作:あゆみ
久しぶりに覗いたお日様が境内を照らし、夏の暑さとは異なった秋のやわらかい光
季節の変わり目でくすぶっていた天気もなにがきっかけなのか分からないけど本日は晴天
見上げると澄んだ空が自分を包み込んでいるような感覚に陥る
これはそんな秋を迎えようとしている西遠寺でのお話
感触
「未夢さーんこれで最後です〜」
「はぁ〜い」
ワンニャーと未夢は先ほどからなにやら西遠寺の渡り廊下をどたばたと世話しなく歩いている
両手一杯に座布団を抱えて廊下を行ったり来たりする未夢。
廊下に並べられた座布団を布団たたきでぱたぱた景気のいい音をたててほこりを叩くワンニャー
二人が何をしているのかというと、最近ぐずっていた天候が久しぶりに快晴
照らしているお日様がとても暖かいので、押入れにいれていた西遠寺の座布団を虫干しする事にした
途中、彷徨は夕飯の買出しをワンニャーに頼まれスーパータラフクへ、
未夢は虫干しが完了した座布団を押入れに戻す作業をしていた。
お寺という事だけあって、その座布団の量はハンパではない、
押入れの多さも驚くべくの数、西遠寺にあるが、それに収まっている座布団もハンパではないのだ。
部屋の片っ端から出し、廊下に広げ
西遠寺の座布団をいっせいに虫干しするのに廊下一杯座布団だらけになった。
お日様の暖かさでほかほかになった座布団に興味を持ったルウ君もはしゃいで遊んでいたが、
いつもお昼寝に使用している座布団で遊んでいたかと思ったらいつのまにか眠っていた。
未夢が座布団ごと抱きかかえて先ほど居間へ連れて行ったところだった。
「これで最後だ〜」
未夢は声をかけて、両腕一杯の座布団最後の押入れに運ぶ。
綺麗に整列された座布団に今、もってきた座布団を重ねいれる。
だんだん自分の背より高い位置へ入れることになるので未夢は精一杯背伸びして座布団を入れていく。
最後の一枚を入れると未夢は少し離れた所からその押入れを眺めてみる。
今朝、虫干しにしようと開けたときのジメッと湿り気の感じた押し入れの空気が
押入れの中も風通しした事もあって、干したての布団の香、
お日様の香が押入れの中に立ち込め、その香が未夢の元へと香ってきた。
「お日様のにおいで一杯だ〜」
未夢は勢いをつけてその山積みされた押入れの中の座布団に体当たりしてみる。
座布団に抱きついてみて顔を押し当て深く呼吸すると、一段と強くお日様の香を感じる。
「へへへ・・・ちょっとだけ良いかな」
未夢は何を思ったのか、押入れの中のスペースのある部分に興味がそそり
周りに誰も居ない事を確認してスカートの裾を気にしつつ押入れの上段に登ってみる。
幼い頃にテレビで見てたドラえもん。
ドラえもんが就寝していた押入れというものにとても憧れていた。
しかし、自分の家は洋風の造りだったので日本の家なのに和室がなかったため押入れというものがなかった。
小さい頃、どきどきしたドラえもんのいる押入れに入ってみたくて駄々をこねた事を未夢は思い出した。
ふすまを閉めると未夢は薄暗い空間に包まれた感じに思う。
干したての座布団のお日様のにおいと押し入れ独特の少し湿り気のある空気
未夢は座布団の上に寝そべり、大きく息を吸い込む
そしてゆっくりと目を閉じると、その心地よい空間に酔ったように
自然と眠りに落ちていった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・夢!」
・・・・?
