お年玉

作:あゆみ





お年玉。
昔は金銭ではなかったようですよ?






1月1日元旦。西遠寺。
新年を向かえた西遠寺家は慌しい時間を過ごしていた。
西遠寺の境内は新年のあいさつに来る檀家さん達でにぎわっていた。

宝生は新春といえど変らぬ朝のお勤め
彷徨は甘酒供養
未夢は檀家さんたちへお茶のもてなし

バタバタと慌しかった。
西遠寺家に来てからもう10年が過ぎた。


中学のとき、初めて経験した西遠寺のお正月は未夢にとって
1年で一番忙しい時期じゃないかと思ったくらいだった。

そして、大学のとき、離れ離れになってみて全国の日本人が休日の中で
慌しく働く彷徨に構ってもらえなくて少し寂しくもあったことを思い出す。


除夜の鐘、携帯電話越しに彷徨と年を越したんだったなぁ。と思い出す。
年越し直後、
とっても忙しいはずなのに
とっても疲れているはずなのに
彷徨がバイクに乗って会いにきて抱きしめてくれたときは
嬉しいはずなのに涙が出た。


息が出来なくなるほど強く・・・強く抱きしめてくれて最高に幸せだった。
この人と。永遠に・・・
夢が希望に変ったのもあの時だった。





あれから、時は過ぎ、西遠寺へ嫁いで3回目の新年だった。
普段、会社勤めの彷徨もこの時ばかりは作業袴を身につけて手伝いをしている。
サラリーマンでスーツ姿の彷徨もいいけど
やっぱりお寺の子。袴を身に着けた彷徨はいつもより背筋がピンとしてかっこいい。


馴染みの檀家さんたちも
「彷徨君を見ないとねぇ、今年も元気に過ごせない。」

などと言いながら下は小学生から上はおばあちゃんまでを魅了していた。

ふぅ・・・とため息をつく。
お昼だというのに人が途切れることがない。
洗い物を一通り済ませて背中に背負っている未宇の寝息を確認する。

こんなに人が多いのに静かにしているなんてわが子ながら優秀だわ・・・。

私は台所の丸椅子に座って思わず笑った。
少し休憩でもと思っていたら台所の暖簾がゆっくりと動いた。

「おっ。ここにいたのか。」
「あっ、彷徨お疲れ様。」

疲れを微塵も感じさせない彷徨はゆっくりと私の傍までやってきた。
そして、背中にいる未宇の寝顔を確認する。


「疲れたか?」


優しいパパの顔をしていた彷徨は私を見ると聞いてきた。


「ううん。大丈夫。未宇も静かでお利口だし。」

「そっか、毎年悪いな・・・。」

「いいよぉ。それに西遠寺の嫁になったからにはこれくらい出来ないとね」


へへっと私は笑った。
それに、せっかく仕事がお休みの彷徨のほうが大変じゃない。
といいかけて私はやめた。

きっと、「バーカ」と苛められるだけだと予感したからだと思う。


「お茶でも飲む?」

「いや、いい。甘酒の蒸気で少し酔っ払い気味かも。」

そういえば、彷徨をよく見ると珍しく頬をピンク色に染めていた。


「ほんとだ。珍しいネェ〜。」

と私は彷徨のほっぺたを突いた。

「お前の手、冷たくて気持ちいいな。」

彷徨は私の手越しに自分の手を重ねて頬に押し付けた。
洗い物で冷え切った手がほんのり暖かい。


「あ、洗い物してたから・・・」


結婚してもトキメキってあるんだなぁとつくづく思う。
今だって彷徨の気持ちよさそうに目を閉じている表情に私は思わずドキッとした。



「あっ、忘れてたお年玉。」


急に話は変って彷徨はパチっと目を開け、懐から半紙に包んだものを取り出した。


「お年玉?えっ!!くれるの?私欲しいものがあって・・・」

そういうと彷徨は「バーカ」といって半紙にくるまれたものを
つまみ私の口に入れた。
やわらかくてあまーい 感触が一瞬で口の中に広がった。

もぐもぐとほおばって
これは何だろうと考える
この甘さはアンコと


「お餅?」


「そう。檀家さんにもらった。昔のお年玉は鏡餅だったんだとよ。
 俺も初めて知ったよ。」

「でもこれアンコが入っているじゃない。」

「まぁな。檀家さんも笑ってた。本当はシンプルなお餅を分け合うんだけど
 甘いほうがいいでしょ?ってね。確かにそうですねって笑ってたんだよ。」


「へぇ・・・。でもおいし♪」
「現金な奴。」

ベッ・・・っと彷徨は舌を出して学生の頃と変わらない表情でからかう。
でも確かに、朝からバタバタと動きっぱなしで疲れてた体に
甘いものが染み渡るような感じがしたのは本当だからいいじゃないと私は頬を膨らませた。



すると彷徨は背負った未宇ごと私をふわりと抱きしめた。
おろしたての袴から桐箪笥のいい香りがする。

「彷徨?」

私は心地よい香りに包まれながら夢見心地に体を預けた。


「俺にもお年玉くれよ。」
「えっ?今のお餅最後だったの?」

「うん。」
「えっ・・・お茶請けの大福残ってたかなぁ・・・」

とっさに思いついた甘いお餅の代わりにと私は急遽大福を買っていたことを思い出す。


「いいよ。俺はこの餅みたいに柔らかい未宇とママがいれば。」
「なっ!なんですとぉ!デブって事ですか!!」

ムキィと彷徨の腕の中で反撃モード。
だけど、後ろには未宇がいるから暴れるに暴れられない。


「ばーか違うよ。」
「じゃぁどういう意味よ?!」


ぷぅっと頬を膨らませながら私は聞いてみた。



「しっかり支えないと崩れちゃいそうなお姫様だろ?」
と彷徨は背中の未宇の頭をそっとなでる。

「うん。」

「それに、鏡餅に負けない未夢のほっぺ。」
そういって彷徨は私の膨らませた頬をパクッと咥えた。

「ばっか///」

「うん。餅みたいに柔らかい。」

彷徨はニッコリと笑った。「ありがとう」と付け加えながら・・・

なんだかその笑顔を見たら私も思わず笑ってしまった。


こんなに幸せな一年の始まりなら
今年もいい事ありそう

あなたと、未宇と・・・


贅沢は言いません。無事に、幸せに暮らせますように。







お願いします。
私は彷徨の腕に包まれながらそう願った。





(でもさぁ、彷徨)
(ん?)
(それだけじゃ甘くないでしょ?)
(確かに・・・)

(残念でした〜)
へへへと笑うと。

(別にいいよ。もらうから)
そういって彷徨はチュッと軽いキスをした。





(うん。甘さも補給完了) (バカ・・・)






おしまい



(あとがき) 2007/12/31
お年玉の語源は、古来の風習であった歳神様に奉納された鏡餅を参拝者に分け与えた神事 から来ていると言われています。鏡餅は、元々鏡を形どったものであり、魂を映すものと言われていました。神様から魂を分けてもらうという意味から「御歳魂(おとしだま)」が語源となったとされたそうですよ。

あゆみからささやかではありますがお年玉ということで・・・。
すぃつれいしましたぁ(逃)

<この作品はメルマガ新年号で特典小説として公開したものになります>
ちーこしゃん。山稜しゃんとコラボです♪



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