門出

作:あゆみ












桜のつぼみも膨らみ
花ひらけば春


出会いと別れの季節とはよく言うけど
今年俺はまた別れを経験する。


5年前、真新しい制服に身を包み新しい学友との出会い
4年前、大きなかばんを持って西遠寺に訪れた少女と赤ん坊との対面
3年前、親としての別れのつらさを知り、自分と向き合って気づいた感情
2年前、通じた気持ちに喜び、通じ合い初めて感じる感情に戸惑い
1年前、離れることなく変わらず笑顔で隣にいてくれることに感謝する

そして今年、俺たちは高校を卒業する…











門出











3月1日

「あと、残す学校行事は卒業式か〜」
机に頬杖つきながらつぶやく未夢。

「そうだねぇ〜なんかあっという間だったねぇ〜」
腕を組みうなずきながら、ななみが言う。

「結局ななみちゃんとは6年、未夢ちゃんとは5年間一緒だったねぇ。」
指を折り、綾は感心したように言う。

「なんていうか、ずっとこのメンバーで中学からいるから感覚ないよねぇ・・・」
「ほんと、代わり映えしないよね」
「私が転校生としてからこのメンバーで5年間も一緒にいたんだぁ」

「さすがに彷徨君と、黒須くんは4年目にしてクラスが分かれたけどね。」
「そりゃ、彷徨君と黒須君は進学組みだからねぇ。ねぇ?未夢」

「えっ?!あぁ、そうだね、私たちは短大に専門学校組みだからクラスも分かれるよね」

「そうじゃなくてぇ〜1年間とは言えど彷徨君とクラスはなれて寂しかったんじゃないの〜?」(ニヤニヤ)

「///そんな///寂しいだなんて!ななみちゃん!からかってるでしょ!」

「だってさぁ〜ねぇ?綾?」

「うんうん。いくら付き合ってるからって、学校のクラスが違えば一緒にいられる時間も少なくなっちゃうしね」
とニヤニヤしながら未夢をからかうような二人。


「///一緒にいたくないって言ったらうそになるけど///今年は彷徨も私も受験でしょ?
だからそんなに会えないのは分かってたし///彷徨の邪魔しちゃいけないからと思って会うことはお互いに控えてたんだ///」


「そっか〜彷徨君国立志望だもんね…。でもさバレンタインとかクリスマス!イベントにはデートしたんでしょ?」


「う〜ん。それもプレゼント交換くらいでデート…ってことはしてないんだ」


「そうなの〜??てっきり二人には受験というハードルがあってもイベントは燃え上がってるものだと思ってたよ!」


「綾ちゃん…///」
燃え上がるという表現が恥ずかしいのか未夢は顔を赤くしている。

「でもさ!!もう受験も終わったし!今までの分たくさんデートできるじゃん!」

「///・・・うん///」






3月2日


ガヤガヤ・…………

・・・あぁ〜どうしよう・・・。

彷徨は考えていた。

受験は先日国立の後期試験も終わって結果を待つのみだ。
何か間違えていない限り、落ちていることはないと思う・・・

それでは何を考えていたかというと未夢のことだった。

今年は受験だったということもあって、なかなか二人で会える時間が無かった。
イベントもプレゼントのみという形に終わった。

12月クリスマスと誕生日兼でお互いに悪い虫がつかないように、指輪を交換しあった。(売約済みの印だ)
2月バレンタインは未夢がチョコとマフラーを編んでくれた。

そして3月、ホワイトデーと未夢の誕生日がある。

悩んでいたことは、未夢に何を渡そうか?ということだった。

アクセサリーがいいのか?それとも毎日使うもののほうがいいのか?
指輪を渡してしまった以上、あとは何を渡したらいいのか分からない。

あと学校に来るのも数日だ。
しかも卒業式の日と未夢の誕生日が重なっている。
卒業式・・・
卒業したら春から未夢は短大、俺は四大(受かってたらだけど)お互い一緒にいられることが少なくなってしまう。

