそのへや空間には、柔らかな木漏れ日が差し込んでいた。
これから、同じ道を歩むふたりの未来を、明るく指し示すかのように――。
「そろそろ、教会の方へ移動いたしますが‥‥」
「「あ、はい!‥‥今行きます!」」
係りの者の声をききふたりは、少し慌てた様子で体を離す。
急に現実にもっどったみたいで、こっぱずかしくて、彼女は彼に向かって、“へへへっv”と苦笑いを浮かべた。
外は昨日までの雨が信じられないほど、爽やかに晴れ渡っていた。
森の中の小さな教会‥‥、それは彼女が望んだ“式”の場所だった。小鳥のさえずりが、涼しげな初夏の風に運ばれてくる。それは小さなオーケストラのようでもあり、ふたりを祝福する歌声のようでもあった。
控え室から教会までは200メートル程度。慣れない服装だとしても、徒歩3分の距離。
ふたりは互いに手を取り、みどりクローバーの絨毯の上をゆっくりと進んでいく‥‥。
――とくん――
彼女の胸が少し高鳴る―――。
〜あなたのことを想いはじめたのって、いつからなんだろう?〜
ふと心にわいた素朴な疑問。
〜‥‥‥‥‥‥‥‥〜
いくら考えても答えは見つからない。
「また何かくだらないこと考えてるだろ!?」
彷徨は未夢の頭を“ぽん”と軽く叩く。
「くだらなくなんかないもんっ!」
彼女は頬を膨らませる。
「じゃあ、何考えてるんだよ‥‥?」
彼の瞳がいたずらっぽい少年の瞳になる。
「それは‥‥」
「それは‥‥?」
彼女は困り果てて、上目遣いに彼を見る。
‥‥そしてその、いたずらっぽい瞳に気付く‥‥。
「‥‥彷徨のいじわるぅ‥‥」
そう言っている時でさえも、彼女の微笑が絶えることはなかった。
そして、どんなときよりも幸せな時間だった――。
教会の中はステンドグラス越しに太陽の柔らかな光が差し込んでいて、思っていたよりも明るかった。高い天井に描かれた白い翼を持った天使が、ゆっくり奥へと進むふたりを静かに見守っている。
“披露宴は別にするから”そう言う理由で押し切ったため、教会内にはふたりと神父しかいない。
〜お父さん、お母さん‥‥、私のわがままを聞いてくれてありがと‥‥〜
両親のことを想うと彼女の瞳から涙が少しあふれた。
結婚したからといって、両親に会えないわけでもない。だけれども、不思議に涙はあふれてくる‥‥。
〜悲しくなんかないのに‥‥〜
「大丈夫か?」
彷徨は横を向き、優しく声をかける。
「‥‥ぅん‥‥」
目をこすりながら、彼女は静かに頷いた。
‥‥そして彼の手を少し強く握り締めた‥‥。
誓いの時はもうそこまで来ていて‥‥、
至福の場所はすぐそこにあって‥‥。
「‥‥汝、光月未夢は、西遠寺彷徨を夫とし、終生変わらず愛することを誓いますか‥‥?」
「‥‥はい‥‥誓います‥‥」
「‥‥汝、西遠寺彷徨は、光月未夢を妻とし、終生変わらず愛することを誓いますか‥‥?」
「‥‥誓います‥‥」
「‥‥それでは誓いのkissを‥‥」
見つめあうふたり‥‥。
近づいていく唇‥‥。
「いつまで、寝てるんだ!?また遅刻するぞっ!」
どこにあったかもわからないピコピコハンマーで、未夢の頭を叩く彷徨。
「‥‥いったぁ〜。‥‥何するのよ!?あなたぁっ!」
叩かれた頭をなでながら、視線を上げると学生服姿の彷徨が立っていた。
〜‥‥学生服ぅ!?〜
「“あなた”‥‥?」
彷徨が訝しげに未夢の顔をのぞき込む。
‥‥ようやく、“夢”と“現実”がわかった未夢。恥ずかしくて、顔があげられない。
「//‥‥あの、えーと、その“あなた”って言うのはぁ。えーと、そのぉ‥‥」
困り果てた未夢は、もう1度視線を上げる。
‥‥がそこに彷徨はいなかった。不思議に思っていると、玄関から彼の大きな声がした。
「待っててやるから、早くしろよーっ!」
“―――しよう”
その言葉を‥‥
もう1度彼女が聴くのは‥‥
そう遠くない未来だった‥‥。
Fin
読んで下さってホントにありがとうございます!
そしてイベントを企画してくださった山稜しゃんをはじめとするみなしゃまご苦労様です!
‥‥夏にこれっぽっちも関係のないお話ですみませんね‥‥(><)
あ、でも6月は暦の上では夏かもです(苦笑)
夢オチにしようかどうしようか迷いましたが、結局無難な“夢オチ”を使いました。それでも、”目指すべき”ほの甘には程遠いですねー。うんうん。
集え!ほの甘同盟です(謎)
今回あえて“結婚”の文字を伏せました。伏せた方がよりリアルかなぁっと思ったので。私は伏せてよかったと自己満足しているのですが、どうだったでしょう?やっぱり煩わしかったですかね‥‥?
‥‥時間がなさ過ぎて(無駄に使いすぎて)気付けば期限ぎりぎり(><)今からネタ探しではまず間に合わない!‥‥ということで、掘り起こした物で参加させていただきました‥‥。
最後にもう1度。読んでくださった方ありがとうございましたっ!
ばい しぎたみ くぐい
意訳〜6月の花嫁〜
|