夜来

作:あゆみ



お前を放したくなかった
誰もが一人になる夜
お前の時間を俺のものにしたかった
離したくなかった
俺の腕の中に留めておきたかった


ずっと――――











夢…じゃないよな……



今こうして未夢と向き合っていること


同じ布団の端で
未夢は足を折りたたみ
重ねられた膝の上に手を重ね合わせて少し俯きかげんで座っている
俺のほうを見ようとはしなくて
でも重ね合わせた手が小刻みに震えているのが見てわかる



やっぱり未夢も女の子なんだな…


なんて、いまさらながらに思ってしまう

今から起こることに―――…









出会ったころ7cmほどしか変わらなかった背丈は
今ではそばにいると腰を折って覗き込まないと未夢の表情がわからなくて

相変わらず不思議な甘い香りを漂わせる髪をなびかせていて

俺のことを見上げる視線とか

相変わらず口を尖らせてすねているところとか

変わっていないのに


年を重ねるごとにきれいになっていく未夢

最近見せる『女性』の仕草とか

『こんなに細かったっけ?』と驚いててしまう腕とか

俺の腕にすっぽり収まってしまう小さな肩とか

笑うときのこぼれそうな表情とか――――…







出会ったころよりも大人になっていく未夢をみて
俺のそばから遠ざかってしまうような気がして不安になった









未夢は成長している







実際のところ、体は俺のほうが成長して、初めのころより未夢のことを
すっぽりと抱きしめることができるようになったけど


それは錯覚なのかもしれない


俺の『檻』の中に閉じ込めたと思っているのは自分だけで
その扉は簡単に開いてしまって
すぐにでも未夢という名の『鳥』は逃げ出してしまうのではないかと



いくら抱きしめても
キスしても



未夢は飛んでいってしまうなんて考えて
落ち込んでいく自分がいた





まるで、つかめそうでつかめない夜の月





いつか、月の使者が未夢を迎えに来て
連れさらってしまうんじゃないか


最近の未夢はどこか
そんな物語のような
どこか寂しそうな表情を見せることがあった


普段なら、未夢の口から相談してくるまで待っていたけど
俺もあせっていたんだろうな…


どこか遠くに行くんじゃないか…って


そこが知らない土地でも
俺以外の男の所でも


今考えると馬鹿だと思う…




俺らしくもない




だから今日、西遠寺に遊びに来ていた未夢に
俺は問い詰めちまった
『どうかしたのか?』って


未夢は迷っていた
だけど、なにか振り切れたように
時折泣きそうな、咳をきったような声を出して
言葉にしてくれた


『彷徨のそばにいてもいいのか、不安だった』と


なんてことだろう
未夢も俺と同じような悩みを抱えていたんだ


未夢に、そこまで思わせて、悩ませたんだから
俺も普段なら、なかなか自分の思いを口にしないほうだけど
素直に言葉にした

『おれもそばを離れていくんじゃないか、不安だった』と


結局、お互いがお互いの成長を嬉しい反面
自分がそばにいることを不安を感じて悩んでいたんだ
自分では気づかないけど
未夢のことは『傍に居る大切な人の変化』だから気づく

未夢にしてもそれは同じことだったようで…



互いの不安を話しているうちに
互いの必要さを再確認して






つい、言っちまった

「未夢。今日俺のところに来ないか?」

そうしたら、未夢は相変わらず鈍感ぶりを発揮して

「彷徨のうち?いいの?」

なんて泣きそうだった表情を緩めて言った。



俺の言った意味わかってんのか?

いや、わかってないだろうな

未夢にはストレートに言わないと…




「いや、未夢。俺の言ってる意味は普段お前が泊まりにきてるような誘いじゃなくてな……」

「ん?」

未夢は顔にハテナマークを浮かべている

「…だから、俺が言いたいのは……今日はお前をずっと離したくなくて…」

「…?」

「無理に強要はしない。未夢の気持ちに任せる。未夢がいやだったら構わないから…
 …だからその………言葉の上だけじゃなくて……。」

「…?」

「……今夜、俺のものになってくれないか………大切にするから……」


俺は引き寄せていた未夢の腕を強く握る
壊れないように気をつけながら
未夢を俺の瞳に映したまま
俺は、そんなことを言ってしまった妙な恥ずかしさと
未夢の返事に緊張しながら
真剣に見つめた


しばらく俺の言ったことの意味を考えていたのだろう
顔にハテナマークを浮かべていた未夢は
みるみるうちに赤くなっていった

思わず目頭から涙がほろりと流れ落ちる。

その表情を確認すると
俺は多少だけどほっとした


通じた…


と。
別に、俺は言葉にしたように強要をするつもりは無かった
未夢の事は大切にしたいし
嫌がることはしたくない
これまでも、未夢が泊まりにきてそんな気持ちが無かったわけじゃないけど
『結ばれたい』というきもちより『大切にしたい』ということのほうが大きかったから
我慢してきた

だけど今日はつい、気持ちが高ぶっていってしまった
俺の願いを
別に叶わなくていい
そういう気持ちだということを知ってほしかったから


しばらく未夢は俯いてしまい
顔をタコのように赤くしているのだろう
俺のことを見てくれなかった


今日はここまでかな…


俺はそう思い

「未夢、いいよ。そんなに考えなくて。わかってるから……」

怖いよな

未夢は俺と違って女の子だ
そういうことに関しての考え方は違うだろう

そう言い続けようと腕を緩めたときだった
俺の視界に入っていた未夢のつむじは消え
俺の胸にすっぽりと納まっていた
背中にしっかり自分の腕をまわして
まわした腕に力をこめて未夢は

「彷徨はそういうことに興味が無いのかと思ってた。」

小声だが驚くべき返事が返ってきた

「興味がないわけないだろ」

未夢の背中に腕をまわして言った

「いつも、私が泊まりに来ても、その…ね・・・」

未夢も少しは考えるところがあったらしい
俺は未夢が言うことがだんだん面白くなってきて

「ばぁ〜か。お前が無防備すぎて逆に手を出せなかったんだよ。」

といった

「そうなの??私ぜんぜん気づかなかった」


そうだろうな…


「俺はお前を傷つけたくなかったし、無理させたくなかったしな。我慢してたんだよ。」

「へ///へぇ〜」

未夢は照れているのだろう、それ以上何も言わなかった
しばらくして未夢は俺の服を強く握り思いがけない一言を言った

「いいよ。」

小さい声だったが俺ははっきりと聞こえた

「えっ?」

俺は一応わからない振りをして聞き返した

「その・・・いいよ。彷徨の傍にいるっていったでしょ?」




…嬉しかった
死んでもいいと思った
俺の気持ちが通じただけじゃなくて
叶えられるなんて


離したくない
俺は強い思いをこめながら未夢を抱きしめて
未夢の耳元でささやいた

「ほんとにいいの?」

未夢は自分の言ったことが恥ずかしかったのだろう
言葉にならずに俺の胸の中で小さくうなずいた

俺は嬉しくて未夢の前髪を手で掻き分けて
唇を落とした
「無理だったら途中でも言えよ」
と。。。










満点の星空が広がる夜

西遠寺の中で叶えることになった








…もう、離さない

…離さないで







Fin 









以前書いた作品をだいぶ修正して更新させてもらいました。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、この『夜来』は
「隠し小説」⇒「お礼小説」と経てこのたび同盟のほうへ
リニューアルして展示させてもらいます。


今思うと、勢いって大事よね
今思うと始めの作品はかなり恥ずかしいものが^^;


少しは成長したのか、はたまた退化したのか。

これからもよろしくです。


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