真夏の開華 作:西遠寺 愛梨

ドンッ・・・・ドンッ・・・・




真夏の夜空は一瞬にして光の華になった。
道行く女性は皆浴衣に着飾り待ち合わせスポットになっている
この公園で皆そわそわした雰因気を放っていた。
つながりにくい携帯電話を耳に当てている人、
鏡を見ながら髪形を整える人、
何度も時計を気にしている人・・・・。

もちろんこの少女も例外ではなかった。
普段着慣れない浴衣を少々気にしながら目の前の時計を見上げる。
淡いピンクの朝顔柄の浴衣に金色に光る髪を一つに結い上げて
花飾りをつけている。
時計を見上げる目は新緑色で、道行く人全てが振り返るような
美少女だった。

彼女はふぅっと一つため息を付くと
後に備え付けてあったベンチに腰掛けた。

只今の時刻は午後7時45分。
待ち合わせ時刻は・・・・
7時30分。

向こうでは花火の音が行き交っていると言うのに
こっちではやけに静まり返っている。









『明日こっちで花火大会があるんだけど来れる?』

今思えば急なデートの約束。
昨日の電話でのこと

お互い別々に暮らし始めてから数ヶ月がたった。
事あるごとに頻繁に連絡のやりとりをしていたが
ここ最近はお互い受験生ということもあって
勉強やテストに追われていて・・・。
やっと手が空いたと思った時には夏休みの前の日だった。
未夢は久しぶりに電話でもかけてやろうかと
部屋のベッドの上で電話とにらめっこしていた。
まあ、それには理由があってのことだったが。

しかし、電話をかけるなんてそう簡単な物でもない。
しばらく連絡は途絶えてあったわけだから相手もいきなりびっくりするはずだろう。
未夢はベッドの上でしばらく黙って座っていた。

(彷徨からも最近連絡無かったし、もしかしたらまだ忙しいのかも)
(でも彷徨って元々そんなに電話とかする人でもないし・・・)
(かと言っていきなり電話して迷惑がられちゃいけないし・・)
久しぶりだから"会いたい"って気持ちもあるのかもしれない。
ちょっとわがままなのかもしれないけれど・・・・。


ルルルルルル・・・。


そうこう考えていると自然と電話は西遠寺へと繋がっていた。
長い着信音の後待ち望んでいた貴方の声が聞こえてきた。
「はい、西遠寺・・・」
その声は少々疲れているようで未夢は少々戸惑う気持ちもあっった。
「あ、あの・・・私・・・だけど」
「未夢!?」
緊張した声で受話器の向こうに声をかけると
驚いたような返事が返ってきた。
「久しぶりだな。元気にしてるか?」
「うっ・・うん。元気だよ!そっちは?」
「こっちも相変わらず・・んで、どうしたんだ?」
意外にも相手は本題を早く聞きたがっているようだった。
未夢は一瞬口篭もると小さな声で呟いた。
「・・・一緒に花火見に行かない・・・?」

あまりにも小さい声に彷徨はえっ?何て?と聞き返した。

「こここっちの街で花火大会があるんだけどっ来れる?」

恥を捨てろ!!とばかりに未夢は受話器に向かって思いっきり叫んだ。
その途端向こうで彷徨がくすっと笑う声が聞こえた。
「ちょっちょちょっと何笑ってるのよ!?///」
「い、いやっ・・何かおかしくってさぁ〜」
クククっと笑いながら言う彷徨に未夢は電話の向こうで
顔を熱くさせた。
「しょっしょしょうがないじゃないっ!!こんな・・・デート・・・みたいに
誘うの・・・初めてなんだからっ////」
一生懸命言い訳をする未夢に彷徨はまた一度くすっと笑うと
もう一度電話先に口をやった。
「わかったよ。じゃあ俺がそっちに行くから待ってろよ」

意外にもあっさりとOKが取れて未夢は笑みを浮かべながら
うん。と首ごと頷いた。

久しぶりのデートの約束である。




+++++++

(・・・彷徨・・・どうしたんだろう・・?)


時計の針はもう8時を過ぎようとしている。
この場所で待ち合わせをしていた人たちはいつの間にか姿を消していて
気づけば自分ひとりになっていた。
ベンチと自分を照らす蛍光灯だけが唯一の灯りとなっていて
それ以外は全て真っ暗だった。

持っていた手提げの中から携帯電話を取り出す。
新着のメールが無いか確認するが何も入っていない。

あの時間にはしっかりしている彷徨が遅刻なんて珍しい。
今までこんなことは無かったのだから更に不思議に思った。
「・・・メールしてみようかな・・・」
そう思い再び携帯を開いた。


