hello my baby(霧山夏樹しゃん)

(上)

作:山稜






「未夢、調子はどうだ?」


おれは病室のドアを閉めながら、ベッドに横になっている妻ー未夢に尋ねた
未夢は笑いながら「大丈夫だよ〜」と言っているが、顔色が良くないのは一目瞭然だった
それに少しやせたような気もする


未夢は今、入院している
といっても、病気というわけではない
出産予定日が近いということで最近、産婦人科に入院した
初めての出産ということで、夫婦そろって戸惑ってばかりだ
本当は親父や未夢の両親に協力してもらおうと思っていたのだけど、
親父はインドだかネパールにまた修行に行ってしまい、連絡が取れない
未夢の両親も、アメリカの方で仕事が忙しく、落ち着いて休みを取ることができないらしい


「そういう彷徨こそ大丈夫?なんか疲れてるみたいだよ?」


未夢の声におれはハッと我に返った
知らぬ間にボーっと考え込んでいたらしい
未夢が心配そうにこっちを見ている


「大丈夫だって!心配すんな」


そう言っておれは未夢の頭に手を置いた
すると、未夢は嬉しそうに「うん」と頷いた
それを見てるだけでおれもがんばれるような、そんな気がした



チラッと時計を見ると、そろそろ出勤時間になるころだった
床に置いたかばんを拾いながらおれは立ち上がった


「じゃあ、そろそろ行くけど、何かあったらすぐ連絡しろよ?」


「うん・・・彷徨、いってらっしゃい」


「あぁ、行ってくる」


そしておれは普段どおり仕事に出かけていった
と、言っても未夢が気になって仕方ないんだけど・・・




「・・・寺・・ん、・・・遠寺さん」


「西遠寺さん!!」


突然聞こえた大声に驚き、相手を見ると、同じ会社の烏丸だった
烏丸は不思議そうな顔でおれを見ていた

「西遠寺さん、大丈夫ですか?」

「あぁ、悪い・・・で、どうしたんだ?」


「今度の桜葉商事のプレゼンの件なんですが・・・」


「ああ、それなら・・・ここ・・に」


おれは言いながら立ち上がろうした
すると、とたんに強い脱力感に襲われ、その場に倒れて込んでしまった
周りの人が何か大声で叫んでいるのをぼんやり聞きながら、おれの意識は遠のいていった





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