作:あゆみ
金色の髪、うっすらと青みがかった目
社内でうわさの光月社長を目の前にして
多少なりとも緊張していた俺は
業務連絡としか言えないような事しか言えなかった
「あの…しゃちょう?カードを…」
噂で聞いていた仕事に関して冷淡な表情をしているといっていた社長は
今、俺だけを目の前にして顔を赤らめている
光月社長も自分でそのことをわかっているのか
普段の自分を取り繕うと冷静に勤めようとしているようだ
「あぁ。ごくろうさま…」
社長は俺の持っているカードを受けとろうと歩み寄ってきた
その行動に促されて俺も社長へと足を運ぶ
カードを受け取ろうとする社長と
カードを手渡そうとする俺の距離は縮まり
俺は少々腰低めにカードを差し出す
差し出されたカードを社長は手を伸ばし
触れた…
触れた瞬間に社長の体がビクリと小刻みに震えた気がした
手と手が触れ合ったわけでもなく
どこかが接触したわけでもない
カードを通して俺の手が感じるほどだが確かに社長の体は一瞬動いた
腰を低く社長の顔を見ないように視線を下げていた俺は
不思議に思って恐る恐る腰を低くしたまま顔を上げてみた
ちょうど社長の顔を下から覗き込むような形になり
そこで目に映ったものに俺は驚いた
片方の手でカードを持ち
もう片方の手で口を覆い隠すようにしていた社長の表情は
部屋に入ってきた時も顔を赤くし
仮面のようにされている化粧も崩れそうな
今にも泣きそうな表情だった
なぜ俺は彼女にあんなことをしたのだろう…
同情?
それにしても19年間他人にはほとんど無関心ですごしてきた俺にしてはものすごい行動だと思う
泣いている女の子を目の前にして
慰めるにしても
寝ている彼女にあの行為…
あの時を思い出すと照れてしまう
あれ以来俺は彼女と会っていた階段の踊り場にはめっきり行かなくなり
バイトに明け暮れていた
はじめは
彼女のことが少しタイプだったからあんなことをしたのだろうと思っていた
いや、
思い込もうとしていた
もう彼女と会わなくなって1ヶ月がたった
時が経てば忘れられるだろうと俺は思っていたが
まるで逆
忘れられない
気になる
思い出すのは最後の彼女の泣き顔で
あれだけかわいいと思っていた笑顔が思い出せない
あれから彼女はどうしているのか、
同じ会社内で働いているといっていたが
会うことがない
彼女と話したい、
彼女の声を聞きたい
彼女の笑顔が見たい…
日に日にその思いは強くなり
俺は気づいた
俺は彼女のことが好きになっていたんだ
恋の橋渡しなんていってたが
うっかり俺はその橋に登ってしまったようだ
橋渡しを理由に彼女に会えることを楽しみにしていたんだ
チョコを彼に渡すのではなく
自分のキャンディーを渡すことが…
でも、彼女に会うこともないだろうし
忘れるしかないんだ
「えっ!!しゃちょう!?」
俺は戸惑った
最近の俺は泣き顔に縁があるようだ
目の前の光月社長は半分顔を手で覆ったまま
青みがかった瞳から涙を流した
「ど…どうして…えぇ?!」
何をしていいかわからない
目の前で女性が…
泣いていて…
女性が…
「……った」
瞳を閉じ、
目尻から一筋の涙の後を作っている社長が
か細い声で発した言葉が聞き取れなくて
動揺しながら俺は聞き返した
「えっ?何か言いましたか?」
「…たかった」
「えっ?」
「会いたかった…」
「…えっ?なにを言って…社長…」
「会いたかったの…」
完全に俺は動揺した
会いたかった?
俺が社長に会うのは
この部屋に入るのは初めてで
目の前の女性に会うのは初めてで…
「やっぱりわからない?」
目に涙を溜めて俺を見つめる社長
「会えることを待ってた…あのときからずっと…」
まったくわからない!!
