この作品は、2003年春に開催された「Special love white day〜Miyu day〜」の参加作品です。
|
|
「それなら彷徨だって女の子にいっぱい告白されてるじゃない!」
「あれは不可抗力だろ?」
「私だってそうだもん」
「それにお前今までずっとそんな風に俺のこと信じてなかったんだろ?」
「・・・もういい!!」
私は彷徨を睨み付けて、自分の家へ帰った。
ワンニャーとルゥ君がオット星に帰った日、私と彷徨は両思いになった。
そして「家族みたいなもの」から「恋人」という関係に変わった。
あれから数ヶ月、私は西遠寺の敷地内に建てた家にパパ達と住んでいる。
でもパパたちは日本に帰ってきてからもしばらくは忙しくて、私は西遠寺に行くことが多い。
今週はおじさんも用事で出かけてて彷徨と二人っきり。
好きな人と一緒にいられるってすごく幸せなんだけど・・・私たちってケンカも多いんだよね。
はぁ、今日は何でケンカしたんだっけ・・・。
そうだ、彷徨の機嫌が悪かったから理由聞き出したんだった。
そしたら今日、私がちょっと彷徨以外の男の子と話してたことが原因で・・・。
あまりにも怒るから、つい売り言葉に買い言葉で私も言うつもりないこと言っちゃったんだよね。
醜い自分を見せたくなくて、誰にも言わなかった心の中の闇の部分。
こんな気持ち、彷徨には知られたくなかったな・・・。
「闇」が大きくなったのは先月のバレンタインから。
焼きもちっていうか・・・彷徨に女の子が告白してるのとか見たり聞いたりすると胸が痛くて、彷徨がすごく遠い存在のような気がしてきて寂しくなる。
彷徨がもてるってことは前からわかってたはずなのに・・・
彷徨が「恋人」になってから、独占欲強くなった?
私だって彷徨を信じたい、そして私のことも信じてほしい。
でも不安が消えないよ・・・。
次の日の朝、私はいつもより早く起きた。
やっぱりこのままじゃ気まずいよね。
いつもは彷徨が迎えに来るけど、今日は私が迎えに行こう。
急いで準備して西遠寺の母屋へ走る。
といっても目と鼻の先だけど。
・・・しかしすでに彷徨の姿はなかった。
何よ、置いて行くことないじゃない!!
せっかく謝ろうと思ったのに・・・。
・・彷徨、まだ怒ってるのかな。
不安のカケラを抱えたままとりあえず私も学校へ向かった。
◇◇◇
「未夢、おはよっ」
途中の道でななみちゃんが声をかけてきた。
「おはよう、ななみちゃん」
「今日、西遠寺君は?一緒じゃないの?」
うっ、ななみちゃん、鋭いツッコミ。
「知らない、あんなやつ」
「また喧嘩?ま、喧嘩するほど仲がいいっていうしね」
私が曖昧な返事をすると後ろからパタパタと足音が聞こえた。
「おはよう、未夢ちゃん、ななみちゃん」
その足音の持ち主は綾ちゃん。
「「おはよう」」
綾ちゃんは不思議そうに私を見て言う。
「西遠寺君は?」
綾ちゃんまでその台詞・・・。
「未夢、また喧嘩したんだってさ」
「えーっ、せっかく西遠寺君からホワイトデーに何貰ったのか聞こうと思ってたのに」
「あっ」
そうだ、今日は3月14日。
そして明日は・・・。
「未夢、誕生日までには仲直りしなよ」
ななみちゃんの言葉に私は力なく頷いた。
◇◇◇
教室に入って、辺りをキョロキョロ見回したけど、やっぱり彷徨の姿がない。
どこ行ったんだろう・・。
結局彷徨が教室に帰ってきたのはHRが始まる直前だった。
HRが終わると、私は真っ先に彷徨の席へ向かう。
「あの、かな」
「彷徨ー、ちょっとこれ見てくれよ」
私の言葉を遮るように三太君が彷徨に話しかける。
もーっ、三太君、邪魔しないでよー!
ついイライラが顔に出ちゃって三太君を睨んじゃった。
彷徨も一瞬私の方を見たのに、すぐに視線を三太君に移した。
三太君の話、長そうだからなー。次の休み時間にしよっと。
そう思ってたのに・・・休み時間のたびに何故か邪魔が入る。
先生に呼ばれたり、彷徨が教室出てったり・・・。
今日は目だって一度も合わない。
もうイヤ!!
何で今日はこんなにすれ違ってばっかりなのよー。
もしかして・・・避けられてる?
そしてとうとう放課後。
「未夢、西遠寺君と仲直りした?」
ななみちゃんと綾ちゃんが私の席へとやってきた。
私、静かに首を横に振る。
「だってどうしても邪魔が入るんだもん。もうこれは神様が私に謝るなって言ってるのかも」
「そんな大袈裟な・・・」
「だって、さっきも一緒に帰ろうと思ったのに、彷徨、一人でさっさと教室出て行ったんだよ!」
彷徨は・・・私と喧嘩したままでもいいってコトなの?
もう私なんてどうでもいいの?
