カレッジカレッジ

2時間目 待ち合わせ

作:あゆみ









喫茶店をでた未夢はふぅと一息ついた。
素敵なものに出会えるのはとても嬉しいことだ。
とくに今日は多くの素敵に出会た。未夢はたった今のことを思い起こした

おいしいコーヒー
おいしいカボチャクッキー
素敵な喫茶店
素敵なマスター

もうすぐ初夏という天気が温かく未夢を包む。
未夢の白いワンピースは乱反射した太陽の光によって白く輝いていた。
太陽のまぶしさとは違う柔らかい光に包まれていた。
未夢は目を細め、もう一度携帯の時計を見た。
待ち合わせの時間まで後10分。

マスターの話だと目的地までは100メートルだという。
未夢は、教えてもらった風立公園へ向かうことにした。
素敵なお土産ももらうことができたし、
なによりこの『素敵』を早く『彼』と共有したい、そう思った。




+-+-+-+



緩やかな丘を登り終えると未夢は無意識に足早になっていた。
国立N大学に寄り添うように存在する風立公園は
土曜日だというのにもかかわらず
学生の姿が多く見られた。
中にはカップルもいるようで、緑が色濃くなった芝生の上で
彼女の膝枕に頭をよせ、ゆっくりと流れ行く時を過ごしているカップルもいた。

初めて来た公園の中を未夢はぐるりと見渡した。

彷徨が指定した待ち合わせ場所
噴水を探すため目を凝らした。
すぐに目的の噴水は見つかった。

時間ごとに様子を変えるタイプの噴水のようだ。
遠めに見た感じではまだ彷徨の姿は見当たらない。
未夢はゆっくりと歩み始めた。



 きっとあの大きなキャンパスのような建物が彷徨がいるN大学。



未夢は自分の通っている短大とは違う規模・独特のたたずまいに
しばらく見とれていた。
再び携帯の時計を見る。
約束の1時だった。



 どうしたんだろう?
 彷徨が遅れるなんて珍しいな。
 ・・・しょうがないなぁ。




未夢はそう思い噴水の周りをぐるりと一周することにした
今は見えない反対側にもしかしたらいるかもしれないと思ったからだ。
携帯をハンドバックにいれて肩にかけ直す。



 そういえば、4年生研究室に入って大変だって言ってな。
 今はデータをとるとか何とか・・・



きっと、今も研究室で作業に追われているのだろう。
そう思いながら未夢は噴水の周りをゆっくりと歩き始めた。

一歩、二歩、三歩・・・




+-+-+-+




未夢は気づいていなかった。
周りの声を


 「なぁ、お前あの子誰だかしってる?」

 「うちの大学にあんな子いたか?」

 「なんか、かわいいなぁ。」


様々な発言が公園の各所から聞こえてくる。特に男性の声が多いようだ。


未夢の整った顔立ち金色の長い髪。
髪はまっすぐで歩くたび、風に吹かれるとふんわりと舞っていた。
さらに遠目から見る未夢はまるで発光しているようなのでさらに人をひきつけた。

未夢は彷徨を待つため時間つぶしに噴水の周りを歩いていたのだけなのに。



 「何してるんだろう。声、かけてみようかな俺。」



という男の声を彷徨は聞き逃さなかった。
先ほど待ち合わせ時間に間に合わないことを誤りに行くために
研究室を抜けた彷徨は公園に入りすぐに未夢の姿を見つけた。
白いワンピースを着た未夢はまるで妖精が水辺を散策しているようにみえた。

うっとりと見とれていた矢先に耳に飛び込んだ声だった。
主語がなくても誰のことをさしているのか、彷徨は本能的に感じた。
 



  ・・・んだと?!




