作:あゆみ
2月14日。西遠寺。
どうしよう……なんかこんなのを作って渡しても要らないとか、
俺、甘いものきらいとか、毒でも入ってんじゃねーだろうなとか言われそう。
―― いや、彷徨なら絶対言うだろうな・・・
綺麗にラッピングした包みを両手で握って、言われるであろう台詞と
その時に浮かべるだろう意地悪そうな彷徨の笑顔を想像しながら
私は小さくため息をついた。
―― だけど、気づいちゃったんだからしょうがないじゃん。
好きだって思えば思うほど、言えなくなった。
そういう気持ちも同時に気づいちゃったわけだけど・・・。
ルウ君たちがオット星に帰ってから私たちはそれぞれの道を歩んでいた。
私はNASAから帰ってきた両親と実家のある街へ
彷徨は誰もいなくなった西遠寺で一人来るべき受験勉強をしながら
おじさんの帰りを待っている。
そして西遠寺を一人で守っている。
―― すごいよ彷徨。
色々なことを両立できる彷徨をこんなにも凄いと思うようになったのは
私たちが離れ離れになってからだった。
私と彷徨は、生活の場が離れてからもたまに会ったりしていた。
一中の皆はどうしているだろう、
とか、ルウ君達は元気かな?とか他愛の無い話。
でも、なんか一緒にいると落ち着くそんな存在。
いつの間にか一緒にいる時間が何よりも楽しくて、
会えない日はどうしてるんだろうとか
思うようになって……いつの間にか好きになっていた。
ううん・・・きっと前から好きだったけど気づかないようにしていた。
自分が傷つくのが怖いとかそういうのじゃない。
ルウ君がいて、ワンニャーがいて彷徨がいて・・・
そんな家族みたいな関係を壊したくなかったからじゃないかな?と思う。
私が西遠寺を出るとき彷徨は言ってくれた。
「いつでも帰ってこいよ。」
柄にも無いというように顔を赤くしてうつむき加減でそういってくれた
あのときの彷徨を私は忘れない。
そして私の好きという気持ち・・・・・・。
意識しだしてからは早かった。
今まで通りにと思えば思うほど絡まっちゃって・・・
自分自身でもおかしな行動をとっていると思ってた。
そんな私に彷徨は小さく笑って『馬鹿だな・・・。』って言う。
ねぇ、知らないでしょ?
これまで、怒るしかなかったそんな台詞も、今の私には心がジーンとしちゃって
自分のうちに帰って思い出すだけで涙が出るくらいうれしいってことを・・・
だから今日、日本中の女の子が想いを伝えられる
バレンタインデーに私も便乗して思いを伝えることを決心した。
昨日の夜作ったチョコレートをラッピングして
学校帰りに西遠寺に行く。
彷徨には昨日の夜に「明日西遠寺いくね。」と伝えておいた。
◇◇◇
―― 想いを・・・伝えたい
そんな私のドキドキを返してよ。
私は西遠寺に来て直ぐにがっかりした。
そうだ、この人は凄いもてるんだ・・・。
西遠寺の門を開けて直ぐに気づいた。
沢山の甘い香り。
そう、今私が手に持っているものと同じチョコレートの香り。
昨日の夜何度も失敗しながら作ったトリュフを持つ手が重くなった気がした。
甘い香りの分だけ、彷徨に向けられた『好き』の中にいるのが辛くなってしまった。
こんなに沢山の想いがあれば、私のなんていらないよね・・・。
あんなにもいきまいて伝えようと思った思いが一気に地に落ちた。
私はがっかりしながら靴を脱ぎ西遠寺の長い廊下を歩いていった。
そして、歩いていくうち、甘い香りの中にいるうちにだんだんと腹が立ってきた。
「なんであたしが彷徨を…」
そう言いながらぶつぶつ歩いていると、急に後ろから硬いもので頭を叩かれた。
「痛っ……何?」
あたしが後ろを振り向くと、そこには、制服から普段着に着替えた彷徨の姿があった。
「何ってそれはないだろ。ここは俺んち」
「そっそれはそうだけど、もっと声のかけ方あるじゃないのっ」
私はぷぅっと頬を膨らまして、とっさにチョコレートの包みを隠した。
「お前がぼけーっとしてるからだろ」
