作:嘉凪
・・・はぁ、疲れた・・・。
そんな事を考えながら、椅子から立ち上がり大きな伸びを一度した。
背中の骨がそれに合わせてパキッと軽い音を立てる。
「お〜、西遠寺!お疲れ!」
「あっ、ハイ。お疲れ様です!」
部長がするりと横を通り過ぎ、
慌ててペコリと頭を下げた。
まだ30台前半なのにあっという間に
部長まで上りつめたこの人に、
何故だか入社した頃から期待されてしまっている。
今俺が任されている、大きなプロジェクトだって
本来ならもっと適任がいるだろうに・・・。
そう。それなのに。
真っ先に部長は俺を指名した。
「あのぉ〜西遠寺さん、よかったらこのあとお食事にでも行きませんか?」
毎日、仕事が終わると女子社員の誰かしらこうやって声を掛けてくる。
・・・何だかなぁ・・・。
「いや、悪いんだけど遠慮しておくよ。
せっかく誘ってくれたのに悪いな。」
こんなセリフももう慣れっこで。
「・・・そう、ですか。じゃ、また今度。」
毎回、悪いとは思っているんだけど。
気まずそうな笑顔を浮かべながら去っていく
その女子社員の後姿を見送りながら、
少し心が痛むのだけど。
お寺の息子なのに会社勤めなんて・・・って思ってた。
大学を卒業したらすぐにでも親父の手伝いをする気でいた。
なのに。
あの親父ときたら・・・。
「いいか。ワシが元気なうちはお前は外で働いてこい!
しっかりと会社に勤めて鍛えてもらえ!!社会勉強じゃ〜!!」
だもんな〜。
まぁ、社会勉強も必要だよ。確かに。
“世間知らず”なんて言われても困るし。
勤めてから色々な事も覚えた。
会社に勤めれば毎日があっという間に過ぎていく。
以前より、季節の移ろいが早い。
去年の春に就職したこの会社は今、のぼり調子。
この不景気の時代にはありがたいことだ。
休日出勤も残業もそんなにない。
三太には会う度いつもうらやましがられる。
でも―・・・
「なぁ、西遠寺ィ。たまにはメシくらい付き合ってやったら?」
「・・・嫌だ。」
「ま、オレが誘ったってなかなか乗らないやつだしな。お前は。」
「・・・。」
突然後ろから話しかけてくる同期のコイツも、気の合う良いやつ。
全てが順調。
上手くいってる。
快適な職場。
やりがいのある仕事。
尊敬出来る上司。
気の合う仲間。
それなのに。
会社にいる間は心にポッカリと穴が空いた気分になる。
何か、が足りない。
もちろんその理由はわかってるんだ。
だから、早く帰りたい。
――・・・・
平尾町の駅に着いた途端に足早になる。
・・・何でこんなにウチは遠いんだよっ!
今更ながら、そんなことも思ってしまう。
商店街も、学校も。
何も目に入らない、聞こえてこない。
西遠寺の長い石段だって、平気で駆け上る。
・・・まだ、コレくらい余裕なんだぞっ!
石段を上りきったところで両膝に手を当てて、
2〜3度大きく深呼吸して乱れた息を整える。
―ガラガラッ・・・
勢い良く玄関の扉を開く。
その瞬間。
「おかえり〜〜〜!!」
迎えるその笑顔。
・・・そう。コレ。
この笑顔がポッカリと空いた穴に入るんだ。
「ただいま、未夢。」
そう言って未夢を引き寄せ、腕の中に閉じ込める。
「彷徨ってば、も〜・・・。」
腕の中にすっぽりと納まった愛すべき妻・未夢は。
顔を真っ赤にしながらも、
そっと俺の背中に手をまわしてぎゅっとしがみつく。
「・・・今日もお疲れ様、彷徨。」
胸に頬を押し当てながら囁くその声で。その言葉で。
一日の疲れなんて一瞬にして吹っ飛ぶんだ。
「お〜、お〜。
帰ってくるなり情けない顔しおって、このバカ息子は。
未夢ちゃんにデレデレじゃのぉ〜。」
・・・ほっとけ!
例え、親父にそう言われようとも。
別に構わない。
情けないなんてことは、自分でもわかってる。
たった半日会えないだけでも、
寂しい。
そんなコトだって思ってしまう。
いつも、傍にいたい。
そう思う。
“おかえり”。
その言葉と最高の笑顔。
その笑顔が曇る事のないように。
いつまでも守っていきたい。
全てが順調。
上手くいってる。
快適な職場。
やりがいのある仕事。
尊敬出来る上司。
気の合う仲間。
・・・そして大切な、家族。
未夢がいるから、きっと明日も頑張れる。
こんにちは、嘉凪です。
あゆみしゃんの小説を読んだあとに書いてみたものなのですが
短い上、意味不明なものになってしまいました(;^_^A
何だか私が書くと彷徨クンが女々しくなってしまうという・・・。
きっと新婚サンvvなのでしょう、コレは(笑)
リーマン彷徨クン、万歳!!!