作:あずま
朝。
鳥のさえずりと共に、カーテンからこぼれる光。
気の早い蝉たちが羽を震わせ、合唱を行い始める。
(――――今日も暑くなりそう)
薄くまぶたを上げて天気を確認し、うんざりとする。
もう少しだけ眠ろうとまぶたを閉じたその時、階下から聞きなれた声が聞こえた。
「おいっ未夢!おいてくぞ!」
(彷徨?あれ?今日、私何か約束してたっけ?)
「今日何の日か覚えてるか!?」
(今日?今日は、えーっと…8月の…何日だっけ?)
「今日登校日だろっ!遅刻するぞっ!」
(トウコウビ?登校日ってことは今日はっ――――)
「学校っ!」
慌ててカレンダーを確認すれば、日付の部分に赤丸で印がつけてある。
そしてそこにしっかりと書かれていたのは『登校日v』の文字。
「うそでしょ―――っ!」
さわやかな朝に、悲鳴が響き渡った。
教室の机で、未夢は上がった息を整える。
あれから学校まで走り続けて、ぎりぎり間に合ったのだ。
その間中、彷徨のイヤミ攻撃にさらされていたが、言い返すことなどできるはずがない。
「……疲れたよぉー」
そのまま机に突っ伏す。
風を感じて顔をあげると、綾とななみが下敷きで扇いでいた。
「お疲れだねー未夢」
「ぎりぎりだったもんね。何かあったの?」
「え?あーいや、ちょっと色々ありまして……」
登校日のことをすっかり忘れて寝ていた、とは言えなくて、あいまいな笑顔で答える。
たいしたことじゃないんだけどね〜、振った手を、突然、綾につかまれた。
驚く未夢にかまわず、その腕をまじまじと見つめる。
「そういえばさ、未夢ちゃんて肌白いよね」
「えっ、そうかな?」
「うんうん。白いよね。私なんか、ちょっと油断するとすぐに焼けちゃって……」
ななみが腕を前に出してみせる。
確かに焼けてはいるが、真っ黒という表現には程遠く、夏らしい感じである。
「ななみちゃんらしくていいと思うけどな」
「そうだね。健康的って感じがするよね」
ほめられて、ななみは少しあわてる。
「で、でも、未夢って、ほんと焼けなてないよね」
「肌白いしきれいだし、髪はサラサラだし、うらやましいよね〜」
「そんなことないよ〜」
未夢の否定の言葉など聞かず、綾とななみがうなづきあう。
「なんかさー、白いワンピースとか着せてみたいよね」
「腕にはひまわりもって?」
「そうそう……で、頭には大きな麦藁帽子!」
「ちょ、ちょっと二人とも……」
「うふふふふ……いいネタが浮かんできたわ〜っ!」
暴走を始めた綾に、ななみも我に返る。
「あ、綾?ちょっと落ち着きなよ」
「綾ちゃ〜ん」
「今年の台本はこれで決まりよ〜っ!」
綾の暴走は、止まらない――――
「……だってよ、彷徨」
「なにが?」
自分の席に座った彷徨は、前に立っている三太を見上げた。
三太はおじさんの経営している海の家でバイトしていただけあって、真っ黒に日焼けしている。
意味ありげに笑う三太を不機嫌な顔でひとにらみし、顔をそらす。
窓の外には強い日差しが降りそそぎ、吹き込んでくる風も生暖かい。
帰るときの暑さを思い、顔をしかめた彷徨に、三太がつぶやく。
「光月さんって、肌白いよなー」
「…………」
「髪だってサラサラだって言ってるし」
「…………」
「白いワンピースに麦藁帽子!見てみたいよな〜」
「…………」
「ちょっ、ちょっと待て、彷徨!おれをそんなににらんでもしょうがないだろ〜」
慌てた様子の三太に、彷徨は相変わらず不機嫌そうに、小さくため息をついた。
その様子を見て、にやにやと笑う三太。
「彷徨って本当に、独占欲強いよな〜」
「なっ!?」
驚く彷徨に、三太は指を一本立てて説明する。
「だってさ〜彷徨がこんなに態度に表すの光月さんのことだけだぜ〜?今日のだって、光月さんのことを他の奴らにも聞かれて腹立ててたんだろ?分かりやすいよな〜」
一言も言い返せず、今度は不機嫌さの中に悔しさものぞかせて、彷徨はそっぽを向いた。
「――――悪かったな、独占欲強くて」
自分の感情を言い当てられて、嬉しいはずがない。
おもしろそうにけらけらと笑う三太をにらみつけたが、効果がない。
窓から吹き込む風が、夏の暑さを運んでくる――――
帰り道。
彷徨は並んで歩く未夢をちらりと盗み見る。
『未夢ちゃんって、ほんと焼けなてないよね』
『肌白いしきれいだし、髪はサラサラだし、うらやましいよ』
教室で聞こえた会話が頭をよぎる。
自分のものよりはるかに白く細い、未夢の腕。
以前に比べたら多少は焼けたと思うが、それも一緒にいる時間の長い彷徨だからこそ気付く程度。
夏の強い日差しに照らされて、その白さがいっそう際立つ。
「彷徨?彷徨ってば」
我に返ると、心配そうに顔を覗き込んでいる未夢の姿。
「大丈夫?」
「え?」
「ぼおっとしてたから、どうしたのかなって」
「ああ、ちょっと考え事」
向き合う顔の位置が近い。
白い肌。
自分を見つめる淡緑色の目。
薄紅の唇。
ずいぶんと長い間見つめていたのだろう。
不思議そうな顔で見つめ返す未夢に気付いて、慌てて一歩はなれて顔をそらす。
顔が、少し、熱い。
未夢は少し考え込むと、彷徨に声をかける。
「綾ちゃんとななみちゃんに聞いたんだ。もうちょっと行ったところにおいしいアイスクリーム屋さんができたってんだって」
唐突に言われたその言葉の意図が分からず、彷徨が視線で問い返す。
「行ってみる?疲れたら甘いものをとるといいって言うし……」
どうする?、と首を傾げる動きに合わせて、さらりと流れる長い髪。
奪われる視線を強制的に引き剥がす。
「行ってみてもいいけど……」
ぱっと顔を輝かせた未夢に、彷徨は悪戯っぽい笑みを向けた。
「もちろん、未夢のおごりだよな?」
「えぇっ?」
「誰のせいで朝あんなに走ることになったんだっけ?」
それを言われると、未夢には反論ができない。
ぐっとつまり、しばし考え込んだ後、力なくうなずいた。
「わかったよ〜」
――――夏休みは、まだ続く。
山稜しゃん・・・ごめんなさい。これを書いてる時点で8月1日・・・20分オーバーしてます(汗)
ちょっと色々ありまして・・・フリーズしたりフリーズしたりフリーズしたり・・・・・こんなにギリギリにならなければよかったんですが・・・・・本当にごめんなさいです。
このお話、一番苦労したのは綾ちゃんとななみちゃんです。どんな話し方してたっけ、と迷いながら打ってました。「こんなの偽者だ!」と思われるかもしれませんが、許してくださいm(_ _)m
今回は本当に、楽しくお話を作れました。
夏は暑いので、私は少々苦手なんですけどね・・・
ではでは。
※この小説は「プチみかん祭り」に載せていただいていたものです。