お子様アスキラ小話2

作:あずま


web拍手に使用していたガンダムSEEDお子様アスキラ小話です。
6〜10までをまとめてあります。



6.『寝相』

アスランの寝相はとてもいい。
本人はもちろん布団がベッドから落ちることなどなく、頭も枕に乗ったまま。
寝た時と寸分変わらぬ…とは言わないが、それに近い状態で朝を迎える。

キラの寝相も悪くはない。
ベッドから落ちることはないが癖がひとつ。
無意識に近くにあるものに抱きつくのだ。
抱きつくものは枕だったり布団だったり、時にはなぜか部屋にあるうさぎのぬいぐるみだったりする。
当然のことながら、朝にはそれ相応の状態となっている。

そのため、お泊りして一緒のベッドで寝るようなことがあれば、アスランは少なからぬ被害を受けることになる―――

アスランは寝起きもいい。
起きた直後から、さっさと行動ができる。
しかし今日は違う。
原因は腕に巻きついて眠る幼馴染。
一緒に寝ると人肌が気持ち良いのか、必ずどこかに抱きつかれた状態で起きることになるのだ。

「キラ? おい、キラ。起きろよ」
「ん〜〜〜?」

きゅっ、と腕に力を込めて抱きつかれてしまう。
仕方なく無理やり引き離そうとすれば、イヤイヤと首を振って離れようとしない。

「だ〜〜〜〜っ! こらっ! 離せってば!」

指を一本一本はずし、ようやく腕を取り戻したと思ったら今度は体に抱きつかれてしまった。

「キ〜〜〜ラ〜〜〜〜っ」
「…ん」

きゅっ。

幸せそうに、嬉しそうに抱きついて笑うキラを叩き起こすことなどできるはずもなく。
アスランがキラの腕から解放されたのは30分後。
キラは寝起きが悪いのである。

end


7.『噂』

「あの、アスラン・ザラに彼女がいる」という噂は、あっという間に学校中に伝わった。
そんな素振りを全く見せず、遠まわしに尋ねてみても質問の意図に気付いているのかいないのか、芳しい反応の返ってこない噂の当事者に痺れを切らした数人が、その真相を探るべく調査に乗り出したのだった。

○アスラン・ザラの場合

「はあ?」
数人のクラスメイトが渦中の相手をを取り囲んだのは昼休み。
珍しく、いつも一緒にいる幼馴染がいない時だった。
「だから、なんで急にそんな話になったんだ?」
「アスランが女の子と一緒に歩いてるのを見た奴がいるんだよ」
「この前の日曜日、街でショートカットの女の子と仲良さそうに笑いながら歩いてたろ?」
「帽子に隠れて顔はよく分からなかったけど、可愛い子だったって聞いたぞ?」
「キスもしてたじゃないか」
「はあ!? キス〜〜〜っ!? それになんで顔も見てないのに可愛いって分かるんだっ」
「そんなことはいいからっ」
どうなんだ!? と詰め寄られて、顔を引きつらせながらも首をひねる。
「…日曜日?」
考え込んでいたアスランがぽんっと一つ手を打ったかと思うと、突然爆笑し始めた。
その珍しい光景を唖然として見つめていれば、目に涙を浮かべながらアスランが否定の言葉を口にする。
「違うよ。カノジョじゃない」
「だったら誰なんだよ?」
「あ〜あれは…そうだな、キラに聞いてみたら分かるんじゃないか?」
「キラに?」
頷きながらもまだ笑いの収まらないアスランがこれ以上答えることはなく―――
休憩の終わりを告げるチャイムに追求を諦めたのだった。

○キラ・ヤマトの場合

「え? アスランに彼女?」
きょとん、と大きな目を瞬かせてキラが首を傾げた。
放課後、キラが一人になったところをこれまたぐるりと取り囲んで問い掛ける。
「そうだ。幼馴染のお前なら知ってるんじゃないか?」
「えぇ? いない、と思うよ。僕、何も聞いてないし、見たことないし」
「でも、アスランはキラに聞けば分かるって言ってたぞ?」
「アスラン、そんなこと言ったの?」
「ああ。この前の日曜日に可愛い女の子と歩いてるのを見たって言ったら、大爆笑してたけどな」
「日曜日って、あの時は確か僕が……」
記憶をたどっていたキラだったが、突然真っ赤になって俯いてしまう。
泣いているのか怒っているのか、小刻みに肩を震わせるキラに、内心ビクビクしながらも声をかける。
「キ…キラ?」
「……それ、カノジョじゃない……」
「そ、そうなのか? でも、キスしてたらしいし…」
「してないっ!!」
大きな音を立てて立ち上がったキラは、掴みかからんばかりの形相で一番近くにいた相手に詰め寄った。
その勢いに押されるように、キラ包囲網が緩む。
「アスランはどこにいるの!?」
「え? えっと、中庭にいたと思うけど…」
追いかけることも引き止めることもできないまま、駆け出していったその背中を見送るしかなかった。

