ダッシュ

作:あゆみ





遅れちゃう。遅れちゃう。

あの人が待っているのに。

急いで。急いで。

待ち合わせ時間まで後10分。


ドテッ。

八百屋さんの前で転んだ。

手の甲がすりむいた。


キキー。

走ってきた自転車にぶつかった。

強い衝撃とともに倒れる。

ひざをすりむく。

空色のワンピースが砂まみれ。



遅れちゃう。遅れちゃう。

あの人が待っているのに。

急いで。急いで。

待ち合わせ時間まで後5分。


エーン。エーン。

小さい女の子が泣いている。

幼馴染の男の子に大事にしていた髪留めをとられてしまったそうだ。

変わりにつけていた星型の髪留めを変わりにあげた。

にっこり女の子は笑う。


よかった。よかった。

安心してあの人の元へ。





息を切らして待ち合わせ時間通りに到着。







「どうした未夢!その格好!」

はっと気づいて自分の姿を確認する。

すりむいた腕と膝。

薄汚れてしまったワンピース。

走って乱れたぼさぼさの髪。


「ご・・・ごめんね。こんな、恥ずかしいよね。」


せっかくのデートなのにこんなぼろぼろの格好で恥ずかしい。

昨日から何を着ていこうか迷って

身支度に手間取って

遅刻しそうになって

結局ぼろぼろ。


「事故にでもあったのか?」

心配そうな彷徨の顔。

これ以上心配させたくないので自転車に引かれそうになったことは黙っておこう。

「転んだの。」

ペロっと舌を出す。

「…まったく。」

「ごめんなさい。これじゃ彷徨に恥じかかせちゃうね。」

「そんなことはいいんだよ。大丈夫なんだな?」

「う・・・うん。」


ぽんと大きな手が頭に載せられる。

「じゃ。行くぞ。」

「え?どこに?」

「デートだよ。約束だろ?」

「でも・・・この格好じゃ・・・」







「笑う奴がいたら俺がぶっ飛ばしてやるよ。」






「え。」

「俺のために走ってきてくれたんだろ?」

「うん。」



嬉しくなって、彷徨の腕に飛びつく。

「いくぞ」

「うん。」








イッショウケンメイ、ハシッテ、ヨカッタ。













拍手の作品を整理しまして、リメイクしました。
こちらも題名なんて無かったんですが
「全速力」か「ダッシュ」か迷って後者に決めました。


スピード感がもっとあればよかったのだけど

むずかしいね。
表現することは


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