作:あゆみ
はぁ…と
吐く息が白いことを確認する
口をすぼめて直線を意識した息はあっという間に
空気中で分散されて幾何学的な動きをしていた。
小さい頃テレビで見たサボテンマンの得意技に憧れて
煙を吐くまね事をやっていたのを思い出す。
あれは何と言う技だったっけ?
思い出せなくなる日がくるなんてガキの頃は思ってもいなかった。
「あいつ遅いな…」
左腕に着けた時計をみると18時を回っていた。
「久しぶりに外で待ち合わせてデートでもしようか?」
と誘ったのは俺のほうだった。
一緒に通っている中学の奴らに二人でいるところを見られたら
何を言われるかわかったものではないし
自分の誕生日。
クリスマスにはあいつと過ごす時間を誰にも邪魔をされたくない
そう思ったのも本音だった。
いやそれが一番の理由だった。
これまで、未夢と出会うまでの自分は誕生日や
クリスマスなどというイベントにはまるで興味がなかった。
家が寺だからといえばそれだけだけど
自身がさほどイベントごとに興味がなかったのも事実だ。
宇宙からの来訪者が二人舞い込んできて、
未夢が家に来てからというもの『家族の団欒』に
不慣れな俺達はルウとワンニャーを含めた4人で様々な楽しいときを過ごした。
それは2人がオット星に帰ってからも変らなかった。
2人から友人に代わって相変らずワイワイと様々なイベントを行って来た。
「そろそろ『みんな』から『俺達二人』になってもいいんじゃないか?」
と問い掛けたのは俺のほうからだった。
未夢は始めは意味がわからなかったのか
キョトンと首を傾げていたが、俺が未夢の膝の上
で組まれていた手をそっと握り、
「皆が一緒だと出来ないことがあるじゃないか。」
と笑うと少しは意味がわかったのかただ単に恥ずかしいのか
わからないけれど、ポンッと顔を赤くして
俯いて 少しの時間を置いてコクンと頷いた。
別に俺達は回りが騒ぎ立てるような『恋人』ではなかったし
彼氏彼女という間柄でもなかった。
でもお互いなくてはならないような。
あいつがいるから頑張れる。
というような奇妙な感覚があった。
恐らく未夢もそうなんじゃないかな?と思う。
口にしたことはないけど
確かめたことはないけど
そうなることが当然
そうなることが必然
そして
そう思うことを、
そうあることを、
未夢にも望んでほしかった。
時計の時間を確認する。
18時10分を回っていた。
待ち合わせから40分が過ぎていた。
さすがに心配になった俺は組んでいた腕を解いて辺りを見回した。
すると雑然としている人込みの中でも一点だけ違う雰囲気があった。
ざわめく
沸き立つ
特に男どもは何かに目を奪われているようだった。
なんだろうと思い注意してみると
クリスマスで沸き立つ群集を掻き分けて一際目立つ少女が現れた。
俺は一瞬誰かわからなかった。
けれどその人物が未夢であると分かった時思わず口が開いてしまった。
真っ白なミニスカートから覗くすらっとした長い足。
それを包む焦げ茶色のロングブーツ。
上は赤いピーコートに白いマフラーを巻いている。
急ぎ足で自分のところへ駆け寄る未夢は金色の長い髪を揺らしていた。
擦れ違う人々が振り返る。
中にはピュウと小さく口笛を鳴らすものもいた。
なんだろう。 あまりいい気持ちじゃない。
どちらかというと不愉快な思いになった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。ごめん遅れちゃった。」
息を切らせながら未夢は言う。
「・・・遅い。」
本当はもっと文句を言ってやろうと思うのだが
外で会っているからか、どうもよそよそしい気持ちになる。
未夢が、みょうに綺麗に見えた。
「支度に手間取っちゃって。えへ。」
にこっと未夢は舌をペロリと出しながら首をかしげる。
「まぁ、孫にも衣装だな。」
「ひどーい!」
ぷぅっと未夢は頬を膨らませた。
思っていることと口にすることがちぐはぐだ。
俺は目の前にいる未夢に注意しながら周りの様子を伺った。
どうも落ち着かない。
やたら、男共が未夢を見ている気がする。
なんだかむかむかする。
今日みたいにいつもと違う様子の未夢を独占したい気持ちになる。
「だってさ・・・彷徨と二人でデートなんて初めてじゃない///
着ていくもの考えてたら遅くなっちゃった。ごめんね。」
未夢は膨らましていた頬をしぼめると
恥ずかしそうにそういった。
あーあ。俺の負け。
俺は片方の手で拳を作り、未夢の頭を軽く小突いた。
そして反対の手で赤くなっているだろう自分の口元を覆った。
「彷徨?」
不思議そうに俺を見る未夢。
あぁ駄目だ。
外に出るんじゃなかった。
未夢は目立ちすぎる。
「どうしたの?彷徨?」
心配そうに俺を見る未夢。
俺は未夢の手をとってギュッと握った。
お互い手袋もしていないから地肌がほんのり温かい。
「ちょ///かな・・・!」
「帰るぞ未夢。」
勇み足でぐいぐいと俺は未夢を引っ張りながら歩き始めた。
戸惑いながら未夢はそれについてくる。
「えっ?なんで?」
「なんでって・・・おまえ。」
人並みが途切れたところで足を止め。
顔だけ未夢のいる後ろを向いた。
「俺のためにおめかししたんだろ?俺がじっくり家で堪能するよ。」
「へっ?」
「今日は俺の誕生日。クリスマスだ。
サンタクロースはいらないから、未夢と一緒にいる。
他の誰もいないところで二人でいいことしよう。」
ニヤリと俺は笑うとまた未夢を引っ張りながら歩き出した。
「えぇ?!」
分かったことがある。
伝えたほうがいい気持ちもあると。
今日はクリスマス。
二人きりでこの思いを未夢に分からせるために使ってもいい日かも知れない。
ゆっくりと・・・時間をかけて・・・
おわり
2007/12/18 クリスマス 恋人未満設定のお話です。
相変らずショートショートでやんす。
あゆみでした。