(この作品は、2002年12月から2003年1月にかけて開催された「Little Magic Da!Da!Da! Special Christmas」の出品作品です)
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「…頑張りましょう。それでは、みなさん持ち場に着いてください」
長々としたスタッフの説明が終わり、オレたちはそれぞれの持ち場へと向かった。
今日は12月24日、クリスマス・イヴ。
すでに外では雪が降り出していて、体育館の中でも息が白い。
オレは委員会の仕事で、小学校にクリスマス会の会場設営に来ていた。
それにしても今日になって急に仕事が入るなんてツイてない。
昨日はこの時期恒例の泊り込み研修会もあったので、ここには研修センターから直接来た。
本当なら昼からは家に帰って、今頃は未夢たちと一緒にパーティーの準備をしている筈だったのに…。
「西遠寺、ライト取ってくれ」
「…ああ」
ダンボール箱の中に無造作に入れられていた電球を苦労しながら取り出し、渡した。
「西遠寺、向こう回ってくれ」
「…はい」
人手不足の所へどんどん回された。
そんな作業が延々と続いた。
いつもなら集中してやれる事なのに、今日は違っていた。
みんなとの約束を破ってしまった事ももちろん気になっていた。
…だけど。
連絡いれてないけど、怒ってないだろうか?
早く帰って顔が見たい。
妙に未夢の事を考えてしまっていた。
たった一日、ほんの僅かな時間顔を見ないだけでこんなにも会いたいと思う人がいるなんて、昔は考えられなかった。
未夢が来るまでは。
出会いは最悪だったけど、時が経つにつれて確実に未夢は必要な存在になっていった。
ドジでおっちょこちょいだけど、優しくて傍にいると温かい。
未夢は誰にも渡さない、と思っている自分に気が付いた時には独占欲の強さに驚いたりした。
早く仕事を終わらせようと思って、焦りがちな自分を抑えながら、それでも俺は急いで作業を済ませていった。
全部終わる頃には時間は7時をだいぶ過ぎていた。
それでもすぐに急いで帰れば、まだパーティーの途中に間に合う筈だった。
ミーティングが終わるとすぐに、俺は体育館を飛び出した。
ところが外には十数センチの雪が積もっていた。
これじゃあ間に合わないかもしれない。
ともかく俺は雪に足をとられながらも、みんなの待っている西遠寺への道を走り始めた。
思うように足が進まず、時間だけがどんどん過ぎていった。
陸橋を渡り、交差点を過ぎて、やっと西遠寺の下まで辿り着く頃には時間は9時近くなっていた。
…もう、パーティーには間に合わない。
ルゥなんかもう寝てしまっているだろう。
それでも俺は全速力で階段をかけ上がっていった。
入り口をくぐると、家の灯りがよく見えた。
何て言おうかなんて考える余裕もなかった。
そのまま玄関まで走っていき、それでもルゥの事を考えてそっと扉を開けた。
「…ただいま」
返事はなかった。
もうみんな寝てしまったのだろうか?
靴を脱いで台所へ向かった。
待ちくたびれてしまったのだろう、そこには未夢がテーブルにもたれて眠っていた。
テーブルの上には全く手の付けられていないごちそうがあった。
流しの様子を見ると、ルゥとワンニャーは先に食事を済ませ、寝てしまったようだった。
イスに腰掛け、ふと未夢の方に目をやると寝顔が目に入った。
思わず見とれてしまう。
ただ単に可愛いとか、綺麗とかいう問題じゃない。
俺には本当に必要な存在なんだ。
未夢…。
「…ん」
口には出さなかった筈なのに、未夢が身じろぎした。
起こしてしまったようだ。
「…あ、彷徨」
「悪い、起こしたな」
「…何やってたの?ルゥ君もワンニャーも待ってたんだよ」
やっぱり険悪な雰囲気になってしまった。
「ちょっとな」
説明するのは言い訳がましくて嫌いだから適当に答えた。
「ちょっとでどうしてこんなに遅くなるのよ!」
その言葉に少しムっとなった。
「仕方ないだろ!急に委員会の仕事が入ったんだから!」
「怒ることないでしょ!」
「別に俺は怒ってない!」
そう言って俺は台所を出た。
「なによ!心配してたのに…」
尻すぼみになっていく未夢の言葉が痛かった。
…またやってしまった。
激しい後悔と自責の念が襲ってきた。
なぜあんな事を言ってしまうのだろう?
未夢たちを待たせてしまった自分が悪いのに。
引き返して謝ろうと思っても、足はどんどん寝室へ向かってしまった。
障子を勢いよく開けて中に入ると、叩きつけるように閉めた。
制服を脱ぎ捨てると、そのまま床にごろんと寝転がった。
机の上には一昨日買っておいた未夢へのクリスマスプレゼントが置いてあった。
いつまでたっても同じ事を繰り返してしまう。
そんな自分がイヤになる。
とりあえず布団を出し、俺は眠った。
翌日、なんとなく休みにしてはいつもより早く起きてしまった。
前日の事を思い出すと、頭が痛かった。
学生服のまま寝てしまっていたので、普段の服に着替えた。
その後俺は自分でも何故か解らなかったけど、未夢へのクリスマスプレゼントを掴むと台所へ向かった。
ふすまを開けると、昨日と同じように未夢がそこにいた。
ただ今は眠ってはいなかった。
「お、おはよ」
「あ、ああ」
昨日の今日だ、どうしても気まずくなってしまう。
何て言う?
どうすれば良い?
俺はその場に立ち尽くしていた。
「あ、あのね、彷徨…」
「ん?」
「…昨日は…ごめんね」
「…俺もごめんな」
「それでね、これクリスマスと…一日遅れちゃったけど…誕生日のプレゼントだよ」
そう言うと未夢はクリスマスのデザインがされた紙袋を差し出した。
袋を開けると中には、前から読みたいと言っていた本が入っていた。
どこにも見つからないと思って諦めていたのに。
「ありがとな」
未夢の顔がほころんだ。
「それじゃ、これは俺のぶん」
俺は未夢にクリスマスプレゼントの入った小さな箱を手渡した。
箱の中から出てきた物。
それはシルバーの、三日月の形をしたペンダントだった。
「綺麗…。ありがとっ、彷徨」
そう言うと未夢はペンダントに同色のチェーンを通し、首にかけた。
「どう、かな」
ペンダントは未夢の胸で淡く輝き、それは未夢の美しさを更に引き出していた。
抱き締めたくなる衝動がわきあがってきた。
「未夢にしてはなかなか似合ってるじゃん」
それでも俺の口から出るのはいつものような台詞だった。
「な、一言余計ですぅ」
膨れる未夢の様子を見ながら俺は小さく笑った。
結局、こうなってしまう、か。
けどいつかは、素直に本当の気持ちを伝えたい。
その時までごめんけど待っててくれよな、未夢。
End
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ども、ハルです
今回は彷徨の一人称で未夢に対する想いみたいので書いてみました。
最近いろいろありまして、比較的書きやすかったのですが相変わらずヘタクソです。
多少彷徨がらしくないような所もありますが、心の動きはしっかり書いたつもりです
のでご勘弁を。
表面にはでなくても、やっぱりこれぐらいは思ってるんじゃないでしょうか。
それでは、みなさんも良いクリスマスをお過ごしください。
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