・・・・・彷徨、今何処に居るの?待ちくたびれちゃったよ早く来てよね・・・・


送信完了。・・・・と思ったら

すぐに着信音が鳴った。
慌てて確認しようとすると
すぐ音は消えてしまった。
どうやら押すボタンを間違えたらしい。
慌てて履歴を確認しようとする。


8時04分着信履歴・・・西遠寺彷徨・・・・

えっ!?と驚くと慌ててかけなおそうとすると
背後からあの声がした。

「・・・・・やっと居たし」

肩で息をしながら立っているその姿は紛れも無く彷徨だった。

「彷徨っ!何やってたの?もう30分も遅刻じゃん」
「あのなぁ〜それはこっちのセリフ」
ぷ〜っと膨れながら言う未夢を横に彷徨は呆れた顔をする。
その姿に未夢もへ?と聞き返してしまう。
「待ち合わせ場所は2丁目の公園って言っただろ!?」
「え〜何で?4丁目だよっ」
未夢の姿を見るなり彷徨がはぁ〜っとため息をついて
携帯を取り出した。
ピピピと快調な音の後ほいっと未夢に見せたものは・・。


・・・・・明日の待ち合わせは2丁目の公園ね!一度行ったことあるでしょ?
   あそこのベンチで7時30分に待ってるね(^∇^)/   ・・・・・

昨日未夢が彷徨に送ったメールだった。
「えっ?えぇ〜〜!?」
思いもしなかった内容に未夢の背中にサーッと冷や汗が通る。
「ハハハっ・・人間誰にだって間違えはあるものだよ彷徨君!!」
はっはっはと笑いながら彷徨の背中をポンポンと叩く。
「お〜ま〜え〜な〜・・・どれだけ探しまわったと思ってるんだよっ!」

耳元でキンキン怒鳴る彷徨に未夢もだんだんむっとしてきたのか
開き直ったように声をあげた。
「何よっ!そこまで怒らなくてもいいでしょ!!彷徨のばかっ」
「なっ、お前な〜探してやったんだから礼の一つぐらいしろよ!」
「ふんっ勝手に思っとけばっ」
「大体お前はミスが多すぎるんだよ」
「彷徨だって人の事言えないでしょ!?」
「俺がいつミスしたってんだよ!!!」



ヒュ〜ッッッドンッ・・・


途端大きな花火に二人共目が重なる。
今までの喧嘩も忘れるようなそんな美しい華の姿。
「綺麗だね〜・・・・」
「ああ・・・」

まるでこの2人の仲を祝福するように・・・。
華は綺麗に舞い降りた。

「ねっ、せっかく来たんだから見て廻ろうよ!」
ぐいぐいと未夢が彷徨の腕を引っ張ると
彷徨は半分呆れた表情を浮かべる。
「お前はしゃぎすぎ・・・」
「いいじゃない!今日はお祭りなんだからっ」

そう笑顔を浮かべるその姿はとても愛らしくて
しょうがないな〜と照れを隠すように頭を掻くと
未夢にひっぱりながら外へと歩き出した。



++++++


「うっわ〜見て見て!!こっちにわたあめ売ってるよ」
「あっこっちにはみたらし団子売ってる〜!ワンニャーが見たらどんなに喜ぶだろ〜?」
「ほらっ!金魚掬いがあるよ!!パパとママにお土産で持って返ってあげようかな??」



特設会場に設けられた屋台を見るなり未夢は眼を輝かせながら
あっちではしゃいでこっちではしゃいで・・・。
彷徨はあまりのはしゃぎすぎに疲れきっていた。
「・・・お前体力あんな・・」
「え?もう彷徨疲れたのぉ?駄目だね〜そんなんじゃ」
未夢は何も考えずにはしゃぎまわっている。
だが本人自身に自分の立場ってのも考えて欲しいと思う。
ただでさえ浴衣を着て着飾っている未夢なのだから
そこらへんの男共がほっとくわけ無いだろう。
ちょっと目を離したかと思えば金髪の若い男に声をかけられそうになっているのを
見かねて睨み返したり、
かと思えばカキ氷のアルバイトをしている若い男等に
『まけてあげるからこの後デートしない?』と言ってきた奴に屋台を壊す勢いで
拳を向けたり。
『これから向こうでパーティやるんだけど一緒にどう?』とナンパしてきた奴に
『連れが居ますので』と低い声で追い返した等等・・・

疲れたのはお前のせいだ。と
言えるわけ無いだろう・・・・。本人は全くそういう素振りがないのだから。

「ねぇ彷徨っ!見て見てっ可愛いよね〜」
言われて何かと思えば未夢が目の前の射的の商品になっている
ぬいぐるみを指差して言った。
「良いな〜欲しいな〜・・・」
「取ってくれば?」
「嫌だよ〜絶対取れないもん」
「そだな。未夢だしな」
「何それ〜!!!良いもんっ!取ってくるんだからね!」
意地になって目の前の射的屋にお金ですっ!と
おじさんの前に出すのと交換に手渡された鉄砲で
ターゲットのぬいぐるみに向かって打ってみる。

