ぬくもり

作:あゆみ



もう何度目だろう。
彼の寝顔を見るのは・・・


整った顔立ち。
リップクリームをつけているところなんて見たことないのに、つやつやな唇。
さらさらな髪の毛。普段は長い前髪に覆われて見えない長いまつげ。


何度、となりで朝を迎えても。
何度、あなたの寝顔を見ても
見飽きることない。


 「ププ!カーワイ♪」


未夢は目の前で寝入っている彷徨の顔をマジマジと観察していた。

(本当に昨夜と同一人物なのかしら・・・)

昨夜の、・・・出来事を思い出して未夢は頬を赤らめた。
今目の前で眠っている、眠り姫ならぬねむり王子の彷徨は
夜になると一転して戦場に向かう騎士のような、

熱い眼差し
熱い吐息

熱い肌・・・・


 「寝てればかっこいいのにね。」


未夢はつんつんとその整った彷徨の鼻筋を突っつく。
男の癖になんと決めの細かい肌をしているんだろう。


でもそんな普段正面から見えない長いまつげも
近づいて見てみないと分からない肌のきめ細かさも
自分だから知っていることと思えばうれしくないはずもない。


未夢は彷徨の寝顔を十分に堪能すると
彷徨が起きてしまう前に服を着ようと布団の中からのっそりと手を伸ばそうとした。


少し外気に肌を触れさせただけなのに
11月の朝はすでにピリッと肌寒い。


彼の・・・彷徨の体温の中で心地よく眠っているというのも後ろ髪がひかれるが
そうも言っていられない。彷徨だって仕事があるのだ。そして私も仕事がある。


未夢はゆっくりと外気に触れさせる肌の面積を増やしながら
一気に服を着替える戦法を取ることに決めた。


スローモーションのようにゆっくりと、確実に外に出していく。
指先が手首に・・肘・・・二の腕と徐々に外に手を伸ばしていく。
ようやく左腕が左肩まで出ると腹を決めて外に出ようと試みようとした。


 (今だ!)


そう思った瞬間だった。
背後からものすごい力で自分の左腕を取って、再び布団の中に引きずり込まれた。
あまりにも突然で、一瞬で未夢は暖かい毛布とも違う何かに包まれる形になった。


 「行くなよ。」
 「か、彷徨!!」


当たり前といえば当たり前なのだが未夢を抱えているのは
つい、先日婚約したばかりの彷徨だった。


 「ゆたんぽ〜。」
 「ちょ!彷徨!寝ぼけているの?」


未夢は驚き彷徨の腕の中でじたばたとする。
起きぬけの彷徨といえど力は男、未夢がそう簡単に振り払える物ではなかった。
未夢は、彷徨の大きな胸の中にすっぽりと埋まってしまっているため
その抵抗も彷徨にとってはくすぐったい以外の何者でもなかったのだが・・・


 「急にいなくなるなよ。」
 「だ、だって・・・」

 「急に未夢が離れるから寒いじゃないか。」
 「そんな・・・私のせいじゃ・・・」

 「それに未夢だって、俺から離れたからずいぶん冷えちゃってるじゃないか。特に左腕」

彷徨は冷たくなった未夢の左腕を丹念に両手でさする。

 「これは、そろそろ着替えようと思って・・・」

 「着替える?」
 「う・・・うん。だって、こんな格好だし・・・。」

 「どれ?どんな格好だって?」
 「ば!・・・っか・・・。恥ずかしいからいやよ!」


そういって未夢は自分から彷徨の胸の中にうずくまるように小さくなった。


 (ばかだなぁ・・・)


彷徨はそんな未夢の行動が可愛くてしかたないようでぎゅっと抱きしめる力を強くした。
出合った頃から変わらない、純粋でどじで、お節介な未夢。
結局、そんな未夢に引っ掻き回されて、翻弄されていつしかそれも可愛くて仕方なくなったのだが・・・


中学から付き合いだして、
高校、大学と時を経て婚約までしたのにもかかわらず
相変わらずの「照れ屋」っぷりには
もっと自分の物だと誇示したい意思を強要することは出来なくて。


でもそんな未夢も可愛くて・・・


結婚してもこんな朝がこれからもずっと続くのかと思うとうれしくてたまらない。

離したくないし
ずっとこのままで何もしないで二人でいられるだけでいいのにとも思うし


こんな、独占欲の塊みたいな俺も俺だけど
張本人の未夢にも責任とってもらわないと身が持たない・・・。


 「かなた??」


完全に体の拘束された未夢は顔だけを俺の方に向けてきょとんとしている。
腕を離すわけでもなく、それ以上何かされるわけでもなく、
そのままのこの状況を疑問に思ってのことだろう。


 「ん?」

 「どうしたの?彷徨?今日も仕事でしょ?」
 「そうだけど?」
 「遅刻しちゃうよ?」

 「別にいいよ・・・」

 「だ!だめだよ!病気でもないのに!」


少しでもこの時間が続けばという俺の思いが今の会話から
未夢に対して通じていないようで、少し俺はいたずら心に火がついてしまった。

 「病気だよ?」

未夢の頭にあごを乗せてはぁっとため息をつく。

 「えっ!ど、どどうしたの??どこか悪いの?」

俺の言葉を真に受けて本気で心配する未夢。


 「悪いよ。ここがね・・・」


俺は未夢を拘束している片腕を解放して左胸をトントンとたたく。


 「えっ?心臓?」


ピクリと体をこわばらせて本気で心配そうな声を出す未夢。
あまり遊びすぎるとあとが大変だからこの辺にしておこう。


 「そう、未夢がそばからいなくなるとキューってなるんだ。」

 「・・・。ば、バカ///」


しばらくの間が空いてから、鈍い未夢でも意味が分かったようだ。


 「本当だよ。未夢がそばから離れていくと苦しくなる。
  キューっと心臓を鷲掴みされたようになる。」

 「な、なにいってんだか!」

 「ほんとだよ、本当に苦しくなる。」

吸い込まれるようなエメラルドグリーンの瞳をじっと見つめる。
体をこわばらせていた未夢の力も徐々に抜けていくのを感じる。

 「・・・うん。」

 「未夢がいなくなったら、死んじゃうかも・・・」

 「だめ!バカ!」

 「だから、俺を見ていて? そばにいて?」


少しかすれたような声になってしまったが、
俺はからかいではない絶対に「本当」の気持ちを未夢に伝えた。


熱っぽい視線で見つめられてくらくらしそう。
未夢は彷徨の心臓の音を聞きながら自分の心臓の方がやばのでは?
と高鳴る胸に、でも決して嫌いではないドキドキに
心と、体を自然に彷徨にあずける。


 「わかったよぉ・・・」


自分の胸の中でプゥっと頬を膨らませているのが分かる。
少し、からかいすぎたようだ。

だけど、決して嘘ではないから・・・

これから未夢が嫌といってもこのぬくもりから離れてやらないから





覚悟してろよ・・・











・・・遅刻しますよ?(笑)
まぁ、このあと、十分に朝のラブラブな時間を過ごした二人は
ばたばたと着替えて
食パン咥えて、走りながら仕事に向かったことでしょう(笑)

お互いがお互いのせいにしながらね・・・。

またその姿も容易に想像できるから笑えてしまう・・・。ププ。。。


(071008) あゆみ



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