「未夢!」
『彷徨?』
軽い眠気に襲われている未夢は、遠くから聞こえる彷徨の声に答えてはいるが声にならない
『ごめん。彷徨・・・気持ち良いんだここ・・・』
未夢はまぶたが自分の意識では上げられない。
ザッ・・・と障子を開ける音
規則正しくこちらに向かってくる足音
ふすまの取っ手に爪が引っかかる音
そして、すぐ近くのふすまの開く音が耳に入ってきた。
「・・・ここにいたのか。」
遠い意識のなかで聞こえてくる、聞きなれた心地よい人の声。
『あっ!彷徨だ!私はここだよ〜』
未夢は重く開けられない瞳を閉じたまま心の中で答える
「まったく・・・人が買い物から帰ってきていないと思ったらこんな所にいて・・・」
『ごめんごめん。きもちいいんだ〜ここ。』
「心配するだろうが」
『あれ?私の声が届いてない・・・
・・・・そっか、私、押入れの中に干したての座布団が気持ちよくて
そのまま押入れの中にいるんだ』
「こんな所で寝て・・・しょうがねぇなぁ・・・」
その瞬間、未夢は何か暖かいものに包まれた。
『あったかい・・・毛布?』
「風邪引くだろうが・・・」
『ありがとー彷徨・・・ってきこえてないか』
オレンジ色の夕日が西遠寺の境内を照らし
遮るものがなく通過してきた光が彷徨と未夢のいる部屋を通過して
ちょうどその光がふすまの中を照らす。
もとから金色の未夢の髪が夕日で黄金色をしている。
座布団の上にうつぶせに寝ている未夢の顔に、その長い髪がパサリと未夢の唇をかすめる。
目をつぶっているのに見られているという感覚
未夢は頭の中でははっきりと起きているのに、なぜだか目をあける事をしようとしなかった。
彷徨に寝顔を見られてしまったというちょっとした恥ずかしさ
夕食の当番をこのまま見逃してくれないかという希望
そして、心の奥底で感じる理由のわからない期待・・・・・
『私、何かを待っている?』
しばらく二人の間に奇妙な沈黙が続いた。
ミシッ!っとふすまの二段目に立て膝をつく状態で彷徨が上ってきた。
その次の瞬間、未夢は顔に何か近づいてくるという感じに気づく
『何かがくる・・・』
すると、次の瞬間彷徨は未夢の顔にかかっていた髪のを指ですくう。
寝たふりをしていたはずの未夢はその瞬間ビクッ!っと体が反応してしまった。
それに気づいたのか気づかないのか、彷徨はすくった髪の毛を持った手を止める。
そして少しの間を置いて髪を持った彷徨の手が動いた。
彷徨は自分の口元に持っていき、未夢の髪の毛に口づけする。
未夢は髪の毛に通っているはずのない神経を感じ、見ていないはずなのに髪の毛から頭、肩、背中、腕、足へとそのなんともいえない感覚に身震いする。
『か・・・髪にキス?!///彷徨!なにするかなぁー///』
長い時間そうされていたように感じた。
彷徨は未夢の髪から名残惜しそうに口を離すとその髪の毛を、未夢の顔にかからないように未夢の耳にかける。
『か・・・彷徨に寝顔丸見えだよ〜///』
『目を開けたいけど!!でも!!』
ちゅっ・・・
『えっ?』
自分の唇に感じた、感触
『今の・・・なに?』
『?????』
『?』
未夢は目をあけた。
気づくと外は日が落ちるのが早くなったためかすでに暗い。
開け放しのふすまと
未夢にかかっている毛布
その周りには誰も何も無く・・・・
「ん?」
未夢は寝ぼけ眼をこする。
さっきのは夢?
夢?
何の夢を見ていたんだっけ?
未夢は何か、大切な夢を見たような気がするのだが内容を思い出せない。
そして、自然と自分の唇に指を持っていく。
暖かく、そしてやわらかい感触
なんだっけ?
「・・・・・・・夢さ〜ん!未夢さ〜ん!!」
遠くからワンニャーの声が聞こえる。
それに答えるように未夢は返事する。
「はーーーーーーい!」
トタトタと、ワンニャーの足音が未夢のいる部屋に近づいてくる
「あぁ!未夢さんお目覚めですか!そんなところで寝てると風邪引きますよ〜!!」
「・・・うん」
「もうご飯ができますよ!今日の当番は未夢さんでしたが、あまりにも気持ちよさそうにねていらっしゃるので彷徨さんが変わりにつくってくださりました〜!!」
「そうなんだ・・・。彷徨にお礼言わないとな。」
未夢とワンニャーはならんで居間へと到着する。
ちゃぶ台に乗っているどれも美味しそうなおかずの数々
「彷徨、ごめんね私が当番だったのに」
「・・・いやいいよ。」
「それでは食べましょうか!いただきます!」
ワンニャーが号令をかける。
それに続くルウ
「マーッシュ!」
「いただきます。」
未夢はお箸を手で挟んでぺこりと頭を下げる。
「未夢・・・」
「・・・?ん?なに?」
「ご馳走様でした」
「 ??? 何言ってるの?彷徨『いただきます』でしょ?」
なんだか罰の悪そうな表情をしている彷徨。
「いいんだよ///」
「へ〜んな彷徨!」
こちらの作品はキリ番BWG100000を踏んでくださった暁名さんのリクエスト『感触』です
感触といってなかなか思いつかず、キリ番を踏んでくださってから、ずいぶんと時間がかかってしまいました
感触・・・ん〜・・・と考え、前から使ってみたかった「押入れ」ねたを使ってみました〜
難産・・・難産です。
ちょっと彷徨君何してるの〜///と私も途中から爆発してしまいました!
あの時、彷徨君はしたのか(笑)未夢の夢なのか(笑)私は現実であって欲しい!!(笑)
まぁ、恋人未満設定のつもりで書いたので、未遂?しかし事後ということでもデリシャス♪(笑)
今回はノンレム睡眠中の未夢ちゃん視点の話ということで、なかなか二人の会話が成立しているようでしていない(笑)
寝ているのに、外の声が聞こえる。そしてその声に答える。なんて経験皆さんはありますか?
私は当たり前のようにしているので書いてみました〜
なんだか最近後を濁す傾向が見られます、「一体どっちやねん!」読者の人をいらいらさせるのが好きなのかなぁ・・・
それではこちらの作品をヒッターの暁名さんにささげます
2003/10/3
注)この作品は2007/2/20をもって閉鎖しました「Blue White Green」のキリリク作品として投稿させていただいております。
2007/2/17 あゆみ