彷徨が未夢に想いを告げてから数ヶ月。
二人は、人並みにデートをしたり、相変わらず喧嘩もしたりの生活を送っている。
あれだけ騒いでた周りの皆も、付き合ってることを告げると、案外納得した様子だった。
ななみにいたっては、「あんたたちは付き合う前から付き合ってたからねぇ」とのこと。
日本語的におかしいが、この表現がピタリと合っているからしかたがない。
ただ、クリスには怖くて怖くて誰も言っていないのが気になるところだが・・・。
「ねえ、彷徨、レンタルビデオ借りに行こうよ。」
ある日の晩、夕食の片付けをしていた未夢が思い出したように彷徨に言った。
「ああ、いいよ。ちょうど俺も借りたいのあるし。」
横になりながらテレビのリモコンでチャンネルを変えていた彷徨が未夢の方を向き言う。
「ほんと?じゃあ、そろそろ片付け終わるから、用意しといてよ。」
「・・・って、俺よりお前の方が用意に時間が掛かるだろ。」
ジト目で未夢の方を見ながら彷徨は言った。
「ははは・・・ばれたか。待っててね。」
さすが、という目で見ている未夢だった。
それから、片付けを済まし、少し長めの用意の時間を経て、二人は玄関を出る。
鍵を閉め、西遠寺の長い階段のところを降りていく。
横に来た未夢を何気なく見た。
まあ、夏だから、暑いのはわかるが、あまりにも薄着な未夢がいた。
「・・・なあ、お前、それ寒くないか?」
「え?これ?ほら、暑いからいいかなと思って。」
「ま、せいぜい風邪ひくなよ。」
「だいじょぶだいじょぶ。風邪なんかひかないもん。」
「夏風邪はなんとかがよくひくとも言うしな。」
「なんとか・・・こら〜っ!彷徨!」
そういいながら、彷徨を追いかける未夢だった。
道端のライトに虫がたかりだしているのを見ながら、彷徨は夏だなあとしみじみ感じていた。
未夢とこうやって過ごせて、ほんとに良かったとも思う。
そうやって二人が歩いていると、近所のレンタルビデオショップが見えてくる。
ガーッ
自動ドアの小気味よい音とともに温い風が冷たい風に変わっていく。
「あぁ〜涼しいですなぁ。・・・っと、彷徨はどっち見るの?」
「ん?・・・こっちかな。」
彷徨が指差した方には洋画が並んでいる棚だった。
「あ、そうなんだ。私もこっちだから一緒に行こうよ。」
未夢は彷徨と一緒だということがよほど嬉しかったのか、知らず知らずに笑みがこぼれる。
「おう。・・・んじゃ、行くか。」
彷徨も未夢と一緒ということだけで嬉しくなる自分を感じていた。
棚には所狭しとビデオが並ぶ。
とりあえず洋画のところへ行き、何本かを手に取る。
未夢は女の子らしく恋愛物。
彷徨はアクション映画を借りた。
洋画のコーナーを過ぎ、受付のところへ足を運ぶとき、
ふと、横の棚にあった子供向けのビデオに目が行く。
「ねえねえ、あれ、ルゥくんが好きだったアニメだよねぇ。」
「え?・・・そうだな。もう、ルゥが帰ってから2ヶ月くらいか・・・。」
「なんかね、癖かもしれないけど、無意識に子供コーナーに目が行く自分が居るんだ。」
少し切なげな目をしながら未夢が言う。
「それで、こんなのを見るたびに元気かな?って思うの。」
「・・・元気だよ。ルゥは最後に俺たちは笑っていてくれって言ってただろ。だから、俺たちが悲しい顔をしない。」
「・・・へへっ、うん。そうだね。」
彷徨の言葉に笑みが戻った未夢だった。
そんな光景を傍から見ている人物が一人。
いつもなら声をかけること間違いなしのその人物は声をかけれずにいた。
暖簾の向こうから(笑)見つめるその瞳には涙が・・・
持っているビデオがビデオだけに、未夢の前に現れにくい、三太であった。
「彷徨〜!俺はここにいるぞ!」
と、心の中で叫んでいた。
未夢と彷徨がビデオ店を出ると、少し気温が下がっていた。
さっきまであった蒸し暑さもそこまでなく、過ごしやすくなっていた。
「ねえ彷徨、手、繋ご。」
少し前までなら、この言葉を言うことでさえ勇気が要ったのに。
今では、素直に言うことができる。
彷徨は何も言わず、手を差し出す。
なんだかんだ言って、優しい彷徨にいつも助けられてるなぁと未夢は思った。
手を繋ぐと、彷徨が話し出した。
「・・・だから、そんな薄着は着るなっていってんのに。」
「へへへ・・・ごめんね。」
「ばーか」
彷徨は繋いだ手を挙げて、未夢の頭に落とす。
少し歩く。
街路灯に群がっていた虫はいつの間にか居なくなっている。
そんな、夜だからかもしれない。
「ねえ、ポケットに手、入れていい?」
未夢が突然に言う。
彷徨は上に羽織っていた服のポケットだと思い、OKの返事をした。
すると、
すぽっ
あろうことか、繋いだ手は彷徨のズボンのポケットに。
彷徨としてはこれはマズい。
そんなとこに手をいれると・・・
彷徨は、すぐに繋いだ手をポケットから出した。
「お、おいっ!ど、どこにいれるんだよ?」
「え?ズボンのポケット・・・だよ。」
「それはわかってるって。・・・こんなとこに入れるなよ。」
「なんで?」
ハテナ顔の未夢のどう説明すればいいのか。
相手がふんわかしていると、こういうところで困るのかもしれない。
そう彷徨は悟ったのだった。
「・・・ここに手を入れると・・・・・・になるだろっ///////////」
「あっ・・・///////////////」
彷徨に耳打ちされて聞いた途端、未夢の顔が真っ赤になった。
「・・・じ、実は・・・」
少しして、未夢が何かを言い始めた。
「・・・今日ね、綾ちゃんとななみちゃんに、こうしたら彷徨が喜ぶっていうからね・・・したの。」
「・・・」
そのことばを聞き、小西と天地は未夢を使って遊んでるということを確信したのであった。
<終>
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