私が抗議すると、彷徨がいつものいたずらを含んだ笑顔でそんなことを言う。
――いつもこんな調子だ。
でも、この人のこんな笑顔を見ると、なんか嬉しいと思う。
やっぱ私、好きなんだな。そう思った。
「何だよ、未夢。俺に惚れたか?」
あたしがじっと見つめていると、彷徨はそう言ってからかうような顔で笑った。
「そっ・・・そんなわけないじゃん」
――ほんとはそうなんだけど、なんか今日言えるかどうか不安になってきた。
そんな私の様子を微笑みながら見つめる。
さっきとは違う優しい笑顔・・・その顔を見て、私は不覚にもドキッとしてしまった。
あーもうやめて。そんな顔しないでよ。心臓の音が止まらなくなるよ。
「まぁいいや。で、何だよ、用事って」
「あっえっと……その……」
急に聞かれると言えない。どうしようどうしよう。
渡そうと思っていたチョコレートもいったん隠しちゃうと
意気込んでいた気持ちも引っ込んでしまったみたいで渡しづらくなった。
「何だよ、お前、呼び出しといて……まぁいいや。なんか腹減った。
夕方まで忙しくて何も食えなかったんだよ、俺。未夢、夕飯食っていくだろ?」
そう言って彷徨は、小さくため息をつくと、何もいえなくなってしまった
私の頭をポンポンと叩いて背を向けて台所へと歩き出した。
叩かれた頭にそっと手を伸ばす。
私の胸の中は意識と、そんな彷徨の何気ない仕草で決裂寸前・・・。
もうだめだ……あたし1人で意識しちゃってバカみたい。
◇◇◇
結局、そうやって食事中も、言い出すことが出来なかった。
たまたま、西遠寺に帰ってきていたおじさんがいるからっていうのもあるけど
言おうとすればするほど、心臓の音があたしの声を止める。
おじさんは食事を終えると、馴染みの檀家さんの家で一杯やってくるといって
西遠寺を出て行ってしまった。
また、二人っきり・・・
「おい、未夢、聞いてるか?」
彷徨はそう言いながら、訝しげな顔であたしの顔を見た。
「あ、ごめん何だっけ……?」
わー全然聞いてなかった。えっと何の話だっけ?
「あのなぁ……」
彷徨が呆れたようにため息をついた。
「ごっごめん。だって」
緊張しちゃってもうだめだ……言えない。あたし顔、赤くないよね?バレてないかな。
「何だよ、何か悩み事でもあんの?聞くよ。言ってみな。」
――彷徨、違うんだよ……好きなの。
「彷徨……」
「ん?」
良くルウ君をなだめるときに見せた笑顔が私に向けられる。
私の心は緊張・・・そして崩壊寸前・・・。
――うっ……だめだーーーやっぱ言えないっ
緊張で涙が出てきそうになる。
私は必死になって涙をこらえるのと言いかけた言葉を止めると、
また彷徨は呆れたような顔をして私を見つめた。
「何だよ、お前。今日おかしいぞ。」
――おかしいのは彷徨のせいなんだってば!
あたしは心の中でそう思いながら、結局また食事中に言うことも出来なかった。
◇◇◇
一体私は何やってんだろ……もうこんな時間。
時計をちらっと確認すると、21時を回っていた。
「未夢。」
ドキンっ、胸がひとつ飛び上がった。
「はっはい?」
私が急に驚いて声をあげると、彷徨は私の顔を見て、吹き出した。
「・・・何だよ、その返事。やっぱお前おもしれーな。飽きない」
そう言って、彷徨は笑ってる。
今だよ、未夢!言わなきゃ……渡さなきゃ……。
「あのねっ」
「あのさ」
一瞬、声が合わさってお互い顔を見つめあう。
「なっ何だよ・・・」
「なっ何よ、彷徨こそ」
――せっかく言えると思ったのにもうだめだ・・・。
これ以上は心が壊れてしまう・・・。
「何?先いいよ、彷徨。あたし別にたいしたことじゃないし」
もういいや。今日はやめた。
別にバレンタインだからってこだわること無い・・・
私がそう思ってると、突然こんなことを言われた。
「未夢、お前が今日来た理由ってさ・・・」
―― ドクン・・・
胸の奥がどこかにぶつかったような感覚。
彷徨・・・気づいて・・・。
えっ?!
