作:あゆみ
憎たらしいなぁ・・・・
私があなたを思うほど、
あなたは私のことを思っていない。
そんなこといったら、あなたは怒るでしょうね。
でも、
好きでいればいるほど切なくて
好きでいればいるほど嬉しくて
好きでいればいるほど溢れてしまいそうで
こんな気持ちはあなたは知らない。
誰もわからない。
私だけが知っている私の思い。
西遠寺・・・
「彷徨のばか!!!!」
西遠寺の境内のなか、未夢の声が響く。
「おい…だから何を怒鳴っているんだよ。。。」
何を怒っているのか全く分からないというような彷徨。
未夢の手に持っている彷徨のシャツ。
今日は久しぶりに仕事も休みの彷徨が家にいて、
未夢は家事の洗濯をしていたところだった。
西遠寺の境内で、
最近ヨチヨチ歩きができる愛娘の未宇とあそんでいた彷徨は
自分のシャツを持った未夢が突然怒っていて様子に驚く。
「なに?このエリの口紅は!!」
「はぁ?」
未夢が彷徨に差し出したシャツのある染みの部分にうっすらピンク色の口紅の唇型のしみと
その上にグロスらしき光沢が付いていた。
「・・・彷徨浮気してるの?」
「はぁ?」
未夢はうっすら涙を浮かべ、彷徨の口紅つきのシャツをもって震えている。
「そんなことあるわけないだろ…。」
はぁ〜とため息混じりに彷徨は言う。
「もう、私のことなんて飽きちゃったの?」
「ありえない。」
間髪いれずに彷徨は答える。
「未宇も生まれたのにひどいよ!!」
「だから浮気なんてしてないよ。」
「じゃあなんなの?この染み・・・」
「それは…多分昨日の電車の中で目の前で女性が倒れて受け止めた時に付いたのかな?」
彷徨は昨日のことを思い出すように空を見る。
「でも…」
「デモじゃない!」
彷徨は少し大きな声を上げる。
それまで境内に敷き詰められていた石であそんでいた未宇が自分の父親と母親の
異様な雰囲気を察してか、よちよちと彷徨の足元に来ていた。
彷徨は未宇を抱き上げて未夢を見る。
「お前、ちょっと頭冷やせ!
オレと未宇は河原いって遊んでくるから」
そういって彷徨は未宇を抱き抱えたまま外に向かって歩いていった。
「・・・・・・・まま?」
小さい未宇が残された未夢を振り返り彷徨の片元でつぶやいた。
「大丈夫。ママは分かってくれる。」
彷徨は未宇にそういって西遠寺を出て行った。
西遠寺に残された未夢。
ばかばかばか・・・
結局なんで彷徨が怒ってるのよ。
私が彷徨を信じていなかったから?
結婚する時、この人を信じて残りの人生を歩んでいこうと誓ったのに、
そして彷徨も誓ってくれたのに、
私が信じずに疑ったから?
最近、不安だったから…
彷徨は仕事へ行っちゃうと
未宇と御父様と三人西遠寺に残って
家事をして、育児をして…
この二つがやりたくないからというわけじゃない。
好きな人のうちに嫁いで、あなたが帰ってくるところが私のいるところということですごく嬉しいし
好きな人との子供を生ませてくれて、日に日に育っていくその子を見ているだけでものすごい幸せだし
だけど、あなたといる時間が
学生だった時より、愕然と少なくなっちゃったから
そばにいられる時間が少なくなっちゃったから、
あなたは社会に出てまた視野を広げているから
どんどん遠い人に、届かない人になってしまいそうだから
家にいるだけの私に何の魅力があるのか…
不安になってた…
……彷徨が怒るのも無理ないよね
私が、先に疑っちゃったんだもん。
あやまろう!
そして一緒に帰ろう!
未夢は玄関に行って靴を履き、
彷徨と未宇のいる河原へと向かった。
見つけた!…
そこには、父娘が楽しそうに遊んでいる光景。
「あっ!!ママ〜!!」
未夢は土手に座ると、自分に気づいた愛娘の未夢に手を振った。
未宇はトタトタと未夢の元へ走り出した。
彷徨は未夢を見つめその場に立っている。
二人の距離を未宇は走ってきて未夢に飛びつく。
「まま!」
「未宇〜!」
未夢は未宇をギューっと抱きしめた。
「まま?パパ?」
未宇は、自分の母親に抱きしめられながら二人を交互に見返す。
彷徨は未だにその場からこちらへ来ようとはしない。
不安そうに未夢の顔を見る未宇。
そんな娘を見つめながらも。
どうしよー。
なんていって仲直りしたらいいかな…
「ママ?」
未宇は首をかしげて未夢のほっぺたをペチペチとたたく。
そうだ!
未夢は思いついたように抱いていた未宇を再び地面に降ろす。
そして小さな未宇の耳に耳打ち
「××××……。」(大好き!ごめんね)
未宇はくすぐったさを感じながら、耳打ちする母の言葉を聞く。
「……。ってパパに伝えて!未宇。」
にっこりと未夢は未宇に微笑む。
「うん!」
元気よく返事をした未宇は、その場からまた元いた父の元へ走り出す。
彷徨の元へ行った未宇は先ほど自分が未夢にされたように
彷徨を自分の口元の高さまでしゃがませる光景が見えた。
そして未宇は彷徨に耳打ちし、
彷徨は微笑んだ。
お返しにといわんばかりに彷徨が未宇に何か耳打ちしている。
そしてまた、未宇が未夢の元へ走ってきた。
はぁはぁと息を切らせながら未宇は言う
「ママ!!お耳かして!」
「なぁに〜?」
といいながら未夢は未宇に耳を貸す。
小さな手の未宇の手が添えられて
こっそり耳打ち
「パパがね!『知ってる。パパもだよ』だって!」
それを聞いた未夢はほんのりホホを染めて微笑む。
向こうから彷徨がこちらへ向かってきた。
その後は、皆さんの想像通り三人仲良く西遠寺へと帰っていったことは間違いない…。
2003/8/22 あゆみ