作:あかね
目が覚めると、見慣れない天井があった。
なんだか頭が重くて、もう1度目を閉じる。
・・・ここ、どこだろ。
それより私、なんで生きてんだろ。
自殺しようと思って家を出てきて、
線路沿いをずっと歩いて、
踏み切りを見つけて、
電車が来るの待ってて、
遮断機が下りて、
目をつぶって、
終われる、と思って・・・
・・・思ってたら、
男の人に、助けられて・・・
「気がついたか」
そう、この声だった。
危ないって叫んで、
踏み切りの外へと連れ出してくれて―――
― ― ―
私はガバっと飛び起きて、あわてて声のする方を見た。
同い年くらいの男の子が立っている。
私が動揺しているのに気づいて、彼が話してくれた。
「お前、気失ってたから病院連れてったんだよ」
「病院・・・」
「そ。つれて帰ってきても丸一日寝てたから心配したよ」
「・・・・」
いまいち事態が飲み込めていなかった。
ただ、自分はとにかく生きていて、この人の家に寝かされていた、ということは事実らしい。
彼はまだ、私が病院に担ぎこまれたときのことを話してるみたいだけど、そんなの全く頭に入らなかった。
右耳から入って左耳から出てくってこういう状態なのかなぁとか、頭の隅で思ったりしていた。
・・・私、助けられたんだ。
だからここにいるんだ。
つまり・・・死に損ねた・・・生きてる・・・
「・・・何で」
「え?」
「・・・何で死なせてくれなかったのっ・・・」
男の子は、びっくりしたように私を見つめた。
彼は、親切で助けてくれたのだ。
だから、こんなこと言ったって責任転嫁でしかない。
現実から逃げて、自分を悲劇のヒロインだと思い込んでるだけだ。
ちゃんと分かってた。
分かっていたけど、悔しかった。
「もういや・・・」
「・・・」
目の前が、涙でにじんで見えなかった。
自分でも、何を言っているのか分からないほど混乱していた。
「もういいの、帰らせてよ、死なせてよ・・・っ」
私の呟きを聞いて、彼は悲しそうに私を見つめた。
痛いくらいのその視線に耐えきれなくなって、涙を隠すようにして立ち上がった。
と同時に目まいがして、足元がふらついた。
倒れる・・・
だが、私の体は倒れることなく、彼に抱きとめられた。
今までに感じたことのない人の温かさに、体も心も震えていた。
「やだっ、放してよっ・・・助けないでっ」
「助けないでってお前、まだ体調よくないじゃないか」
「もうほっといてよっ、あなたさえ邪魔しなければ楽になれたのにっ・・・何で余計なことするのよ・・・っ」
「何でって・・・」
彼はゆっくりと私を抱き起こすと、背中に手を回した。
そしてそのまま、
ギュッと抱きしめられた。
「死んでほしくなかったからに決まってんだろ・・・っ」
彼の声が、響いた。
― ― ―
腕の中にいる女の子が、そっと顔を上げた。
大きな新緑色の瞳は、涙で濡れている。
そして、
その瞳は、俺に訴えていた。
助けて、と。
「俺はお前を助けたかったから、助けたんだけど」
「・・・」
「何か文句あるか?」