白い結晶は何を想い、今日を過ごしているのだろう。
白い星屑は二人を包み、そして雪になって舞い降りる。
何も聞こえない世界で俺はお前をもっと深く感じる。
来年も再来年もずっと・・・二人を感じれるように・・・
今日は12月23日。
平尾町は寒波に見舞われ、雪こそ降らないが寒風吹きさらす天気だった。
そんな平尾町の中でも比較的高台にあるのが西遠寺だった。
裏が山でもあることから三太たちが住む平地よりは明らかに寒かった。
そんな日の夜。
プルルルル・・・プルルルル・・・
西遠寺の電話が鳴った。
彷徨と未夢やルゥ、ワンニャーたちは夕食を食べ、片付けも終え、のんびりとした時間を送っていた。
いつもなら、未夢が「あ〜!宿題忘れてた!・・・彷徨、教えてよぅ。」なんていっている時間なのだが、明日で学校も終業式を迎え、短い休みに入るのでのんびりと過ごしていたのだ。
「・・・あ、電話だ。彷徨、私でるね。」
寝そべって本を読んでいた彷徨にそういうと、未夢はいそいそと鳴り続いている電話のところにいった。
「はい、西遠寺です。」
未夢がそう答えると、聞きなれた声が聞こえてきた。
「あ、未夢?ちょっといい?あのね、連絡網で回ってきたんだけど、明日、終業式終わってから、クラスのみんなで忘年会をするんだけど、それを他のみんなに廻して欲しいんだけど。」
電話の主はななみだった。
「うん、わかった。明日なんだね。で、場所はどこでやるの?」
「クリスちゃんの家でするんだって。あそこ広いもんねぇ。」
「そうだねぇ。クリスちゃんまで迷うぐらいだからね。わかった、彷徨にも言っとくね。」
「それじゃ、おやすみ〜未夢。」
受話器を置いた未夢はみんなのいる部屋に戻り、本を読んでいた彷徨に今のことをいった。
「・・・だって。」
それを聞いた彷徨は少し怒ったような感じで未夢に答えた。
「・・・わかった。花小町の家だな。」
未夢は何か様子がおかしいとは思ったが、本を読んでいる途中で呼ばれたから機嫌が悪いんだと思い、それ以上は何も言わなかった。
彷徨は正直、怒っていた。あまり感情を表にださないようにしようとしていたので、そこまで表立って未夢にはばれていないと思った。
つい先日、いつものように学校帰りにスーパーたらふくへ買い物に行った帰り、彷徨が結構重い未夢の荷物をもってあげようと未夢に「持つよ」と言ったら、未夢が「いいよ。大丈夫だから。」と跳ね返されてしまったのだ。
彷徨とすれば、親切心というか未夢に辛いことをさせたくないという思いで未夢に言ったのだが、それを跳ね返されてしまったので少し機嫌が悪くなりかけたのだが、彷徨も子供じゃないのでそこは抑えていた。
しかし、その事件から数日後、今度は、いつもの夕食後、次の日の化学の宿題があったので、たぶん未夢が助けて〜なんていうんだろうなと思っていた。
彷徨にとってこの時間は読書よりも大切な時間だった。
学校で未夢と二人きりになることはほとんどなく、この時間が唯一、未夢と二人で気兼ねなく話せる時間であった。だから彷徨はこの時間を何よりも大切にしていた。・・・まあ、素直じゃないので、表向きは嫌々を装っているのだが。
心配になり、様子を見に行くと、一人でもがいていた。しかし、彷徨から教えてやるとは恥ずかしくてなにか言いにくかったので、そっとしておいた。
次の日、案の定未夢は朝、起きれずに遅刻しそうになり、しかも宿題も途中までしかできていなかった。
その日から彷徨は機嫌が悪くなった。
『なんで俺を頼ってくれねーんだ!』
と、心の中で叫んでみたりしていた。
それと同時に、未夢のことになるとこんなに自分が自分でなくなることに驚きを覚えていた。
次の日、つまりクリスマスイブの日、未夢と彷徨はいつものように一緒に学校に行き、終業式を済ませた。
通知表が手渡され、一喜一憂しているクラスの中に声が響く。
「みんな〜!聞いてください!連絡網で回っているとは思うけど、今日、花小町さんの家で忘年会をするのでみんなきてください!そのときは簡単なプレゼントも用意してきてください!時間は午後5時からです!」