いまはできる限り未夢と一緒に過ごしたい。

だめだな…これは将来…俺完全に未夢の尻に敷かれるわ・・・









3月9日


今私の隣には彷徨がいる・・・。
何を考えてるんだろう・・・。
ずっと一点だけを見て何か考えているみたいだ


「彷徨?どうしたの?何か考え事?」
「えっ?いや、別に?」

「なにか真剣に悩んでる感じだったけど?大学は受かったから受験のことじゃないよね?」
「あ?!!あぁ・・・」

今日は彷徨の受験した大学の発表だった。
その発表を見に行った帰りだった。

どうしたのかなぁ…。

彷徨は無事合格。喜んでいるのならまだしも、何か悩んでいる彷徨を未夢は心配だった。
と、突然彷徨が未夢の顔を直視しだした。
それに気づいた未夢は

「なっ!なに?///」
「………」

「なに〜???」
「えっ?いや・・・未夢口に何かつけてる?」

「えっ?あぁ!ちょっとリップを。色つきなんだけど」
「へぇ〜。なんかおいしそうだな」
「な!///おいしそうって。」
「なんか、さくらんぼうみたい。」
「なに言って・・・。」

最後まで聞き終わらずに彷徨は道の真中で未夢の唇に自分の唇を軽く重ねた。
そして舌を出し、
「うん。甘い!!」
「////////////////」
(どうしちゃったの彷徨〜!!)







3月14日

今日は卒業式の予行練習だった。
本番を想定して練習を何度も繰り返した。

もう何度、校歌を歌っただろうか、何度も何度も繰り返し、ちょっとうんざりしている。


練習も終わり教室で

「未夢〜!!」
彷徨がドアから叫んだ。

「あっ!彷徨!どうしたのうちの教室まで来て・・・」
ななみたちとしゃべっていた未夢は彷徨のいるドアまで駆け寄る。

「今日の帰りちょっと予定が入っちゃってさ…。悪い!一緒に帰れないんだ。あと家に帰るのも何時になるかわからないから。」
「うん…。分かった。ななみちゃんたちと帰るよ…。」
「ごめんな。じゃぁ!」

背を向けて廊下を走っていく彷徨。
それを見届けて未夢はななみたちのところへ戻る。

「彷徨君なんだって?」
「今日、一緒に帰れないって。」

「「えぇー!!なんで?今日はホワイトデーなのに!!」」

「でも遊ぶんでしょ?」
「ううん。何時に変えるか分からないからって」

「「なんで―――??」」

「何でそんなに驚くの?だって彷徨そういう行事に疎いじゃない!いまさらだよ!」

そう明るく言う未夢だったが、明らかにその笑顔は寂しそうだった。
(最近、彷徨の態度が変…私何かしたかなぁ…)







3月15日

卒業式。
未夢の誕生日でもある。
卒業式は恙無く終わり。俺たち卒業生は無事に卒業することができた。
ふと、女子の方を見ると未夢の姿を見つける。
泣いていた。
今日でこの高校も最後。
別れの春は何度目だろう…



帰り道・・・

「彷徨すごいねその格好。」
「あぁ・・・」

「同級生に下級生、女子たちが彷徨君を囲んで制服のボタン引きちぎっていたもんね」
「まいったよ。」

彷徨はボタン目当ての女子たちに、制服のありとあらゆるボタンを取られ、ズボンは抑えていないとずれ落ちるし
制服の上は完全に前がはだけていた。

「未夢、俺こんな格好だから、着替えたいし未夢も着替えたらうちこいよ。」
「うん!!」



(あれ?いつもの彷徨だ。)



今日は娘の卒業式、誕生日だというのに未夢の両親は急な仕事で式に出ることができなかった。
誕生日を祝ってくれると綾とななみに言われたが、卒業式でもあるということで未夢の誕生日祝いは後日ということで変更になった。
そんな日に一人じゃないことに、彷徨がいてくれることが未夢はうれしかった。


身支度を整えた未夢は西遠寺に着いた。

「おじゃましま〜す。」
「おぉ!こっちだ未夢!」

彷徨の部屋から声が聞こえたので未夢は部屋に向かった。

「彷徨〜入るよ〜」
「あぁ!」

未夢は彷徨の部屋に入り、こちらを見ている彷徨の前に座った。

「彷徨。卒業おめでとう」
「未夢も無事卒業おめでとう。」
いつもの調子で彷徨はからかうようにいった。

「無事とは何よ。実力だもん」
未夢は頬を膨らませて、怒ったふりをした。

「ははは。悪い悪い」
「それが謝っている態度ですか〜彷徨さん。」
といいながら未夢は両手で彷徨の頬をつまんだ。

彷徨は頬をつねっている未夢の手に自分の手を重ねて未夢の目をみて真面目な顔をしていった。
「悪かった…。昨日もホワイトデーなのに悪かったな。」
「!!!覚えてたの?」

