駆除

(下)

作:あゆみ

 →(n)



ガチャリ・・・

ふぅ・・・未夢が家にいてよかった。
でも未夢が会社に来るのか・・・
なんだかいやな予感がする
急いでいたとはいえ。
会社に呼ぶべきじゃなかったかな。


一抹の不安。
結婚してもこういうことは敏感になり不安になる。
何かいやな予感がする。
何事もないといいけど・・・









***************


(何着ていこう!!
私って会社とかで働かないで結婚したから職場の雰囲気とか分からないけど
せっかくの機会なんだもの!楽しんじゃお!!)


未夢は姿見の前で一度友人の結婚式で来た空色のスーツを体に当ててみた
母親が鏡の前でいろんな服を体に当てて選んでいる姿を幼い未宇は親指をしゃぶりながらポカンと見ている



(私もこういう格好すればキャリアウーマンに見えるかな?)

未夢は鏡の前で自分の姿を見て含み笑いをした。


(こんな格好彷徨もあんまり見たことないよね・・・
びっくりするかな?)


未夢はこの先彷徨に会うことを考えて
彷徨がどんな表情をするか楽しみになってきた


えへへ///


未夢はストッキングに脚を通し、白いブラウスに腕を通す
クローゼットにかけておいた空色のスーツのスカートを穿きジャケットに袖を通す
長い髪をまとめ、化粧を施す。


「働く女性の完成!!未宇!どう?ママカッコいい?」


未夢は鏡に映っている自分に納得してうなずく。
未宇はキャ!キャ!と手をたたきながら喜んでいる

「そう!かっこいいでしょ〜!!」
(さてと・・・)


未夢は彷徨の忘れた茶封筒を手に取りハンドバックをとる。

「これからママ。パパの会社に行ってくるから未宇はおじいちゃんと家で待っててね!」


未宇はきょとん?としながら未夢を見上げている・・・・・





*******************


彷徨はさっきから落ち着かない。
あの未夢が自分の会社に来るのだ、
しかも会社の中ではどうやら自分と未夢のことは噂になっているようだし(『噂と真実』 晴華談)
未夢のあの容姿である。
虫が、・・・いや男性社員が接触してくるかもしれない。

相変わらず未夢は鈍くて、だまされやすい。
そこが未夢のいいところなのだがもう少し自分のことをわかってもいいのでは?と思う。
結婚してからは学生の時のように未夢に近づく奴に四六時中目を光らせるようなことはなくなった

学生の頃、ふと思うことがあった・・・
できることなら一日中・・・いやずっと自分の腕の中に未夢を感じていたい
外の空気にも触れさせず
未夢が外の天気も分からないくらい家に閉じ込めていたい
他の奴が未夢を見るだけで
たまにそんな感情が芽生えることがあった
俺無しでは呼吸ができなくなればいい
未夢の目に映るものは俺だけでいい


そんな独占欲が俺にもあったのかとはじめは驚いた
未夢に出会って
自分の人間らしさに驚いた
このさきずっとこんな自分に新しい感情を教えてくれるのは未夢だろう
そう願ってプロポーズし、結婚した


もう、愛しているとかいう言葉だけでは足りないくらいだ。



でもそんなこと本人にはいえない。






絶対に・・・・・








俺が見張るしかない
悪い虫が付かないように・・・
結婚してからもそれは変わらない

しかし、今日は久しぶりのこの不安感に戸惑っている。
無事に一日が過ぎるといいのだけれど・・・







*******************



(ここが彷徨の働いている会社か〜!!)

あたりを見渡すと大理石を思わせる石のタイルが張り巡らされている建物
未夢は辺りを見回して目を光らせた。

(毎日彷徨はここで仕事をしてるのね!!)


未夢はしばらくきょろきょろしながら正面入り口の辺りをうろうろした。

(えっと・・・彷徨にこれをわたさないとな!)