わかんないよ・・・。
「家に帰ってから仲直りすればいいじゃない。せっかく付き合い始めて最初の誕生日なのに喧嘩してちゃつまんないでしょ?」
「・・・もういいの。ねぇななみちゃん、綾ちゃん。明日土曜でお休みだしどこかに遊びに行こうよ」
もういいや。明日は友達と過ごせばいいもんね。
今までもそうしてきたんだし、どうってことない。
「あたしたちはいいけど・・・ねぇ?」
「うん。でも・・・未夢ちゃんいいの?」
ななみちゃんも綾ちゃんも心配そうな顔してる。
「いいの!じゃあ決まりねー」
私は精一杯の笑顔を作って見せた。
でも実際は・・・彷徨の気持ちが気になって、不安で胸が引き裂かれそうだった。
帰り道、ぼんやりしたまま歩いてたら、いつのまにかななみちゃん達と別れる道に来ていた。
「じゃあ、ななみちゃん、綾ちゃん、明日ね」
「未夢」
ななみちゃんが私を呼び止める。
「これ」
そういってななみちゃんが白い封筒を差し出した。
「何?」
「一日早いけど、あたしたちからプレゼント。家に帰ってから開けてみて」
「ありがとう!でも明日くれてもよかったのに・・・」
「まあまあ、いいじゃない」
「じゃあ、明日ねー」
「「バイバイ」」
ななみちゃんたちの後ろ姿を見送ると、私は一人、家までの道を歩いた。
明日ななみちゃん達とどこに行こうかなーなんて考えてたら、もう家の前。
いつのまにか石段も登りきってたよ。
いつもなら西遠寺に寄る所だけど、今日はそのまま自分の家に帰る。
「ただいま」
誰もいないってわかってるんだけど、ワンニャー達がいた、帰ったら家に誰かいる生活に慣れちゃっててつい言ってしまう。
誰からの返事もない家の中の静寂さが、私の孤独感を一層募らせていく。
私は自分の部屋に行くと、制服を着替えてベッドに横になった。
・・・彷徨、帰ってるのかな。
ううん、もういいや、考えない考えない。
そう思ってても浮かんでくるのは彷徨のことばっかり・・・。
・・・私たち、もうダメなのかな。
こんなに私たちの絆ってもろいものだった?
嫌な予感ばかりが私の心を占領する。
不安だよ、彷徨・・・。
一人でぼんやり考えてたら、いつのまにか眠っちゃってた。
◇◇◇
目が覚めた時、外は真っ暗だった。
急いで明かりをつけて時計を見る。
「うそ、11時半?!」
思わず時計の針を疑う。
私、一体何時間寝てたのよー!
・・・結局彷徨とも仲直りしないままになっちゃった。
その時、机の上に置いてあったななみちゃんから貰った封筒がふと視界に入る。
「開けてみよっと」
ベットから起き上がると、私は封筒を開ける。
すると・・・、
そこにはモモンランドのペア招待券と、メッセージカード。
『未夢、誕生日おめでとう。西遠寺君と行ってきなよ。未夢にとって幸せな誕生日になりますように。 ななみ&綾より』
そうペンで書かれたカードの隅に鉛筆で走り書きしたような字で「ちゃんと仲直りしなよ」と書いてある。
二人とも・・・初めから明日会う気なんてなかったんだね。
私の気持ち、わかってたんだ。
ありがと、ななみちゃん、綾ちゃん。
二人の心遣いが胸に染み渡る。
そうだよね、ちゃんと仲直りしなきゃ。
・・・好きな人のことだもん、信じなきゃね。
そして私が西遠寺に行こうと部屋を出た時、
ピンポーン
誰?
私が急いで玄関の扉を開けると・・・今一番会いたい人がそこにいた。
「彷徨・・・」
「遅くにごめん。今、明かりついたのが見えたから。それと、昨日はごめんな。まだ怒ってるか?」
「・・・怒ってるのは彷徨の方でしょ?朝も先に行っちゃうし、学校でも口聞いてくれなかったし、それに帰りも・・・」
未夢のバカ。素直にごめんって言えばいいのに・・・。
ついかわいくないこと言っちゃう悪い癖。
「ああ、朝は委員会の集まりがあったんだ。言おうと思ったけどお前は寝てると思ったからさ。それに学校ではお前がすごい顔で睨みつけてきただろ?だからまだ怒ってるのかと思ってた。そして帰りは、これの準備があったから・・・」
そう言うと彷徨はきれいにラッピングされた小さなビンを私に手渡した。
「これ・・・」
「ホワイトデーのプレゼント。ついでに仲直りの印な」
「・・・・・・」
私の中で渦巻いていたいろんな気持ちが、これを見た瞬間すべて涙として瞳から溢れ出てきた。
「なんだよ、泣く事ないだろ?」
「だって・・・今日彷徨とまともに話も出来なかったし、いろいろ考えたらすごく不安になって・・・だから、彷徨が来てくれて嬉しくて」
「バーカ。昨日のことは俺が悪かったんだよ。それにお互い嫉妬する気持ちがあるってことはそれだけ相手を想ってる証拠だからな。俺が今までバレンタインにチョコ貰って、ホワイトデーにお返しのプレゼント渡したいって思ったのもお前が初めてなんだぞ?お前が思ってる以上に俺は未夢のこと好きだから。・・・俺のこと、信じてくれるか?」
ちょっと照れた表情で言う彷徨に、私は頬の涙を拭って笑顔で頷いた。
・・・ありがとう、彷徨。信じてるよ。
「そうそう、一つ注意事項。その中身、誰にもやらずにお前が一人で食べろよ」
「えっ?うん」
そりゃ、人にあげるつもりはないけど・・・これって何?食べ物なの?