クラスの一人がみんなに向かって言った。
「5時かあ。プレゼント買いに行かないとだめだね。」
未夢はつぶやいた。
そのころ彷徨は三太の話に付き合っていた。
「ねえ、未夢ちゃん。一緒にプレゼント買いに行かない?」
綾は未夢にそう言った。
「ななみちゃんも一緒に行くんだけど、どうかな?」
「いいよ!じゃあ、とりあえず荷物置いてから行くから・・・2時に駅前の本屋さんで待ち合わせでどう?」
ということで、未夢はななみと綾の3人でプレゼントを買いに行くことになった。
終業式の帰りに彷徨と帰ったとき、プレゼントをどうするかを聞いたが、三太と買いに行くことになっていた。
「ハァ・・ハァ・・ご、ごめんねぇ。ちょっと遅れちゃった。」
「いいよいいよ。私も綾もさっき来たとこだから。」
「そうだよ、大丈夫だから。それじゃ、行こうよ!」
いつもの3人組は平尾町駅前の本屋の前で待ち合わせをしていた。
未夢は家で、髪がうまくいかなくて時間がかかったので少し遅れたというわけだった。
3人は駅の向こう側にあるファンシーショップに足を運んでいた。
「なんか最近寒いねぇ。昨日なんか靴下はいて寝ちゃったよ。」
「ほんと、寒いね。昨日も友達と電話してたんだけど、電話置いてるとこ暖房効いてないから寒くて寒くて・・・。」
「あ、わかる〜。西遠寺もそうだから、この前、ななみちゃんからかかってきたときも寒かったよ〜。」
未夢がそういうと、綾がはっと思いついたように言った。
「今年はホワイトクリスマスかなぁ?」
ななみが返す。
「そうだねぇ。なんかなりそうな雰囲気だけど。・・・でも、今日の夜から雨だって言ってたから、もしかしたら降るかもね〜。・・・いいねぇ〜降ったらまさに『恋人たちのクリスマス』じゃん!あ〜未夢が羨ましいね〜あんなカッコイイ彼氏がいて。」
「そうそう。未夢ちゃんが羨ましい!」
ななみと綾がそういうと、未夢は顔を真っ赤にして反論した。
「////////////ち、ち、ちがうよっ〜!彷徨とは・・・ほんとに何にもないんだよ!」
未夢がそういうと、ななみがニヤリとして、未夢の後に続いて言った。
「そのわりには綾に編み物のしかたを熱心に聴いていたのはだれかな〜」
「・・・っ、そ、そ、れは・・・」
未夢はそれをつかれると痛い。
実は、彷徨の誕生日に向け、人並みだが手編みのマフラーを編んでいたのだ。
その計画を未夢がななみと綾に打ち明け、協力してもらっていたのだ。
どんなことを手伝ってもらったかというと、まず、編み物なんていうチマチマした作業をうまくできるはずもない未夢に編み物を教えるのが綾で、その間、学校の宿題を教えるのがななみだった。
未夢はこの1ヶ月ほどでいろいろなことがわかった。
自分がいかに人に頼ってばっかりか、とか
精神的にも物理的にも彷徨に頼りすぎてる、とか。
このままじゃ、彷徨に置いてきぼりにされるかもしれないと本気で思った。(ま、彷徨はそんなことをするつもりはサラサラないのだが)
未夢は、せめて身の回りのことで彷徨においていかれないように。
自分でできることは自分でするように。
できるだけ彷徨に迷惑かけないように。
と思ったのだ。
だから、あのスーパーたらふくの帰り道での事件はこれが原因だったのだ。
平尾町駅の下を通る地下街を抜けるとそこには雑居ビルがところ狭し並んだところに出てきた。
そのひとつである白いタイルを張っているビルの一階に『ファンシーショップ・スノークリスタル』があった。
3人はクリスマスのイルミネーションが施されたショーウィンドウを横目にして、鈴の鳴るドアを開けて中に入っていった。
中には、今日のプレゼントを買いに来ていたクラスメイトもちらほらいた。
そんなクラスメイトとも軽く喋りながら、3人は色々と物色し始めた。
そして、数十分後、3人は思い思いのプレゼントを手に取り、レジのほうに並んだ。
店員のお姉さんにプレゼント用の包装をしてもらい、先に並んでいたななみと綾が、いっぱいになってきた店内をみて、未夢に「「先に出とくよ〜」」と言って店の外に出て行った。