未夢は時計に目をやると1時をちょうどまわったところだった。

(時間は余裕!私にしては上出来ね!さてと・・・まず受付に行ったほうがいいよね・・)

未夢はちょっと高めのヒールのかかとを鳴らして受付に向かう。

「あのぉ・・・すみません」
未夢はそこにいた受付嬢に声をかけた。

「はい。」

「わたし・・・(う〜ん西遠寺じゃつまらないな)光月といいます。○○部の西遠寺さんにこの封筒を渡したいのですが・・・」

「○○部の西遠寺さんですね?アポは取っていますか?」

「はい。とっています」

「少々お待ちください」
というと受付嬢は受話器を持ち内線番号を押す。

「もしもし・・・1階の受付です。西遠寺さんはいらっしゃいますか?光月さんという女性が見えてますが・・・
はい・・・はい・・・わかりましたお伝えしておきます。」

ガチャリ。

「お待たせしました。申し訳ありませんがただいま西遠寺は席をはずしております。代わりのものが受け取りに参りますので
3回のラウンジに来ていただけないかとの事です。」

「はい。わかりました。3階ですね。代わりの人って・・・?」

「晴華と申すものです。」

「あぁ!わかりました。ありがとうございます!」








*************************


3階のラウンジってここでいいのよね?




未夢はまだまばらに人のいるラウンジの一つの席に座って待つことにした。
脚を組み机にひじを突いて頬杖を付く
その姿をコーヒーを片手に休憩を取っていた3人組が気づいた。
3人は顔を見合わせうなずき
未夢のもとへと歩み寄った


「ねぇねぇ。きみ何処の課の子?」
「えっ?」
「君みたいな子始めてみたなぁ〜」
「あの・・・。」
「名前教えてよ!」
「あのですね・・・。」


三人同時に声をかけられ、突然のことで未夢は驚いてしまった。
口はパクパクするが声にならない。

(なに?この人たち?・・・)


「ねぇねぇ。名前なんていうの?何処の課?今度食事でもどう?」


このような質問が未夢を攻め立てる。
未夢は体の前で手をパタパタさせるが声にならず
なかなかこの場を切り抜けられない。

(なんかこの人たちイヤ・・・晴華さん・・・彷徨・・・早く来て!)






************************


「おう西遠寺!封筒届いたみたいだぞ!」

先ほどまで上司と話していた彷徨が机に戻ってきたので晴華は彷徨に伝える

「光月さん?っていひとがもって来てくれたみたいだ。俺が変わりに受け取りに行くことにしてて
ラウンジに待たせてるよ。」

「そうか・・・思ったより早かったな・・・」

「光月さんって誰だよ?おい!」

晴華はニヤニヤしながら肘で彷徨の肩を突っつく

「えっ?そういえばあいつなんで『光月』って名乗ったんだ?」
「はぁ?」
「光月って奥さんの旧姓だよ。」
「そうなのか〜!俺はてっきり愛人の家に封筒を忘れてきたのかと思ったよ。」

彷徨は晴華をじっとにらみつける
その視線に晴華はビビリあわてて付け加える

「まぁ!そんなことあるわけないよな!あんなにラブラブなんだから」

と彷徨のうちに行ったときのこと思い出しながら呟いた。

「おま///あれは忘れてくれ!!」
彷徨は顔を赤くし晴華に言う

「忘れられるわけねぇじゃん!」
晴華はニヤニヤしながら彷徨の顔を覗き込む

「あぁ・・・あんなところをお前に見られるとはな・・・。もぉいい!とっととラウンジ行くぞ!待たせてんだろ!」

「そうだった!早くいかないとな!」


彷徨と晴華は二人肩を並べてラウンジに向かった。




***************************


「奥さんもう出産したんだよな?」
「あぁ・・・。女の子。」

「そっか〜あの奥さんにお前の子ならさぞかし持てる子に育つだろうなぁ〜」

しみじみと晴華は未来のことを思った。

「そしたら親父のお前はどうなるんだろうな。」
「とりあえず未宇にとって悪い虫なら俺が駆除するよ」

そんなことを真剣な表情をしていう彷徨の横顔をみた晴華は

「未宇ちゃんもたいへんだなぁ・・・」

と小さく呟いた。







そうこうしてラウンジに着いた二人
辺りを見回し未夢の姿を探した。

そして彷徨はいち早く見つけた。
空色のスーツを着て髪をまとめ挙げている未夢の姿を。


しかしそこには未夢一人ではなかった・・・




みた事のない男3人が未夢の周りを囲んで何か言っている
未夢は明らかに困り果てている表情をしている。

彷徨はそれだけで十分な条件だった。
意識より先に脚が走り出す・・・・・

「おい!西遠寺!」


突然走り出した彷徨に驚いた晴華は後ろから声をかけたが
もう彷徨の耳には届いていない。


「・・・・・・・・・あの困ります。私人と待ち合わせてて・・・」
「いいじゃん!今すぐにとは言ってないからさ〜今日の夕飯はどう?」
「・・・・・・あの・・・・ホントニ・・・・・」










