作:あゆみ
アイドルに恋してるなんて言ったらどう思う?
無謀?
無意味?
ブラウン管の中の虚像…
そういう人は少なくないだろう。
だけど俺はそんな「彼女」におぼれてて…
虚像
一日にテレビの中で何度君のことを見るだろう
どこかのスポンサーが提供しているCM
君はきれいに化粧をして
きれいな服を着て
ひらひら舞っている。
誰に向けているか分かっているのか?
その笑顔は年齢を問わず虜にしているだろう。
君が微笑むだけで男の心は捕らえられて離さない。
ファンレターは今は1ヶ月何万と送られ、
彼女の事務所は彼女に当てたプレゼントと花でいつも埋まっている。
現在インターネットという情報提供の場がメジャーになってきて、
公式、非公式をあわせて君のことを好きなやつがどのくらいの思いでそのサイトを作っているのだろう。
そして、競い合うように、君への思いをぶつけ合っている。
サイトを作っている本人だけでなく、君を好きなやつはそれを見る。
その数を数えたら一体、日本でどのくらいの数の男の心を虜にしているんだ?
始めはこんなに未夢を。。。いやMIYUをテレビで見ることはなかった。
歌も満足に歌えない。演技は全くの棒読み。
そんな彼女がなぜその世界で生き残っているのかって
その笑顔なんだ。
彼女の笑顔はどんなに閉ざしていた心でも
自然と溶け込み、入り込んでくる。
ただのアイドルじゃない。
ただの芸能人じゃない。
天性の才能(笑顔)だろうその表情が
たまらなく
世の人間を虜にしてしまうのだ。
でも、最近彼女は極端に活動の場所を狭くした。
本人はもっと自分の世界を楽しみたいから!
と明るく笑っていたが、今じゃあMIYUは仕事を選ばなければスケジュールは仕事で埋まり、
寝るまもないような、スケジュールは過密なものになるだろう。
事務所も始めはもったいないとしぶしぶしていたが
あの笑顔は、これまでの彼女の人生から生まれてきたものだ。
疲れきった笑顔では意味がないことは事務所も分かっている。
だから、未夢の意見も通った。
本人はあまり自覚してないけど…
しかし、事務所も大人の社会である。
スポンサーとはこれからの付き合いとしてはつなぎとめておきたいものだ。
だから、こうしてCMでは彼女を見ることができる。
またそれがファンにはたまらない。
・・・らしい。
どんどん俺のそばから離れていって
どうするんだよ未夢。。。。
独り占めしたいとか、
笑顔は俺だけに見せてほしいとか、
閉じ込めておきたいとか
これじゃあ周りの男どもと同じか…
ファンの心理?
虚像へのあこがれ?
一体俺はどうしたいのだろうか?
中学のときに気持ちは伝わった。
恋人同士になった。
だけど、一度スカウトされた事務所から再度スカウトされて。
ルウも帰ってしまったし
軽い気持ちでやってみようかなと始めた未夢。
MIYUという名でデビューして今や「恋人」の俺でさえもなかなか会えない状態。
俺だけの未夢なのに…
こんな状態になるなら、反対すればよかった。
だけど色々な可能性を持っている未夢に反対できるわけがない。
俺のわがままを押し付けるわけにもいかない。
でもこの気持ちのやり場が無くて。
会いたい、逢いたい、あいたい…
夕方の西遠寺、夕日のオレンジ色が西遠寺の今にも入り込む。
高校から帰ってきて制服のままテレビに座り込んでいた彷徨
いろいろな思いが心の中を渦巻いていて時が立っていたのも気づいていなかった。
意識が飛んでいた中、彷徨は玄関のドアが開く音を意識の遠くの方で聞いた。
ガラガラガラ…
親父かな?
そんなことをボーっとしながら考えていた。
トタトタ…
こちらに向かってくる足音、
居間の前で立ち止まって夕日を背にしているその人物は
彷徨に長い影を落とした。
彷徨はそのほうを向くが逆光でその人物の表情がわからない。
が。。。
「未夢!!」
彷徨はその影の人物に体を起こして叫んだ。
「彷徨!ただいま〜!!」
段々はっきりとしてきたその人物は彷徨に近寄りブラウン管の中では見られない笑顔を彷徨に向けた。
未夢だ…
正夢?
俺が都合のいいような夢を見てるのかな?