遠目に未夢の姿を確認していた彷徨は一目散に
未夢の元へと駆けつけた。



 「あ!彷徨」




未夢は近づいてきた人物を確認すると満面の微笑みで迎えた。



  まったく、油断も隙もあったものじゃない。


彷徨はそんな思いを悟られないようにまるで普段と変わらないようにいった。



 「悪い。遅れた。っていうかまだこんな格好でごめん。」


と彷徨はいった。
『こんな格好』そういった彷徨の姿は研究室から出てきたままの白衣姿だった。
白衣といっても赤や緑、ところどころ黄色のしみが付いていた。
合成の研究室独特の試薬類のしみだった。



 「彷徨、どうしたの白衣じゃない。」



未夢は見たことも無い彷徨の姿に驚いていた。
しかし、視線が外せないことに自分でも気づいていた。
きれいとはいえない白衣を身にまとっている彷徨だが
Vネックの黒のインナー。穿き古されたジーパン。アディダスのスニーカー姿は
妙に様になっていて、白衣特有の『陰気さ』が感じられなかった。



 似合っていた。




 「ごめん。いま実験の後処理中なんだ。あと10分待っててくれ。」

彷徨はいった。

 「ん!いいよ。まってるよ〜」

未夢はニッコリと笑った。

 「悪いな。」

彷徨は手を合わせてペコリト頭を下げた。
するとまた、遠くから聞こえる声を彷徨は確認した。




 「なんだよ。男付きかよ・・・」




それを聞くと彷徨はほっとした。
まったく、こうも人をひきつけてしまう未夢と付き合っていると
危なっかしくて仕方が無い。




 でも、また10分ほどこの場を離れてしまうわけだし・・・
 また、危ない虫が近寄る可能性がある・・・





彷徨は考えた。
そして実行に移した。




 「ん?未夢コーヒーでも飲んだ?」

 「え?あぁ!あのね・・・」




未夢があの喫茶店の説明をしようとしたときだった。
未夢の口元に彷徨の顔が近すぎるほど接近していた。
もう少しで接触するほどの距離だった・・・




 「な!!!彷徨!」




未夢は急な彷徨のアップに驚いた。
顔が真っ赤になり、焦りから両手をバタバタしている。

彷徨はふっと笑った。




 何年付き合ってるんだよ。





彷徨は相変わらず照れ屋ですぐ表情に出てしまう目の前人物に
改めて愛しさを感じた。
しかし、自分のからかい症も昔から直らないもので・・・


彷徨は未夢の細い肩をしっかりと掴んで離さなかった。
そして今すぐにでも口と口とがくっついてしまいそうな状況を楽しんだ。


 さぁ、これで悪い虫はよってこないといいんだけどな。


彷徨はニヤリと笑った。

 「か・・・か・・・かな・・・人、ひと・・・」

 「ん?未夢、お前コーヒーだけじゃなくクッキーも食べたな?」

 「か・・・か・・・」

彷徨はくんくんと未夢の口元から頬、頭、首筋と
まるで犬のように嗅ぐまねをした。

未夢は周囲の視線が気になった。
なにやら口々に何かを言っているようだ。
でも聞こえない・・・
恥ずかしさからか自分の心拍音が早鐘のように打っていて
胸の音しか聞こえなかった。


 「あとで味見させろよ。」


と彷徨は言うと。



ペロ


と未夢の頬を舐めた。


 「な///か!・・・まわり・・・みて・・」

公衆の面前での行動に未夢は言葉にならない。


 「すぐ来るから!待ってろよ。」

彷徨は金魚のように口をパクパクさせ
顔を赤くしている未夢を残し踵を返して元来た道へ駆け出した。



  ま。こんなもんかな。



彷徨はペロリ舌を出して走っていった。
未夢の甘い香りを味わったまま・・・。












外野の声

 「あれって工学部の西遠寺じゃないか?」

 「え?あれって西遠寺の彼女?」

 「しょっくー。西遠寺君彼女いたんだ・・・」

 「工学部の首席の西遠寺が・・・あの堅物が彼女ねぇ・・・」

 「彼女いたんだ。ショック。」

彷徨の牽制は成功?!



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