「未夢!!」


「彷徨!!」



突然後ろから声がして未夢と三人の男は声の主の方に振り向く

「未夢何してんだ!」
「彷徨・・・あのね。この人たちが今日ご飯食べようって・・・」

「なに?」

彷徨はギロリと3人をにらんだ。
そのきれいな顔からは想像できない表情に3人は驚き後ずさりする。

「「「いや・・・俺たちは・・・」」」



「こいつは今日も明日も明後日も俺と飯を食うんだよ!!」


「そっか・・・・いや。。。連れがいるとは・・・」
「仕事に戻れよ!」

「あぁ・・・そうだな・・・」


三人はその場の雰囲気に耐えられず逃げ出す。


「ったく。。あいつら何しに会社にきてんだよ・・・」



走り去る3人の姿を見送り彷徨は呟いた。
未夢は彷徨の背広の裾をつかみ隠れるように立ち去った3人の後姿を見送る。
ほっと肩をなでおろし息をつく


「ったく・・・なにしてんだよお前は・・・」

「私だって分からないわよ!あの人たちが突然・・・」
未夢はうっすら涙を浮かべて彷徨を見上げる。

(はぁ・・・本当に危なっかしいなぁ・・・。間に合ってよかった・・・。)


彷徨はほっと安堵のため息をつき未夢の目じりに指を伝わせる。
未夢はその彷徨の大きな手を自分の手で包み込みホホを摺り寄せる

「猫・・・」

「ねこ?」


「お前猫みたい・・・ってあれ?お前指輪は?」

彷徨は未夢の左の薬指にあるはずの結婚指輪がないことに気が付いた。

「ああ〜!!彷徨に電話貰った時お皿洗っていてはずしたまま来ちゃった〜!!」

「おいおい!忘れ物を届けに来たお前が忘れ物してどうするんだよ・・・」

彷徨はおろおろしている未夢を見てあきらめたように肩を降ろす・・・

(それであいつら近づいてきたのか・・・)


「くっくっくっ・・・」
「何よ〜!笑うことないじゃない!」
「しんじらんね〜」

彷徨は笑いながら手をおでこに当てて笑っている表情を隠す

「・・・彷徨?・・・怒った?」

顔を覆っていた手をどけて未夢のおでこを指ではじく

「いった〜!!」
「これは罰!」

彷徨は少し舌を出して未夢を見下ろす。
未夢は少し不満げにおでこをなでながら見上げる。

「ごめんなさい。」
「これからは忘れんなよ!」

「はぁ〜い・・・」







「分かればよろしい!」




「なにそれ!えらそ〜!!」

未夢は彷徨に自分の小さなこぶしを振り上げる
彷徨はその左のこぶしを手首をつかんで制する

「じゃあこれは変わりだ!」

彷徨は未夢の手の甲めがけて唇を落とす。

「ちょ!///////////////彷徨!」

未夢は顔を赤くはするものの振りほどけなくてされるがままの状態になる。

(こんなところで///彷徨人に見られちゃうよ〜////)

しばらく未夢の手に唇を落とした彷徨は未夢の手がわずかに震えているのを感じながら
唇を離す・・・・・・












「今度から忘れんなよ!これは変わりだ!俺は2時から会議があるからここで分かれないといけない。気をつけて帰れよ!」



「えっ?・・・・うん////」






未夢はハテナマークを浮かべながら会議に向かう彷徨の後姿を見送る。






変わり?
なんの?










未夢はさっきまで彷徨が唇を落とした
熱くなっている手を見る






あっ////////
















そこに見たものは







左の薬指・・・・







エンゲージリングの位置につけられた彷徨の印だった・・・・・・・・






END?



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