「じゃあな。戸締まりちゃんとしろよ」
それだけ言うと彷徨はそのまま母屋の方へ帰っていった。
◇◇◇
彷徨を見送った後、さっき渡されたプレゼントの包装をそっと開いてみる。
「あっ」
そのビンの中身はキャンディーだった。
女の子の好きそうなかわいい包みのキャンディー。
「わぁ、かわいい」
一つだけ包みを開いてキャンディーを口に入れる。
甘い味と香りが口いっぱいに広がる。
「全部一人で食べろっていってたけど、これいくつ入ってるんだろ」
私はビンを逆さにしてキャンディーを全部取り出す。
すると、その中に一つだけ包みの違うキャンディー。
「?」
その包みの中身は・・・シルバーのシンプルな指輪。
包み紙の裏には、メッセージ。
『HAPPY BIRTHDAY!いつまでも一緒にいような』
私、気づいた時には家を飛び出して、西遠寺の母屋の前にいた。
ピンポーン
「なんだ、未夢か。どうし・・」
彷徨の言葉を遮るように彷徨に抱きつく。
いつもなら恥ずかしくてこんなことできないけど、頭より身体が先に動いてた。
突然で彷徨も驚いてたけど・・・でも、すぐに優しく抱きしめてくれた。
「指輪・・、ありがとう」
「ああ、もう見つけたのか。早かったな。ごめんな、ちゃんとしたヤツじゃなくて」
私は彷徨の胸に顔をうずめたまま首を横に振る。
彷徨は私の身体を顔が見える程度に離して、私の目を見て話す。
「俺達が生涯ずっとそばにいるって約束が出来る日まで、本物は待っててくれな」
・・・それって婚約指輪ってことだよね。
彷徨の口からこんな言葉が出たのが嬉しくて思わず顔がほころぶ。
「・・・うん。そのかわりもう一つ聞いて欲しいことあるんだけど、いい?」
「ん?」
「私の誕生日になる瞬間にこの指輪はめて欲しいんだ。駄目?」
「・・いいに決まってるだろ?/////」
ちょっと赤い顔をした彷徨と一緒に、私も母屋の中へ入る。
12時まであと1分。
縁側で二人だけのカウントダウン。
私は指輪を彷徨に手渡す。
5・4・3・2・1
12時になった瞬間、彷徨は私の左手の薬指に指輪をはめて、そっと抱き寄せた。
「誕生日おめでとう、未夢」
耳元で聞こえる彷徨の甘い囁くような声。
そして次の瞬間、私の唇に彷徨の唇が降ってきた。
14才になって初めてのキスは甘くて、今にもとろけそうだった。
ほんのり、彷徨がくれたキャンディーの味がした。
「甘っ」
唇を離した瞬間の彷徨の一言。
「彷徨のプレゼントの味だもん」
私たちは二人、笑い合う。
「よかった。誕生日を彷徨と迎えられて」
「仲直りもできたしな。・・来年もその次もずっとお前の誕生日一緒に祝おうな」
「ありがとう、彷徨。そうだ、今日一緒にモモンランドに行こう!ななみちゃんたちが招待券くれたの」
「ああ、実は俺も誘うつもりだったんだ」
嬉しい偶然に心が弾む。
「・・・彷徨」
「ん?」
「ずっと・・・一緒にいようね////」
彷徨が私をそっと抱きしめる。
彷徨のぬくもりが心地いい。
体中で彷徨の気持ちを感じてるみたいで。
やっぱりあなたにはかなわない。
こうしてあなたといるだけで、私すごく幸せだから。
私たちの絆、思ってたよりずっと強かったね。
彷徨が好き・・・面と向かっては恥ずかしくてなかなか言えないけど許してね。
ねぇ、もう少しだけこうしてて・・・。
私の誕生日はまだ始まったばかり。
あなたと過ごす初めてのバースデー。
今日一日が素敵な日になるといいな・・・。
|
|
こんにちは、せーです。
これは2003年春企画に参加させていただいた作品でした。
題名の「bond」は「絆」という意味です。
(接着剤のボンドも同じ単語ですよね)
これを書いた頃の私が、すごく書きたかったテーマだったのを今でも覚えています。
今回、再び書棚で公開するにあたって、手を加えようと思った部分もあったのですが、やり始めるとすべて気になってしまいそうでしたので結局そのまま投稿させて頂きました。
最後に、駄文を最後まで読んで下さってありがとうございましたvv
|