「忘れないよ。でも何をお返ししたらいいのか迷っててな。」
「・・・そんないいのに・・・。彷徨がいてくれれば私は何も要らないよ。」

未夢の手を握り彷徨は少し強引にその腕を自分の首に回すようにした。
自分の顔の横に来た未夢の耳元にそっとささやいた。
「誕生日おめでとう。」


未夢は立てひざで彷徨に抱きつく形になり、キュッと抱きついた。
彷徨もあぐらをかいたまま未夢の腰に腕を回し抱きしめた。

「何もいらないなんて…まぁそんなこというなよ。いろいろ悩んで買ってきたんだ。」

少し体を離して
「えっ?なに?」

そうすると彷徨は自分の引出しから手のひらサイズの長方形の箱を取り出した。
その箱を未夢の手に乗せる。
「ホワイトデー兼誕生日で悪いんだけどな…。」
「あけていい?」
「ああ。」

未夢がその箱から出したものは口紅だった。
「彷徨…これって…」
「あぁ///アクセサリーにしようか迷ったんだけど、毎日つかえるもの、と思ってそれにしたんだ。」

キャップをあけるとピンク色の淡いルージュだった。
「高校も卒業したし、これから化粧とかするんだろ?この前のリップを見て思ったんだ。」
「///彷徨これ/////彷徨が買いにいったの?/////」

「/////ほかに誰がいるんだよ////昨日はそれを買いにいってたんだ。」

彷徨が口紅を選んでいる姿を想像して未夢は信じられないという気持ちでいっぱいになった。

頬をピンクに染めて、未夢はうっとりとその口紅を見つめる。


「口紅を塗るなんて。七五三以来かな。ドキドキしちゃう。」
「ぬってやろうか?」
「えっ?」
「貸せよ。塗ってやるから。」
「変にしないでよ〜」
「任せろって。」
(とは言ったものの、なんか恥ずかしいな・・・)

未夢は持っていた口紅を彷徨に渡し、向かい合うように座りなおした。
彷徨の手が未夢のあごを軽く持ち上げて今にもキスをしそうな形になる。
未夢はてれそうになるのをこらえて彷徨にされるままにする。

「未夢、唇軽くあけて」
「ん・・・/////」

彷徨は器用に未夢の唇に口紅を塗っていった。

「うん。目立ちすぎず、今の未夢には落ち着いてていい感じだな。ほら。」
と彷徨は鏡を手渡した。
「わぁ〜なんかてれちゃう。」
と未夢は鏡を見ながら言う。

「ありがとう彷徨///でもちょっと、濃いかな/////」
「そうか?」
「落とさなくちゃ・・・・・」


そっと彷徨の肩に手をおき立てひざの形になり未夢は彷徨の顔を見下ろした。
そしてゆっくりと彷徨の唇に自分の唇を落としていく。




(この先、この人の唇に口紅をつけるのは私だけでありますように////)

出会いの春…
別れの春…


どんな別れを経験しても、最後に隣にいるのはこの人と…









END












うわぁ。なんか。いいのでしょうか?
気合カラ回り?こちらの作品はBWGキリ番222ヒット菜月ひまわりさんのリクエスト『卒業』ということで書きました。
菜月ひまわりさんは『宇宙旅行株式会社』の管理人様です。BWGの初キリを踏んでいただきました。ありがとうございます〜

さてこの駄文ですが。あぁ…未夢ちゃんの誕生日3月だったなぁと思い、こんな形になりました。
色々詰め込みすぎましたかねぇ(汗)
口紅。そうですね。近頃の高校生もお化粧をかなり上手にしてますが、大体デビューは高校卒業からかな?と思い書きました。(おそいかな…)
口紅をプレゼントするなんて彷徨君もやるねぇ!
未夢ちゃんの唇もピンクの淡いルージュから年を重ねるごとにレッド、ボルドーへと変わっていくのでしょう。
この二人もこのさき色々な出会い、別れを経験すると思いますが、いつまでも隣には未夢ちゃん、彷徨君がいることでしょう…。


2003/3/22  あゆみ
注)この作品は2007/2/20をもって閉鎖しました「Blue White Green」のキリリク作品として投稿させていただいております。

2007/2/17 あゆみ


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