作:夏海 嘉凪
「何だか、いつも以上に創作意欲が掻き立てられるわ〜。」
「綾ってば・・・。私はすご〜く、不安になるわよ。」
恭平が未夢を連れて行ってから数分。
ななみと綾は教室に戻っていた。
未夢からアレコレと聞き出すために
わざわざ人気のない裏庭まで行ったのに
肝心の未夢がいないのでは、話にならない。
しかし教室に入った途端、
待ち構えていた女子からの質問が次々と二人に浴びせられた。
「ねぇ、未夢ちゃんと恭平くんはどういう関係なの!?」
「何か聞いてる?」
「未夢ちゃんは何処に行ったの?」
唖然としたまま立ち尽くす二人。
彷徨が不在だ、とはいえ
こんなに簡単に違う男のことでわいわい騒げるものかと
ななみはガックリと肩を落とした。
今の2−1の一番の話題は“未夢と恭平の仲について”だ。
「でもさ、西遠寺くんがいなくて良かったよ。
もしいたら大変なことになってそうだし。」
席について、大きな溜息を一つ。
「私としては、西遠寺くんがいた方が
おもしろい脚本が書けると思うんだけどなぁ。」
ネタ帳をパラパラとめくり、此方も大きな溜息。
その溜息の意味は二人共異なってはいるのだが。
「まァ、未夢も流石に今回のことでわかったでしょ。自分の気持ちに。」
「超が付く程の鈍感娘、だからね〜。」
まわりは皆、気付いているのに
気付いていなかったのは当の本人だけ。
じれったくて仕方がない。
「あ、そういえば今日の朝“平尾タウン情報”買ってきたんだった。」
ポンっと手を叩き、ななみがカバンの中から
薄っぺらい週刊誌みたいなものを取り出した。
「ななみちゃんって、その本好きだよね〜。」
綾が思わず苦笑いを浮かべる。
それも無理はない。
“平尾タウン情報”とは、隔週で発行される
平尾町民による、平尾町民の為の情報誌なのだ。
内容は、といえば。
“○○さん宅のオススメ献立”だの、
“スーパー・たらふくのお買い得情報”だの
とにかく主婦が喜びそうなものばかり。
綾やななみが読むとしたら駅前のデパート情報くらいだろう。
「それがさァ、今週から“マダム・エリカ”の占いが載ってるんだよね〜。」
*マダム・エリカ=こちら参照(笑)
「へぇ〜。若者の読者を増やそうって考えかなァ。」
「・・・綾。何だかオバサンっぽいよ。」
苦笑を浮かべながらペラペラと目的のページを探す。
「お、あった♪・・・何々?」
そのページを二人で真剣に読み始める。
暫しの沈黙。
―・・・
「・・・ねぇ。未夢ってさァ。」
「魚座、だよね。」
お互い、思わず顔をしかめて見合わせた。
*魚座のアナタの運勢*
・全体運
運気低迷気味。
悩み事はなるべく早く解決すること。
いつまでも悩んでいると、
ますます運気がダウン。
喧嘩は禁物。
自分から謝ることも大切。
頑張って低迷期を乗り越えましょう。
落し物に気をつけて。
運気回復には
部屋の掃除がいいかも。
・恋愛運
両思いの人はピンチです。
大きな邪魔が入るかも。
どっちつかずのアナタの態度が
余計な波紋を起こしそう。
自分の気持ちははっきりと伝えましょう。
ここでだめになるようなら、
きっぱりと見切りをつけて。
片思いの人は今月がチャンス。
思い切って告白、も有り。
相手も同じ気持ちかもしれません。
・金銭運
良好。
突然の収入も期待できるかも。
買い物運も抜群で少し無理を
してもはずれはなし。
おねだりしてみるのもいいかも。
・ラッキーグッズ
電話
クマのキーホルダー
オトナっぽいサンダル
ピーチの香り
「なんか・・・これってさ。未夢のコト?」
読めば読むほど、そうとしか思えない。
「コレで、もし西遠寺くんと未夢ちゃんが喧嘩してたら
・・・笑えるよね。」
「そうだよね〜。」
引きつった顔から出るのは
あはは、と乾いた笑い。
(そんなことあったらシャレにならない!!)
二人は声に出さなくとも、
ココロの内ではそう感じていた。
「ま、まァ・・・あとで未夢にも見せてみようよ。」
「うん。それがいいね・・・。」
嫌な予感がする胸を押さえつつ。
そんな言葉で昼休みは終わりを迎えた。
********
「・・・え、喧嘩?・・・うん。してる・・・けど。」
「「!!」」
放課後。
恐る恐る未夢に尋ねた、ななみと綾は思わず固まった。
「でも、何でそんなこと聞くの?」
帰り支度を整えながら、
どこか様子のおかしい二人をみて小首を傾げる。
「い、いや・・・。何でもないの。ね?綾。(どうする!?)」
「そっ、そう!え・・・え〜と・・・
ホラ、西遠寺くんどうしてるかなァって思って!(言えないよぉ!)」
しどろもどろになる二人。
いい言葉が浮かんでこない。
「・・・彷徨も電話くれないし。私からする必要だってないよ。」
思い出すと寂しくなる。
・・・ルゥくんには結構電話してきてるクセに。
ワンニャーの話では、最近2日に一回は彷徨から電話が来ているようだった。
ただ、必ず“未夢がいない時間”に、なのだが。
「ダ、ダメっ!!絶対ダメ!電話しなよ!そう、今日中に!!」
「そうっ!仲直りしなきゃ。だから未夢ちゃん、最近元気ないんでしょ?」
未夢の両肩をガシっと掴んで乱暴に揺するななみの顔は
何故か必死の形相で。
その後ろで何度も頷く綾の顔は今にも泣き出しそうで。
凄く、違和感があった。
「・・・どうしたの?何か変だけど。」
流石の未夢でも異変に気付く。
「そっ・・・それは・・・。」
ななみが言葉を濁した瞬間。
「未夢〜、帰ろうぜ?」
恭平が教室の入り口から呼びかける。
此方にいる間、
恭平は親戚の家に泊まるらしい。
“気ィ使うから嫌なんだよなァ”と
昼休み、未夢に漏らしていた。
「あ、うん。・・・ななみちゃん、綾ちゃん。また明日ね。」
慌てて、机の上のカバンを手に取ると
未夢は小走りで恭平の元へ向かった。
「未夢っ!今日、絶対に電話しなよっ!?」
そのななみの言葉に、
未夢はただ複雑な表情を浮かべ手を振って答えただけだった。
「・・・電話するかなァ、未夢ちゃん。」
「わかんない。意地っ張りだからな〜・・・。」
後々。
マダム・エリカの占いの的中率を二人は嫌というほど
思い知らされることになる。