バンッ・・・・。

玉はぬいぐるみどころか何の商品にも当たっていない。
(だめだこりゃ・・・)
それを遠くから見ていた彷徨は一度ため息をつくと
よっこらしょ、と立ち上がった。

一方未夢は。
「お嬢さんもう止めた方がいいよ」
「いいえっ!絶対とって見せます!」
もう、取れないのにイライラして半ばやけくそ状態であった。
店のおじさんがどうやって止めさせるべきかと
頭を抱えていたそのときだった。

「すみません。一回お願いしていいですか?」

新しい来客におじさんはおぉ〜!と言わんばかりに
彼に鉄砲を与えた。
「かっ彷徨っ何しにきたのよ!?」
「いいから黙って見てろ」
そう言うと彷徨はねらいを定めて引き金を引いた。


パンッ・・・・。

どさっ。


100発100中。

用意されていた5発の玉全てを商品に当てると
周りに集まったギャラリーにおぉ〜と歓声が沸きあがった。
その中のぬいぐるみを隣で目と口をあんぐりさせながら見てる
未夢に手渡した。
「ほらよ、これで良いんだろ?」
「うっ・・・////」
嬉しいのと悔しいのが混じって未夢は上手く言葉が出なかった。
「なんだよ?まだ欲しいのか?だったら全部やるけど?」
ニヤニヤと勝ち誇った表情で言う彷徨に未夢は小さな声で呟いた。
「・・・・ありがと」


あまりにも照れている未夢の姿を隣で見ながらはっと今の状況に気づく。
「(まあ、すっごくお似合いのカップルだことw)」
「(ママ〜あの人たち何してるの?)」
「(今の若け〜もんには勝てねえなぁ〜)」

彷徨の射的を見ていたギャラリーの人たちが口々に騒ぎ始めていた。
それに気づいた2人は慌ててその場を後にする。


「うっ〜///恥ずかしかったぁ〜」
「全く・・・誰のせいだと思ってるんだよ・・・」


彷徨が額に溜まった汗を拭いていると未夢がまたむっとした表情で
「っ誰のせいだと・・・・」



ヒュ〜・・・バンッッッ・・・



また良いタイミングで花火が打ちあがる。
祭りの最後を飾るように・・・・。

「すご〜い!ここ、花火が真正面だぁ」
「うわっ・・・ホントだ・・」

人気の無い川沿いの堤防で2人は肩を並べて夏の華を見ていた。

「彷徨・・・・・」
「何だ?」

急に静かになったトコで未夢が小さく口を開く。
「今日は・・・・アリガト・・ね。・・・付き合ってくれて」
「別に・・・・どうせ暇だったし」
彷徨がよそを向きながら言うのに未夢はくすっと笑った。
「彷徨っていっつもそーゆーとき言い訳するよね」
「っ別にそんなんじゃねぇよっ」
「そんなんじゃないってどんな事ぉ〜?」

笑いながら返してくる未夢に彷徨はしまったっという風に
顔をしかめた。
「あのな〜からかうなよっ」
「いつものお返しで〜っす」

べ〜っと彷徨に向かって舌を向ける。
「へ〜そんな事言っていいんだ〜ぁ・・・」
「へ?」
「これ、返してもらうからっ」

男の子と
女の子が手をつないでそれを見ていた。
まるでこの2人のように幸せそうな顔したこのぬいぐるみ。

「かっ返してよ〜〜」

お互いまだ素直になれないけれど
1歩ずつでも貴方に、貴女に近づきたい。
いつか、こんな風に手をつないで歩こうね。
夏の夜に華を咲かせるそのときまでに・・・・・。


締め切りぎりぎりでした(汗)
おかげで文章めちゃくちゃです(許してください)←おい
ということで企画初参加の西遠寺愛梨こと一ノ瀬姫華ですw
ヘボサイトを運営しています。(爆)

テーマが夏と言う事で、花火をテーマにしたんですが・・・
花火と言うよりただの祭り?
まだ相思相愛になっていない頃のお話と言う事に
あのぬいぐるみ。って言うか・・マスコット(笑)
お家にあるんですよ。女の子と男の子が手をつないで
るぬいぐるみ風のキーホルダーが(笑)
ちなみに去年の友達からの誕生日プレゼントでした(関係なし)
それを使わせていただきました(おい
してみましたwでも何かホントめちゃくちゃですね〜・・・・。(遠い目)
この後彷徨君は無事西遠寺に帰りついたのか・・・・・
そこらへんは皆さんのご想像にお任せしますw
それでは、何か後書きと言うより雑談になってしまいましたが
ご了承を・・・・。
この小説を読んでくださった方に感謝感激の言葉を
申し上げたいです。ありがとうございました。


               一ノ瀬姫華(西遠寺愛梨)


[戻る]