○アスラン・ザラとキラ・ヤマトの場合

未だに肩を震わせて笑っているアスランを、キラが真っ赤な顔で睨みつけた。
「笑い事じゃないよ!」
「ああ、ごめん。でも、カノジョ…ねぇ」
う〜〜〜〜、とうめき声をあげるキラの頭を宥めるように撫でる。
「確かあの日は買い物に行って、キラが目が痛いって言うから俺が見てやったんだよな」
「うん。それでゴミとってもらって、前髪が目に入りそうだからってアスランが前髪をヘアピンでとめてくれて」
「きっとその時見られたんだろうな」
がっくりと脱力して座り込んだキラの顔を覗き込みながら、その肩をぽんぽんと叩く。
「そんなに気にするなよ。みんな気付いてないんだろ? それに、本当にキスしたわけじゃないんだからさ」
「そうだけど!」
真っ赤な顔で俯いて、溜息をひとつ。
「僕、女の子に見えるのかな?」
「あ〜…えっと、うん。俺はキラは可愛いと思うよ」
「……アスラン。それ、ほめてるの? けなしてるの?」
「一応、ほめてる」
「……あ〜〜〜もうっ! 絶対筋肉モリモリのたくましい男になってやる〜〜〜〜っ!」
キラの叫び声とアスランの笑い声が中庭に響いていた。

end


8.『課題』

カタカタ、という音が部屋に響く。

「それ、昨日出された課題?」
「うん」

キラの打ち込んでいるプログラムを覗き込んで問えば、画面から視線をはずさないまま答えてきた。
キィボードを叩く手はよどみなく、流れていく画面からその内容を読み取って軽く目を瞠る。

(相変わらず無茶苦茶な組み方してるし…)

その独創的な組み方はアスランにとってとても新鮮で、面白い。
しばらく一緒になって画面を見つめていだが、ふと、出されていたもう一つの課題のことを思い出した。

「そういえば、先週出されたマイクロユニットの課題は終わったのか?」

ぴたり、とキラの手が止まる。
すぐに動き出したものの、どこかぎこちないように見えるのは気のせいだろうか?

「……やってるよ」

その声を弱弱しく感じたのは気のせいだろうか?
カタカタ、とリズム良く響いていたはず音がどことなく乱れて聞こえるのは気のせいだろうか?

「……キラ?」
「………」
「……キラ、本当に?」

先程よりも少し低い声で問えば、ビクリ、と肩を震わせた。
手の動きとともに音も止まる。

「……」
「……」
「……」
「……キラ、本当に、やってる?」
「〜〜〜〜〜〜っ」


―――3日後、締め切りを守って提出された一つのマイクロユニットの陰に、アスランの多大なる苦労があったことは言うまでもない。

end


9.『頬』

冬へと移行された月の気候に、気温は一気に低くなっていた。
吐く息は白く、吹き抜ける風の冷たさに首をすくめる。
まっすぐに家に帰ろうとしていたアスランは、幼馴染の家の前で呼び止められた。
手を振って自分を招く幼馴染の姿を見つけて、その玄関先へと向かう。

「ねぇ、うちに寄って行かない?」
「なにかあるのか?」
「うん! イイモノがあるんだ!」

楽しそうな様子で話すキラに、アスランも頬を緩める。
すると、ふと何かに気がついた様子で、キラがじっとアスランの顔を見つめてきた。
「なに?」と見つめ返せば、そっと伸ばされたキラの手がわずかに赤くなったアスランの頬をはさみこむ。

「…冷たいね」
「キラの手は温かいよ」
「そう?」
「おこさま体温だからかな?」
「…そういうこと言うアスランにはホットチョコレートあげないっ!」

拗ねた表情でふいっと顔を背けるキラに、アスランはくすくすと笑う。

(そういうところがお子様なんだと思うんだけど…)

そう心の中だけで呟いて、アスランも両手でキラの頬を包み込んで顔を前に向けさせる。
驚きに瞠られる紫暗の瞳を見つめながら、謝罪の言葉を口にした。

「ごめん、悪かった。機嫌直して?」
「…アスランの手、冷たいね」
「外歩いてたから…だから、ホットチョコレートもらえると嬉しいんだけど?」

キラはアスランの両手をつれたまま軽く首を傾げ、そして柔らかな笑みを浮かべてこくんと頷いた。

end


10.『邪魔』

「…おい、キラ。お前、何やってるんだ?」
「え〜? なにって…アスランに引っ付いてる?」

疑問形に疑問形で返してきた幼馴染に、アスランは頭を抱えたくなった。
今日のキラはやたらとアスランに張り付きたがる。
その原因は部屋に散らばった包み紙の中に入っていたモノ。
バレンタインデーにもらったチョコレートに、なぜか混ざっていたのはウイスキーボンボン。
気付いた時にはキラはそれをほとんど食べきっていて、とろんとした目をアスランに向けていた。
それからというもの、完全に酔っ払ってしまったキラは「おんぶお化け」と化して、アスランを襲い続けているのだった。

「あ〜もうっ! 離れろってば!」

無理やり腕を引き剥がそうとすれば、悲しそうな顔で首を傾げて問い掛けてくる。

「…邪魔?」
「邪魔だ!」

キラの泣き顔に弱い自覚のあるアスランではあったが、負けそうになる気持ちをぐっとこらえて言い切った。
途端にふにゃっとキラの顔が歪む。
ぎくりとアスランの体が強張る。

「アスランの意地悪〜〜っ! そんなこと言ってると嫌いになっちゃうんだから〜〜っ!」

そう言いながらも離れようとしない――それどころか、首に回した腕に容赦なく力を込めてきたおんぶお化けに命の危険を感じて、慌ててキラを宥めにかかった。

「邪魔じゃない! キラは邪魔じゃないからっ!」

ぽんぽん、と締め上げてくる腕を叩きながら必死で告げて、顔を上げたキラに笑いかける。
多少引きつったものになったのは、仕方のないことだろう。

「邪魔じゃないから…な?」
「本当に?」

不安そうな顔に頷いてやれば、嬉しそうに笑って背中に懐いてくる質の悪い酔っ払いに溜息をひとつ。
先はまだまだ、長そうだった―――

end



種のお子様アスキラ小話集の2になります。
ひとつでもお気に召していただけるものがあれば幸いですv


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