彷徨は突然のことにビックリしてどう反応していいのか分からなかった。
そんな彷徨の側に未夢は近づいて腰をおろした。
「へへ///ちょっと時間が空いたからマネージャーさんに頼んで寄ってもらったの///」
「本物?」
「なに?彷徨寝ぼけてるの〜?」
未夢は変わらない笑顔ではしゃぎながら彷徨に言った。
そんな未夢を見ながら彷徨は自然と体が動いた。
未夢の腕をつかみ自分の方へと引き寄せる。
「これは本物か?」
「彷徨?…」
彷徨の胸に顔を埋めている未夢にも分かるくらいに彷徨は小刻みに震えていた。
いつもとは違う彷徨の様子に、未夢ははしゃぐのを止めて彷徨の胸の中でおとなしくしていた。
段々彷徨は未夢を抱きしめる力を強くした。
未夢をただ抱きしめると言うよりも、
芯から包み込むように
宝物のように
「彷徨?制服にお化粧がついちゃうよ?」
「……。」
始めは未夢も彷徨に抱きしめられるままだったが何かを悟ったのか
彷徨の体に自分の腕を通して彷徨の学ランにしがみつく。
精一杯の力をこめて
自分の存在を確かめるように
彷徨を感じられるように
二人はそこから動くわけでもなくただ互いに抱きしめあった。
わずかな時間を二人だけの時間にするために…
「未夢…未夢…。」
未夢の髪に顔を埋めていた彷徨が沈黙を破るように何度も未夢の名前を呼ぶ。
「彷徨?」
未夢を抱きしめる力をいっそう込めて彷徨は言った。
「…………………あいたかった……。」
その声はとても小さかったけれど
未夢に、伝えたい相手に届いた。
こんな…彷徨……。
彷徨の寂しさが未夢に直に伝わったのか、
段々と未夢の目じりにあついものが集まった。
「わたしも………あいたかったよ………。」
未夢の瞳から一筋の涙
ようやく強い力から解放されて未夢は彷徨の体から離れた。
お互いに顔を見合って未夢は驚いた。
彷徨…ないてる?
彷徨の頬には一筋の涙の軌跡があった。
近い距離だからわかる軌跡。
未夢は膝を立てて彷徨を上から見下ろす。
細い指で彷徨のその軌跡をなぞる。
彷徨も先ほど流した未夢の涙の後を指でぬぐう。
未夢はそのなぞった軌跡をみて
ゆっくりと顔を近づけた。
彷徨はゆっくりと目を閉じる。
未夢は彷徨のその"跡"に唇を落とした。
未夢はゆっくりと唇を離し彷徨をみるとすでに彷徨は未夢を見つめていた。
「はは…かっこ悪いな俺…。」
彷徨はなさけねぇ…というような笑顔を未夢に見せる。
「なかなか会えなくてごめんね。」
未夢は彷徨の首にしがみついた。
「しょうがねぇよ。おまえ頑張ってるもんな。」
彷徨はしがみついている未夢の背をぽんぽんと叩く。
「…………。」
「しかし…全く俺も…なんだな…………」
「なに?」
「これじゃぁ。あの時のルウじゃねぇか。」
「…………ップ!…………クスクス…」
未夢は彷徨にしがみつきながらも笑い出した。
「そうだね。今の彷徨あのときのルウ君みたい。」
「ルウと同じか…」
「さみしかったんでしゅか〜?」
「おい!ガキ扱いするなよ!!」
「フフフ…」
「この後仕事あるのか?」
「うん。下でマネージャーさんが待ってるの。」
「すぐ行くのか?」
「あと五分…」
「そっか。」
「そうだ!お茶いれようか!」
未夢はしがみついていた腕を解き立ち上がろうとする。
その未夢の手首を彷徨が捕まえて
引き寄せる。
「もったいねぇよ…」
そういった彷徨は未夢の唇を奪う。
あと、五分だけは
みんなのアイドルじゃない俺だけの未夢で………
泣き虫、ヨワヨワ彷徨君でした。
このキリリクはあけぼのさんのリク「未夢ちゃんがアイドル、または芸能人」
と言うことだったのですが、こんな話に。。。
私はよくテレビのことは分からないので空想でこんな話になってしまいました。
最後のほうに出てきた「あのときのルウ君」と言うのは皆さん分かりますよね?
アニメのあの回の話です。
ルウ君がめちゃめちゃ涙を誘いました〜!!
そんなかんじで(どんなかんじ?)いつもと違った雰囲気の二人
主導権は未夢ちゃんかな?でお送りしました『虚像』です。
このようなリクを下さったあけぼのさん!ありがとうございます!!
こちらの作品をあけぼのさんに捧げます。
2003/7/27
注)この作品は2007/2/20をもって閉鎖しました「Blue White Green」のキリリク作品として投稿させていただいております。
2007/2/17 あゆみ