(この作品は、2002年12月から2003年1月にかけて開催された「Little Magic Da!Da!Da! Special Christmas」の出品作品です)
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夜の静けさに、何故か寂しくなって、そっと腕にしがみつく。
「ん?」
「…いけない?」
恥ずかしくて、そっぽを向いて答える。
ほんのちょっぴり、甘えたくて。
彷徨は黙って私の腕を放すと、私の肩に毛布と一緒に自分の腕を廻して引き寄せる。
彷徨が側にいる。
それだけで、鼓動がいう事を聞いてくれない。
トクン…トクン…。
(私の鼓動?)
トクン…トクン…。
(彷徨の鼓動?)
鼓動が重なって、一つになって。
ねえ、何でだろ。
涙が出るくらい、切ないよ――――――。
月明かりに照らされた雲の切れ端が、ゆっくりと蒼い夜空を漂い流れていく。
視界の全てが、月の蒼さに染まる。
溜息さえも出来ないほど綺麗で、言葉さえ失うほど神聖――――。
冷え冷えとした空気が私の頬をなぞり、キュッと肩を縮みこませる。
西遠寺の境内にある鐘つき堂。
二人はその階段のてっぺんに越し掛けて、そこから見える平尾町を見ていた。
一枚の毛布を二人で掛け合い、温め合うように寄り添って。
寒くないと言っては嘘になるけど、二人でいる時はここにいたくて、自然と足が向かう。
もしかしたら私達の願いが叶うんじゃないかって、
淡い期待が心の中で見え隠れする。
ネェ・・・イツ?
ネェ・・・イツナノ?
カタチノナイ ヤクソクハ トテモ ツラスギル―――――。
無償に彷徨の温もりが欲しくなって、私は彷徨の胸に頬を埋めるように抱き付いた。
すると、彷徨が少し身体を動かして、私の肩を包み込むように両腕を廻す。
見上げた私に、彷徨が「マフラーみたいだろ?」と舌を出して笑う。
こんな暖かなマフラー生まれて初めてよ、と悪戯っぽく笑って見せた。
クスクスと笑い合うと、また夜空を眺めた。
「上のほう…風が強そうだね…」
「ああ…そうだな…」
「雪…降らないかな…」
「う〜ん、どうだろうな…」
言葉少なげに語る私達は、幸せだけど、どこか寂しげだった。
傍らには好きな人が側にいる。
だけどまだ足りない。
大切な、なにか。
ポッカリと空いた空間が私の心の片隅にあって、
まるでそれを埋めるかのように、彷徨がそっと額にキスをしてくる。
不思議。
なんで判るの?
私の気持ち、私の心を。
そっと掬い上げ手の中に残された、僅かな水のように、
大切にしてくれる。
優しく包まれるこの温もりは、雪が溶けるよう日のように柔らかで暖かくて、
いつまでも感じていたい――――。
背中越しに彷徨を感じる。
暖かな存在感が私を包み込み、心まで温かくさせる。
彷徨が私の髪に顔を埋めるように、顎を肩に置く。
昼間ならこんなことしないのになぁ〜とクスッと笑った。
「もう一度会いたいなぁ〜、ワンニャー、ルゥくんに。元気でいるかな?」
「元気でいるさ、きっと」
「…そうだね」
短い彷徨の言葉が嬉しくて、私はコクンと頷くと、再び夜空を見た。
(元気でいるよね…ワンニャー、ルゥくん……)
「あいつ等には言わないといけないことがあるよな・・・」
少し照れ臭そうな声が頭上で聞こえ、私は不思議そうに降り返った。
「何を?」
「お前ね…ワザといってないか?少しは判れよなぁ〜」
「あ…」
苦笑い顔の彷徨にやっと気付いて、思わず頬を赤らめる。
「鈍感」
と言って、彷徨は自分のおでこを私のおでこにコツンとぶつけた。
「びっくりするだろうねぇ〜ワンニャー達、私たち付き合ってるって言ったら」
「案外判ってるかもな」
「そうかなぁ〜?」
「まあ、付き合ってるってことは想像つくかもしれないけど、結婚する事までは・・・な・・・」
「そ、そうだね…」
私は思わず火照った頬に両手をあてた。
そうなんだよね……。
私達、結婚の約束を正式に今日したんだよね……。
両家族の前で。
緊張したけど、皆が喜んでくれて凄く嬉しかった。
お互いに一人っ子だから色々と問題があるけど、今まで離れていても大丈夫だったんだもん。
きっとこれからも―――――。
いつだってこの場所だった。
今思い出しても頬が火照ってくる。
告白した時のことを・・・・・・。
あの時も同じ寒い日で、この場所で二人ここに座って。
不器用だけど、お互いの気持ちを照れながら言い合って。
不器用だけど、ぎこちないキスをした。
一つの毛布を二人で掛け合って、
寒いからお互いの手を握り合って、温もりを感じて。
どうしようもないほど切なくなって、せきを切ったように涙が溢れた。
そんな私を、彷徨は優しく抱き寄せてくれたんだ。
彷徨が急にスクッと立ち上がる。
