(タイトル未定)

作:あかね



 
 ・・・寒い。


 
 頬に突き刺さるような寒さで目が覚めた。

 震える身体を抱きしめて、ゆっくりと起き上がる。



 あれ、また戸が少し開いてる。

 これじゃあ寒いに決まってるよね。



 この時期は特に冷え込むから、開けとくと風邪引くぞって彷徨に言われたばっかなのに。
 
 また怒られちゃうよ・・・


 ・・・

 彷徨、元気かな。

 人のことは心配するくせに、自分に対しては結構無頓着なんだよね。

 私も彷徨のこと、心配してるんだよ?


 そういえば、合宿場所って山奥だったっけ。

 西遠寺がこんなに寒いんだから、あっちは雪が積もってたりするのかな。

 彷徨、普段から薄着だし・・・風邪引いてないといいな。

 怪我とかしてないといいな。

 早く帰ってこないかな。

 早く会いたいな。

 早くぎゅってしてほしいな。

 早く・・・






 

 私は思いを振り切るように戸を開けて、廊下に出た。
 
 そのまま、居間の方へと向かう。

 ひんやりと冷たい感触に身体が自然と縮こまった。

 
 途中、そっと彷徨の部屋を覗いてみたけど、

 真っ暗で静かで、求めていたものはやっぱりなかった。


 

 空には星ひとつさえ見当たらない。

 静寂に包み込まれた私は、なんだかとても切なかった。

 
 このまま、無音の世界に吸い込まれて行きそう。

 闇に溶けてなくなってしまいそう。

 
 涙でぼやける視界。

 苦しい。


 彷徨――

 寂しいよ。

 早く帰ってきてよ。

 
 
 



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