作:あゆみ
気づくと未夢は仰向けに倒れていた。
視界に入ってくるのは見たこともない天井。
「さっきので最後だろうな。」
上から西遠寺彷徨の声が聞こえる。
「えぇ。」
未夢は不意におかしさがこみ上げてきた。
笑いが止まらない。
未夢は笑った。
西遠寺彷徨はあきれたように腕を組んでいる。
「立てよ。」
「うん。」
手を差し伸べてきた西遠寺彷徨の助けを借りて未夢は立ち上がった。
やはり間違えではなかった。
あれは夢ではなかったのだ。
始まりはあそこからだったのだ。
西遠寺彷徨とのキス。
動転していて夢だと思い込んでいたがあれが始まりだった。
「まったく・・・これだから心配で目が離せないよな。」
西遠寺彷徨はいたずらっぽく笑った。
「ごめんなさい。私も夢だと思っていたから・・・」
未夢は小さく舌を出して笑った。
「くっ・・・」
急に西遠寺彷徨は脇腹を押さえてかがみこんだ。
「西遠寺君!」
未夢は西遠寺彷徨のそばに近づく。
すると、支えようとした手が空を切り
別の力が自分を引き寄せてきた。
気づくと未夢は西遠寺彷徨の腕の中に納まっていた。
「さ!西遠寺君。」
ふぅ・・・っと西遠寺彷徨はため息を付いた。
「まったく、俺が女に振り回されるときが来るとはな・・・」
「えっ?えっ?」
未夢は西遠寺彷徨の腕の中で動揺する。
西遠寺彷徨が腕に力をこめて言う
「お帰り未夢。」
「・・・ただいま。彷徨。」
未夢は、西遠寺彷徨の腕の中で微笑んだ。
これで、本当に全部終わった。
『移動現象』は完結し、未夢の時間は本に戻ったのである。
これから、自分と西遠寺彷徨がどうなっていくのか、未夢は知らない。
だが、だからこそ、未夢は自由なのだ。
過去にも、未来にも拘束されることなく、自由に生きていけるのである。
西遠寺彷徨の腕の力が弱まり未夢は拘束から開放される。
変わりに、互いの視線が、唇が近づいてゆく・・・
そして、二人の距離がゼロになったとき
これからの二人のストーリーが始まった。
(おまけ 完)
明日は昨日 完
ありがとうございました。
叱咤、感想お待ちしております。
では別の作品でお会いしましょう。
あゆみ