ホットタイム

作:あゆみ



今日も続く、彼のイタズラなキス。





学校から、徒歩15分で着く西遠寺だけど内5分は長い階段に費やされる。
そんな階段を上り終えたあと。
お気に入りの紅茶を入れてこうやって、のんびり居間で過ごせるのは
最高の贅沢だと思う。



今日も、いつものように学校が終わり西遠寺に帰ってくると
ママがイギリスへ行った時のお土産と送ってきたオレンジペコ
を入れて居間でのんびりと過ごしていた。



珍しく英語の宿題を彷徨の力を借りずにを終え、
ポッキーをポリポリ食べながら読書をしているときのこと、
急に視界が塞がれて、あたたかいものが触れてきた。



ギョッとして目を見開いて固まり、驚いて座布団からずり落ちる私。
目の前を見れば、イタズラに笑う彷徨の顔。


「んっ……!?」



あっけにとられてる瞬間に、最後の欠片がポキンと折れてペロりと唇を 舐められた。
ザワザワと感覚が背中を駆け巡りドクンと脈を打って、思わず固まる身体。



「ぷっくくくっ……最高、その顔」

「な・・・何なのっ、ビックリして喉に詰まらせるとこだったじゃない!」



私はゼーハー言いながら、まだドキドキしてる胸を抑えて、やっとのことで身体を起こした。
まだ企んだ顔をしたままの彷徨。
ビクッとして身をよじろうとすると、ジリジリと顔を近づけてくる彷徨。




「な、何よ?」

「もっと美味しいこと、しよ」

「え……?」





彷徨が今度は隣にドサッと座って、私の肩に手を回してきた。
一瞬にして、抱きしめられたてキスされたかと思ったら、口の中に何かが入ってきた。





「んんんっ?」

「おいしいだろ?」

「ちょちょっと、今度は何? なんか、ジワッとくるんだけど」

「お酒入り。」





箱を手に持って、まるで子供みたいに楽しそうに笑顔を向ける彷徨。

やられた――
にっこり笑うブラウンの瞳には適わない。


それはお酒入り5%のチョコレート。
5%って……、普通にカクテル1杯分のアルコール量。
口移しされたチョコはほんのり苦くて甘くほどける味だった 。


フワリフワリ身体の奥が軽くなって、心地の良い風に揺られてるみたい。
彷徨は、くすっと小さく笑って、私の頬をツンツンと触れてきた。



「なにこれ・・・。どこで。」

「ん?バレンタイン親父がもらってきた余り。ああみえて酒に弱いから親父。」



そういって、彷徨はぺろりと舌なめずりをした。




「未夢はすぐに顔が赤くなるよな」

「……あのねえ、今から酔わせてどうすんのよ」

「だって、つまらない。未夢が構ってくれないから」

「つまんないだもんって……、子供じゃないんだから。
 っていうか彷徨ってこんな性格だったっけ?」




ほろ酔い気分になりながら呆れたように言うと
彷徨はじっと見つめてそこから動かなかった。




「な、なに?」





真顔でじっと見つめられると、どうしていいか分からなくなる。
だんだんと近づいてくる彷徨の息遣いや、柔らかい髪の毛先が
私の頬を撫でるように触れた。



なんでこうやって、じっと見つめるんだろう。



こっちは、ドキドキしてバクバクして止まらないって言うのに
なんでそんな涼しげな顔しちゃって、まっすぐに瞳を向けれるの?

そっと私の耳の下に手を寄せて、近づいてくる唇。

ほろ酔いでドキドキした心臓は、ますます激しく暴れ出して
顔が真っ赤になっていくのが自分でも分かる。





「ちょ、ちょっと待った――!」




ドンっと思いっきり彷徨の胸を押して、私は畳から起き上がった。




「ね、わざとやってる?そんなに自分の顔を自慢したいとか?
俺ってそんなにかっこいいか?って……」




私がふざけて言い出すと、怪訝そうな顔をして固まる彷徨。

だって、そうでも言わなかったらドキドキしてどうしていいか分からないんだから。




「俺がそんなこと言うと思う?」

「……じゃあ、じっと見るのやめてよ」

「なんで?だめ?」

「なんでって……だめだよ」




ちょっと前からは考えられないくらいの彷徨の変貌。
きっかけはあの時。めちゃくちゃなバレンタインの告白から。
私の思いを全部とかし込んだホットチョコレートを飲んだ彷徨は
ねじが一本飛んでしまったような性格になってしまった。



想いが通じずにヤキモキしていたあの頃が嘘みたいな日々を過ごしている。
彷徨は意外と甘えん坊だった。
学校ではそうでもないけど二人きり、とくに家にいると今日みたいに「かまって病」が出る。

あまりもの変貌振りにいつだったか聞いてみたことが在る。
いつものようにじゃれあい、最終的には彷徨のしたいようになってしまう。
あの時は確か「ひざまくら」だった。私の太ももにかかる彷徨のやわらかい髪の毛と
吐息をくすぐったいと思いながら聞いてみた。




――― ねぇ、彷徨ってこんなだったっけ?


――― ん?


――― クールな彷徨さんはどこへいってしまったのかね?


――― ずっと、こうしたかった。


――― そ・・・そう。






・・すっごい殺し文句だ。





ねじが外れたのか、素直になったのか。
私はうれしいような恥ずかしいような複雑な気持ちになったことを思いだす。


ほら、またじっと見てる。
キラキラさせて透き通るようなブラウンの瞳。


こんなにドキドキしてる私の心の中まで
見透かされてしまいそうで。





「……だから、じっと見ないでってば。どうして……」

「見てたいから。未夢が俺に見せる表情のひとつも、見逃したくない」




ハッキリと真顔で言い切って、再び顔を近づける彷徨。
そんなにスパッと言われちゃうと言い返せなくって。
モゴモゴと口の中で消化していった反論の言葉。


それから、ちょっとだけ意地悪な瞳を覘かせると、
耳元でヒソヒソと囁いてきた。





「……そうやってふてくされてる顔もかわいいって思うから不思議だよな。」

「あ、バカ……離れて」

「やだ……、離したくない。やっとそばにいていい権利を得たんだから。」




ズルズルと押し倒されるような形になって、腕をぐいっと引き寄せられる。
腰に回されたかと思ったら、ひょいっと持ち上げられて、私の身体が宙を浮く。





「あ、ちょっと――!」

「いい加減に俺に構って……」



いつもそう。
最終的にはこうして彷徨に捕まって逃げられなくなる。
甘い言葉と、キスと、態度で骨抜きにされる。




――― いつか彷徨も飽きる日が来るのかな?
――― さあね。





そうして不適な笑みを漏らして彷徨色に染まる。
今は、このときは「先」のことなんて考えずに。
流れるままに・・・  それもいいかもしれない。






そう思った。





2008/03/22 遅くなりましたが、ホワイトデーネタ・・・かな?
ちょっと性格が違う気もしますが、二人の世界ってこんなものよね(笑)
あまーいバレンタイン以上のホワイトデー。
ずっと続くといいなこの二人。         あゆみ


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