ななみと綾が出て行った後、未夢はレジのお姉さんに言った。
「すみません。この手袋だけ別々に包装してもらえますか?」
「いっぱいだったね〜。・・・んと、いま3時過ぎたところだから、少し休んでからクリスちゃん家に行こうよ。」
綾がそう提案したので、3人は駅前のマクドナルドに入り、たわいないおしゃべりをしていた。
そして、時間も近づいていたので、3人はクリスの家に足を運んだ。
一方、彷徨の方は、三太に付き合って平尾デパートにきていた。
三太はプレゼントを買うことを口実にして『幻のトリが勢ぞろい・グリコおまけ展』を見たかったらしい。
三太はもうプレゼントは用意してあると、衝撃の発言をしたので、仕方なく彷徨はデパートの中でいろいろ見ていた。
一応、プレゼントも買い終えて、三太を迎えに行くエスカレーターに乗っていると、視界の端っこに見たことのある色が見えた。
ふと、そこへ行ってみると、そこには真っ白なコートが置いてあった。
その色は未夢の肌の色と見間違えるように似ていたのだ。
「(これ、未夢が着ると似合うんだろな。)」
彷徨は未夢のことを考えていた。
ほんのちょっとしたくだらないことで怒ってしまう自分に戸惑いと怒りを感じて仕方がなかった。
俺がもっと大人になってればいいのに、とか
ちゃんとはっきり未夢に好きだっていえばいいのに、とか・・・。
なんか、このままじゃ未夢においていかれると思った彷徨はあれから宝昌の知り合いの店でバイトをし、未夢になにかプレゼントしようと思っていたのだ。
彷徨はそのコートをもち、レジにいった。
「すみません、これプレゼント用に包装してくれませんか?」
彷徨は今日、決心していた。
未夢にちゃんと自分の気持ちを伝えると。
彷徨は感じていた。
『もう、未夢なしで暮らしていくなんて不可能だ』と。
ある意味、それほど彷徨を追い詰めていた。
彷徨の心に宿る、灰色の感情。
決して未夢に見せてはいけない想い。
未夢を抱きしめたい。
未夢の心を奪いたい。
未夢の新緑色の瞳に俺だけを映したい。
そして・・・未夢が欲しい。
たとえ、恋人という近い存在になったとしても、いきなり出すことはできない感情。
彷徨は感じていた・・・ずっと。
そして、彷徨の上着に入っているこの小箱を、いや、その中身を未夢に捧げようと思っていた。
彷徨の上着のポケットに入っている小箱は、ある日ひょんなことから見つかった。
ある日、彷徨は昔、母・瞳が使っていた部屋を掃除していると、何気なく置いてあった瞳の小さな机の下を掃こうとして机をずらしたところ、コロコロとなにかが転がった。
そこには、古ぼけた小箱と小箱の底には小さな手紙がついてあったのだ。
そして、彷徨は小箱を取り上げてなかを覗いてみると、そこには美しい新緑色のサファイアの指輪があった。
そして、底についていた手紙を広げた。
『彷徨へ
この手紙を読んでいるということは、私はもうこの世にはいないということでしょうね。
彷徨、元気ですか?ちゃんと毎日生きてますか?
私はこの手紙を病室で書いています。病室の窓からは、色鮮やかな桜色の花びらが舞っています。
私がこの手紙を書いているとき、あなたはまだ幼すぎて、私の言うことなど忘れてしまうと思うので、
ここに書き残しておきます。
この手紙と一緒に、指輪があると思います。
この指輪を彷徨が一番守りたい相手に差し上げてください。
私の想いが詰まった指輪です。だから、私が持っていてもいいかなとは思ったのですが、
やはり指輪は人にはめてもらうからこそ、価値が出てくるものでもあると思うので、
これを、あなたが一番守りたい人、つまり、一番愛してる人に差し上げてください。
あなたがこの指輪を渡す人ならば、宝昌さんも納得するでしょうし。
よろしくおねがいしますね。
それでは。
・・・愛した人をいつまでも大切に。
瞳 』
手紙にはこのように書いてあった。
最初は母の形見と思い、おいてあったのだが、クリスマスを機に告白して、未夢に渡すつもりである。
そう思うと、ポケットの中で、この小箱をギュッと握り締めていた。
|