あたしが驚いて顔をあげると、彷徨が柄にもなく顔を真っ赤に
している姿を見て、私はますます驚いた。
「あの…えっと今なんて…?」
今日来た理由……とか言わなかった?
あたしが固まっていると、彷徨は、顔を赤くしたままむっとしてこう言った。
「今日、西遠寺に来た理由・・・。」
彷徨?気づいたの?私の気持ち・・・。
どうしよう・・一気に私の顔の温度は上昇。
それに伴って動揺・・・・・・。
「そ!そうなの!バレンタイン!おじ様に渡しに来たの!!」
私のばかー!!
自分の天邪鬼な性格がにくいと今日ほど思ったことは無い・・・。
でも、でも・・・
自分の気持ちがばれたかと思ったらとっさに言ってしまった・・・。
そして、私は鞄からチョコレートを取り出すと、
「おじ様に渡しておいて!彷徨にはないよー」
ベーッっと舌を出して私は、彷徨のために準備したチョコレートを
宝生おじ様に渡してと彷徨に預けた。
あっけなく・・・ すんなりと・・・彷徨の手に渡った。
あて先変更で・・・。
― ばか未夢・・・。
「そっか・・・。」
そういって、少し寂しそうな彷徨の表情を直視すると
チクリと心が痛んだ・・・。
なにさ・・・。そんな悲しそうな顔しちゃってさ・・・。
「だ、だってさ!か、彷徨さん・・・ずいぶん貰ったみたいじゃない!」
私のなんか必要ないでしょ・・・と最後の一言は
聞こえるか聞こえないか位の声でつぶやいた。
すると、そういう私に向かって・・・彷徨は意外にもまっすぐな目で私を見つめてきた。
ダークブラウンの瞳が私を見ている・・・。
ずるい・・・
いや・・・ そんな目で見ないでよ・・・
私はわざと彷徨の視線を外すように座る位置をずらした。
すると彷徨はぽつりと言った。
「俺が欲しいのは貰ってない・・・。」
なぜか私の心はチクリと痛んだ・・・。
―― 彷徨が、欲しいチョコレート・・・
彷徨・・・好きな人いるんだ・・・。
◇◇◇
―- 知らなかったな・・・。
ジワリと傷から染み出した悲しみが・・・
私の目から涙になって流れそうになった・・。
こんな私見られたくない!
そう思って私は「ごちそうさま」といって食器を片付けに台所へといった。
そっか・・。
彷徨好きな人いるんだ・・・。
失恋か・・・。
彷徨の悲しそうな視線から逃げるように来た台所は、
もうここは私の居場所じゃないんだよ。
とでも言いたそうにひんやりとしていた。
「・・・っっく・・・。」
決して振られても泣くもんかと思ったのに
やっぱり振られてしまうと涙が出てきた。
私は・・・食器を洗いながら声を殺して涙を流した・・・。
遠くからテレビの音が聞こえる・・・。
彷徨が、居間のテレビをつけたようだ。
ひとしきり泣いたあと、私は食器洗いで冷えた手で、
熱くなった目の周りを押さえて冷やした。
冬の水は冷たく、手も痺れるくらいだったが
今の私にとってこれくらいの冷たさは丁度良かった。
そして、私は行動に起した。
―― きっと・・・届くことの無い気持ちだけど
何もしないまま引き下がるのでは光月未夢の名がすたる・・・。
そう自分を励まして私はあることを実行しようとした。
◇◇◇
トントントン・・・
まな板の上で彷徨のために作ろうとしたチョコレートの残りを砕く。
昨日、想いを込めて作ったチョコレートはおじ様のものになってしまったから・・・。
私は形に残らないようにとホットチョコレートを作ることにした。
まな板の上で残ったチョコレートを砕く・・・。
鍋には牛乳を沸騰直前まで温めて・・・。
彷徨のマグカップに砕いたチョコレートを入れて暖めた牛乳を半分まで入れる。
ゆっくりと掻き混ぜてチョコレートを溶かす。
― 彷徨・・・好きだよ。
私の気持ちもこのホットチョコレートに塗貸し込むように・・・。
そう、うまく形にならなかった私の思いはホットチョコレートにして
行き場をなくして溶けていく・・・。
チョコレートが溶けきったマグカップの中に残りのホットミルクを注ぐ。
最後にゆっくりと混ぜて・・・ できた。
私の思いを込めた ホットチョコレート。
私は自分のマグカップにお鍋に残ったミルクを注いで二つのマグカップを持ち
彷徨のいる居間に戻った。
彷徨はというと、テレビをつけたまま読書をしていた。
真剣な表情を横から眺める・・・。
―― いつまで・・こうしてこの人の横顔を見ることが出来るんだろう。
遠くない未来、きっと私の変わりに彷徨の隣にいるであろう女性を思い浮かべて
私は彷徨の前にホットチョコレートを差し出した。
「はい。彷徨。」
「ん、ありがと。」
本に夢中のままの彷徨は中身も確認せずにマグカップを手に取り
コクリと一口飲んだ。
私も一口ミルクを口にした。
あったかい・・・。
ふぅ・・・と深く息を吐くと、彷徨が私のほうを見ていることに気づいた。
それも、とても驚いたような、嬉しそうな笑顔を私に向けていた。
―― えっ?!