突然出来た空間に、私の両手が空(くう)をさ迷う。
(もう帰るの?もう少しいたいのにな……)
「おーーーーいっ!!ワンニャーぁーーーーっ!ルゥーーーーっっっ!!!」
「か、彷徨?!」
突然大声で彷徨が叫び始めたので、私は驚いて立ち上がると、彷徨の服をグイッと引っ張った。
「何してんのよ彷徨!急に大声だして。皆寝てるのよ?ビックリして起きてくるじゃない!」
「大丈夫だって。それにオヤジもお前のお父さんもお酒でベロンベロンに酔っていたから気づきやしないって」
「だけど、そんな大声だしたら近所迷惑だよぉ〜」
「近所って…ここ山奥。知ってるだろ?」
「うーー…」
困った様子の私に、彷徨が苦笑いをする。
そしてポツリと言った。
「……伝えたいんだ……」
真剣な表情の彷徨に、私は声もなく見つめた。
「叫んだところで聞こえないのは十分判ってるさ。だけどどうしてもさ、あいつ等には伝えておきたいんだ。未夢と結婚するって。今すっごく幸せなんだって。……あの時4人でさ、協力しあって過ごした生活が、今度は本物になるんだ。これからもずっとワンニャーとルゥを待ってられる。未夢と二人で……」
「彷徨……」
いつの間にか、私の瞳から涙が溢れてきて止まらなかった。
彷徨の気持ちが伝わって、嬉しくて嬉しくて、止めど無く溢れる涙を拭うことも出来ない。
「泣くなよ……」
そう言って、私の頭に手を廻すと、自分の胸に押しつけた。
私は彷徨の服を掴むと、顔を埋め肩を振るわせて泣いた。
「しょうがないなぁ」
と困りながらも、彷徨は嬉しそうだ。
「だ、だって……ひっく…」
しゃくり上げて泣く私の頭を、彷徨は軽くポンポンと叩いた。
フワフワ、フワフワ……。
まるで幸せの波に漂ってるようだ。
そんな身体を支えるかのように、優しく抱き締められる。
「彷徨ぁ…」
私は湧き上がる幸福を抑えきれずに、彷徨の首に腕を廻すとギュッとしがみついた。
私と彷徨は、一緒になって大声で夜空に向かって叫んだ。
ワンニャーとルゥに、この思いが届きますように。
例えそれが届かなくても、伝えたい思いを抑えることは出来ないから。
「おーいっ!ワンニャーっ、ルゥーーーーーーっっっ!!」
「ワンニャーーーーっ、ルゥくぅーーーーんっっ!!」
「俺達、結婚するんだぞぉーーーーーーーーっっっ!!」
「私、彷徨と幸せになるよぉーーーーーーっっっ!!」
「未夢を絶対に幸せにしてみせるから、見ててくれよぉーーーーーっっっ!!!」
そして、
彷徨は私に向き直ると、誓いを立てるように呟いた。
「してみせるからな…」と――――。
私は彷徨の言葉を受け止めるように、コクリと頷いた。
ふと、
私の目の前に、白いモノがチラチラと漂うのが見えた。
上を見上げると、天から雪が舞うように落ちて来る。
「彷徨!雪よっ!雪っっ!!」
「え?……ホントだ、雪だ」
見上げる私達の周りで、雪が静かに舞い落ちる。
蒼い夜空は相変わらず雲が漂い、その隙間から星さえも見える。
きっと北風がこの雪を運んで来たのだろう。
でも私は、そうは思わなかった。
「届いたかのかも…」
「?」
不思議そうに見る彷徨に私はニッコリと笑って答えた。
「ワンニャーとルゥくんに…。だからこれは二人からのプレゼントだよ、きっと…」
彷徨は少し苦笑いしたが、それでも降る雪を見つめて、
「ああ。そうかもな…」と微笑んだ。
降り続ける雪は、次第に平尾町を白く包んでいく。
優しく、そして、静かに。
全て包んで欲しいと私は思った。
大好きなこの街を、大好きな人達を、愛しく包み込むように。
彷徨が手を差し伸べる。
そっと差し入れた私の手が、大きな手に包まれる。
それはとても温かくて、冷たくなっていた私の手を、ふんわりと溶かしていった。
優しい彷徨の目とぶつかる。
私は微かに頷くと、静かに眼を閉じていった・・・・・・…。
ねえ、彷徨。
離さないでね。
この雪のように私を優しく包んでいてね。
約束―――――。
END
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なんとなぁ〜く予告小説。(なんですか?それは!笑)
オマケに馬鹿ップルさせてしまったよ…。(T-T)
でもね、
なんとなくあの場面はそんな気分だったのさぁ〜。
多分彼らもそんな気分だったんだろうねぇ〜・・・と思って頂戴。(笑)
あの場面?それは皆さんが思うまま考えて下さいな。
私は知らない。(無責任な)
これは未来のお話し――――。
そして今現在を書いています。
まだこの未来にはほど遠いかもしれないですね…。(鬼畜だね)
では!ゆっくりと(?)お待ち下さいませ。(ほほほ)
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