一枚上手な彷徨のセリフ

試すような真似しても無駄

作:つむぎ



見透かすくらいなら 想い全て見抜いてよ





彷徨が勤めている会社の協賛で、学術誌の授賞式があった。
なんとかって言う研究をしている先生が受賞したみたいで
彷徨はその先生と仕事上でも付き合いがあるみたいで授賞式に出席するのは
必須だって言っていた。その授賞式は一流ホテル内のホールで開催された。


今日は丁度授賞式。。私は今、そのホテルの前にいる。
久しぶりに彷徨から連絡があって授賞式に招待された。
電話から聞こえてきた懐かしい声。
低く通った声で心地よく私の耳に響いた。


懐かしいな・・・って思った。


ルウ君とワンニャーがオット星に帰ってから、
私たちはまた両親の都合で離れ離れになった。
それでも、最初のうちはお互いに連絡を取り合っていた。


新しい学校のこと、友達のこと。
悩みや、喜び。

一緒に暮らしていた頃みたいに、私は彷徨に何でも相談して
彷徨は黙ってそれを聞いてくれていた。


そして、何かに理由をつけて、彷徨に会うために西遠寺へ行ったりもした。
彷徨も私の新居に来てくれた。


うれしくて。
だんだん離れがたくなって。
それはお互いに感じていて・・・。


私たちは高校のときに恋人同士になった。
幸せな6年間だった。
喧嘩もしたけど仲直りして、ずっと彷徨の傍にいたいと思った。
彷徨も「大学を卒業したら一緒に・・・」ってプロポーズしてくれた。


だけど、彷徨の将来を決める大学4年のとき
彷徨は悩んでいた。
西遠寺を継ぐか、興味を持った化学関係に従事するか。
おじさんの期待と、学校教授からの期待。


私だったら押しつぶされておかしくなってしまうだろう重圧
プレッシャーと戦っていたに違いない。


そう、それがその時の私は分からなかった。
彷徨と合えない時間。
彷徨が悩んでいたとき。
私はつまらないヤキモチと意地で彷徨を困らせて・・・


結果。彷徨は研究室で倒れた。
担ぎ込まれた病院の診断ではストレスによる胃潰瘍だった。


私は自分を呪った。
倒れるまで彷徨の異変に気づかなかったこと。
わがままを言って、困らせて



私は彷徨にとって疫病神だった。



何よりも大切だった彷徨が私のせいもあって体調を崩してしまった。
私は彷徨の傍から離れることを選んだ。
彷徨は必死になって私を止めた。


でも私は答えなかった。
ただ「彷徨の思うように・・・」と一言残して
静かに、彷徨の傍から離れた。
お世話になった宝生おじさんに手紙を書いた。
「一人息子の彷徨が悩んでいますよ。」と短い言葉を綴ってポストに投函した。


しばらくは彷徨から掛かってくる携帯に出なかった。
留守電も聞かなかった。
メールは読まずに削除した。
いっそのこと着信拒否に出来ればとも思ったけど出来なかった。
心のどこかで「彷徨と繋がっていたい・・・」そう思っていたからに違いない。
一時期は一日数十回掛かってきた電話も
10回・・・5回・・・3回・・・とどんどん減り。
1回・・・

そして、私たちが社会人になった春には電話も掛からなくなった。


そして人づてに聞いた。
彷徨はおじさんを説得して、研究室の教授の進めの化学関連の商社に勤めたこと。



うれしかった。
彷徨の喜んでいる顔が目に浮かぶ。
たとえ、私が隣にいなくても。
一緒に笑えなくても。



彷徨が幸せなら。
私はあなたの喜びが何よりの幸せだから・・・と
舞い散る桜の花びらの中で泣いた。


あれから3年の月日が流れて。
私も、お父さんが勤めている研究所の事務員として働いていた。
光月夫妻の娘だからなのか?
中学のとき、あの二人 ルウ君とワンニャーに出会ったからなのか・・・。
私も宇宙に関わる仕事に尽きたいとどこかで思っていた。
お母さんのように宇宙飛行士になりたいとは思わないけど
小さくても宇宙関係の仕事に携われて毎日が充実していた。



そんなときだった。
携帯の着信音が鳴るので
ディスプレイを開けると懐かしい名前があった。

『西遠寺 彷徨』


私は少し困惑したけど
2コール置いて携帯に出た。


「もしもし・・・」

「あっ。未夢か?久しぶり。」

「うん。彷徨も久しぶりだね。」


久しぶりに聞いた低い声。
携帯越しでも分かる。低くて、通る
よく耳元でささやいてくれたあの感覚がよみがえった。
3年ぶりなのに忘れていなかった。
ずっと聞きたいと思った彷徨の声。元気そう・・・

思わず体の血液が沸騰したように熱くなり。
全身が痙攣しているのではないかと思うくらいの痺れが私を襲った。
目頭が熱くなる。


「元気か?」

「うん。元気だよ。」


他に何もいえない。
もっと話したいことや聞きたいこと・・・沢山あるのに・・・
これ以上はなすと涙声になっちゃう。
私は咳払いをひとつした。
泣いているなんてばれちゃいけない。


「実家の住所変った?」

「えっ?」

急に意味の分からない質問。


「か・・・わってないよ?」

「そっか。じゃぁさ。今度、うちの会社が主催するパーティの招待状送るから・・・
 来て。」

「えっ?なに・・・突然。」

「来て。待ってるから。」

「ちょ・・困る・・・私・・・」

「じゃ、待ってるから。」


ガチャリ。
一方的に誘われて。
返事も聞かずに電話を切られた。

ツー・・・ツー・・・
無機質な電子音が携帯から流れる。


(待ってるって・・・行かなかったらどうするのよ)





配布元 「確かに恋だった」 作:ノラ様 URL:http://have-a.chew.jp/










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