何を言っているんだこの人は…
と混乱している俺の前に社長は今俺が「配達」したカードを俺に手渡した
俺は錯乱しながらもそれを受け取り
社長の赤くなった顔を見る
「あけて読んでみて」
光月社長は手渡したカードを読むように言った
俺はその二つ折りのカードをあけその中に書いてあるメッセージを読み
その書いてある意味に気づいたときに驚いた…
「えっ!!あなたは!」
『ポストマンが花束を持ってきたらカードを私の部屋まで運ばせて』
「1ヶ月ぶりねポストマン」
「だって…あなたは光月社長で…」
「えぇ。そうよ」
「踊り場で泣いていた彼女は…」
名前も知らなかったことに気づいた
「ポストマンはいつもキャンディーをくれて…」
「でも彼女は俺と同じ19歳だって…」
この会社で働いているって…
「本当はね。でもこの仕事をするのにその年齢は若すぎるでしょ?23だって若すぎるくらいだけど
先代のお爺さまが泣くなって、息子のパパが後を継ぐはずだったんだけど、パパが急にNASAでの仕事が入ってしまって
私は、パパの仕事が終わるまでの代役をしていたの。仕事の支持をしていたのはパパ…私は代返していただけ
それを知っているのは秘書の彼女だけよ」
「だって、顔がぜんぜん…」
「女の子は化粧をすれば結構かわるのよ?ちょっとまってて」
そういって光月社長は奥にいって何かをし始めた
水の流れる音
蛇口のしまる音
しばらくして化粧を落とした
光月社長…いやスーツを身にまとった彼女が
俺の前に歩いてきた
「花村さんがスキだって泣いていたあの子…?」
「…そうなの、花村さんにはあこがれてて…、あなたにはあのときのお礼を言いたかった」
「そんな…」
「普通なら自分でがんばらなきゃいけないことしてくれてありがとう
あと、振られちゃったとき慰めてくれてありがとう」
「それは…」
「やっとお礼が言えた。あのあと何度かあの階段の踊り場に要ったけど会うことができなくなっちゃったから
こんなことしてごめんね」
「ほんとにあの時のあの子…」
「あの時、ポストマンがそばにいてくれて心強かった…」
「ほんとに…」
「あのあとポストマンにずっと会いたくて…会いたくて…こんな子というと軽い女だと思うかもしれないけど
私、あなたと階段の踊り場であっているときから気になってたみたいで…忘れられなくて…」
「だって花村さんは…」
「笑わないでね。私海外生活が長くて、しかもずっと女子高で
この歳、19で花村さんのことが初恋で…でもそれも、振られて思い出すのはポストマンで…
花村さんのことはただの憧れだったのかもしれない…」
「…」
「あの場所でポストマンに会えて楽しかった。おしゃべりしたり、キャンディーをもらったり楽しかっ……でも会えなくなって寂しくて…」
そういい終わらないうちに彼女、光月社長は顔を覆って泣き出してしまった
今まで普段かぶっている社長の仮面をつけて気高く話していたのが一気に崩れてしまったようだ
俺は、そんな彼女を前にして考えるより先に体が動いた
自分の腕を彼女の腰に回して頭を自分の胸に押し付けた
1ヶ月前と同じように彼女は体重を俺に預けてくれた
彼女の頭をなでているとまとめられていた髪が解けて
細く長い髪が拘束がとれて落ちた
化粧も落とし、髪も解いた彼女は
まさに
1ヶ月前まであっていた「彼女」だった
彼女の長い髪を耳のあたりでわけ、耳元でささやいた
「社長、これから敬語を使わなくなることをおゆるしください。」
彼女はその言葉を聞くと肩をゆらして笑った。
俺はそれをOKのサイトし
腕の中の彼女が笑ってくれたことにほっとした。
そして彼女を抱きしめる強さをつよくして言った
「それって、俺のことが好きになっちゃったてこと?」
1ヶ月前まで二人で話していたような口調になる
しばらくして腕の中の彼女はうなずく
俺自身、最近自分の気持ちを確認した手前その返答はうれしかった
「すき…」
彼女は腕の中で小さくつぶやく
その言葉がダイレクトに俺の中に入ってきて
嬉しくて
腕の力をゆるめ、彼女を解放した
突然開放されて不思議に思ったのか
俺の顔を見上げる
その瞬間俺は2度目になる彼女の唇を奪った
「…っ!」
軽く口付けし、
頬をつたう涙にもキスをした
唇を開放すると彼女と至近距離で目が合う
「…なんで、目…とじないの?」
俺が笑いながらたずねると
彼女はこう答えた
「目をつぶって、キャンディーだけ残ってあなたがいなくなってほしくないから///」
「…あの時起きて!///」
「///うん」
あの行為を起きていられたとなると恥ずかしくなる
「これからもそばにいてくれますか?ポストマン」
「あぁ。いや。『はい』だ。社長命令となれば」
再び抱き合って笑いあった
ほかに誰もいない社長室で二人きり
何度も何度も口付けを交わした……
「これって、オフィスラブっていうのかな?」
「ポストマンと社長の?」
「そう…」
「そう…かもね。パパが会社に復帰するまでの限定オフィスラブ」
「本当の光月社長が戻ってくるまでか…そういえば君の名前は?」
「未夢」
「未夢…か…」
「ポストマンは?」
「おれ?俺は…
彷徨、西遠寺彷徨だよ」
〜end〜
まったく、設定の違うリーマン小説、いやポストマン小説を書きたかったんです
話の意味をわかっていただけたでしょうか…
未夢ちゃん社長で、彷徨君がバイトさんというね…
オフィスラブを書きたかったのに(泣)ぜんぜん違う…
2004/4/28 あゆみ
注)この作品は2007/2/20をもって閉鎖しました「Blue White Green」の記念作品として投稿させていただいております。
2007/2/17 あゆみ