トクリと心が跳ね上がった気がした。
もしかして、ホットチョコレートに込めた気持ちがばれたのかと思った。
赤くなりつつある顔を見られまいと私はマグカップで顔を隠すように
ゆっくりと口つけていった。
それでも変らぬ視線・・・。
「な、なによ・・・。」
降参。そんな目で見られて普通でいられるわけなんて無い。
そうでなくても私は彷徨のことが好きなんだから・・・。
「未夢、これってホットチョコレート?」
チョコレートのという言葉に少しあせりながら私は「うん。」と小さく頷いた。
今日は2月14日バレンタイン。
そんな日に・・・送るチョコレートの意味といえば決まっていた。
だけど、私は形にならない想いをゆっくりと溶かして
好きな人・・・。彷徨に出した。
これが最後だから・・・。
届いて欲しいような、気づいて欲しくないような複雑な思いの中
私は、自分の気持ちがホットチョコレートを出したことで
ばれてしまったのではないかという不安に
駆られ、思わず泣きそうになった。
目頭が熱くなる。
マグカップを持つ手が震える。
すると、今までに聞いたことの無いような優しくて・・低い声で彷徨が言った。
「なんか・・・俺だけ、特別みたいだな・・・。」
ばれた!
そう思って顔を上げると彷徨と視線が合った。
――― なんて、顔で私のことを見ていたの・・・
恥ずかしくなってとっさに私はまた視線を逸らした。
こくっ・・・こくっ・・・
彷徨がホットチョコレートを飲む音がする。
「特別だよ・・・。」
私は彷徨に聞こえないように小さな声でつぶやいた。
やだ・・・切ないよ・・・。泣きたくないのに・・・涙がでそう・・・。
コトリ・・・ マグカップがちゃぶ台に置かれる音がした。
「彷徨、来年のバレンタインには彷徨の本命の人からチョコレート。もらえるといいね!」
精一杯の笑顔、震えそうになる声を必死で抑えながら私は言った。
もう、自分でも泣いているのか笑っているのか分からないよ・・・。
「もう貰ったよ・・・。」
彷徨の声。
彷徨の言った意味が分からず「えっ?」っと首を傾げてみる。
「だからさ・・・。もう貰った。 俺の好きな奴から特別なチョコレート!」
彷徨の顔は普段の様子からは信じられないほど真っ赤になっていた。
少し睨み付けるようにして私を見ている。
でもそれは一瞬で、直ぐに優しい笑顔になってこういった。
「好きだよ・・・未夢。俺お前のこと好きだ。」
―― そう、私は今日・・・好きだって言いたかった。
えっ?!
私が驚いて顔を上げると彷徨が柄にも無く顔を真っ赤にしている
姿を見て私はますます驚いた。
「あの・・・えっと・・・今なんて?」
すき・・・とか言わなかった?
私が固まっていると彷徨は顔を赤くしたままむっとしてこういった。
「お前なー、何なんだよ、今日はっ!聞いとけよな。もー俺やだ……」
そう言っていじけたように私に背を向けた。
えっ?!
