作:宮原まふゆ
ねえ。
側にいるよ。
いつだって君の側で笑っていてあげるよ。
だから、貴方の隣に私を居させてね。
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「ねえ!初詣行こーうよーう、夾くーん♪」
楽羅は微笑みながら覗き込むようにジリジリと夾を追い詰める。夾にとってはまさに絶対絶命の大ピンチ!
「だからっ!、なんでお前と行かなきゃならねーんだよ!」
と、お決まり過ぎる言葉で抵抗する。もっと上手く断ることが出来るとは思うが、如何せん夾の性格上、到底出来るはずもなく、どうしてもキツイ言葉を言ってしまう。
「だって…、だって…、一緒に行きたいんだもーーーーーーーーーんっ!」
そして見事に楽羅の張り手を食らってしまった。
「女の子の扱い方がなってないね〜夾くんは」
のほほんとその状況を見物していた紫呉が、コタツでミカンを食べながら言う。
「伝授してあげようか?」
「いらんわっ!」
イテテと頭を摩りながら立ちあがる。
まったくこれがなきゃ、いいのにと思う。楽羅の激突を交わすことなど簡単に出来るとは思うが、女だからとか怪我させたらイケナイとか、ふと考えてしまうからだろうか、何故かそれを受けとめてしまう。これもまだまだ未熟と言うことだろうか。
(『その前に死んでしまうと想うぞ』 管理者より)
「折角、一緒に行けると思ったのに…」
と、楽羅の大きい瞳からジワリと涙が涌き出る。
「だからって、泣くな!」
これだから女って苦手だ、と髪をクシャクシャと掻きながらうろたえた。
なんでこんなに女ってコロコロ変わりやすいんだ?まったく…。
「一緒に行ってあげればイイのに」
と、またもや紫呉が顎に手を乗せながら言う。
「てめー、他人事と思いやがって…」
「そりゃあね。でも断る理由が夾くんにはないでしょうが」
「うっ」
刃向う言葉も無く、夾は黙って俯いた。
「年に一回なんだし、それくらいの優しさをもってあげなきゃね」
チラリと夾は楽羅を見た。瞳はまだ涙で潤っていたが、ジッと夾を見つめる姿に心が揺らいだ。
「……しょうがねえなぁ……」と夾はポツリと呟いた。
その言葉に楽羅の表情はパアッと明るくなった。
「夾くんっ!嬉しいーーーーーーーーーっ!!!」
と楽羅は夾に行きよいよく突進し、その反動で思いっきり後頭部を壁にぶつけた。
「だからーーーーっ!突進すなぁーーーーーーっっっ!!!」
「お熱いことで……」
突然、ひょいと透が障子から顔を覗かせた。
「お待たせしました〜。あれ?どうしたんですか?夾くん」
倒れこんでいる夾と楽羅を見て訪う。
「ジャレてるんだよ。嫌だね〜人前で。恥じらいもなく」
「誤解を招くことを言うな!!お待たせって何だよ。どっか行くのか?」
と夾に訪われ、透はニッコリと答えた。
「はい!初詣に皆さんと行こうと思いまして。夾君も楽羅さんも行きますよね!」
その答えを聞いた夾はジロリと紫呉を睨みつけた。
「紫呉!てめーっ!何もかも判っていながら、俺を見て遊んでやがったな!!!」
怒り爆発の夾に、フフと笑いながら何の悪びえも無く、のほほんと答えた。
「だって、楽しいんだもん♪」
***
正月と言うことで、流石に神社は人でごった返していた。はぐれない様に楽羅は夾のジャンパーの裾を握ってきた為、夾とははぐれなかったが紫呉達とは完全にはぐれてしまった。
「ったく、お前の足が遅いから!」
「ゴメンなさい」
ショボンと落ちこむ。再び楽羅の瞳から涙が溢れそうになる。
「だーーーーーっ!!そこで泣くな!とにかく御参りしてから皆を探すぞっ!早く立てっ!!」
声を荒たてながらも慌てて楽羅を宥める。
そんな夾が嬉しくて思わずワザと「起こして♪」と訊いてみた。
「誰がするか!」
夾はソッポ向きながら速攻で返した。
「つっ冷たい……」
と再び涙目になり、二〜三歩後ずさりするとその場にオロロと倒れこんだ。
彼女のオーバーな行動に参拝客がジロジロと見ながら通り過ぎる。
夾は慌てて楽羅を立ち上がらせると、ダッシュでその場から離れた。
パンパンと手を合わせて、楽羅は目を瞑りお祈りをする。
先に済ませた夾が、一向に止めない楽羅に痺れを切らし「まだか?」と訊く。
「ま〜だ」
と態勢を崩さずに楽羅は答えた。
「そんなに願ってると、神様も願いを叶う前に門前払いを食らうぞ」
「えっ!いやだ、ほんと?」
と、慌てて辞めて夾の前に駆け寄る。
「きゃっ!」
慌てて駆け寄ったせいで、人とぶつかった拍子に石段を踏み外し、後ろ側に倒れそうになった。
「おっと!慌てんな。大丈夫か?」
「う、うん…大丈夫…」
夾に両肩を支えられドキドキしたが、辛うじて答えた。
「まったくドジだな」
冷たくそう夾から言われ、楽羅は少し落ちこむ。
いつもの事なのだが、それでも悲しい。
――――――だけど、それでも。
「ねえ、夾くん」
「…なんだよ」とぶっきらぼうに答える。
きっと怒る。だけど甘えたいから。
「手、つなご♪」
楽羅はにっこりと微笑んで、手を夾の前に差し出す。
「なっ!!なんでお前とつながなきゃなんねーんだよっ!!!」
と、案の定夾は怒りを奮闘させた。
「だって、人が多くて転びそうなんだもん。夾くん一緒に歩こっ♪」
「・・・・・・・・・・・・」
「?」
いつもは更に怒りを爆発させる夾が、何故か反応しなくて楽羅は小首を傾けた。
その代わりに、すっと右手が楽羅の前に差し出された。
「え?」
驚いて夾を見上げた。そこには照れ臭そうにそっほを向いた夾がいる。
「しょうがねえからなっ!」
「……うんっ!」
嬉しくて嬉しくて、今にも飛び付きたい衝動を抑えて、楽羅は夾の右手に自分の左手を滑り込ませた。
「へへっ」
嬉しさを堪えきれない楽羅を見て、夾は「変な奴」とぼそっと呟く。
「……夾くんの手、暖かいね……」
「楽羅の手が冷たいんだよ」
振り向きもしないで夾は答える。
「うん、そうだね。」
と楽羅は静かに呟いた。
「でもね、いつか楽羅の手で夾くんを暖めてあげたらいいなー」
それに答えない夾の後ろ姿を見ながら、楽羅は幸せそうに微笑んだ…。
END