信じられない・・・ 彷徨が私を?
私が彷徨を好き と思うように? 同じに??
「好きなの」
混乱の中私が小さくそう言うと、彷徨がまた私の方に振り返ってこう言った。
「だから!俺は未夢が好きだって言ってんだよっ二度も言わすな!」
顔が真っ赤だよ・・・彷徨。
「そうじゃなくて!私も、彷徨のこと好き……」
私がそう言うと、彷徨は驚いて固まった。
――ばかばか……何か言ってよっ……恥ずかしい。
もーーだめだ、あたしすごい顔が熱い。倒れそう。
チョコとか、告白なんかもーどうでもいいや。
「それだけ……じゃああたし帰るねっありがと」
そう言ってあたしがそそくさと帰ろうとすると、突然ぐいっと腕をつかまれ、
そして抱きしめられた。
いつの間に傍にいたんだろう・・・。
「――未夢、今言ったのマジ?」
そう言いながら、私の体をぎゅうっと抱きしめる。
私はというと・・・心臓が半端じゃないくらい急速に音を立てて胸が苦しい。
「ほ、ほんとだよ。ずっと言いたくても言えなかったんだもん」
ついに言っちゃった……ていうかやっと言えた……意識するとなんかすごい脱力。
そして、彷徨は私の体を離すと、じっと顔を見つめて……、それは今まで見たこと
ないくらい綺麗な顔で、私は、もう体中から熱が出てるんじゃないかってくらいドキドキした。
それから、その顔がだんだんと近づいてきて、
「わぁっ!」
私は驚いて思わず、彷徨の体を軽く突き飛ばした。
「いってぇ……何だよ、未夢」
「だっだって、彷徨が急に顔近づけるから……だから・・・」
もーやめてッ……これ以上はもうあたし死んじゃうよ。
「しょうがない奴・・・俺はずっとこうしたいって思ってたけど・・・。じゃあこれでいいや」
彷徨は笑いながらそう言う私をもう一度引き寄せ、そしておでこにキスをした。
「彷徨……」
そんな風に思っていてくれたの?
私を・・・好きでいてくれたの?
すこしだけ頬を膨らましてすねた振りをしている彷徨がなんだか可愛くって
思わず笑ってしまった。
私より顔一個分背の高い彷徨を頭を少し背伸びしてよしよしと撫でてみる。
不思議・・・
さっきまであんなに悲しかったのに立った一言で・・・こんなにもなるなんて。
私は流れ落ちることが無くなった。目頭の涙を指で拭ってえへっ・・・と笑った。
すると、ものすごい力で引き寄せられた。
気づくと再び彷徨の腕の中にいた。
「馬鹿未夢・・・我慢してるのに、そうやって煽るお前が悪い・・・。」
彷徨はもう一度私の一方の手を取って、片方の手で私の頭引き寄せ、
そして今度は……唇にキスをした。
あーなんかもう溶けそう……なんでこんなにキス上手いんだろう。
――そして、しばらくそうしてると、体をそっと離された。なんか顔が見れない。
私が何も言わないでうつむいていると、彷徨は今度は急にあたしを抱きかかえた。
「わっ!何っ 何すんのよっ!」
私は突然のことで驚いてジタバタ暴れた。
「やだよ。降ろさない。未夢がなんと言おうと帰さない」
そう言って、ニヤリと笑うと、あたしの必死の抵抗もむなしく、
抱きしめられて・・・
何度もキスされて・・・
――もう、分かった…というほど彷徨の想いをしった…。
◇◇◇
「もーーーーー!もーほんとにだめっ!しんじゃいそう!バカっ!」
「お前がそう言っても、俺は止めないよ」
ちょっと意地悪な顔をすると、ニコッと微笑んで、あたしの唇に軽くチュッとキスをした。
「はい、おしまい」
そう一言だけ言ってようやく彷徨は私を解放した。
でもいいや。なんかすごく幸せ……。
やっと言えた大事な想い。大好きな人と一緒に過ごす初めてのバレンタインデー
こうして私たちのバレンタインの夜は更けていった。
おしまい
皆さんにとっても素敵なバレンタインになりますように。
あゆみでした。
2008/02/03